中国、報復関税発動 米農産物対象、最大15%上乗せ!中国に「追加関税」をかけたトランプ大統領が“自分の首を絞める”ことになる極めて当然の理由

中国、報復関税発動 米農産物対象、最大15%上乗せ

中国政府は10日、米国産の農産物などに最大15%の報復関税を発動した。

 トランプ米政権による4日の対中追加関税の引き上げへの対抗措置。米側は対中関税のさらなる上乗せに意欲を示しており、両国の貿易摩擦は一段と激化する可能性が高い。

 中国政府の公告によると、米国産の鶏肉と小麦、トウモロコシ、綿花に15%、大豆や牛肉に10%の関税を上乗せ。先月には米国の追加関税に対抗して原油や液化天然ガス(LNG)に報復関税を課しており、今回は「第2弾」となる。農家やエネルギー業界はトランプ大統領の有力な支持基盤で、狙い撃ちの対象にしたもようだ。

 中国の王文濤商務相は6日の記者会見で「国益を守り切るという決意は決して変わらない」と述べ、改めて米国を強くけん制した。

 北京駐在の欧州メディア関係者は中国共産党筋の話として、中国はトランプ政権との貿易摩擦に備えて「相当入念に準備を進めてきた」との見方を明らかにした。2024年の中国貿易統計によると、大豆などの対米輸入依存度は前年から低下している。

 5日から開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、政府が食料増産を図る方針を打ち出した。対米貿易摩擦を見据え、新疆ウイグル自治区で昨年から綿花の生産拡大が図られているとの報道もある。米国の関税引き上げに伴う中国への影響が以前よりも小さくなっているとみられる中、関税の撤回に向け、「中国は米国との対話をそれほど急いでいない」(先の関係者)との見方も出ている。

中国に「追加関税」をかけたトランプ大統領が“自分の首を絞める”ことになる極めて当然の理由

アメリカが中国から輸入しているのは電子製品が中心だ。これらはもはやアメリカで製造することはできない。したがって、関税を課しても国内生産が増えることはない。国内価格が上がり、消費者の負担が増加する。これに対処するため、サプライチェーンを中国からアジア諸国に移す動きが加速化されるだろう――。野口悠紀雄氏による連載第141回。

■中国に追加関税を課した2つの理由

 トランプ政権は2月4日、中国からのすべての輸入品に10%の追加関税を発動した。ドナルド・トランプ大統領が中国を特別視するのは、第1に貿易赤字が最大であるため、そして第2に「中国の台頭が問題だ」と考えるからだろう。

 追加関税によって貿易赤字を削減し、輸入で失われたアメリカの雇用を取り戻し、アメリカを再び強国にするという。はたして、その思惑どおりになるだろうか。

 答えは、まったく逆だ。アメリカの消費者の負担を引き上げるだけで、同国の雇用は増えないだろう。

 アメリカの対中関税が大きな問題を引き起こすことは、アップルのスマートフォン「iPhone」への影響を考えると明らかだ。

 iPhoneの多くは中国で生産されている。だから、アメリカで販売されている iPhoneは中国からの輸入品だ。したがって、関税の対象となる。

 第1次トランプ政権が対中関税を引き上げたとき、アップルはアメリカ政府と交渉して、当初は関税対象から除外された。しかしその後、アップル製品も課税されることになった。

 アップルが関税分を負担すれば、同社の利益が減ってしまう。そこで販売価格に転嫁する。その結果、アメリカでのiPhoneの販売価格が上がる。アメリカの対中関税は、このような形で自国の消費者の負担につながる。

 それだけではない。iPhoneは全世界で販売されている。だから、アメリカの価格だけを高くするわけにはいかない。

 もし日本で販売されるiPhoneの価格が低いと、日本からアメリカにiPhoneを輸出することになるだろう。したがって、全世界的に販売価格が上昇する。

■iPhoneをアメリカで作ることはできない

 ここで重要なのは、関税がかかったからといってiPhoneをアメリカで製造するのはほぼ不可能ということだ。

 かつて、アメリカの製造業は自国内で生産していた。アップルもかつてはアメリカ国内でPCを生産していた。しかし2000年ごろから、設計はアメリカ国内で行うが製造は中国をはじめとするアジア諸国で行う方式に転換した。いわゆる「ファブレス化」だ。これによって、アップルは小さなPCメーカーから世界一の企業に成長した。

