見たこともない通帳残高に茫然…突如、口座に振り込まれた「¥100,000,000」1億円。年金260万円・老後資金難の60代夫婦が富裕層になった驚愕の理由【FPが解説】
親の世代が築いた資産を受け継ぐ「相続」。人生における大きな転換期となることも少なくありません。本記事では、両親の死をきっかけに富裕層になったAさんの事例とともに、相続のあとの資産との向き合い方について社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
現役時代は中間層…老後に富裕層となった夫婦
総務省統計局の家計調査によると、「貯蓄現在高階級別世帯分布(二人以上の世帯)(2023年)」の貯蓄保有世帯の中央値は1,107万円となっています。ですが、平均値は1,904万円です。このように差が生じるのは、貯蓄の多い世帯が平均値を押し上げているためです。
貯蓄が4,000万円以上の世帯は12.9%であることから、なかには億を超える貯蓄がある人も多いことが推測されます。今回は、突如資産が舞い込んで富裕層になったAさんの事例をみてみましょう。
高収入ではないが、幸せな家庭を築いた現役時代
60歳で定年退職したAさんは中小企業で細々と働き、無事に定年を迎えたところでした。学生時代は親に反抗しやんちゃしていたこともあり、家を飛び出してからは勉強せず遊びながらアルバイトで生活をつないできました。周りの友人が結婚・出産と家庭を持ち始めると「そろそろ自分も真面目に働かなければ」と24歳のときに製造業に就職。職場の同僚と結婚し、2人の子どもを授かります。
給与は高卒ということもあり大卒よりも低い金額でしたが、家庭をもってからのAさんは妻と二人三脚で働いて2人の子どもを大学まで進学させることができました。その後、子どもたちはそれぞれに家庭を持ち独立しています。
Aさんは定年退職後、再雇用で65歳まで働き、さらに70歳までは働かないと老後が心配だと考えています。65歳からの年金額は夫婦で260万円程度ですが、住宅ローンが70歳までですし、物価高もあり、年金だけでは暮らしていけなさそうです。そんなときAさんの両親が亡くなり、このとき発生した相続がのちに大きく悔やむ事態を引き起こすことに……。
富裕層となった理由
Aさんはひとりっ子なので、両親の法定相続人はAさんのみです。Aさんの両親は小さいながらも会社を経営していました。両親はAさんに会社を継がせようと大変厳しく育てました。
将来、グローバルなビジネスシーンで活躍できるよう、Aさんはインターナショナルスクールに通い、複数の外国語を猛勉強。さらに父親は「頭がよいだけではダメだ」と、運動が苦手なAさんに極真空手を習わせ、精神力、忍耐力を養わせようとしました。また、Aさんが常にリーダーシップを発揮できるようにならなければならないと考えていました。ある日、授業参観でAさんがグループワークの際にリーダーシップを発揮できていなかったのを見た母親は、帰宅後に父親に授業の様子を報告。父親はAさんを殴りつけました。
Aさんは両親の期待に応えようと必死でしたが、その厳しさに苦しむことも多々あったのです。あまりにも熱心な教育方針に反抗したAさんは、逃げるように昼も夜も外で遊ぶようになります。結局、Aさんは両親に反抗したまま家を飛び出し、地元を捨てて遠方に移住。連絡することはありませんでした。
そのような関係でも子どもが生まれたときには連絡をしたようですが、Aさんの両親はAさんたちを追い返したのです。それからはさらに疎遠になってしまいました。その後両親の会社は、右腕となって働いていた方に事業承継し、父は亡くなるまで会長として会社経営に携わっていたそうです。
両親と疎遠だったAさんは、親の財産なんて知るわけがありません。両親は事故死でした。会社を継いだ社長から訃報の連絡を受け、話を聞きます。
「会長(父親)は近ごろ、Aさんとの関係を非常に後悔していました。実はAさんに子どもが生まれて連絡してきたときは、会社の経営が厳しく立て直しに奔走していた時期だったのです。経営が再建できてから、Aさんを追い返したことを悔やんでいました。いつか連絡をしたかったはずなのに、今回事故で亡くなられてしまい、無念だったと思います。会社の経営が上向きになり、少しでもAさんに財産を残したいと話をしていたところでした」
Aさんは会社の顧問税理士から、両親が公正証書遺言を作成していたことを知りました。相続財産と死亡保険金等を含めると、3億円相当もあるとのことです。Aさんと妻は、そのとてつもない金額にびっくりしました。
付言で両親の切実な想いが明らかに
遺言書の最後に付言がありました。
「Aを厳しく育てたことに後悔はないが、もっと話し合うべきだった。自分が一代で創った会社を子どもに承継したいと思うばかりに、結果として誤った方向に進んでしまった。
孫の顔を見て和解する機会があったにもかかわらず、会社の再建を優先させてしまった。社長として従業員を路頭に迷わせることができず追い返してしまう結果になり、申し訳なかった。そのときの選択にも後悔はしていないが、事業承継を済ませ時間に余裕ができたのにもかかわらず、素直に会えないことが残念で悔やまれる。
少しでも自分たちの財産でAが安心して過ごせることを祈っています」
Aさんは悔やむあまり号泣しました。3億円もの財産を相続するも、どうしたものかと妻と顔を見合わせるばかりです。通帳には見たこともないような金額(1億円)が入金され、突然富裕層になってしまったAさんは戸惑うばかりでした。
時が経ち、少し落ち着いてきたころ、今後について専門家のアドバイスを受けることを決めました。Aさん夫婦は若いころに友人と金銭トラブルを経験したことがあったため、扱ったこともないような額のお金の使い道を自分たちで決めるのは避けることにしました。いままでの生活パターンを変えることなく、両親の想いを大切にし、次は自分の子ども(孫)たちにつなげていきたいとAさんは考えています。
Aさんのように、多額の相続を受け、戸惑う方は少なくありません。慣れない資産運用で失敗したり、詐欺の被害に遭ったりするケースもあります。大切なのは、信頼できる専門家に相談することです。
相続した資産をどのように活用すれば、Aさんの望む「いままでどおりの生活」と「子や孫への継承」を実現できるのか、専門家の視点からアドバイスを受けることで、将来の後悔を避けることができるでしょう。