脱・税理士 家電量販店はもうダメなのか?業界ダントツ1位のヤマダデンキが悲惨な件について解説します。ヤマダ電機は、もう成長を望めないのか46店閉鎖の真因とその先に見える展望

ヤマダ電機は、もう成長を望めないのか46店閉鎖の真因とその先に見える展望

家電量販の巨人、ヤマダ電機。郊外型の「テックランド」、都市型店「LABI」のほか、傘下のベスト電器やマツヤデンキなどを含めて、グループ全体で国内に約4400店を展開し、売上高は1.6兆円台(2015年3月期)と、2位のビックカメラ(2014年8月期に8298億円)に約2倍の差をつける圧倒的な存在だ。

そのヤマダ電機が店舗の一部閉鎖を表明した。2015年3月期は大幅な減収減益。それを踏まえ、「抜本的な経営の構造改革」と称するリストラクチャリングの一環として、今月中に37店舗を完全閉鎖、9店舗に業態転換やリニューアルなどを実施し、計46店舗の不採算店を閉める。今年度の新規出店は15店舗に抑える。

閉鎖は郊外の大型店が中心

今回、閉店の対象となっているのは郊外の大型店が大半だ。たとえば、東京は江東区の「テックランドNew江東潮見店」のみで残りは地方都市。一方、従業員については「閉鎖予定店舗の従業員については、他店舗への配置転換等を行い雇用は継続いたします」と表明しており、人員削減にはひとまず手を着けない方針のようだ。

スーパーマーケット業界の例で言えば、イオンやイトーヨーカドーは都市型の小型店を強化している。人口減が進む地方の郊外型店では儲からなくなってきているからだ。ヤマダ電機の店舗閉鎖も同じ構図にある。

ヤマダ電機をめぐっては、2014年10月に旧村上ファンドのメンバーで設立した投資ファンド「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」が突如として、持ち株比率7%台の大株主に浮上。さらに2015年1月には同16%強まで買い増したことが明らかになった。

その後、ヤマダ電機創業者の山田昇社長が自社株を買い増したり、ソフトバンクとの資本提携に動いたりなどと対抗策に動いた。今後、ヤマダ電機とエフィッシモがどのような攻防を繰り広げるのかは先行きを見守るしかないものの、これをきっかけにヤマダ電機が経営の効率化を意識し、今回の店舗閉鎖に至ったという見方は大きく外れてはいないだろう。

一方、苦戦している家電量販チェーンはヤマダ電機だけではない。

主要各社の3月期決算における連結業績を並べてみよう。

【ヤマダ電機】

売上高:1兆6643億円(前期比12%減)

営業利益:199億円(同41%減)

営業利益率:1.19%

【エディオン】

売上高:6912億円(同9%減)

営業利益:107億円(21%減)

営業利益率:1.54%

【ケーズホールディングス】

売上高:6371億円(同9%減)

営業利益:185億円(同21%減)

営業利益率:2.90%

営業利益率1.19%は確かに低いものの、他の有力な競合も1~2%台。ヤマダ電機が突出して悪いとも言い切れない。消費増税後の需要減退に加え、そもそも少子高齢化によって日本国内の需要が縮小していっている。それに加えてジワジワ効いてきているのが、ネット通販の台頭という競争環境の変化だ。それはここ日本だけの話ではない。

米国では家電量販2位が経営破綻

今年2月、米国家電量販店2位のラジオシャックが経営破綻した。ディスカウント店との競争激化に加えて、ネット通販の攻勢は要因の一つだった。大量の店舗と従業員を抱えるラジオシャックは、その固定費が重荷となり価格競争力を落とし、消え去った。米国と同じ現象が、少し間を置いて日本で起きた例は枚挙にいとまがない。だとすれば、近い将来、日本でもラジオシャックのような事例が起きないとも限らない。それほど、日本の家電業界は厳しい状況に置かれつつある。

ネットで売れる商品のうち、ベスト2は本と家電といわれる。日本の出版業界ではリアルな書店にその影響が顕著だ。日本著者販促センターによれば、1999年に2万2296店あった書店は2014年5月には1万3943店まで縮小した。過去15年でほぼ半減している。

「ショールーミング化」という言葉がある。リアル店舗で見たり試用したりした消費者が、最後にネットで購入してしまう。つまり、リアル店舗がネット業者のショールームに成り下がっていることを指摘するものだ。特に近年はいつでもどこでもネットにつながるスマートフォンの普及によって、リアル店舗で確認したあと、安価なネットに注文する流れが一般化した。

