タイタニック号「沈没」から113年…、4万6000トンの鉄の塊を「あと30年で食べ尽くす」生物がいた…、ところが、マンガンは鉄より「2倍おいしい」という驚きの事実

タイタニック号「沈没」から113年…、4万6000トンの鉄の塊を「あと30年で食べ尽くす」生物がいた…、ところが、鉄より「2倍おいしい」金属が他にある、という驚きの事実

金属なくして、生命の誕生も進化もありえなかった!

鉄やカルシウムが重要なのは常識ですが、私たちの体内には、他にもマグネシウムや亜鉛、銅やマンガン、モリブデンなどの金属元素が含まれています。

これらの金属は、体内にわずか1%以下しか存在しない微量元素ですが、「微量」の名前とは裏腹に、多種多様で、きわめて重要な役割を果たしています。いったいどんな役割なのでしょうか?

そして、「多すぎ」ても「少なすぎ」ても、体調に異変をきたす理由とは?

生命と金属の奥深い関係を解き明かす話題の本『生命にとって金属とはなにか』から、読みどころを厳選してお送りします!

「タイタニック」号を食べる細菌

「タイタニック」号が見舞われた悲劇については、みなさんよくご存じだろう。

初航海中の1912年4月14日深夜、北大西洋上で氷山に衝突した同船は、翌日未明にかけて沈没し、1500人を超える犠牲者を出した。その船体は今もなお、海底に沈んだままである。

1991年に海底の残骸などが調査された際、オレンジ色の酸化水酸化鉄(II)と赤色の酸化鉄(III)からなる「ラスティクル」という物質中から、多数の微生物が見つかった。ラスティクルとは、鉄錆(てつさび)でできた“つらら状”の構造物で、海底に沈む難破船の残骸などによく見られるものである。

タイタニック号のラスティクルから見つかった微生物のうちの一つが、鉄酸化細菌であることがわかり、「ハロモナス・ティタニカエ(Halomonas titanicae)」と名づけられた。

ハロモナス・ティタニカエは、まさしく「鉄を食べる」細菌であった。金属鉄をFe²⁺やFe³⁺に酸化し、そのエネルギーを代謝して増殖していることがわかったのである(表「鉄酸化およびマンガン酸化細菌」)。

ハロモナス・ティタニカエは、約4万6000トンの鉄の塊であるタイタニック号を、刻々と腐食させているらしい。

発見者によれば、ハロモナス・ティタニカエはあと20〜30年ほどすればタイタニック号を完全に分解して、鉄錆の塊にするであろうと推定されている。

マンガンは鉄より「2倍おいしい」

鉄が細菌によって、金属鉄からFe²⁺を経てFe³⁺まで酸化され、そのエネルギーが細菌の増殖に利用されている例はタイタニック号の残骸から見出されたが、マンガンについてはどうだろうか?

じつはマンガン酸化細菌も発見され、火成岩や深海の熱水噴出孔付近で、Mn²⁺をMn⁴⁺に酸化していることがわかってきた。

海洋や地殻中のマンガンは、鉄よりはるかに少ないが、マンガン酸化細菌はMn²⁺をMn⁴⁺に酸化することで2個の電子が得られるので、鉄を酸化するよりも倍のエネルギーが得られるというメリットがある。

わが国の北海道・阿寒摩周国立公園内のオンネトー湯の滝で、マンガン酸化細菌が1989年に発見され、よく知られるようになった。この付近には大きなマンガン鉱床があり、これがマンガン酸化細菌が存在している理由と考えられている。マンガン酸化細菌が棲息できる条件としては、

【1】原水中のMn²⁺濃度が高い、

【2】原水が無菌的である、

【3】有機物の提供がある、

の3つが必要であると考えられている。

オンネトー湯の滝では、泉源と滝斜面に棲息しているシアノバクテリアが光合成によって酸素分子を放出し、マンガン酸化細菌がその酸素分子と温泉水中のMn²⁺から二酸化マンガン(MnO₂)を生成している。生成された二酸化マンガンは泥状となり、池や滝の周囲に溜まっている。

当地は、マンガン酸化細菌が温泉水を使ってマンガン鉱物を生成している「生きている鉱床」であり、陸上で見られる「世界唯一の場所」であることがわかった。

「マンガンを食べる」独立栄養細菌

2019年には、マンガン酸化細菌に関するさらに興味深い発見が報告された。

アメリカのカリフォルニア工科大学の環境細菌学者ジェアド・リードベターらは、実験中にマンガンの粉末を使用し、それを水道水に入れたまま数ヵ月間放置して、別の場所に出かけた。戻ってきたところ、ガラス容器が黒ずんだ物質に覆われていることに気づき、調査した結果、容器を覆っていた黒い物質は酸化マンガン(MnO)であることがわかった。

新たに見つかった細菌は、炭素同位体¹³Cを取り込むことが確認され、「独立栄養細菌」であることが判明した。そして、「Candidatus Manganitrophus noduliformans」と名づけられた(表「鉄酸化およびマンガン酸化細菌」)。

「独立栄養細菌(autotrophic bacteria)」とは、細菌が生きるためにおもな炭素源として二酸化炭素を利用している細菌のことである。これに対し、有機炭素源を利用している細菌は「従属栄養細菌(heterotrophic bacteria)」とよばれている。

一方、細菌が生きるためのエネルギーには、光を利用する「光合成細菌(phototrophic bacteria)」と化学エネルギーを利用する「化学合成細菌(chemotropic bacteria)」が知られている。

ここに紹介したマンガンを食べる細菌は、正確には、二酸化炭素をおもな炭素源として金属マンガンを酸化したエネルギーを利用する化学合成独立栄養細菌といえる。乏しい環境下にあっても、金属マンガンがあれば、これを酸化して空気中の二酸化炭素と水を利用して生きる細菌の存在に、生物の力の偉大さを感じられるであろう。

鉄をエネルギー源として使うハロモナス・ティタニカエに続き、金属マンガンをエネルギー源として使う細菌が見つかったのはこれが初めてのことであろう。

本書の引用元『生命にとって金属とはなにか』では、生命と金属の奥深い関係を解き明かしている。

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