ポルシェは高性能スポーツカーの象徴であり、そのブレーキ性能は世界的に評価されています。特にそのブレーキ性能は顕著であり、一体なぜポルシェのブレーキは他のメーカーよりも優れているのでしょうか?この動画では、良いブレーキとは何なのか、ディスクブレーキの仕組みや性能、ポルシェのブレーキ技術の秘密に迫り、その驚異的な性能の背後にあるエンジニアリングや設計の奥深さについてみていきます。ブレーキの設計、材料、冷却技術など、ポルシェのブレーキ性能を支える要因を解説します。
ランキング中、全体の87%にあたる13車種がブレンボ製ブレーキ搭載車
2021/10/01
世界中で大人気の公道仕様車は、価格や最高速度、0 - 100km/h (62.1mph)加速など、ほとんどの情報が公開されています。その一方で、あまり知られていないのが制動距離。違いが交通安全や軌道性能にはっきりと出る重要な要素です。
カーマニアにとって世界的なバイブルのひとつである、ドイツの有名な自動車雑誌『auto motor und sport』では、技術者らが試乗を行っており、その際、ありがたいことに制動距離も必ず計測しています。そのデータを利用して「時速100キロ(時速62.1マイル)からどれだけの制動距離で完全停車できるか?」を示すランキングが作成できます。
試乗テストは日を変えて複数回行われました。各車両2名が乗車し、急ブレーキを9回行ってブレーキを過熱させた後、10回目を計測の対象としました。仕上がりとしては、完全停車まで31.7メートル(104フィート)未満が15車種も名を連ねたランキングができました。
ブレーキ性能を左右するのはキャリパーやブレーキディスク、マスターシリンダーだけではありません。搭載するブレーキシステムが全く同じ場合は、車重や空力性能、もちろんタイヤも結果に加味されます。
ランキング中、全体の87%にあたる13車種がブレンボ製ブレーキ搭載車
他にもお伝えしておきたいことがあります。auto motor und sport誌のランキングは50車種ですが、その中には類似の車種があるということ。例えば、ポルシェ911は5車種もあり、フェラーリ488は6位までに2車種が入っています。本コラムのランキングでは、繰り返しを避けるため同じ車種はひとまとめにし、分析の対象を15車種までとしました。
もうひとつ付け加えるならば、ランキングでタイ、つまり制動距離が同じだった場合は、重量の重い方を上位と判断しています。なぜなら、100km/h (62mph) - 0の制動距離が複数の車種で同じだった場合は、重い車種の方がブレーキシステムにかかるストレスが大きいと想定できるからです。
前置きがすっかり長くなりました。さっそくトップ15の顔ぶれをご紹介しましょう。
15位:パガーニ・ゾンダF
100km/h (62.1mph) – 0に31.6メートル(103.7フィート)
オラチオ・パガーニと、F1世界チャンピオンの座を5回獲得したファン・マヌエル・ファンジオの哲学を反映して誕生したゾンダF。軽量と性能、匠の技とテクノロジーが融合しています。メルセデスAMG製の7.2リッター12気筒エンジンが繰り出す602馬力で最高時速345キロ(時速214マイル)を達成。ボディーとルーフにカーボンファイバーを使用して装備重量を1,230kg(2,711.7ポンド)に抑えています。
ゾンダとは、アルゼンチンの大草原パンパに吹く乾いた高温の風。その名とは逆に、ブレーキの空冷は常に良好。これを可能にしているのが380ミリ(15インチ)径のカーボンセラミックブレーキディスク、そしてフロントの6ピストンワンピースキャリパーとリアの4ピストンキャリパーで、すべてがブレンボ製です。性能も抜群に高く、ゾンダFの200kmh (124.3mph) - 0にわずか4.4秒しか要しません。
14位:レクサスLFA
100km/h (62.1mph) – 0に31.6メートル(103.7フィート)
2010年の生産開始時、限定数の500台がわずか数週間で完売したLFA。ボディーの大半にカーボンファイバー強化プラスチックを採用して排気量は4.8リッターながら560馬力を実現するV10エンジンなど、画期的な特徴が今も印象に残る名車です。
レクサスが求めたのはエンジンに見合う高効率の制動力でした。そのため、ブレンボの390ミリ(15.3インチ)径ブレーキディスクをフロントに、360ミリ(14インチ)径をリアに配する高性能カーボンセラミックブレーキシステムを選択しました。それぞれに6ピストンと4ピストンのワンピースキャリパーを組み合わせて、より軽量で摩耗に強く、性能が長続きするシステムに仕上がっています。デイトナ24時間レースを5度制覇したスコット・プルエットがテストドライバーに同乗する形で初めて走りを体験した際には「ブレーキを踏むのがあまりに遅くて、コースアウトするかと思った。」と驚いたそうです。