 同社は「Mac Pro」などごく一部の製品についてはアメリカで製造しており、その他の製品も国内生産が完全に不可能というわけではない。しかし、コストやサプライチェーンの問題から、広範囲にわたる製造移転は非常に難しいと考えざるをえない。

 実際、Mac Proの場合も、“Made in the USA”をうたったものの、専用ネジのアメリカ国内での製造が難しかったため、発売が遅れたというエピソードがある。

 アップルだけでなく、アメリカの製造業の多くがファブレス化した。つまり、自社では設計などを中心に行い、製造は他国の受託企業に任せる。それによって、安い労働コストで生産できるようになった。アメリカの経済発展は、このような転換によって実現された面が大きい。

 もし対中関税が永続すると考えれば、アップルはアメリカ国内での生産を再開するのでなく、中国を中心とする現在のサプライチェーンをほかの地域に移していくことになる。主として東南アジアに移していくだろう。

 中国では今後、生産年齢人口が減少していくため、低賃金の有利さを発揮できなくなっている。したがって、いずれはこうした変化が生じるであろうが、それが追加関税によって加速されることになる。ただし、それは短期間で実現できることではないし、さまざまな摩擦現象を伴うことになるだろう。

■サプライチェーンの「脱中国化」が起きる

 そして、上述の事情はiPhoneに限ったことではない。アメリカの中国からの輸入に関して一般的に言えることだ。

 2023年にアメリカが中国から輸入した主要品目は、以下のとおりだ(ジェトロ調べ、カッコ内は輸入総額に対する比率)。

・ ノート型パソコン(6.6%)

・ スマートフォン(5.1%)

・ リチウムイオン電池(2.2%)

・ 玩具(1.7%)

・ データの送受信装置(1.3%)

 このように、電子機器と機器類が多い。これらの品目について、iPhoneと同じことが起きる。

 こうした部門では、アメリカの製造業はファブレス化しているから、アメリカが中国からの輸入に対して高い関税を課すと、自国内での製品価格が上昇し、消費者にその費用が転嫁される。そして、長期的に見れば、サプライチェーンを中国からほかのアジア諸国に移していくことになる。

 経済学では「関税をかけない自由貿易が望ましい」としている。これはイギリスの経済学者、デヴィッド・リカードの「比較生産費説」の議論に基づく、かなり高度な議論だ。

 しかし、ここで論じている問題については、そのような面倒な議論を持ち出す必要はない。つまり、これは経済学以前の問題なのである。

 リカードが論じたのは次のようなことだ。イギリスは羊毛もワインも生産できる。しかし、条件次第では、ワインは作らず、羊毛の生産だけに特化し、ワインは輸入したほうがよい。

 驚くべきことに、ワインを製造するコストがスペインより低いとしても、それでも輸入したほうがよい場合がある。これが「比較優位」の理論だ。これはかなり高度な議論で、理解するのは容易でない。

 しかし、ここで論じたのはそうしたことではない。アメリカでは生産できない、あるいは大変なコストがかかる。だから、アメリカは輸入するしか方法はないのである。面倒なリカードの議論を持ち出すまでもなく、明らかなことだ。

■電子部品と自動車では事情が違う

 一方、自動車の問題は性質が異なる。自動車はアメリカ国内での生産が可能だからだ。実際、今でもアメリカで生産が行われている。

 ただし、アメリカ国内での生産は、賃金が高いなどの理由でコストが高くなっている。したがって、コスト面で輸入車に太刀打ちできない。これもリカード以前の問題(絶対優位の問題)である。

 しかしながら、アメリカ国内には自動車会社が存在し、そこで働く労働者もいる。そして、その人たちはほかの分野には移れない。だから、非効率とわかっていても生産を続けようとする。

 ここで輸入自動車に関税を課すと、海外の輸出メーカーが工場をアメリカに移すかもしれない。だから、確実ではないがアメリカの労働者の雇用が増える可能性がある。これも経済学以前の問題であり、政治的な問題である。日本の農業と同じ問題だ。

 以上を考えると、現在の米中間貿易摩擦は1980年代の日米貿易摩擦とは性質が大きく違うことがわかる。

 1980年代の貿易摩擦は、自動車などを中心にアメリカでも生産できるものに関してのものだった。それに対して電子部品は、先で述べたようにアメリカ国内でのサプライチェーンの再構築はほぼ不可能だ。それゆえ、アメリカ国内で電子部品の生産が増え、雇用が増えることはほとんど考えられない。

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