Intel再建道半ばでCEOを退任したゲルシンガー
突然の発表であった。Intelが自社のプレスリリースでCEOのパット・ゲルシンガーの引退を発表した。後任はまだ決まっていない。外国プレスの記事によると、ゲルシンガーは取締役会で「自ら退任するか、解任されるかの選択を迫られた」模様だ。大赤字を計上した第3四半期の決算発表後もIntel再建への道のりを熱っぽく語っていたゲルシンガーの突然の「引退」という実に奇妙なトーンのプレスリリースは、取締役会での緊迫したやり取りを想像させる。
迷走するIntelにCEOとして舞い戻ったゲルシンガーの4年間
ゲルシンガーは2021年初めに、プロセス技術開発での躓きと、CPUを中心とする製品力の低下で迷走していたIntelを再建するべくCEOとして舞い戻った。CEO着任後まもなくTSMCに伍するファウンドリ会社を打ち立てる遠大な計画「IDM 2.0」を発表し業界を驚かせた。
飛び級を経てLincoln Technical Instituteを18歳で卒業した直後、Intelにプロセッサーの設計技術者の一員としてIntelに入社したゲルシンガーは、「偏執狂だけが生き残る」などの著書で知られる辣腕CEO、アンディー・グローブの厳しい指導の下で頭角を現し、80486プロセッサー設計の責任者などIntelの黄金期を支えるプロセッサー製品設計に深くかかわり、2001~2009年の間、Intelの初代CTOを務めた。その後VMwareのCEOに転身したが、2021年に乞われてトラブルが続くIntelにCEOとして舞い戻った。その時、私は当コラムで「真打登場!!」と書いた。それまでIntelの足踏み状態を突いて快進撃していたLisa Su率いるAMDにも「とうとう手ごわい相手が現れたな」、というのが正直な感想だった。
IDM 2.0戦略を高らかに掲げたゲルシンガーの大胆な再建計画には、メモリービジネスに見切りをつけてマイクロプロセッサーに大きく舵を切ってのし上がった往年のIntelを彷彿とさせられた。就任時には、それまでCEOの不祥事を含む経営トップの交代などで非常に不安定だったIntel再建への業界の期待は大いに膨らんだ。
「4年間で5世代の新たなプロセスノードを開発する」、という極めてアグレッシブな開発計画を打ち出したIntelには、自国内での半導体サプライチェーンを構築しようとする米政府からの巨額の補助金の支払いも決定した。これからゲルシンガー率いるIntelの反撃が期待されていただけに、今回の退任劇はあまりにも唐突だった。「ゲルシンガーが引退」という異例のタイトルで発表されたプレスリリースのトーンは、処遇はあくまでも「引退」にこだわり、業界レジェンドのゲルシンガーに対するIntel側の配慮が伺えたのがせめてもの救いであったが、実は取締役会からの「追い出し」であった印象が強い。
x86アーキテクチャーにこだわったゲルシンガー
かつてのIntelの強さは、x86マイクロプロセッサーという業界でも異例の利益率を誇る半導体製品とそれを最先端技術で製造する巨大なキャパシティーの保有による市場の独占的掌握であった。しかし、この二つの分野にはゲルシンガーが活躍した時代からは大きな変化があった。
NVIDIA、Apple、AMD、Qualcommといったファブレス企業とそれを最先端プロセスと圧倒的な製造キャパシティで支えるTSMCをはじめとするファウンドリ企業の興隆である。PC/サーバーでのIntelの独占的市場掌握の原動力となったx86マイクロプロセッサー分野では仇敵AMDのシェア拡大を許し、ゲルシンガーがCTOなどを務めていた時代には存在しなかったスマートフォン市場の拡大でQualcomm/Mediatekなどが台頭した。しかし、何といっても大きな変容ファクターはデータセンター向け半導体の付加価値と利益の源泉がNVIDIAが掌握するAIプロセッサーに移ってしまったことであろう。
