量子コンピューティングは世界をどう変えるのか…5つの驚くべき可能性

量子コンピューティングは世界をどう変えるのか…5つの驚くべき可能性

大手テクノロジー企業は、量子コンピューティングの研究開発に多額の投資を行っている。量子コンピューターはまだ「フォールトトレラント性」を備えていないが、IBMの幹部はブレイクスルーが間近だと主張している。専門家らは、量子コンピュータがその潜在能力を発揮すれば、多くの産業に革命をもたらす可能性があると述べている。

「量子コンピューティング」が話題になっているが、それが何を意味し、なぜ重要なのか、疑問に思う人は少なくないだろう。

この分野は急速に進化しているが、依然として極めて専門的で、発展には莫大なコストがかかるうえ、研究者以外にとってはまだ特に有用とは言えない。小規模な量子コンピューターは存在するが、IBM、アマゾン(Amazon)、マイクロソフト(Microsoft)、グーグル(Google)をはじめとする大手テクノロジー企業は、それを商業規模に拡大すべく競争を繰り広げている。

各社は、従来のコンピューターでは実行不可能な高度な計算をこなす超高性能な次世代コンピューターの実現を目指して投資を行っている。この分野における進化が、いずれはタイムトラベルのようなSF的な成果をもたらす可能性があると主張する研究者がいるが、それよりも広く受け入れられている見解は、量子コンピューティングが遠くない将来、医療や材料科学などの分野において社会に深く影響を及ぼす重大な進歩をもたらすというものだ。

オーストラリアの量子インフラソフトウェア企業Q-CTRLのマイケル・ビアチャック(Michael Biercuk)CEOはBusiness Insiderに対し、量子コンピューティングの初期の応用例は「決して華々しいものではないが、経済的には極めて大きな影響をもたらす」と語った。

Business Insiderは、IBMやアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の研究者、Q-CTRLやQuamCoreといったスタートアップの経営幹部、さらにはアメリカ有数の量子研究室を率いる学者など、量子コンピューティング分野の専門家十数名に取材を行った。

量子コンピューティングがどう世界を変えるうるのか、彼らの見解を紹介する。

物流とサプライチェーンの最適化

「量子優位性が本当の意味で発揮される主要な分野は、物流最適化とサプライチェーン管理だ」とビアチャックは言う。

「これらは非常に困難な課題を抱えており、コンピューティング上のボトルネックが存在することが分かっている」

サプライチェーンの最適化や物流業務の改善は、軍や国際輸送業界といった大規模組織の効率化につながり、企業が一貫した品質の安定した供給を確保するのに役立つ。さらに、消費財のコスト削減や廃棄物の削減、生鮮品の劣化防止にも貢献し、ひいては世界的な飢餓問題といった社会課題の解決にも寄与する可能性がある。

新素材の開発

軽量で耐久性の高い素材があれば、道路や橋、住宅などの建設をより迅速かつ手頃なコストで行えるようになり、修理の必要性も減少する可能性がある。

「(量子コンピューティングを)最初に適用できるのは、実用的なだけでなく、量子コンピューターが従来のコンピューターに対して優位性を発揮する分野であり、具体的には材料科学と開発の分野が挙げられる」と、AWSの量子ハードウェア担当ディレクター、オスカー・ペインター(Oskar Painter)が2月下旬にBusiness Insiderに語った。同社は2月27日に量子チップ「オセロット(Ocelot)」を発表している。

さらに有望なのは、「自己修復力」のある素材の発見だ。自ら修復する金属でできた建物や、ひび割れを自ら埋めるアスファルトなどが、量子コンピューティングを通じて実現できるかもしれないと、マイクロソフトが2月に発表した新型量子チップ「マヨラナ1」のプレスリリースで示唆している。

より効率的なバッテリー

分子レベルでバッテリー材料を最適化することで、より効率的で強力なバッテリーを生み出し、電気自動車(EV)の航続距離を向上させ、電力網の安定性を高めることにつながる可能性がある。ペインターはこう述べている。

「今のリポバッテリーは炭素を基盤としてリチウムイオンを貯蔵しているが、炭素以外のもっとよい基盤があれば、エネルギー密度が飛躍的に向上する可能性もある。こういった話は派手ではないものの、実世界では大きな影響を与えるだろう」

新薬の発見

Quantum Circuitsの共同創業者でチーフサイエンティストであるロブ・ショールコフ(Rob Schoelkopf)は、量子コンピューターによってより効果的で副作用の少ない化合物を特定し、新薬の発見を加速させる可能性があるとBusiness Insiderに語った。

「本格的な量子コンピューターがあれば、薬の発見にかかる時間は15年から5年、あるいは課題の種類によっては3年、2年に短縮されるだろう」

破られる暗号

不気味なのは、現在の暗号化手法が「確実に」破られることを、量子コンピューターが示していることかもしれないと、アメリカ国防総省に量子耐性技術を提供するサイバーセキュリティ企業、Lastwallのカール・ホルムクヴィスト(Karl Holmqvist)CEOがBusiness Insiderに語った。

「インターネットに接続されたものは、ほぼ間違いなく問題を抱えるだろう。多くの場合、システム間のリンクは安全で、そこを通過するデータも安全だと信頼されている。さらに、そのデータは暗号化されているため、そこに侵入するなんてできるわけがないと思われている。しかし、そのような思い込みを取り除くと、システムへの新しい侵入経路がいくつも生まれ、それが深刻な懸念となる」

ハドソン研究所の量子アライアンス・イニシアティブ・ディレクターであるアーサー・ハーマン(Arthur Herman)は、量子コンピューティングが十分に発展すれば、ブロックチェーン上に保存された金融取引から国家安全保障の機密情報に至るまで、あらゆる暗号化データの安全性が損なわれる可能性があると指摘する。

「ここで問題となるのは、個々の暗号資産(仮想通貨)へのハッキングにとどまらず、より広範な金融市場全体が標的となる可能性だ」

実現目前ではあるが…

「(量子コンピューターが従来のコンピューターを凌駕する)量子優位性が今にも実現しそうだと我々は考えている」と、IBMの量子導入および事業開発担当バイスプレジデントであるスコット・クラウダー(Scott Crowder)がBusiness Insiderに語っている。

「しかし、完全な『フォールトトレラント』な量子コンピューターの実現にはまだ数年はかかる」

また、各社は研究の進展について慎重に発表すべきだとも指摘し、過度な期待を煽ることで量子コンピューティング分野への幻滅を招く結果にならないよう注意する必要があると付け加えた。

業界について誇張することは、量子技術に期待されていることが実現する前に、その価値が過小評価されてしまう原因になりかねないとクラウダーは指摘した。

それでも、クラウダーはエラー補正やスケーラビリティの課題解決が間近に迫っていると考えており、そうなれば「まるでSFが現実になるようなものだ」と述べた。

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