この流れを止めるのは容易ではなさそうだ。ヤマダ電機は2011年3月期には売上高2兆1532億円、営業利益1227億円を誇ったものの、それを再び超えるような成長はだんだん望めなくなってきている。

この状況で、ヤマダ電機は競争力を高められるのか。実を刈り取れるかどうかは別にすると、種は大きく3つある。

まずは、訪日外国人の需要取り込みだ。

家電量販業界では、ラオックスが今春採用した100人を超える新入社員のうち、8割程度を中国国籍の人材として、海外から日本に訪れる「インバウンド」の対応に大きく舵を切った。対抗するヤマダ電機はこの春、東京・新橋の「LABIアメニティー&TAXFREE」に免税専門店を開業し、化粧品の品ぞろえを拡充した。

昨今の家電量販店は、どこでも家電以外の販売が多く、雑貨屋と見間違うほどだ。とくにヤマダ電機のLABIアメニティー&TAXFREEは、外国人旅行者に狙いをすまして、雑貨、化粧品、日本土産がふんだん。化粧品サイト「アットコスメ」とのコラボや、3階にあるブランド買い取り店「ブランドオフ」も特徴だ。

訪日外国人は2013年に初めて1000万人の大台を突破、円安の進行もあって2014年には1300万人超まで増えた。政府は2020年の目標として2000万人を掲げ、関連業界が動いており、日本を訪れた外国人、とくに富裕層が落としていくおカネをどう獲得していくかは、ヤマダ電機にとってもテーマとなる。

シニア需要も狙い目

次に、相対的に裕福なシニア(高齢者)需要の取り込みだ。ヤマダ電機が今回、地方の一部店舗をリストラクチャリングするからといって、それは必ずしも地方を切り捨てたことにはならない。この施策は家電量販店のターゲットシフトを鮮明に示す事例となるだろう。ヤマダ電機には今後、地方に「すでにいる」人たちを使って、高齢者向けサービスなどを強化する流れがありえる。

ヤマダ電機は、名古屋に本社を置き、地域密着型の電器店など小売店と密接な関係を構築している「コスモスベリーズ」を傘下に持つ。このコスモスベリーズは、地域密着型の小売店舗と密接な関係を特徴としている。コスモスベリーズは、地方の小売店(電器店等)を通じてヤマダ電機商品を訪問販売していく。

ここで家電量販店各社がこのところ進めていた”何でも屋”戦略が功を奏する。家電量販店は多様な商品を取り揃える。トイレットペーパーに医薬品、食品に酒類、お菓子にいたるまで、高齢者の必要なものを取り扱っている。

アマゾンやネット通販各社は、利便性と効率性を差別化ポイントとし台頭してきたが、ヤマダ電機とその地域連合は、ドブ板さながらリアル”つながり”で対抗するのだ。また、ヤマダ電機のウェブサービスで扱っているものを、そのまま販売でき、初期投資もさほど必要ではない。この構想に賛同する地域の小売店は、ヤマダ電機の在庫を使うことができるので、そこから配送すれば、大きな投資や負担もない。

最後の三つ目は、家電量販以外の異業種分野の取り組み強化だ。今月、資本業務提携を決めたソフトバンクの商材・サービスや、2011年に買収し、現在は「ヤマダ・エスバイエルホーム」と名乗る旧エス・バイ・エルが展開する住宅部門との連携がカギになる。住宅事業は苦戦が続いているものの、電力自由化や省エネの流れなどもあり、通信やロボットなどに強いソフトバンクと組むことでチャンスはある。単に家電だけを販売するのではなく、異業種をふくめ、商品の複合的な使い方を提案していこうとしている。

それにしても、ネットに押されている本と家電のリアル店舗の特徴とは何だろうか。筆者の見解は両者とも「自社都合で陳列している」という点だ。筆者はほぼ毎日書店を訪れるが、お客にはいっさい関係ないのに、出版社ごと、フォーマットごとに本が陳列され、テーマごとに文庫から新書、ハードカバーまでを並べていない店が多い。家電量販店では、冷蔵庫とオーディオ機器とハードディスクはまったく別の専門コーナーに置かれている。ライフスタイルやデザイン性によって、同一の部屋に置いたときの印象が異なり、あわせて商品選択したいというニーズには応えられていない。