x86アーキテクチャーのかつてのCPUでの不動の地位も、Arm/RISC-Vなどの低消費電力でスケーラブルなアーキテクチャーが市場に浸透している。こうした環境の大きな変化にあって、CEOとしてIntelに復帰したゲルシンガーであるが、やはりその戦略の中心をx86アーキテクチャーと圧倒的なキャパシティーに据えていた印象がある。以前にご紹介したシリコンバレーのベテラン記者、ドン・クラーク氏のIntelの40年を振り返る記事でIntelの低迷は「x86アーキテクチャーへの執拗なこだわり」が原因だと指摘している。かつての成功体験の土台が市場の変化により次第に削り取られ、すり減っていった事に気が付かず、迫りくるAIの巨大な波を乗り越えられなかったという見方もできる。また、巨額資金を投じた多数の企業買収も、外部の新たな技術を取り込むことなく、結局そのほとんどを手放してしまった。
とは言っても、この4年間でリリースされた製品群はすべてゲルシンガーがCEOに就任する以前から開発が始まっていたもので、ゲルシンガー自身が再三言っていたように「半導体ビジネスには中長期的なビジョンが必須条件であり、Intelの取締役会は私の描く戦略に5年のコミットをしている」、という当初の条件をまっとうできずに道半ばでIntelを去るゲルシンガーは相当に無念だったに違いない。
難航が予想される後任探し
ゲルシンガー退任後のCEOの後任者選びの舵取りを任された暫定共同CEOの一人であるジンスナー氏は、次期CEOの資質について「製造と製品ビジネスに充分な経験を持った人材が好ましい」と発言しているが、ゲルシンガーの後任人材選任はかなり難航することが予想される。
特に政府補助金を含めた巨大投資が始まっているファウンドリ会社にはIntel自身以外に大手顧客はまだ決まっていない。以前からゲルシンガーは「ファウンドリ会社のキャパシティーは2025年から2年間はIntel製品に振り向けられる」と語っており、Intelのx86製品を中心とする製品群はしばらく屋台骨を支えていかなければならない。それには製品力をAMDに対抗する強力なものにする必要がある。またAI半導体の戦略についても本命となるはっきりした方向性が見えていない。取締役会の中には製品部門とファウンドリ部門の分離を主張する声も聞かれ、別会社となれば現在出荷中の製品がTSMCの製造力に頼っている現況を考えると、製品/製造の両ファクターをうまく組み合わせるのは容易なことではないだろう。
巨大プロジェクトの道半ばで「引退」という形でレジェンドは表舞台から姿を消すが、敬虔なクリスチャンと言われるゲルシンガーの今年のクリスマスは穏やかなものになるだろう。
パット・ゲルシンガー氏がIntelから「卒業」しなければならなかった背景
Intelは、12月1日付けでCEOのパット・ゲルシンガー氏の「引退」を発表した。今後、IntelはCFO(最高財務責任者)だったデビッド・ジェンスナー氏とCCG(クライアント・コンピューティング事業本部)の事業本部長だったミッシェル・ジョンストン・ホルトス氏が暫定共同CEOに就任して、Intelの舵取りを行なっていくことになる。ホルトス氏は、同時にCCGだけでなく、DCAI(データセンターAI事業本部)やNEX(ネットワーク・エッジ事業本部)といったIntel製品の事業本部を統括する製品部門CEOにも就任する。
こうしたIntelのリーダーシップ変更の背景にはあるものは何なのか、それを同社が発表したニュースリリースなどから読み解いていきたい。特に今後のIntel再生の鍵になってくるのは「GPU」にあるのだが、それはどういうことなのだろうか?