13位:アウディTT RS
100km/h (62.1mph) – 0 に31.5メートル(103.3フィート)
2019年のジュネーブモーターショーで初公開されたTT RSは、前モデルとは全く異なるデザインが特徴。2.5リッター直列5気筒ガソリンエンジンで400馬力と最大トルク480Nmを出力します。装備重量は1,550kg(1.71ショートトン)、0 - 100km/h (62mph)加速は3.7秒です。
十分な制動力を確保するためにアウディが採用したのは、鋳鉄製ブレーキディスクでした。フロントに370ミリ(14.6インチ)径、リアに210ミリ(8.27インチ)径を使用し、キャリパーはアルミニウム製のワンピースタイプの6ピストンと4ピストンをそれぞれに組み合わせています。また、TT RSでは、重量を100kg(220.5ポンド)減らしたことで、前回のランキングでアウディの中で最高位だったRS4よりも制動距離が1メートル(3.29フィート)短くなりました
12位:ポルシェ918スパイダー
100km/h (62.1mph) – 0に31.4メートル(103フィート)
918スパイダーは発売前に、ニュルブルクリンクのうち開設の古いノルトシュライフェ(北コース)で、ラップ長20.6km(12.8マイル)を6分57秒で周回し、公道仕様車で初めて7分を切りました。V8エンジンに加えて電動モーター2基を搭載した合計887馬力のハイパワーがなせる偉業です。
これほどの高出力では、制御の維持の要求に対して一切の妥協はできません。ラボと公道で何度もテストした結果、ポルシェが選択したのは、フロントに410ミリ(16.1インチ)径カーボンセラミックブレーキディスクと6ピストン固定キャリパー、リアに390ミリ(15.4インチ)径カーボンセラミックブレーキディスクと4ピストン固定キャリパーでした。モノブロックキャリパーとカーボンファイバーディスク、圧勝の組み合わせです。
11位:KTM X-BOW GT
100km/h (62.1mph) – 0に31.3メートル(102.7フィート)
X-Bowは世界で初めてモノコック構造にカーボンファイバーフレームを採用し、空重量で847kg(1,867.3ポンド)という驚くべき軽さを実現しました。これほど軽量なうえに重心が39センチ(15.4インチ)と低いため、高性能の発揮に膨大なパワーを要しません。2リッターエンジンで420Nmトルクを発生します。
サーキットであろうと、カーブ続きの山道であろうと走りの快適さを損なわないためには、ブレーキシステムのレスポンスが肝心です。選ばれたのはブレンボの固定キャリパー。フロントに4ピストン、リアに2ピストンを使用し、ディスクはベンチレーテッドタイプの305ミリ(12インチ)径と262ミリ(10.3インチ)径をそれぞれに組み合わせています。ペダルのレスポンスを高め、温度管理にも配慮した構成です。
10位:フェラーリF12ベルリネッタ
100km/h (62.1mph) – 0に31.3メートル(102.7フィート)
6.2リッター65度V12直噴エンジンを搭載するF12ベルリネッタは、最多12気筒エンジン車の最高峰。フェラーリが手がけるF1マシンと同様に、エンジン(位置は599 GTBフィオラノより3センチ(1.2インチ)下)は慣性力が極めて小さく、抜群の加速を誇ります。
フェラーリのクルマ造りはブレンボのブレーキ抜きでは語れません。両者の固い結びつきは、1975年、チームフェラーリにスチール製ブレーキディスクを供給したことが始まりでした。今回は、ブレーキディスクの素材はカーボンセラミックで、フロントが398ミリ(15.7インチ)径、リアが360ミリ(14.2インチ)径です。キャリパーもブレンボ製の6ピストンをフロントに、4ピストンをリアに使用して、高性能の安定的な発揮に最適な構成にしました。パフォーマンス、快適性、デザインの三拍子揃ったシステムです。
9位:ロータス・エキシージカップ380
100km/h (62.1mph) – 0に31メートル(101.7フィート)
世界のどこにも類を見ないほどのパワーウェイトレシオを達成した、夢のような名車。ただ、我々の観点からは唯一、ブレーキがブレンボ製でないことが残念。ロータスといえば、アイルトン・セナが1985年、エストリル(ポルトガル)でF1初優勝を飾りましたが、そのマシンはブレンボ製のブレーキキャリパーを搭載していました。