東京・代官山の蔦屋書店や二子玉川(蔦屋家電)がライフスタイルを提案する家電の陳列で話題になったのは、それだけ消費者がそうした提案に飢えていたからだ。また、個性的な書店が人気を博すのも、その棚にストーリー性があるからにほかならない。

ネットからリアルへの誘導も

「ショールーミング化」の逆現象としての「ウェブルーミング」なる言葉が出てきているのも見逃せない。これは書籍などを考えるとわかりやすい。ネットでは書籍の内容を立ち読みできるものの、やはり書籍は書店で見るのが一番だ。そのまま左右に並んでいた書籍をまとめ買いする場合もあるだろう。

加えて、直接触れたり、詳しく説明を聞いたり、イベントなどに参加できたりする。リアルには存在しないネット店舗よりも、対面には安心感がある。いわばネットからリアル店舗に誘導するのが「ウェブルーミング」だ。

セブン-イレブンやウォルマートは、ネットとリアルの境界を融解する試みとして「オムニチャネル」を推進している。ネットで注文して、近くの店舗に取りに行く。運ぶのが重い商品は、自宅への宅配も頼める。流通企業のサービスをお客にとってシームレスにつなげていける。現時点でこのオムニチャネル化を推し進められているのはコンビニくらいだろう。

ヤマダ電機でも、どこの家電量販店でもいい。消費者をドキドキさせてくれる設計の家電量販店が出てこないかと、筆者は期待している。だって、猫も杓子も、「高齢者」「外国人旅行者」頼みではさみしい。

ヤマダ電機の「失敗」は必然だった大量閉店に追い込まれた茨城を行く

茨城県南部の土浦市。上高津にあるイオンモール土浦は市内最大の商業施設だ。週末には3000台以上もの駐車場がすべて埋まるほど、多くの買い物客で賑わう。その隣接地にヤマダ電機が「テックランド土浦店」をオープンしたのは2013年秋。周囲はイオンモール以外はほとんど何もない場所だが、モールに集まる買い物客の取り込みを狙った。

モール隣の土浦店、わずか1年半で閉店

当時、土浦市内では、ライバルのケーズデンキが売り場面積6000平方メートルの土浦真鍋店を2013年2月にオープン。ヤマダはこれに対抗すべく、計画途中だった土浦店の設計を急きょ変更し、売り場面積を当初計画より4割近く大きな5000平方メートルにして出店した経緯がある。

ところが、ヤマダのテックランド土浦店は閑古鳥が鳴き、今年5月末に営業を終了した。

閉鎖から3週間近く経った6月中旬の週末に、現地を訪れた。雨にもかかわらず、イオンモールの駐車場は車で満杯。買い物に来ていた50代の女性に話を聞くと、「えっ、潰れちゃったの?」と、閉鎖したことさえ知らなかった。

「うちは家電の大きな買い物をするときは、いつもケーズの真鍋店。モールの中にはノジマもあるから、あのヤマダの店には行ったことがないのよ。客がまったく入ってないと聞いてはいたけど、ずいぶん早く閉じちゃったのね」

モールを覗いてみると、確かにノジマの店がある。売り場は小さいが、家族連れを中心に40人以上の客が店内にいた。同店の従業員によると、「ヤマダさんの店はいつ見てもガラガラで、気の毒なくらいでした」。

子どもと一緒にモールに来ていた40代の男性も、閉店したことを知らなかった。この男性は、オープン時に興味がてらで一回行ったきりだったという。

「ここから看板と建物は見えるけど、同じ敷地内じゃないから、歩いて行くのは面倒くさい。車で寄るにしても、あの場所は道順がわかりづらいし、細い道に入らないといけないから、行く気がしなかった。モールに来たついでに寄る人はほとんどいなかったと思いますよ」

牛久店はケーズの超大型店に敗北

その土浦店から南に8kmほどの場所にあった「牛久店」(牛久市柏田町)も、5月末に店を閉じた。売り場面積は約3800平方メートルで、2007年2月にオープンした店だった。

牛久市内ではヤマダの出店から10カ月、ケーズが郊外に「ひたち野うしく店」をオープン。その売り場面積は7240平方メートルにも及び、一般的な家電量販店の2店分以上に相当する超大型店だ。

