自宅の『Wi-Fiルーター』を「10年くらい使っている」はかなりヤバい
普通に使えているけど…
Wi-Fiルーターにも寿命がある。だが、電源が入らないなどよほどのことがない限り、ルーターの買い替えを検討する人はそう多くないかもしれない。
古いルーターを使い続けると、どんな不具合が起きるのか。買い替える際の製品選びのポイントは何か。ITジャーナリストの篠原修司さんに聞いた。
Wi-Fiルーターには「本体」「通信規格」「セキュリティ」の3つの寿命があるといわれる。まずはルーター本体、ハードウェアとしての寿命について。
「ルーターは精密機器です。使い続けるうちに熱や埃によるダメージが蓄積し、内部の部品が劣化してきます。メーカーはそこそこ壊れないように作っていて、中には10年以上持つ製品もありますが、本体の寿命はだいたい5年以上、10年未満といったところでしょう」
本体は意外と長持ちする。寿命が近いと不具合が生じるため、買い替えのタイミングもつかみやすい。逆に、特に問題がなければそのまま使い続けてしまいがちだ。しかし、「通信規格」と「セキュリティ」は、もしかすると「寿命」を迎えているのかもしれない。
Wi-Fiルーターの通信規格は1997年に第1世代が登場して以来、世代を重ねるごとに通信速度が向上している。現在、最新の通信規格は第7世代のWi-Fi7。ただし、現段階で販売されているWi-Fiルーターの規格はWi-Fi6が主流だという。
「今、最も普及しているWi-Fi6が登場したのは’19年。1世代前のWi-Fi5は’13年です。速度はWi-Fi5が6.9Gbpsで、Wi-Fi6は9.6Gbps。両方とも速いんです。’09年リリースのWi-Fi4は600Mbps。0.6Gbpsなので、通信速度がだいぶ違います。今、Wi-Fi4対応のルーターを使っている人は、遅いと感じているんじゃないでしょうか。
Wi-Fi4以降、通信規格は5年ごとに更新されています。新しい規格が登場し、それに対応するルーターが普及したタイミングが古い規格の寿命と言えなくもないですが、どうでしょうね。たとえば、今使っているルーターがWi-Fi5対応だとして、通信速度に特に不便を感じていないなら、急いでWi-Fi6に買い替える必要はないと思います。
ちなみに、Wi-Fi7に対応している端末は今のところ、iPhone16やPixel9など限られたスマホの最新モデルだけ。それら以外のスマホを使っているのであれば、Wi-Fi7対応ルーターに替えても意味がありません」
◆サポート終了後も使い続けると「乗っ取られる」危険性も
Wi-Fiルーターの国内メーカー「アイ・オー・データ機器」「NECプラットフォームズ」「エレコム」「バッファロー」の4社はデジタルライフ推進協会(DLPA)に加盟しており、DLPA推奨Wi-Fiルーターは出荷時からセキュリティ対策が施されている。ただし、セキュリティのサポート期間はメーカーによって異なるようだ。
「ルーターのハードウェアの保証期間は大体1年から3年だと思いますが、セキュリティのサポート期間はそれより長く、NECのAtermというルーターは7年。アイ・オー・データとバッファローはサポート期間を明言していないようです。エレコムは3年半でサポートを終了し、一部で騒ぎになりました。
サポートが終了した製品は、基本的にファームウェア(ソフトウェア)のアップデートができません。セキュリティ上の欠陥が見つかっても修正されないので、そのまま使い続けるのは危険です。寿命と考え、買い替えたほうがいいでしょう」
パソコンに関してはサポート終了後も使い続けた場合のリスクをイメージしやすいが、ルーターはどんな危険にさらされることになるのだろう。
「悪意のあるハッカーに脆弱性を突かれ、ルーターの管理者権限を乗っ取られる可能性があります。乗っ取られるとどうなるか。たとえば、ハッカーに自宅のルーターを介して偽のWebサイトに誘導され、ログイン情報を盗まれるといったことが被害としてあり得ます」
こんな事例がある。
’22年秋、東京都内に住む30代男性の自宅のルーターが、都内の大手企業へのサイバー攻撃の発信元だったことが警視庁の捜査で判明。結局、攻撃者が何らかの方法で男性宅のルーターに不正にアクセスしたことがわかり、警視庁は男性宅のルーターが大企業へのサイバー攻撃に悪用された可能性が高いと結論づけたと報じられた。
自分が直接的な損害を被るだけでなく、ハッキングの疑いをかけられる立場にもなり得るということだ。
「被害に遭った場合、どこも補償してくれません。だから、ユーザーが定期的にファームウェアのアップデートをしないといけないんです。
’21年以降に発売されたエントリーモデルのWi-Fi6対応ルーターであればほぼ、ファームウェアの自動更新機能を備えているはずです。
Wi-Fi5対応のルーターは、定期的に手動で更新作業をする必要がある機種が多いでしょう。自動更新に対応しているかどうか、メーカーのホームページで確認してみるのがいいと思います」
◆おすすめは「①Wi-Fi6対応、②同時接続可能台数30~40台、③価格1万円前後」
今の時点で不便を感じたり不具合が生じたりしていなくても、寿命が近いWi-Fiルーターはやはり買い替えを検討したほうがよさそうだ。では、製品を選ぶ際のチェックポイントは何か。
「現在、家電量販店やECサイトで売られているWi-Fiルーターの通信規格はWi-Fi5、Wi-Fi6、Wi-Fi6E、Wi-Fi7の4種類です。今選ぶなら、僕はWi-Fi6のルーターをおすすめします。6に対応したデバイスが最も普及しているからです。
Wi-Fi7は昨年解禁された最新の規格なので、価格が高め。対応するデバイスもまだ限られています。
Wi-Fi7は高速通信が強みではあるけれども、Netflixを見る分にはWi-Fi6で十分。先日発売されたゲームソフトの『モンスターハンターワイルズ』だって、回線が混んでいなければ計算上はWi-Fi6でも10分ほどでダウンロードできます」
今は個人または家族でパソコンやスマホ、タブレットなど複数のデバイスを使用するケースが多く、IoT家電も増えている。利用台数や利用人数も、ルーター選びのポイントの一つだという。
「ルーターは製品ごとに同時接続が可能な台数が決まっています。たとえば家族4人がそれぞれスマホやパソコンを使ってYouTubeで動画を見たりゲームをしたりして、なおかつプリンターやテレビ、冷蔵庫などもWi-Fiに接続されていると上限を超えてしまい、通信が不安定になるとか速度が落ちる場合があるんです。
将来的に接続するデバイスやIoT家電が増える見込みがあるなら、接続可能な台数に余裕のある機種を選んでおいたほうがいいでしょうね」
それではズバリ、篠原さんがマンション暮らしの4人家族にすすめる最適なWi-Fiルーターとは。
「Wi-Fi6対応、同時接続可能台数が30台から40台で、1万円くらいの機種を買ってください。国内メーカーの製品のほうが、サポートが必要な時に安心できます。
僕はバッファロー製のルーターを使っていますが、安定性が高い点でNECのAtermがおすすめです」