高校卒業後Intelに飛び級入社したゲルシンガー氏、2021年にCEOとして復帰
Intel CEOを退任した、パット・ゲルシンガー氏はIntelにとっては「保守本流」と言えるリーダーだった。というのも、ゲルシンガー氏は2009年にIntelを一度退任するまで、Intelの製品部門の「花形エンジニア」であり、後期には製品部門のリーダーの1人だったからだ。
ゲルシンガー氏は1979年にIntelに入社したのだが、その時点で既に未来のエースとして嘱望された存在だった。通常Intelのような大企業に入社するのは大学や大学院などを卒業した後でということだが、高校生の頃から将来を嘱望されていたゲルシンガー氏は高校を卒業すると「飛び級」でIntelに入社したのだ(その後、Intelに所属したまま大学にも通い学位を得ている)。
Intel入社後は、Intelの実質的な創業者の1人であったアンディ・グローブ氏のテクニカルアシスタントになり、グローブ氏の薫陶を得ながらエンジニアとして成長を遂げていった。その後、i386、i486といったIntelが大きく飛躍するきっかけになった製品の開発チームに入り、特にi486では開発チームのリーダーとして開発を主導したことはよく知られている。
その後は1990年代にはIntelの取締役に昇進し、IntelのPC事業の責任者として、2000年代にはCTO(最高技術責任者)としてIntelの技術面を引っぱってきた。
そして、2009年にIntelを退職して、EMC(後のDell EMC)へと移籍し、2010年代にはその傘下だったソフトウェア企業のVMware CEOとして活躍した。VMwareでは、オンプレミスのソリューションだったVMwareを、クラウドにも対応させるなどして変革を行ない、技術者としてだけでなく、経営者としても認識されて、2021年にIntelに復帰することが発表され、そこから約4年近くIntelを引っぱってきた。
Intelに戻ったゲルシンガー氏は、「IDM 2.0」と呼ぶ新しい戦略を打ち出した。IDM 2.0は3つの柱から成り立っていた。それが5N4Y(5nodes in 4years、4年で5ノード)と呼ばれる製造技術の急速な進化、Intel Foundry Services(IFS)と呼ばれるIntelが他社に提供するファウンドリ(半導体受託製造)事業の伸展、そしてIntelの製品部門が他社のファウンドリサービスを積極的に利用することの3つだ。
ゲルシンガー氏が推進してきたIDM 2.0の新戦略、来年のIntel 18A導入で完成間近までこぎ着けていた
ゲルシンガー氏が帰任するまでのIntelは、製造技術がほかのファウンドリなどに比べて後れをとっていた。特に10nmの遅れは深刻で、元の予定から2年程度遅れ、その後7nm(今のIntel 3およびIntel 4)の導入でも他社に後れを取るという状況が発生していたからだ。
そこで、ゲルシンガー氏は製造技術を開発する部門にてこ入れを行ない、5N4Y戦略を強力に推し進めてきた。2022年にIntel 7(10nm Enhanced SuperFin)を導入し、2023年にはIntel 3(7nm)、2024年にはIntel 3の改良版となるIntel 4を導入し、来年(2025年)にはIntel 20AとIntel 18Aの2つのGAA(Gate All Around)と呼ばれる4D形状のRibbon FETの導入を実現する見通しだ。
IDM 2.0の最も特徴的な部分が、「Intel Foundry Services(IFS)」だ。
従来のIntelはIDM(Integrated Device Manufacturer)と呼ばれる、自社で半導体を設計製造するだけでなく、自社工場で製造まで行なう、垂直統合された半導体メーカーのビジネスモデルを展開していた。
IDMのメリットは、他社より製造技術が進んでいる際は自社だけがその技術を利用できるので、製品の性能などでリードが取れることであり、もう1つは製造計画を自社の都合だけで決められるのでより、柔軟に生産計画などが立てられること。反面、独立系のファウンドリが複数の企業が製造にかかるコストをシェアしているため、コストを最小化できるのに対して、自社だけで工場の建設コストなどのコストを負担しなければならない。
IFSでは他社がIntelの工場を利用して委託製造(Intelから見ると受託製造)を行なえるようにする。それにより、製造にかかるコストを他社とシェアしながら、Intel自身もIFSを利用できる。つまり、IDMとファウンドリそれぞれの良いところ取りをできる。
そして最後が、Intelの製品部門がほかのファウンドリを利用して製造する戦略と言うのは、Intelの製品部門(たとえばPC向けの半導体を提供するCCGやデータセンター向けの半導体を提供するDCAIなど)が、TSMCなどの他社のファウンドリを利用して製造することを可能にする戦略。
たとえば、現在の主力製品である「Core Ultraシリーズ1」(Meteor Lake)は、複数のダイから構成されているのが、コンピュート(CPU)タイルはIntel 4で、それ以外はTSMCのN5やN6などで製造されている。また最新製品となる「Core Ultra 200V」では、2つのタイルのいずれもTSMC製で、コンピュートタイルがTSMC N3、IOタイルがTSMC N6で製造されている。製品部門が、AMDやQualcommといった競合他社との競争に打ち勝てるように、その時点で最もよい製造技術を、IFSも他社も含めて検討して選択していくというのがこの戦略の根幹となる。
こうしたIDM 2.0の戦略は着実に実行されてきており、4Y5NやIFSは、来年にIntel 18Aの製造が開始されると本格的に立ちあがるというところまでこぎ着けていた。
「ほろ苦い決断」という言葉の裏に見え隠れする、ゲルシンガー氏の「責任の取り方」
そうした壮大な戦略を着実に実行し、来年のIntel 18Aの本格的な立ち上げを待っているというこの状況で、ゲルシンガー氏はなぜIntelを「卒業」しなければならなかったのだろうか?