8位:シボレー・コルベットC6 Z06
100km/h (62.1mph) - 0に31メートル(101.7フィート)
コルベットC6 Z06は、発売から数年経ってもなおアメリカのカーマニアの間で高い人気を保っています。魅力のひとつが中古の品質価格比の良さ。その功績は、シリンダータイミング別にバルブ2本を備えた7リッターアルミニウム製V8エンジンにあります。パワーがいかに圧倒的かは、ファーストギアのまま100km/h (62mph)超のスピードを出せるという事実に表れています。
この車は制動力でも他にひけをとりません。フロントにブレンボのワンピースキャリパー(6色展開)を選択。径の異なるピストン6本が、394ミリ(15.5インチ)径カーボンセラミックブレーキディスクにパッドの力を最適な配分で加えます。一方リアは、ディスクが380ミリ(15インチ)径で、キャリパーは4ピストンです。軽量性と抜群の性能を両立させたシステム構成です。
7位:シボレー・コルベットC7 Z06
100km/h (62.1mph) – 0に31メートル(101.7フィート)
C7 Z06では(C7グランスポーツも同様)、エンジンを第6世代よりもわずかに小さくしました。アルミニウム製のヘッドとイートン社製1.7リッターコンプレッサーを搭載した6.2リッタースーパーチャージャーV8エンジンです。650馬力、最大トルク881Nmを発生します。タイヤは前モデルより幅広にして、カーブでのグリップと直進時の安定性を高めています。
ブレンボ製ブレーキシステムも、車両のパフォーマンス向上をめざして設計されました。径が異なる対向ピストンを持つアルミニウム製ワンピースキャリパーの6ピストンをフロントに、4ピストンをリアに配し、サーキット以外でもスピーディーでレスポンスの良い制動力を発揮できるようにしています。Z06とグランスポーツはともに、フロントに394ミリ(15.5インチ)径、リアに388ミリ(15.3インチ)径のカーボンセラミックブレーキディスクを使用したことで、タイヤ1本あたり4.5kg(9.9ポンド)の重量を削減しました。
6位:メルセデスAMG GTR PRO
100km/h (62.1mph) – 0に30.7メートル(100.7フィート)
AMGのDNAを完璧に体現した、限定生産のAMG GTRプロ。モータースポーツテイストの走りを乗り手に実感させてくれます。心臓部は585馬力・最大トルク700Nmをたたき出す4リッターAMGツインターボV8エンジン。重心の低さとアジャスタブルサスペンションが、抜群のハンドリングとコーナリングスピードをもたらします。
ブレーキに関してもレーシングカーに最適な仕様です。ブレーキディスクは熱変形に強いカーボンセラミック素材。サイズはフロントが402ミリ(15.8インチ)径、リアが380ミリ(15インチ)です。組み合わせたキャリパーはフロントが6ピストン、リアが4ピストン。どちらも軽量性と性能の面で明らかに優れるワンピース構造の固定式です。
5位:マクラーレン720S
100km/h (62.1mph) – 0 に30.6メートル(100.4フィート)
軽量性とスピードを誇る720Sは、650Sから進化を再開し、なめらかな波状のフォルムと720馬力4.0リッターV8エンジンを獲得しました。ただ、我々が唯一不満に感じるのは、この車に対してはブレンボ製ブレーキで関わって素晴らしさを賞賛したかったという点です。制動距離をさらに数インチ間違いなく減らせたはずなので残念です。
4位:ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJ
100km/h (62.1mph) – 0に29.9メートル(98.1フィート)
ボディーにカーボンファイバーなどの超軽量素材を採用したアヴェンタドールSVJを生み出すことができたのは、難題対処の手腕にたけたランボルギーニだからこそ。6.5リッター自然吸気V12エンジンを搭載し、770馬力を発生します。空重量は1,525kg(1.68ショートトン)で、その57%がリアに配分されているため、パワーウェイトレシオはメートル馬力あたり1.98kg(4.4ポンド)です。
エンジンのエネルギーと熱を抑えるためランボルギーニが選択したのは、フロント6ピストン、リア4ピストンの固定式ワンピースキャリパーです。どちらも、フロントの400ミリ(15.8インチ)径38ミリ(1.5インチ)厚カーボンセラミックブレーキディスクにも、リアの380ミリ(15インチ)径38ミリ(1.5インチ)厚ディスクにも、そして車体デザインにも、完璧にマッチするようコラボラティブにデザインされています。
