誰にも言えなかったが…実は宝くじで“1億円”が当たった年金月15万円の65歳元サラリーマン「取り返しがつかない。愚かだった」激しい自責の念に駆られるワケ【FPが解説】
物価高騰の波が押し寄せ、家計を圧迫するニュースが続く昨今。「宝くじでも当たれば……」と、一獲千金を夢見る人も多いのではないでしょうか? 2025年3月18日は第1041回全国自治宝くじ(通称バレンタインジャンボ)の抽選日です。今年の発行枚数1億1,000万枚。当選本数が11本の1等2億円に当選する確率は、1,000万分の1です。しかし、極めて低い確率ながらも、実際に高額当選を手にする幸運な人々がいるのも事実です。2025年バレンタインジャンボ宝くじの本記事では、宝くじ高額当選者のその後について、本人の許諾を得てプライバシーのため一部脚色し、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。
宝くじマニアの平凡なサラリーマン、定年間際にまさかの大当たり
65歳の田中修一(仮名)さんは40年間、衣料小売業で働き続けてきました。以前は営業として活躍していましたが、30代前半に重い肝炎を患い、長期入院を余儀なくされました。復職後は体力的な理由から営業職を離れ、内勤の事務職へと異動。以来、店舗の発注業務や売り上げ集計など、裏方の仕事を淡々とこなしてきました。
会社の規模は大きくなかったものの、コツコツと真面目に勤め上げ、職場での人間関係にも恵まれていました。ただ、田中さん自身は「病気さえしなければ、もっと収入のいい営業職で出世できたかもしれない……」という思いを常に抱えていたといいます。
退職後は月額15万円の年金(5歳年下の妻は月額7万円)と退職金600万円、貯金800万円で質素に暮らすつもりでしたが、老後の生活に大きな不安も感じていました。そんな田中さんの唯一の楽しみは、月に数回、趣味として購入する宝くじでした。
「いつか大当たりを引き当てるぞ」そう意気込み、毎月5,000円ほどを宝くじに費やしていたのです。
そしてついに、その「いつか」がやってきます。退職を2ヵ月後に控えたタイミングでした。信じられないことに、1億円の高額当選を果たしたのです。「まさか本当に当たるとは……」当選の喜びに震えながらも、誰にも打ち明けることができませんでした。
妻には「そんな大金を持ったら人生がおかしくなる」と言われ続けていましたし、友人に話せば、たかられるのではないかという不安があったからです。なお、宝くじの当選時、田中さんは当選者向けのハンドブックを受け取りました。資産管理や周囲への対応などについて書かれた内容でしたが、「こんなものを読んでいるところを妻に見つかったら……」とついビクビクしてしまい、ほとんど目を通すことなく引き出しにしまい込んでしまいました。
高額当選の落とし穴、浪費と孤独が招いた悲劇
「せっかく当たったんだから、少しぐらい贅沢してもいいだろう」
当選から半年が過ぎたころ、そのような思いが沸々と湧き上がってきた田中さん。いつか乗れたらなあ、と夢見ていた高級国産車を購入。妻には「退職金で買った」と嘘をつき、訝しがる妻を日帰り温泉旅行へ誘いました。
実は、この旅行でいよいよ妻に打ち明けようと思っていたのです。しかし、「妻が親戚や友人などに話してしまったら」と疑心暗鬼になってしまい、結局話すことができませんでした。秘密を抱えながらの生活は、むしろ空虚さを募らせるばかりでした。
「本当は妻と一緒に楽しみたかったのに」
後悔の念が日に日に強くなります。
また、お金の管理を一人で行うプレッシャーは想像以上に重いものでした。田中さんは投資の知識がほとんどありませんでしたが、「銀行に置いておくだけでは資産が目減りする」というネット記事を読んだことで焦り、株や不動産に手を出すようになります。
最初は株式投資から始めました。証券会社の営業マンから「安定した成長が期待できる」と勧められた銘柄に1,000万円を投資。その後、「AI関連銘柄は今後伸びる」と、いわれるがままに追加で500万円を投入しましたが、世界的な経済情勢の悪化などの影響で株価は下落。損切りした時点で、合計800万円ほどの損失となりました。