そのヒントはIntelが公表したリリースに書かれている。Intel取締役会の独立会長(日本で言うところの社長、会長ではなく、株主を代表する取締役会の会長)であるフランク・イヤーリ氏は「取締役会としては、製品部門の強化こそ我々がやるべきことの中心だと認識している。我々の顧客がそれを求めており、彼らにそれを提供していくべきだと考えている。
MJ(ミッシェル・ジョンストン・ホルトス氏の愛称)が製品部門のCEOに就任し、暫定共同CEOになったことで、それを実現していくことが可能になる。DJ(デビッド・ジェンスナー氏の愛称)とMJという2人のリーダーシップの元、我々は優先順位に従って急ぎ行動することを続けて行く。それは製品群を強化していきつつ、製造とファウンドリの機能を拡張していくことだ。同時に、運営コストを最適化や資本の有効活用を進めていく。より高効率、シンプルでかつ機敏なIntelを実現して行くべく努力する」とコメントしている。
このコメントが意味するところは、特に同社製品部門の顧客(PCメーカーやサーバー機器などのベンダー)からの突き上げが大きく、今回のリーダーシップ変更につながったということだ。言い換えれば、ゲルシンガー氏が推進してきたIDM 2.0戦略が行きすぎているから、修正してほしいという顧客からの要請があり、それが今回のリーダーシップ変更につながったということだ。明確にはそうだとは言っていないが、ゲルシンガー氏の「卒業」は取締役会による要請によるものであり、事実上の「解任」だということをIntelのプレスリリースは示唆している。
Intelは、第3四半期(7月から9月期)の四半期決算で166億ドル(1ドル=150円換算で、約2兆5,000億円)という巨額の赤字を計上し、グロスマージン(営業粗利益率)が18%と、従来のIntelからすると考えられないぐらいに落ち込んでいる。その最大の要因はIFSへの投資(工場建設や技術開発)だと考えられているので、そうした決算の詰め腹を切らされたと想像するのは容易だろう。
ゲルシンガー氏は「今年(2024年)はIntelにとってチャレンジングな年であり、この決断はタフだが、Intelが今後のマーケットの変化に対応するために必要なものだ」と述べ、同氏が引退することがIntelにとってもよい選択なのだということを強調しており、その決断を「ほろ苦い」(bittersweet)と表現していることはそうしたことを示唆していると考えられる。
ただ、イヤーリ氏がリリースの中で「製造とファウンドリへの機能拡張していく」と述べている通り、一度走り出したIDM 2.0の戦略を止めて、そこを見直すというのは正直難しいと思う。というのも、IFSの投資というのは、Intelの戦略というだけでなく、既に米国の国家戦略になっているからだ。
米国政府からの助成金を受け取っている以上、IFSへの投資をやめることは難しく、ゲルシンガー氏が詰め腹を切り株主に対して責任を取ることでIFSの事業を守った、そういう言い方もできると思う。
新生Intelの製品部門再生の鍵となるのはNVIDIA GPUに対抗できるようなデータセンター向けGPU
Intelにとっての課題は、現在抱えている製品部門の問題を解決できるかどうかだ。Intelにとっての製品部門の課題は、PC事業ではない。PC事業は、時期によって増減はあるが、70~80億ドル前後の売り上げがある安定した事業だ。大きな成長もしていないが、大きく減りもしていない事業であり、大きく成長はしていないということを除けば問題のない事業と言える。
では、最大の問題は何かと言えば、DCAI(データセンターAI事業本部)だ。というのも、データセンターおよびAI向けの半導体は、今歴史的な成長を遂げている。その最大の要因は誰もが認識しているように、生成AIへの高まり続ける需要に応えるGPU需要の急速な拡大だ。
そして、そのGPU需要のほとんどがNVIDIAのGPUだ。そうした背景の中で、NVIDIAの決算はまさに記録的な売り上げの伸びを示しており、クラウドサービスプロバイダー(CSP)などに取材すると全員が口をそろえて「GPUが足りない」と言うような状況の中で、今後もデータセンター向けのGPUの需要が高まり続けることは否定するものは誰もいない。