3位:フェラーリ488ピスタ
100km/h (62.1mph) – 0に29.6メートル(97.1フィート)
488チャレンジと488 GTEの世界中のサーキットで重ねたすべての経験が注ぎ込まれた488ピスタ。明確な特徴のひとつがフェラーリ史上最もパワフルなV8エンジンです。488 GTBのエンジンを50馬力上回りながら空重量を90kg(198ポンド)削減。その結果、458スペチアーレを115馬力上回る720馬力を達成しました。そのパワフルさをバンパーからドルフィンテールのリアスポイラーに至る画期的なフォルムが強調しています。
レース界から反映したテクノロジーは極めてレベルが高く、それを示すのがバネ下重量の削減に貢献するブレンボのブレーキシステムです。 キャリパー(フロント6ピストン、リア4ピストン)は、サーキットなど過酷な使用状況でも高い空冷性を発揮するワンピース構造を採用しています。 リアキャリパーは電動パーキングブレーキを内蔵しているのが特徴です。従来の機械的ノウハウと新しい電子機能とを組み合わせてブレンボが開発したソリューションです。
ブレーキディスクはカーボンセラミック素材。フロントに398ミリ(15.7インチ)径36ミリ(1.4インチ)厚、リアに360ミリ(14.17インチ)径32ミリ(1.26インチ)厚を配しました。重量の最大限の削減にも、また繰り返し使用した後でも制動力が低下しないハンドリングにも、システムが全体で貢献しています。
2位:マクラーレン・セナ
100km/h (62.1mph) – 0 に28.5メートル(93.5フィート)
世界中の大勢のファンに今もなお悼まれるレジェンド、アイルトン・セナ。この素晴らしいチャンピオンへの思いをマクラーレンがかつてない形で捧げたのが、セナという驚愕のスーパーカーです。きっと彼は気に入ったはず。公道仕様ではあるものの、サーキットで抜群の性能を発揮するスペックだからです。空力荷重800kg(0.88ショートトン)、空重量1,198kg(1.3ショートトン)、800馬力、最大トルク800Nmを実現し、0 - 200km/h(124.3mph)に6.8秒という圧倒的な加速を可能にしています。
セナは、4ピストンキャリパーからアルミニウム合金キャリパーまで新しいブレーキシステムを自分でじかに試すのが好きでした。そのセナのために、マクラーレンは自社の公道車用で最も高性能のブレーキシステムを選択しました。最新世代のCCM-Rカーボンセラミックブレーキディスク(カーボンセラミックはレースに特化して開発した素材)は、放熱性が従来のカーボンセラミック製ディスクよりも格段に向上しています。従来品では2か月で製造できるところ8か月も要する貴重で精巧なブレーキディスクが誕生しました。
1位:ポルシェ911 GT3 RS
100km/h (62.1mph) – 0に28.2メートル(92.52フィート)
2018ジュネーブモーターショーで初公開された911 GT RS。911 GT3をベースにしています。搭載した4リッターエンジンは20馬力増強して520馬力に。最大回転数も9,000rpmまで上がっています。日常走行にも対応するこのレーシングカーには、エンジンの他にもPDKデュアルクラッチトランスミッションや、巨大なリアスポイラー、全サスペンションアームに採用したベアリングボールジョイントなどの優れた特徴が備わっています。
911ではGT2 RSが、auto motor und sport誌のテストで公道仕様車では初めて100km/h (62.1mph) – 0の制動距離30メートル(98.4フィート)を下回りました。記録は29.3メートル(96.1フィート)。GTS RSでは1メートル(3.3フィート)の短縮に成功したわけですが、これにはスポーツタイヤに超軽量合金のホイールを使用したことが効いています。ただ、重要な要素がもうひとつ。最高のブレーキテクノロジーです。カーボンセラミックブレーキディスクの410ミリ(16.1インチ)径をフロントに、390ミリ(15.3インチ)径をリアに配し、それぞれにワンピースキャリパーの6ピストンと4ピストンを組み合わせています。これらのワンピースキャリパーはアルミニウム製の固定式で、ブレーキペダルの感触が保たれるため、過酷なストレス下でも極めて高い制動力の発揮に貢献します。
ポルシェのブレーキは宇宙一?
