フェラーリ「12チリンドリ スパイダー」はGTとしてロールス・ロイス級の心地よさ…スポーツカーとしてはもはや敵なしの跳ね馬でした

フェラーリ「12チリンドリ スパイダー」はGTとしてロールス・ロイス級の心地よさ…スポーツカーとしてはもはや敵なしの跳ね馬でした

最良のGTでありかつ最高のスポーツカー

フェラーリのフラッグシップの2シーターFRのオープンモデル、「12(ドーディチ)チリンドリ スパイダー」にポルトガルの首都リスボンで試乗しました。フェラーリ自らが“最もフェラーリらしいロードカー”とする、12気筒を積んだモデルのオープン版の走りをお伝えします。

“最もフェラーリらしいロードカー”のオープンバージョン

日本語であえて記せば“フェラーリ12気筒”というネーミングである。イタリア語に敬意を表して「ドーディチ チリンドリ」と日本でも呼ぶことになった。ちなみに英米では「トゥエルブ シリンダー」と呼ぶ。

ちょっと言いづらくて、イタリア人から発音を習って何度も練習したのが2024年4月に行われたマラネッロでのプレスプレビューのこと(全員がスムーズに言えるようになるまで結構時間がかかったものだ)。5月にはマイアミでワールドプレミア。ベルリネッタ(クーペ)とスパイダーが同時に発表され、9月にはクーペの国際試乗会がルクセンブルグで開かれている。そして2025年2月。そろそろクーペのデリバリーも始まる頃合いというタイミングで、マラネッロはスパイダーの試乗会をリスボンで催した。

「812」シリーズの後継となるフラッグシップの2シーターFR、ドーディチ チリンドリは、最良のGTでありかつ最高のスポーツカーであるというポジションを極めるべく誕生した。つまりそれはマラネッロの市販車ラインアップにおいて “核心”=ブランドのステートメントモデルである。要するに彼らの考える“最もフェラーリらしいロードカー”がドーディチ チリンドリなのだ。1947年にモデナとマラネッロで創業したこのブランドにとって、当初からV12を積む2シーターのFRスポーツカー&レーシングカーがブランドイメージを確立した立役者であったのだから、それもまた当然のことだろう。

V12エンジンに8速DCTを組み合わせる

「812コンペティツィオーネ」用F 140HB型の改良発展版であるF140HD型V12エンジンが完全フロントミドに積まれ、トランスアクスル式8速DCTを組み合わせている。

排気量6.5LでVバンク角65度、最高出力830psといった数値をHBから受け継ぐが、HDでは最高許容回転数を9250rpmから9500rpmにまで引き上げた。逆に最大トルク値は排ガス対応のため少し落として678Nm。もっとも低回転域におけるトルク特性を再セッティングし、アスピレーテッド・トルク・シェイピング(ATS)なる秘密兵器も付け加えたことで、最大トルク値の減少などまるで気にならないことは、ルクセンブルクでの試乗ですでに確認済みだ。

スパイダー化にあたって、オープンシステムの搭載やルーフからリアまわりのデザイン変更はもとより、Bピラーとロールバーの間にアルミニウムの連結材を挿入するなどボディ補強も行われた。とはいえ、マラネッロの開発陣が新たに手をつけた部分は、シャシーセッティングを含め、さほど多くはない。

裏を返せば、このプラットフォーム世代となって3モデル目(F12、812、ドーディチ チリンドリ)であり、クーペとスパイダーのセットメニューもすでに812で経験済みだったから、2021年に始まった開発に当初から反映された経験と知見も多かったということ。

ちなみに重量増を抑えることは(いつものことながら)最重要課題であった。クーペからは+60kg、先代に当たる812GTSからは+35kgという重量増にとどまっている。

V12サウンドのシャワーのなかマシンとの一体感を楽しむ

リスボン郊外のオーシャンリゾートホテルを起点に国際試乗会が開催された。用意された試乗車は全てヴェルデ・トスカーナという落ち着いたグリーンの外装ペイントにテッラ・アンティカという明るめのブラウンレザー内装を組み合わせている。

試乗の日は朝から快晴。やや肌寒かったもののオープンエアを楽しむには最高の天気だし、何よりもうすぐそこにロカ岬まで続く海岸線の道がある。エンジンスタートボタンを押してから、ためらうことなくルーフを開けた。

ふたたび青空が見えるまでわずかに14秒だ。走行中でも時速45km/h以下であれば開閉可能、というのはこれまで通り。RHTながら2シーターゆえ軽量コンパクト。だから走行中でも操作できる。

クーペ状態では意外におとなしかったV12サウンドも、ルーフを開ければ存在感をもってはっきりと耳に届きはじめる。軽くブリッピング。V12ノートの心地よいシャワーがふりそそぐ。

もっとも、オープンにしなくてもサウンドを楽しむ方法がある。ルーフクローズドのままリアの垂直ガラスだけをおろす、いわゆるカリフォルニアモードというもので、本来は風通しをよくするための装備だが、エグゾーストサウンドをダイレクトに聴くこともできるというわけ。

オープンでも車体の剛性フィールに大きな変化はない。舗装面の荒れた道を抜けてもミシリともせず、アシは自分の仕事をしっかりとやり通す。乗り心地はクーペと同等、もしくは少し良い感じにも思われた。

正確によく動く前輪と応答よく力感ある後輪のおかげで、マシンとの一体感を低速域から楽しむことができる。そのうえ心地よくさえずるV12サウンドを聴きながらのオーシャンドライブだから、冷たい空気を浴びてなお顔が自然とほころんだ。

エンジンも9000回転以上まで一気に駆け上がる!

そういえば夜通し風が強かった。路面にはところどころに大量の砂が積もっている。通り過ぎるたびに車体が滑ってしまうのだが、車体側が上手に補助して姿勢を正す。ドライバーも慌てることなく反応できる。図らずも見事なシャシー制御を体感したわけだ。ちなみにFRらしく豪快に滑らせても楽しいマシンであることは、去年のグッドイヤープルービンググラウンドで体験済みである。

海岸線を離れると同時にルーフを閉めた。カリフォルニアモードでワインディングロードを軽く攻めてみる。レースモードでは相変わらず後輪の動きに多少違和感があったが、シャシー制御をとことん信じて走ればタイトヴェントも驚くほど素早くクリアする。

加速フィールは問答無用に素晴らしく、エンジンも9000回転以上まで一気に駆け上がり、そのスムーズな回転フィールに驚くほかない。スポーツモード以下では変速ショックもほとんどなく、エンジン回転はつねにドライバーの心とともにある。制動フィールもまた官能的だ。効きはもちろん、コントロール性がずば抜けて良い。だからまたついついアクセルを踏む量も増えていく……。

GTカーとしてはまるでロールス・ロイス級の心地よさ。一方でスポーツカーとしてはもはや敵なし。スポーツとラグジュアリーの両面で世界トップに躍り出たドーディチ チリンドリ スパイダー。なるほどそのスタイルがすでにそんなパフォーマンスを物語っていた。

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