そうした現状の中で、Intelは対抗する製品を持っていない。そのため今後もIntelの製品部門が急成長することは難しいと考えられているのだ。
一応、Intelが対抗製品と位置づけている製品はある。それが「Gaudi」シリーズで、先日、最新製品となる「Gaudi 3」をリリースしたばかりだ。
しかし問題は、顧客にとってはGaudiシリーズがNVIDIAの対抗製品と認識しているかどうか。GaudiはGPUではなく、AIアクセラレータと呼ばれる、AIの学習や推論を専用に演算する半導体となる。それに対して、GPUは、NVIDIAのジェンスン・フアン氏の言葉を借りれば「GPUはアクセラレーテッド・コンピューティング向けの半導体であり、AIアクセラレータとは異なる」というのが顧客の受け止め方。NVIDIAはCUDAを導入することで、GPUを利用して並列演算を超高速にできるようにした。それが今のAIの学習や推論でNVIDIAのGPUが必要とされる理由なのだが、AIアクセラレータではそこまでの自由度がく、普及が進まないというのが現状だ(実際CSPが提供しているGoogle TPUのようなAIアクセラレータも、GPUに比べると利用されていないのが現状だ)。
もちろん、将来的にどこかで変わってくるタイミングはあるかもしれないが、今のようにファンデーションモデル(GPTなどのこと)が早いタイミングで変わっていくような開発競争がある中において、ソフトウェアで何でもできるというGPUの自由度は、圧倒的なアドバンテージだ。
一方、Intelにも「Data Center GPU Max」シリーズ(開発コードネーム:Ponte Vecchio)があるのだが、その後継製品であるRialto Bridgeはキャンセルされ、さらにその後継となるFalcon Shoresも2025年に延期されている。そしてそのFalcon Shoresの後は何も説明がなく、位置づけとしては既に微妙になっている。
競合のAMDは「Instinct MI300X」シリーズを用意しており、着実にNVIDIA GPUの対抗という位置づけを確立しつつある。4つのCSPのうち、Microsoft AzureとOracle Cloud Infrastructure(OCI)の2社がMI300Xの導入を既に決めている。NVIDIAのGPUが足りない分は、AMDのMI300Xで補うという流れが確実だ。AMDはH200対抗の「Instinct MI325X」も既に発表しており、来年にはBlackwellに対抗できる「Instinct MI355X」を投入する計画だ。
つまり、AI向けGPUで独走するNVIDIAとそれを追撃するAMD、その2社を本格的に追いかける製品を、Intelが今後いかに短期間で導入できるのかが、次の焦点になってくるのではないだろうか。それが、新生Intelが株主から支持されるかの大きな鍵になるだろう。
インテルCEOが退社、再建で取締役の信頼失う-事実上の解任
米半導体メーカーのインテルは、パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)の12月1日付での退社を発表した。同氏が進めた再建計画に対して取締役会が信頼を失い、道半ばで事実上更迭された格好となった。
事情に詳しい複数の関係者によると、同氏と取締役会の衝突は先週、市場シェアの回復およびエヌビディアとの差を縮めるための計画の進捗について話し合われた際に頂点に達した。退社か解任かの選択肢を迫られたゲルシンガー氏は、インテルを去ることを選んだという。非公開の情報であることを理由に関係者は匿名で語った。
2日の同社発表によると、取締役会はゲルシンガー氏(63)の後任探しを開始。デービッド・ジンスナー最高財務責任者(CFO)とインテル・プロダクツのミシェル・ジョンストン・ホルトハウスCEOが暫定共同CEOに就任する。
かつて半導体業界の盟主だったインテルは苦境に陥っており、現在は再建計画に必要な資金の確保に取り組んでいる。同計画についてゲルシンガー氏は、企業史上「最も大胆な再建計画」と呼んでいた。半導体業界が人工知能(AI)分野にシフトする中、インテルは投資家の支持を失った。各社はAI用アクセラレーター・チップを中心に構築されたコンピューターに投資しているが、この分野でインテル製品の存在感は薄い。