さらに、不動産投資セミナーに参加。「需要が安定している」という触れ込みで、地方の中古アパート物件に1,500万円を投資しましたが、入居者が思うように集まらず、半数以上が空室の状態に。物件の価値も当初の査定よりも下落し、売却するにも大幅な損失が避けられない状況となり、維持費だけがかさんでいきました。
そして最後の痛手となったのが、比較的安全と思われた外国債券に残りの資金から1,000万円を投入したことです。仕組みをよく理解していなかったため、実際には円ベースで元本割れ。500万円ほどの損失が出てしまいました。
気づけば退職から5年が経過し、総額で3,500万円ほどが目減り。さらに、高級車の維持費や、妻に内緒で楽しんでいた趣味の費用などで、少しずつ資産は減っていきました。田中さんは冷や汗をかきながら残高を確認し、現実を直視せざるを得なくなりました。そしてようやく「このままではいけない」と危機感が募ります。
一方、前々から田中さんの変化を察していた妻は、彼に不信感を抱くようになりました。
「最近、夜も起きてパソコンに向かっているけど?」
「なにか隠してるでしょ?」
ある日、隠し続けていた宝くじ当選の事実と、その後の資産の大部分を減らしてしまったことが妻にバレてしまいました。妻は激怒し、「どうして相談しなかったの? 一緒に考えればよかったのに」と詰め寄ってきたものの、なにも言い返すことができず、結果、夫婦仲はぎくしゃくした状態になってしまいました。
取り返しのつかない後悔と、今後の教訓
現在、田中さんは「もう取り返しがつかない。愚かだった」と激しく後悔しています。残ったお金は5,000万円ほどに減少。夫婦で充実した老後を、と願っていたのに、妻の信頼も損ない、1人寂しく食卓でスーパーの惣菜で晩酌する日々を送っています。
なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか?
高額当選は夢のような出来事ですが、適切な知識と管理能力がなければ、かえって不幸を招くことにもなります。お金は計画的に管理し、家族や専門家と相談しながら慎重に運用することが重要です。田中さんのような後悔をしないためにも、高額当選した場合の正しい対処法を挙げておきます。
・当選の事実は信頼できる家族や専門家にのみ打ち明ける
・生活水準を急激に変えず、計画的な資産運用を心がける
・怪しい投資話には絶対に手を出さない
・必要に応じて、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する
お金は人生を豊かにする道具に過ぎません。長い人生で築いてきた絆や信頼関係は、一瞬で失われることもあります。お金では買えないものこそ、大切にすべきではないでしょうか。
1,000万円以上の当選者には「その日から読む本」といったハンドブックが渡されるそうです。それほど、高額当選は人生を変える可能性を秘めているのです。それを活かすも殺すも、当選者自身の判断にかかっているといえます。
それでも田中さんには、わずかながら希望の光も見えています。妻との関係修復に向けて、田中さんは残った資金の運用をファイナンシャルプランナーに相談する道を選びました。「もう一度、妻と一緒に人生を歩んでいきたい」という思いから、無理な投資は一切やめ、妻を大切にする日々を送っています。2人で一緒に老後の計画を立て直し、少しずつ信頼関係を取り戻そうとしているのです。
「宝くじ1.5億円当たった!」年収560万円の50歳サラリーマン…歓喜も束の間、“まさかの決断”へ。高額当選者がたった数年で「不幸」になりがちなワケ【FPが解説】
いつか当たるかもしれない……今年の年末もそんな思いを抱えた人で、宝くじ売り場には行列ができていました。では、実際に高額当選となった人はどのように過ごしているのでしょうか? 夢が叶って悠々自適生活、と想像されがちですが、残念なことに、実際には不幸になる人も少なくないとか……。本記事ではTさんの事例とともに、宝くじ高額当選者のその後について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
