アップル、中国向けiPhoneにも生成AI 中国政府が問題視するコンテンツを検閲・フィルタリング
米アップルは年内にも、中国市場向けiPhoneに人工知能(AI)機能を提供する計画だ。米ブルームバーグ通信の報道で明らかになった。これを実現するため、現地企業との連携を強化し、政府の検閲要求に対応する。中国で販売不振が続く中、巻き返しを図る狙いだ。
中国IT大手2社との協業
アップルは、中国でAI機能を展開するにあたり、中国ネット通販最大手のアリババ集団や中国ネット検索最大手の百度(バイドゥ)と緊密に連携する。
アリババとは、iPhoneやiPad、Macといったアップル製端末のユーザー向けに、AIモデルを分析・修正する「オンデバイスシステム」を共同開発中だ。このシステムは、中国政府が問題視するコンテンツを検閲・フィルタリングする機能を備える。一方、百度は他の機能を担当する二次的なパートナーになるもようだ。
中国政府の検閲に対応
アップルは2024年10月下旬に生成AIサービス「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」の提供を英語圏で開始した。2025年は、iOSソフトウエアのアップデートを通じてAI機能を順次追加し、利用できる国・地域を増やしてiPhone 16シリーズの需要を喚起する考えだ。
しかし、中国政府は国内で提供される情報に対して厳格な検閲を行っており、AIも例外ではない。中国では国外の生成AIが禁止されており、アップルはサービスを展開できていない。そこで、アリババとの協業を通じて政府の検閲要求に対応する体制を構築する。
具体的には、政府がAIモデルの変更を要求した場合、アリババを通じてアップルに指示が伝えられ、同社はこれに速やかに対応する。中国国外のアップル製端末には、バックグラウンドで更新できるオンデバイスAIモデルが既に搭載されているが、中国ではそのプロセスが定期的に、迅速に行われるようになる。
Apple Intelligenceを構成する3つのAI機能
ただし、アップルのAI機能を中国で利用できるようにすることは容易でないとも指摘される。
というのも、Apple Intelligenceは、主に3つのAI機能で構成されるからだ。①デバイス上で実行されるアップルのAI機能、②アップルのインターネットサーバーで実行されるアップルのAI機能、③米オープンAIのインフラ上で実行されるチャットボット(対話型AI)「ChatGPT」、の3つである。
①については、アリババのソフトウエアが、問題となるコンテンツを検閲する最上位レイヤーとして機能する。②は、大量のテキストを書き換える際など、追加のAI処理が必要となる際に利用される。この機能の中国版(検閲版)を実現するためにアップルはアリババ傘下のアリババクラウドなどと連携する必要があるが、その詳細については明らかになっていない。
③のオープンAIのChatGPTは中国で利用が禁止されている。そのためアップルは、アリババの「通義千問(Tongyi Qianwen)」や百度の「文心一言(ERNIE Bot)」などを代替機能として利用する必要がある。
早ければ5月に展開 課題とリスクも
ブルームバーグ通信によると、アップルは中国と米国に複数のチームを置き、Apple Intelligenceを中国に適応させる作業を進めている。早ければ5月にもサービスを開始したいと考えている。
アップルにとって中国は米国に次ぐ規模の市場だが、同社は大幅な販売減に見舞われている。地場ブランドは独自のAI機能を活用してiPhoneから顧客を奪っている。Apple Intelligenceの中国展開の成功はアップルの業績回復に不可欠だと指摘されている。
一方、中国政府の検閲要求への対応は、アップルにとって大きな課題だとも言われている。検閲の範囲や基準が曖昧な場合、対応に苦慮する恐れがある。アップルの技術力やブランドイメージに及ぼすリスクについても指摘されている。
筆者からの補足コメント:
アップルが先頃発表した、2024年10〜12月期における中華圏(香港と台湾を含む)の売上高は、前年同期比11%減の185億1300万ドルで、6四半期連続の減収でした。この落ち込み幅は過去4四半期で最大。中国市場で苦戦が続いています。香港の調査会社によると、2024年10〜12月の中国スマホ市場でアップルは3位に転落しました。中国・華為技術(ファーウェイ)の四半期ベース販売台数は約4年ぶりに首位に浮上し、これに続いたのが、中国・小米(シャオミ)でした。アップルの販売台数は前年同期比18.2%減と、上位メーカーの中で最も落ち込みが激しい状況です。アップルは1年前に首位でしたが、最近はこれら中国メーカーとの激しい競争に直面しています。