インテル初の最高技術責任者(CTO)だったゲルシンガー氏は2009年に退社後、再建計画を率いるため2021年にCEOとして同社に復帰。台湾積体電路製造(TSMC)のようなライバル企業に奪われた技術的優位性を回復させることを目指した。
しかしゲルシンガー氏はさらに踏み込み、インテルを半導体の受託生産メーカーに変えようとした。またインテル再生戦略の一環として同氏は、コスト負担の大きい生産網拡大の計画も打ち出した。これにはオハイオ州に建設を予定する半導体製造拠点のプロジェクトも含まれる。
同氏は、エヌビディアのGPU(画像処理半導体)がデータセンター向け半導体の分野で圧倒的強さを示したことで意表を突かれた。インテルは独自のAIアクセラレーター「ガウディ」を持っているが、なおエヌビディアには後れを取っている。
インテルの暫定執行会長に就くフランク・イヤリー氏は発表文で「当社にはまだやるべきことが多くあると認識しており、投資家の信頼回復に向けて全力を尽くしている」と説明。「取締役会として、まず何よりも製品グループを全ての活動の中心に置かなければならないと承知している。顧客がこれを望んでおり、我々は顧客のためにそれを実行する」とした。
ゲルシンガー氏の退場により、より劇的な戦略転換につながる可能性がある。
ウルフ・リサーチのアナリスト、クリス・カソ氏は「今回の動きは、当社が以前から提唱してきた新たな戦略への扉を開くものだ」と指摘。「ゲルシンガー氏はインテルのプロセス・ロードマップを前進させることに概ね成功したが、AIでの弱さを踏まえれば、インテルが単独で最先端半導体製造を追求する規模を持っているとは思わない」と述べた。
インテル、ゲルシンガーCEOが退任 業績低迷受け
米インテルは2日、パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が1日付で退任したと発表した。業績低迷を受けて経営体制を刷新し、立て直しを急ぐ。最高財務責任者(CFO)のデビッド・ジンスナー氏と製品責任者であるミシェル・ジョンストン・ホルトハウス氏が暫定的な共同CEOに就いた。
取締役会は今後、新たなCEOを選任する。取締役会議長のフランク・イヤー氏が新CEO選任までの間、暫定的な執行委員長となる。
ゲルシンガー氏は21年からインテルを率いてきた。就任直後から開始した半導体の受託生産事業が苦戦し、顧客獲得が進まない中で市場シェアが縮小。人工知能(AI)市場の開拓も遅れたことで業績が低迷していた。
2024年7〜9月期決算は最終損益が166億3900万ドル(約2兆5000億円)と過去最大の赤字となった。新型コロナウイルス下の特需を見込んで過剰投資した半導体の製造設備の損失や従業員の15%削減を柱としたリストラ費用の計上が響いた。
退任したゲルシンガー氏は2日、「厳しい決定を下した挑戦的な年だった。世界中の同僚に永遠に感謝する」との声明を発表した。退任発表を受け、インテルの株価は2日の市場外取引で一時5%上昇した。
インテルは半導体の製造と設計をともに手掛ける米国唯一の企業だ。バイデン米政権は11月26日、同社が米国の複数の州で投資する半導体工場への補助金が最終決定したと発表していた。先行投資がかさみ、インテルの業績が低迷する中、立て直しに向けて早期に補助金を受ける重要性が高まっていた。
経営不振で他社からの買収や出資に関する観測も浮上していた。9月には米クアルコムがインテルに買収を打診したことが明らかになったほか、米投資会社アポロ・グローバル・マネジメントがインテルに最大50億ドルの出資を打診したと報じられた。
暫定CEOが示唆した「Intelの今後」
Intel ProductsのCEO(最高経営責任者)であり暫定共同CEOを兼任するMJ Holthaus氏は、2024年12月11日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された「Barclays Annual Global Technology Conference(以下、Barclays Conference)」において登壇し、前CEOのPat Gelsinger氏が同年12月1日に突然退任したことを受け、低迷するIntelの製品事業計画について、いくつかの手掛かりを提示した。
