「世界最高の人型ロボ」をうたうNeura Robotics新モデルの実力は? 6月に欧州で発売開始
ドイツを拠点とするロボティクス企業Neura Robotics(ニューラロボティクス)は、2025年6月に発売する同社の第3世代の人型ロボットの「4NE-1」が、市場で最も優れたヒューマノイドロボットになるはずだと述べている。
4NE-1は、身長が約180センチ、重量が約80キロの人型ロボットで、現行バージョンは、約16キロの物体を持ち運ぶことができ、移動速度は時速約3キロとされている。このヒューマノイドは、3Dビジョンで周囲を認識して衝突を回避するセンサーや、力とトルクを感知するセンサーを備え、触覚のような感覚を持っている。
しかし、4NE-1の本当の魅力は、その知能にある。特に、人間の感覚や反応、思考、処理プロセスに驚くほど似た「三層の認知システム」が組み込まれている点が際立っている。
人間の場合は、熱いストーブに触れたときに、反射的に手を引っ込めるが、これは脳で考えるのではなく、脊髄レベルでを反応を行うからだ。一方で、車からスーパーの入口までの最適なルートを考えるような課題は、より高度な脳の機能が必要になる。そして、もっと難しい問題については、人に尋ねたり、Wikipediaで調べてみたり、ChatGPTのような人工知能(AI)ツールに頼ることもある。
Neura Roboticsの4NE-1には、これに似た3つのAIのレイヤーが組み込まれている。最初のレイヤーは、このロボットの「皮膚」や充電ポートなどに配置された500万~600万パラメータの分散型の大規模言語モデル(LLM)で、周囲からのインプットに即座に反応する。次のレイヤーは、ロボットの胸部に配置された5億~6億パラメータのAIエンジンで、周囲を認識し、次の行動を計算する。そして、クラウド上には、100億パラメータ規模の第3のレイヤーが置かれており、最も難しい課題に対応する。
この設計の目的は、必要なレベルの知能を、人間には不可能なスピードで提供することだ。
「本当にスマートなタスクをこなすヒューマノイドを作りたいなら、これらの異なるレイヤーを使い分ける必要がある」と、Neura RoboticsのCEOであるデイビッド・リーガーは、筆者のポッドキャスト番組のTechFirstで語った。
Neura Roboticsは、2019年以降に複数のロボットを市場に投入しており、そこには、「MAiRA」という有線式のロボットアームや、最大約1.5トンの重量物を移動できるスケート状のロボットの「MAV」が含まれる。
■触覚センサーを持つ「人工的な皮膚」
リーガーによると、4NE-1には、これまでのロボットには見られなかった画期的な「皮膚」が搭載されるというが、この皮膚こそが、「人間と直接協働するロボット」の実現のために不可欠なものだという。ヒューマノイドの欠点の1つは、動作の遅さにあるが、これは人間を傷つけるリスクを避けるため、「意図的にゆっくり動くよう設計されているからだ」とリーガーは述べている。そして、この遅さの問題を解決するために開発されたのが、ロボット用の皮膚なのだという。
「ロボティクスの波に乗り遅れたら、欧州は将来とてつもない問題を抱えることになる」
4NE-1に搭載された触覚センサーを備えた「人工的な皮膚」は、圧力を正確に計算することで、安全な作業環境を提供する。その結果、このヒューマノイドは、より素早くすばやく動けるようになる。
「こうすることで、ロボットを制御する方法が根本的に変わる。これは、私たちが最も重視している課題の1つだ」とリーガーは説明した。
Neura Roboticsはまた、4NE-1を驚異的な速度とパワーで動かすことを可能にする新たなアクチュエーター(機械的な動きを生み出すためのパーツ)を開発した。同社のアクチュエーターは、ボストン・ダイナミクスの油圧駆動によるものに匹敵するが、電気を使用する点が異なっており、リーガーは、現時点で最も優れたアクチュエーターだと考えている。
ここまで紹介したNeura Roboticsのテクノロジーは、非常に興味深く、期待も高まるが、ロボット分野の競争は熾烈だ。
■ヒューマノイドで出遅れた欧州
米国のFigure AI(フィギュアAI)は、今後の4年間で10万台という驚異的な数のヒューマノイドを出荷する計画を立てており、同じく米国のAgility Robotics(アジリティロボティクス)のロボットは、すでに顧客の工場や物流センターで稼働している。それに加え、世界にはヒューマノイドを開発する企業が100社ほど存在し、そのうち少なくとも16社が、既存の製品や明確なビジョン、十分な資本を持ち、実現可能性のあるプロジェクトを進めている。
ここで明らかなのは、欧州の企業が自前のヒューマノイドを持たなければ、自動化が進む未来において競争力を失うということだ。未来学者のピーター・ディアマンディスは、最近のロボットに関するレポートで、欧州のこの分野における注目すべき企業はほとんどなく、主要なプレイヤーは米国と中国に集中しており、英国とカナダにそれぞれ1社ずつ存在する程度だと述べていた。
効率的で価格が適正なヒューマノイドが普及すれば、製造業や物流、医療、高齢者ケア、配送といった主要産業のほとんどが影響を受け、導入が進んだ国では生産性の飛躍的な向上が見込まれる。そのため、ヒューマノイドの開発は、どの国にとっても最重要課題の1つとなる。
「この流れに乗り遅れることは、絶対に許されない」とリーガーは述べている。「ロボティクスの波に乗り遅れたら、欧州は将来とてつもない問題を抱えることになる。私たちの地域はこれまで、優れた自動車やテクノロジー、機械を生み出すことで知られてきた。その時代はまだ終わったわけではないが、この自動化の波に乗り遅れれば、終わる可能性がある」と、彼は語った。