宝くじ当選の夢が現実になると
年末の風物詩「年末ジャンボ宝くじ」。2023年の当選金は1等7億円、前後賞1億5,000万円です。一獲千金のチャンスに夢をみずにはいられないという人も少なくないでしょう。しかし、年末ジャンボ宝くじの発行予定枚数は4億6,000万枚、1等7億円の当選本数は23本。つまり、当たる確率は4億6,000万枚のうちたったの23本で、約2,000万分の1という天文学的な数字です。同様に1等前後賞の当選本数は50本のため、約1,000万分の1と計算されます。
しかし、そのようななかでも一握りの幸運を手にする人はいます。今回は、宝くじ当選から数年後、筆者のFP事務所のもとへ相談にやってきた方の事例について、本人の許諾を得て、プライバシーのため一部脚色してご紹介します。
同級生で親友…毎年一緒に買い続けた「年末ジャンボ宝くじ」
TさんとSさんは現在50歳の元同級生。ふたりは学生時代からの長年の親友です。Tさんは普段、物静かで頑固なほど真面目なタイプですが、これと決めたら絶対に自分を曲げない人です。対照的にSさんは学生時代、クラスでもお調子者としていつも輪の中心にいて、流されやすいところはありますが、どこか憎めないみんなに好かれるタイプです。そんな正反対のふたりですが、なぜか非常に気が合うようで。真逆なタイプというところが、逆にいい方向へ作用しているのでしょうか。
Tさんは年収560万円、Sさんは年収480万円、ともに中堅サラリーマンです。それぞれ家庭を持ち、住宅ローンや教育費など、お金のかかる時期はまだまだ続きそうです。
そんなSさんとTさんは、月1回程度、仕事帰りに近所の居酒屋で呑みながら、昔話に花を咲かせるのが定番となっています。さらにもうひとつ、社会人になってから買い続けている「年末ジャンボ宝くじ」。宝くじを購入するのが、ふたりのささやかな楽しみとなっています。
年末の呑みでは、決まって、宝くじの1等が当たったらどうするか。酒のつまみに夢を語っていました。では、夢が現実となったとき、2人の生活はどのように変化するのでしょうか。
Tさんの当選により2人の関係に異変が…
年末が訪れ、毎年の恒例行事となった宝くじ当選番号の確認をしたところ、異変が。なんと、Tさんが購入した宝くじのなかに1等前後賞(1億5,000万円)があったのです。驚きのあまり膝がガクガクと震えるTさん。何度も番号を確認します。声も出せずに、しばらく放心状態でいたところ、Sさんから電話が入りました。
震える手で携帯電話を持つのがやっとの状態で電話にでると、Sさんから、「どうだった? 俺はいつもどおりだったよ」と明るい声が。
ですが、会話が続かないTさんに異変を感じ、「え、まさか……」
Tさんは正直に1等前後賞が当たったことを告げると、Sさんがすっ飛んできました。
何度みても番号が一致。夢が現実となり、Sさんは自分のことのように大喜び。その姿をみたTさんはやっと素直に喜びをあらわにしました。ただし、いまは2人だけの秘密にしようと約束します。
年明けすぐにTさんは銀行へ。その日の夕方、2人でいつもどおり居酒屋へ行き、今後のお金の使い道について話をしました。Tさんはもともと生真面目な性格で、ネットの書き込みに、“高額当選しても破産する”という記事をみていたため、このまま黙っておいて、家族にもばれない程度に住宅ローンの繰り上げ返済と子どもの教育費に少しづつ充てようと思う、といいます。
一方、Sさんが心苦しそうに口を開きます。「住宅ローンと子どもの大学進学で資金繰りが厳しいから、一時のあいだだけ。少し、お金を貸してくれないか……」
Tさんは初めは少々渋りましたが、親友のため、結局はSさんに100万円を貸すことにします。
しばらくTさんは出張が続き、Sさんと会うことができずに過ごしていました。2ヵ月が過ぎたころ、ようやく仕事の目途が立ち、Sさんに定例の呑みにいかないかと連絡をとりました。
久しぶりに会ったSさんの顔色に違和感を覚え、なにかあったのかと尋ねたところ、Tさんは、借りた100万円の一部を投資にまわしたら、大損したとのこと。申し訳ないが、あと100万円用立ててくれないか、というのです。