Holthaus氏は、Gelsinger氏の戦略との違いについて問われると、「戦略を全面的に変更するつもりはない。新たな焦点として、Intel製品の競争力強化に取り組んでいくだけだ」と述べている。
Intel Productsの恒久的CEOとして就任したHolthaus氏は、新たな戦略の一つとして、Intelのクラウド/エッジポートフォリオ全体でIP(Intellectual Property)を再利用することを追求していくという。
同氏は、「われわれには、当社の製品ポートフォリオ全体でIPポートフォリオを利用する方法について本格的に検討するという、大きなチャンスがある。これは顧客企業も実現を期待していることであり、われわれにとっては非常に大きなチャンスだ」と述べる。
また同氏は、「顧客側では、さまざまな企業がこの先3~5年にわたって有効なPCを開発しようとしていることから、2025年にはPC市場のAI(人工知能)需要がさらに増大すると予測している。しかし現在のところ、顧客はPCにおけるAIのユースケースがどのようなものなのかを正確には理解していない。ハードウェアを購入する理由の動機となるような利用モデルを見いだす必要があるため、ソフトウェアエコシステムへの投資が必要だ」と強調している。
Holthaus氏は、PC分野におけるArmとQualcommの潜在的脅威については否定している。
「私が、“PC分野のArmは実現しない”と発言することは決してないだろう。われわれは競争することでより強くなり、常に誰が次にやって来るのかを気に掛けてさえいれば、絶えずイノベーションを起こし、確実に盲点をなくすことができる。現在小売業者では、Arm製PCはソフトウェア互換性の問題のために返品率が高いという状況が生じている。Appleは、同社の“ウォールドガーデン”である独自OS『iOS』と、ArmベースのMシリーズCPUとの互換性を確保することにかなりの労力を費やした」(Holthaus氏)
さらに、「Intelは、性能/電力を重視するようになるまでにかなりの時間を費やしてしまったが、2024年の『Lunar Lake』の発表により大きな飛躍を遂げることができた。現在では、市場に出回っている大半のArmデバイスに比肩する、非常に優れた性能と電池寿命を実現している。顧客企業からは、『Intelはついに正しい分野に注力できるようになった』という声が上がっている」と続けた。
データセンター分野は「課題に直面」
Holthaus氏は、「データセンター分野に関しては、Intelは大きな課題に直面している」と述べる。
「われわれにとって2025年は、市場セグメントのシェア低下を安定させ、シェア回復に向けて適切な製品を構築することに全力を尽くす年になるだろう。そのためにはやるべきことがたくさんある」(Holthaus氏)
また同氏は、「データセンター事業は、クラウドサービスプロバイダーが独自のカスタムCPUやAIアクセラレーターの開発に取り組んでいることなどにより、大きな変化を遂げている。Intelは最近、x86アーキテクチャの利用を推進する『x86 Ecosystem Advisory Group(x86エコシステム・アドバイザリー・グループ)』を発表しており、こうした企業からのフィードバックを未来のアーキテクチャ機能に反映させることで、データセンターCPU市場により良いサービスを提供していきたい考えだ。Intelの『Xeon』ロードマップは快調だが、近年では競合メーカーであるAMDが、より優れたサービスを顧客企業に提供している」とも語った。
Intelにとって、データセンターAIの製品戦略においてやるべきことがまだ山積しているのは明らかだが、Holthaus氏は、「完全に振り出しに戻るのは無駄なことだ」と述べる。
「ゼロからのやり直しは、学ぶことが何もないということを意味する」(Holthaus氏)
同氏は、「Intelにとっては、データセンターAI製品をゼロから開発するのに2~3年を費やすよりも、少量生産の製品を手掛けることで、学びながら改良していくこと方が良い」と述べた。