対するヤマダの牛久店は店前の道路が狭いうえ、牛久駅方面から来た車は対向車が途絶えるまで右折して駐車場に入れないなど、車でのアクセスも悪かった。こうした立地の問題もあり、牛久店は大苦戦を強いられた。土浦店と同様、閉店後のアフターサービスは近隣のつくば店に引き次いだ。

大量出店のツケ、需要縮小で赤字店相次ぐ

家電量販の巨人、ヤマダ電機。郊外型の「テックランド」、都市型店「LABI」のほか、傘下のベスト電器やマツヤデンキなどを含めて、グループ全体で国内に約1000店を展開し、売上高は1.6兆円台(2015年3月期)と、2位のビックカメラ(2014年8月期に8298億円)に約2倍の差をつける圧倒的な存在だ。

そのヤマダが今年5、6月のわずか2カ月間で57もの店を一挙に閉鎖し、大きな波紋を呼んだ。単純な移転や改装のための一時休業を除いても50近く、今年3月末の全店舗数(ヤマダ本体と九州の運営子会社分で計729店)の7%に相当する数だ。週刊東洋経済は7月25日号(21日発売)で『ヤマダ電機 落日の流通王』という特集を組み、その全容を追っている。

地デジ・エコポイント特需のあった2010年度をピークに家電流通市場は縮小が続き、ヤマダの業績も急激に悪化。これまでひたすら売り上げ拡大を追い求めて全国各地に大量の店を出し続けてきたため、市場の縮小で赤字に陥る店が相次ぎ、そうした不採算店の閉鎖が避けられなくなった。

中でも数多くの閉鎖を強いられたのが北関東の茨城だった。土浦、牛久など11もの店舗を一挙に閉鎖、24あった茨城県内の店舗数はわずか2カ月間で13に減った。

茨城はヤマダの宿敵、ケーズデンキ(ケーズホールディングス)のおひざ元。水戸発祥のケーズは県内のほぼすべての市・町に店舗を構え、地元で圧倒的なシェアを有してきた。そのシェアを奪うべく、ヤマダは過去10年間で茨城県内に18店を出店。一時は県内店舗数を24まで増やし、ケーズ(2015年3月末時点で36)に迫った。 

水戸駅前の「LABI」は17億円払い閉店

茨城に攻め込んだヤマダ。その象徴ともいえる店が、2008年にオープンさせた「LABI水戸」だった。場所はJR水戸駅と隣接した大型商業ビル内で、ケーズ本社の目と鼻の先。「ヤマダがケーズに喧嘩を売った」として、地元のみならず、家電流通業界で大きな話題となった。

ヤマダはこの大型商業ビルの3~7階(約8300平方メートル)を売り場とし、多層階大型店の「LABI」をオープン。が、開業当初こそセール目当ての客や見物客が数多く集まったが、日が経つにつれて来店客は減少していった。

なにしろ、水戸市内にはケーズの大型店が2つあり、中でも水戸駅から数kmほどの場所で営業する「水戸本店」は県内最大の売り上げを誇る旗艦店だ。また、その近くにはヤマダ自身の郊外店もあり、駅ビル内のLABIは大苦戦。それでもメンツのかかった駅前大型店だけに赤字に耐え続けたが、とうとう5月末に店を畳んだ。

水戸駅で話を聞いた50代の女性はこう話す。「茨城は車社会。男性も女性も車で通勤・移動するから、東京とは違うのよ。買い物も車で郊外の大きなお店に行くのが常識で、駐車しにくい駅に家電を買いに来る人なんていないわよ」

客は少ない一方で、商業ビルの家賃負担は重かった。ヤマダが借りていたスペースは倉庫使用分も含めて全7フロア、年間の家賃はおよそ5億円に上った。まだ定期借地契約が残っていたため、ヤマダは閉店に際して17億円もの違約金を支払った。

茨城では、本記事で取り上げた土浦、牛久、水戸のほか、日立金沢、シーサイドひたちなか、笠間、桜川、行方、つくばみらい、稲敷、神栖の計11店が閉鎖対象になった。うち8店舗は店歴5年未満で、ヤマダが茨城県内で2010年以降に出した店(全10店)の実に8割が閉鎖へと追い込まれた。

市場が縮小に転じたにもかかわらず、ヤマダは相変わらず大量出店で売り上げを追い求めた。それが多くの赤字店を抱えることにつながり、その後処理に追われる羽目となった。11もの閉鎖を余儀なくされた茨城は、“失敗の縮図”ともいえよう。

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