「ポルシェのブレーキは宇宙一」という言葉を聞いたことがありますか?これは、自動車評論家の清水和夫さんの言葉です。
私自身、自動車に関する知識はまだまだ浅く、ブレーキの基本的な仕組みや、それがどのように車の安全性とパフォーマンスに影響しているのかについて、つい最近までほとんど理解していませんでした。恥ずかしい話ですが、タイヤの間に見える部品が、実はブレーキに関する重要な部品であることすら知りませんでした。
今回、ポルシェのブレーキがどういうものなのか、また、ポルシェのブレーキが宇宙位置と称される理由について調べてみました。
ポルシェのブレーキはブレンボとの共同開発で生み出されている
ブレンボは、高性能ブレーキシステムで知られるイタリアの企業です。
1961年に創業されて以来、ブレンボはブレーキディスクを中心に、先進的なブレーキシステムの設計・製造において、業界の先駆者としての地位を確立しました。その卓越した品質と性能は、F1をはじめとするモータースポーツ界で高く評価されており、最高峰のレースにおける安全性とパフォーマンス向上に大きく貢献しています。
ブレンボの製品は、ポルシェ、フェラーリ、AMGなどの世界を代表する高性能車ブランドにも採用されており、これらの車両の卓越した走行性能の一翼を担っています。
ブレンボとポルシェとの間には、長年にわたる密接な協力関係があり、共同開発を通じて、ポルシェのための特別なブレーキシステムが生み出されています。この共同開発のプロセスでは、ブレンボの革新的な技術とポルシェの厳格な性能要求が融合し、各モデルの性能と運転環境に最適化されたブレーキシステムが誕生しています。
ポルシェが求めるブレーキ性能
エンジン出力の4倍の制動力
エンジン出力と制動力の関係は、光と影のように密接なものです。これは、圧倒的な加速力を誇るエンジンの出力と、それを安全に制御し停止させるための制動力とが、互いに補い合う不可欠な関係にあることを示しています。
特にポルシェは、そのブレーキシステムに対して、エンジン出力の4倍という驚異的な制動力を求めています。
例えば、991型GT3は510PSを発揮しますが、ポルシェはこのパワーを安全に管理するために、2000PSを超える制動力が必要だと考えています。
ブレーキシステムの設計にあたっては、車両の重量、軸荷重の配分、加速性能、最高速度など、多数のパラメーターが考慮されます。これらのパラメーターに基づいて、ブレーキシステムは車両ごとに最適化され、冷却効率やタイヤのサイズといった要素も細かく検討されます。このプロセスを通じて、ポルシェは最高のパフォーマンスを発揮しながらも、安全性を最大限に保つブレーキシステムを開発しています。
さらに、ポルシェは制動力だけでなく、静粛性や快適性にも細心の注意を払っています。ブレーキをかけるたびに大きな音がするようでは、日常の運転や一般道での快適なドライビングは実現できません。そのため、ポルシェのブレーキシステムは、強力な制動力を発揮しつつも、静かで快適な使用感を提供するよう設計されているのです。
厳しい基準をクリアするための数々のテストを実施
ポルシェのブレーキシステム開発は、極限の条件下での性能を確かめるために数々の厳しいテストに挑むことから始まります。
特に、超高速テストコースで行われるテストは、その中でも最も過酷な試験の一つとされています。このテストでは、車両を時速90kmから230kmまで加速させた後、急激にブレーキをかけて完全に停止させるというプロセスを15回繰り返します。この一連の動作を通じて、ブレーキディスクの温度は最高750℃に達することがあります。
この高温に達した後、ブレーキディスクを150℃まで冷却させることで、冷却効率をテストします。冷却後、再び急ブレーキを5回実施し、制動力が初期のテストと比較して落ちていないかを確認します。このテストを通じて、ブレーキシステムの耐久性、性能の持続性、および冷却効率が評価されます。
ポルシェが設定するこのような厳しい基準は、ただ単にブレーキシステムが高い性能を持っていることを確認するだけでなく、最も過酷な使用条件下でもドライバーの安全を確保し、信頼性を保つために設けられています。ポルシェは、これらのテストをクリアしたブレーキシステムだけが、同社の車両に搭載される資格を有すると考えています。この徹底した品質管理と開発過程が、ポルシェのブレーキシステムを「宇宙一」と称されるほどのレベルにまで引き上げているのです。
