米政府効率化省、磁気テープのデジタル移行で批判される
何かをするのが目的になると、おかしなことになっちゃうよっていういい例。
イーロン・マスクが率いる政府効率化省(DOGE)の取り組みが引き続き混乱を招いています。
DOGE、磁気テープの政府データをデジタル化
最近のX(旧Twitter)への投稿で、DOGEは一般調達局が保管している1万4000本の磁気テープ(遠い昔から使われてきたデータを保存する記憶媒体)に保存してきたデータをデジタル化したと自慢げに宣言しました。
投稿には、
一般調達局のITチームは、1万4000本の磁気テープ(70年前の情報保存技術)を恒久的な最新のデジタル記録に変換することで、年間100万ドルのコストを削減しました。
と書かれています。
磁気テープの意外な利点
一見すると、政府サービスを近代化するための理にかなった判断のように思えるかもしれませんが、磁気テープのほうがデジタルよりもメリットがあると指摘されることに。
DOGEの投稿には、磁気テープの利点を説明するコミュニティーノートが付けられており、そのなかには、磁気テープのほうがはるかに効率的にデータを保存できることや、サイバー犯罪者によるデータの盗難を防ぐ物理的な「エアギャップ(ネットワークから物理的に隔離された状態)」を提供できることなどが含まれています。
IBMは2020年に公開した記事で、インターネット上に保存されるデータ量が年々激増するなか、大企業や教育機関がアーカイブ用途として磁気テープベースの保存手段に回帰しているとし、次のように説明しています。
コスト面では、テープへのデータ保存は1GBあたり数円で、使用していないときは、ハードディスクやフラッシュドライブ(USBドライブなど)と異なり、磁気テープはエネルギーを必要としません。簡単に言えば、磁気テープを使うことによって、クラウド運営事業者は必要なときに必要なデータを確実に利用できるようになります。さらに、適切に保管すれば、磁気テープに記録されたデータは30年後でも読み取ることができます。
ネットを使ったことがある人なら、昔のお気に入りサイトやSNSがいつの間にか消えちゃって、「あれ? もう見れないの!?」ってなった経験があるんじゃないでしょうか。膨大な量の人類の創作物が一瞬でパーになってしまうやるせなさというか。
Internet Archive(インターネット・アーカイブ)のような組織は、そんな悲劇を防ごうと、時間とともに失われてしまう前にウェブサイトを保存しようとがんばってはいるのですが、ひとつの組織にできることには限界があります。
ある日突然「404 Not Found」が目に飛び込んでくる、いわゆるリンク切れも、突きつめれば保存にかかるコストの問題が大きいのですが、超安価な磁気テープはここでも貴重な存在です。
現在市販されている磁気テープは、約15TBのデータを保存できます。ところが、IBMが開発中の新しい磁気テープは最大580TBも保存できるそうです。DOGEの投稿とは裏腹に、テープの技術は着々と進化を続けています。
デジタル化のコストは安くない
一方、クラウドサーバーは運用コストが高く、ハードディスクドライブの寿命は一般的に5年から10年なのだとか。MetaやGoogle(グーグル)のような巨大テック企業は、データの破損や損失を防ぐためにRAID(レイド: 複数のハードディスクを組み合わせてデータの安全性を確保する技術)を用いてデータの長期保存を行なっていますが、これまたコストがお高くなっています。
コストを削減して政府を効率化するはずのDOGEが、逆にコストを増やしてどうすんのって話ですよね。イーロンはツッコミ待ちでボケをかましているんでしょうか…。
「恒久的なデジタル記録」って矛盾してない?
で、ここまでの流れを振り返ったときに、「恒久的なデジタル記録」って矛盾してないですか? デジタルは一時的だったり刹那的だったりするのが本質です。油断してスマホの写真のバックアップをとっていなかったらスマホがクラッシュして全部ぶっ飛んだりとか。
だからこそ、物理的なコピーを手元に置きたいと考える人が今も絶えないわけです。ウェブサービスが終了したら自分の大切なデータも思い出も一瞬で消えてしまう。自分もそういう経験があります。消えちゃう思い出が故人のものだと、追体験するようなものですしね。
ウェブコミックのXKCDが何年も前にこの言葉にできないもどかしさみたいなものをわかりやすく説明するイラストを公開して話題になりました。
このイラスト、本や図書館のマイクロフィルムの長寿ぶりと比較して、ウェブのデータベースやモバイルアプリ、ソフトウェアなどはなんらかの事情でサービスが終了すればデータもなくなってしまう切ない現実をよく表しています。デジタルのなかでPDFだけが例外なんですね。
政府が古くさいテクノロジーを使い続けていることが笑いのネタにされますが、それにはちゃんと理由があったりするんですよね。機能しているものをわざわざ変えると、改善じゃなくて改悪になっちゃいます…。