Tさんは戸惑いながらもほかならぬSさんの頼みだからと、投資をしないようきつく約束させて、もう一度100万円を貸すことにしました。その後、Tさんは駅で偶然別の同級生に会い、驚愕の事実を耳にすることに…
親友の豹変に苦悩
その同級生は、学生時代Sさんと同じ部活に所属。先日、部活の同窓会があり、Sさんの羽振りがよくなり、宝くじでも当たったのではと噂されるぐらい、人が変わったようだったと聞きました。Tさんは嫌な予感が拭えず、Sさんに真相を聞きたいと、連絡をとりました。
Tさんは、住宅ローンや教育資金の話をSさんに聞いたところ、順当に返済しているとのこと。ただ、その分自分の使えるお金に余裕ができ、金遣いが多少荒くなったといいます。
TさんはSさんに噂が出ているから、自重したらどうかと伝えたところ、Tさんは「当たったことを黙ってほしければ、もっと金を貸してほしい」といいだしたのです。
これにはTさんも憤り、「お金は住宅ローンと教育費のために貸したもの。そんな大金を返せるのか」と問い詰めたところ、金を貸せないなら、みんなに宝くじが当たったことを話すだけだと、脅してくる始末。
Tさんの決断
Tさんが頑なにお金を貸すことを拒んだことで、数年後、Sさんは自己破産に陥ります。これにもまた、Tさんは大きなショックを受けました。お金がSさんを変えてしまったことに落胆し、自分が親友を破綻させてしまったという罪悪感に苛まれます。
もうどうしていいかわからなくなったTさんは、ついに事のいきさつを妻へ打ち明けました。妻はただ黙って話を聞いていましたが、やがて口を開きます。
「もうこんなお金全部手放そう。なんでも買えても家族が幸せでなくちゃなんの意味もないよ」
思ってもみなかった妻の提案にTさんは狼狽えました。
「いやいや、1億5,000万円だよ。このお金があれば生活を楽にできるし、Sのことだって救うことができる。全部済んでもお釣りがくるよ」
「なかったものと思おう。これまでなくても暮らしていけていたし。もともと口数少ないタイプだけれど、ここ数年のあなたは心ここにあらずなことが多くて、なんだか違う人みたいだった。……Sさんのことも、お金は渡さないほうがいいと思う。あなたが関係を修復したいと思っているなら。本人にお金をきちんと返してもらったら……もしかするとおじいさんになったら許せるようになるかもしれないよ」
妻の話に納得したTさんは、当選金を全額寄付することにしました。
これもまた妻の提案ですが、もともとTさんは、住宅ローンと子どもの教育費は宝くじに頼って今後のマネープランを考えていたため、その見直しをするのに、FPに相談することにしました。
Tさんが全額寄付したことを知ったSさんもいまは後悔し、Tさんに謝罪して、何年かかってもお金を返すといってくれています。
Tさんは、「宝くじは夢をみているだけでよかったのだ」と痛感したのでした。
夢が現実となったとき
今回、大金を手にしたTさんでしたが、長年の親友との関係性の修復はまだまだ時間がかかるでしょう。唯一無二の親友だったSさんから放たれた言葉は、Tさんを突き落とすには十分でした。これがもし反対に、Sさんが当選していた場合、どうなっていたのか、想像するだけで震えてしまいます。夢が現実となったとき、自分だけでなく周りも変わってしまう可能性があり、現実を受け止める強い気持ちを合わせ持つことが必要です。
また、宝くじに当選すると、1,000万円以上の高額当選者に対して、「その日から読む本」という冊子が配布されます。この本には、当選者が参考にできる具体的なアドバイスが書かれています。こうしたアドバイスがあっても、なかなか思うように活用できない人が多いため、夢が現実となった高額当選者が不幸になることが多いのかもしれません。
平凡な暮らしをしている人が突然大金を手にして、金銭感覚を保つことは確かに難しいことでしょう。しかし、日ごろからお金に関する正しいリテラシーを身につけておくことで、アドバイスを適切に活用できる可能性が高まります。慌てず専門家に相談することも念頭においておくことも重要です。