ポルシェのブレーキシステムは、最高の安全性とパフォーマンスを提供するために、このような厳しいテストを経て生まれるのです。
ベストブレーキングカーで堂々1位に輝くポルシェ
ドイツの自動車専門誌『アウト・モトーア・ウント・シュポルト』が、「時速100キロから完全停車までの制動距離が世界で一番短い車はどれか」をテーマに、ランキングで発表しました。
このテストは、数日間にわたって実施されます。
成人2人が乗った状態で、急停車を9回行ってブレーキを温めた後、10回目を計測の対象とします。
2016年度のランキング
ポルシェ 911 GT3(991):30.7m
シボレー コルベットZ06(C6):31.0m
フェラーリ F12ベルリネッタ / KTMクロスボウ GT:31.3m
2018年度のランキング
※ 同じ車種はひとまとめにして、ブレーキ性能が最も高かったモデルをランキング
ポルシェ 911 GT2RS(991):29.3m
フェラーリ 488 GTB:30.2m
シボレー・コルベットGrand Sport(C7)/ Z06(C7):31.0m
ちなみにポルシェは、8位 スパイダー(918)31.4m、17位 911 Sport Classic(997)32.1m、31位 ケイマンS(981)32.6m、33位 ボクスターS(718)が32.7mでランクインしています。(モデル違いは省略)
2021年度のランキング
※ 同じ車種はひとまとめにして、ブレーキ性能が最も高かったモデルでランキング
ポルシェ 911 GT3RS(991):28.2m
マクラーレン セナ:28.5m
フェラーリ 488 ピスタ:29.6m
ちなみにポルシェは、12位にスパイダー(918)が31.4mでランクイン(上位15位まで)しています。
参考
ブレンボ公式「100km/h から0 km/hへ。最も優れたブレーキングを実現するマシン50台」2021年12月24日
ブレンボ公式「2018ブレーキパフォーマンス世界ランキングベスト35」2021年12月24日
ブレンボ公式「2021:ブレンボが選んだ制動力トップ15車種」2021年12月24日
ポルシェのブレーキの見分け方
ポルシェのブレーキキャリパーには、グレードによって色分けされています。
ブラック:モータースポーツからの技術移転によって高負荷時にも不変の制動効果を発揮。ブレーキキャリパーはアルマイト製。密封式モノブロックデザインにより、高い剛性、優れた応答性、軽量、タイトなペダルストロークを実現している。
シルバー・レッド:ブラックの強化型モデル
イエロー:ポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB):大きな制動力を発揮。高速走行からのブレーキング時の極めて短い制動距離と最高の安全性によって、過酷な走行条件における優れた制御が可能になる。灰鋳鉄ディスクより50%軽い。グリップ、乗り心地、および俊敏性が向上する。
ホワイト:ポルシェ サーフェス コーテッド ブレーキ(PSCB):新型カイエンSに標準装備。スチール製のブレーキディスクとセラミックコーティングを組み合わせたもの。制動力はPCCBに迫るレベルで、寿命も鋳鉄ブレーキに比べて約30%向上。ディスクの耐腐食性が向上し、錆びや変色に強い。従来の灰鋳鉄ディスクに比べて9 割前後の大幅なダストを減少。
アシッドグリーン:カイエン、パナメーラのハイブリッド車用のキャリパー。PCCBも同色のアシッドグリーン。
※ PCCBのイエローは、形状と機能はそのままで、ハイグロスブラックで塗装するというオプションもあります。
参考
ポルシェジャパン「ブレーキ・ストラテジー」2021年12月24日
ポルシェジャパン「ポルシェ純正ブレーキ」2021年12月24日
ポルシェジャパン「ダイヤモンドの硬さを求めて」2021年12月24日
ポルシェジャパン「Porsche Cayenne E-Hybrid」2021年12月24日
おわりに
ポルシェは、圧倒的なスピードとパフォーマンスで知られていますが、それと同様にブレーキシステムの開発にも力を注いでいます。高速域で走行することの多いポルシェの車にとって、信頼性できるブレーキは不可欠です。
この記事を通して、ポルシェのブレーキシステムがどれほど特別であるか、なぜ「宇宙一」と称されるに至ったのかについて、知っていただけたでしょうか?
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。