「われわれは『Gaudi』をステップ1とみなし、特にソフトウェア/プラットフォームレベルで素晴らしい学びをいくつか得ている。しかしGaudiは、世界中のシステムに容易に展開できるようなGPUではないため、まだ大衆市場には到達できていない」(Holthaus氏)
Holthaus氏は、Intelの次世代ヘテロジニアスGPU「Falcon Shores」とGaudiの役割について率直な見解を示し、「それが素晴らしいものになるかというと、そうではない。しかし、プラットフォームを実現し、そこから学び、全てのソフトウェアがどのように機能し、エコシステムがどう反応するのかを理解する上で、幸先の良い第一歩だといえる。その後は、素早く繰り返し改良していくことができる」と述べた。
AIは推論にチャンス
Holthaus氏は、AI推論にチャンスがあるとみている。そこにはワークロードのトレーニングとは異なるハードウェアニーズが存在するとみられる。
「どこでどのように競争力を獲得することができるのか、市場のどの分野で最初の足掛かりを得ることができるか、そしてそこからどのように成長していくか、といった点に焦点を絞っていく。率直に言うと、われわれは実用主義(プラグマティズム)を採用する。けん引力のないものに何億米ドルも何十億米ドルも資金を投じるつもりはない。素早く失敗して学び、改良を繰り返していく必要がある」(Holthaus氏)
同氏は、「Intelは全体的に、製品投資が不十分で、迅速には動いてこなかった」と述べ、短期的には製品面でさまざまな困難に直面しているということを認めている。
取締役会の新メンバーを任命
Intelの取締役会は、Gelsinger氏の辞任と、メンバー自身の半導体業界での経験不足に対する広範な批判に直面し、2人の新メンバーを任命した。ファウンドリー分野から、2004年から2013年までASMLのプレジデント兼CEOを務めたEric Meurice氏を、さらに、製品分野からSteve Sanghi氏を任命した。Sanghi氏は1991年から2021年までMicrochip TechnologyのCEOを務め、1カ月前に暫定的に復帰した。同氏は、キャリアの初期にIntelで10年過ごしている。
2006年に出版されたSanghi氏の経営書『Driving Excellence』には、1990年当時「大損失を出し、技術が時代遅れで、工場が非効率で、従業員の士気が低かった」Microchip Technologyで、同氏が実施した戦略が詳述されている。恐らく、今日のIntelと似たような状況だっただろう。
誰もが、「Intelの製品事業をファウンドリーから分離するという取締役会の主張がGelsinger氏の任期の終わりを告げたのか」という疑問を口にしているが、提案された分離に関して新取締役会メンバーがどのような立場を取っているかは不明だ。
Holthaus氏と同氏の共同CEOでIntelのCFO(最高財務責任者)を務めるDavid Zinsner氏はBarclays Conferenceで、「Intelの製品事業は既に相互に独立して運営されている」とを述べている。
Holthaus氏は、「市場での両事業の長期的な差別化要因となるのは、当社が最初にアクセスできる優れたプロセス技術を搭載する優れた製品だ。現実的に考えて、両事業を完全に分離して、結び付きを断つことは理にかなっているだろうか。私には分からないが、誰かがそれを決めることになるだろう」と述べている。
Zinsner氏は、IntelがIntel Foundryの子会社を設立し、同社には別の運営委員会があることに触れ、「完全に分離するかどうかに関しては、また別の機会に検討すべき問題だと考えている」と語った。「それまでは、さらに人員削減することはない。大規模な人員削減はほぼ完了した。しかし、どこに資金を投じているかを常に精査し、適切なリターンを確実に得られるようにしていく」(同氏)
Zinsner氏は、「Intelの運営方法には、多くの複雑さを引き起こした部分もある。事業や注力分野を簡素化する方法はあると考えている。2024年12月9日の取締役会では、確かに、事業の集中を求める意見が多かった」と付け加えた。