脱・税理士【敵対的買収】カナダのクシュタールの仕掛けに対して、セブン&アイ・ホールディングスがどう対抗しようとしているのか?現状を詳しく解説します。
セブン&アイのMBO 参画断念の伊藤忠岡藤会長は何を語る?【経済記者インサイト】
【セブン&アイ】社長交代で買収問題を解決できる?円安で日本企業は“全く安心できない時代”に…一連の経緯をわかりやすく解説 |どうなる会議
消えたセブン・ファミマ連合 伊藤忠が出資断念、専門家「計画がずさん」
伊藤忠商事は2月27日、セブン&アイ・ホールディングス(HD)の創業家による同社買収提案への参画検討を終了したと発表した。同日付のリリースは「創業家より戦略パートナーとしての出資参画要請を受け、真摯に検討を進めてきたが、このたび本件検討を終了した」という手短なものだった。
セブン&アイHDは昨年、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けた。セブン&アイHDの創業家出身である伊藤順朗副社長と、創業家の資産管理会社である伊藤興業(東京・千代田)はこれに対抗する形で非上場化を提案し、伊藤忠や投資ファンドからの出資を軸に資金調達を検討していた。
創業家の買収提案が仕切り直しになった背景には何があったのか。
金利上昇などによって資金調達コストが増えたことや、伊藤忠による実質的なコンビニ市場の寡占化が壁になったなど、さまざまな原因が考えられるが、企業のM&A(合併・買収)に詳しい南山大学の川本真哉教授は「そもそも計画がずさんだったのではないか」と一連の流れを振り返る。
M&Aでは入念に準備を重ねてから対外的に発表するケースがほとんどで、非公開化の方針を公表してから資金調達などを詰めていった今回のケースは「前代未聞」(川本氏)とも言える事例だった。銀行団からの融資を含めて総額8兆円規模ともいわれる巨額買収にもかかわらず、不確定要素が多いまま見切り発車して行き詰まった構図が浮かぶ。
●伊藤忠にうまみがない
1兆円規模の出資を検討してきた伊藤忠が得られるメリットが少なかった点も、今回の資金調達がうまくいかなかった理由の一つだ。
これだけの額を投じても、経営の主導権はあくまで創業家が握ることになるため、出資に対するうまみが少ないと判断し、参画を断念したようにも見られる。川本氏は「伊藤忠の代わりに資金を出す事業会社は現状、日本にはなさそうだ。この非公開化は頓挫したと考えていいだろう」と話す。伊藤忠が出資を断念したことで、銀行団の融資も不透明になってきた。
また、伊藤忠が2月6日に買収への出資検討を初めて表明して以降、同社の株価が大きく下落したことも取りやめの背景にあると考えられる。岩井コスモ証券の清水範一シニアアナリストは「(出資検討の表明後に)巨額の出資に見合った利益が得られるのかという懸念があったため、株価が下がっていたのだろう」と話す。27日に検討終了を発表すると株価は急上昇した。
一方、創業家による買収実現が不透明になり、27日のセブン&アイHDの株価は一時、前日終値比13%安と急落した。川本氏は「セブン&アイHDの経営陣は非公開化が頓挫したことについてどう説明責任を果たすかが問われる」と指摘する。
そもそも、ファミリーマートの親会社である伊藤忠がセブン&アイHD買収に関与することに懸念の声もあった。ローソンを含むコンビニ大手3社の平等な競争を維持できなくなり、独占禁止法(独禁法)に抵触する可能性が指摘されていたのだ。セブンイレブンとファミリーマートのコンビニ市場でのシェアは、合計70%を超える。
東京大学の大橋弘教授は「(独禁法違反の)懸念はあるが、やりようはあったのではないか」と話す。公正取引委員会は、シェアの大きさを理由に資本提携を禁止するケースはほとんどないという。「地域ごとに、例えばこの店舗はローソンに置き換えるなど、ある程度調整することで問題解消措置をとることができる」と話す。
独禁法に詳しい池田毅弁護士も同意見だった。「一定の地域における特定の店舗をなんらかの形で処理すれば、問題ないということになる可能性はあった」(池田氏)
ただ、大前提として伊藤忠は独禁法上の問題を避けるため、買収後の議決権比率を10%程度に抑える必要があったと見られる。セブンイレブンとファミリーマートの連合が誕生したとしても、収益面で十分な果実を得られるかは未知数だった。
●ACTへの対応が再び焦点に
セブン&アイHD創業家は引き続き非公開化への調整を続けるもようだ。しかし実際のところは、同社経営陣はACTの買収提案を受け入れるか、自社単独路線で事業を立て直すかの二択を迫られる可能性が高まった。
専門家の間では「セブン&アイHDの経営陣は引き続き単独路線の方が企業価値を維持できると主張し、ACTの買収提案を拒否するのではないか」と予想する声が多い。だが、経営陣がこれまで公表してきた自社単独での成長シナリオへの評価はいまひとつ。セブン&アイHDの株価は28日終値で2144円にとどまり、ACTの買収想定価格とされる1株18.19ドル(約2700円)を下回る。
川本氏は「ACTの提案が否決された場合、海外投資家らの日本企業に対する失望感は大きくなりそうだ」と指摘する。23年に経済産業省が「企業買収における行動指針」を公表し、同意のない買収提案であっても真摯に検討することを定めた。以降、同意なき買収の事例が増えているが、川本氏は「ACTの買収提案は、同意なき買収が日本で当たり前になるかの試金石となる事例」と指摘する。
セブン&アイHDの足元の業績は国内外のコンビニ事業が減速し、24年3〜11月期の連結営業利益で前年同期比23%減の3154億円だった。特に国内のコンビニ市場は出店余地が少なく飽和状態で、抜本的な改革が求められる。経営体制が定まらないままでは、今現在の事業にも悪影響が出かねない。経営陣に残された時間は少ない。
伊藤忠会長「スキームに無理あった」セブン&アイ非上場化白紙
創業家側によるセブン&アイ・ホールディングスの非上場化が白紙となったことについて、出資を検討していた伊藤忠商事の岡藤正広会長は「残念だが、当初のスキームに無理があった」と述べたうえで、今後の出資の可能性については否定する考えを示しました。
セブン&アイをめぐっては、カナダのコンビニ大手からの買収提案に対抗し、創業家側が会社を非上場化する提案を行っていましたが、伊藤忠商事などの出資の見送りによって先週、計画が白紙となりました。
これについて、伊藤忠商事の岡藤正広会長は、3日、記者団の取材に応じ、出資を見送った理由について、創業家側が非上場化を目指す会社に対し投資先としてふさわしいとする格付けが下りなかったことなどを指摘し、「残念だが、当初のスキームに無理があった。創業家側が資金調達を模索する中で徐々に悪い方向に向かい、このあたりが引き際だと思った」と述べました。
そのうえで、セブン&アイに今後、出資する可能性があるかを問われると、「創業家側の計画がダメだったからといって伊藤忠商事としてTOB=株式の公開買い付けをやることはない」と述べました。
さらに岡藤会長は、セブン&アイの井阪隆一社長が退任する方向で調整が進んでいることについて、「経営体制を変えるよりも、どのように企業価値を上げるかという戦略が重要だ」と述べたうえで、「セブン&アイが買収提案を受けたことは日本のコンビニ全体の問題だ。日本の消費者と国内の店舗網と社員を守り、企業価値を上げるためにはよりダイナミックな戦略が必要だと思う」と話していました。