脱・税理士 亀田製菓がなぜ炎上しているのか?不買運動が活発化してしまった理由を解説します。

「日本に移民を」亀田製菓CEOの発言が炎上して株価は下落…不買運動に加担する“ピュアな人”に背筋が凍るワケ

「雑な情報操作」に引っかかる

ピュア日本人が恐ろしい

 年の瀬に背筋が冷たくなるような騒動が起きた。

 亀田製菓の会長CEOを務めている、インド出身のジュネジャ・レカ・ラジュ氏が、メディアのインタビューで「日本はさらなる移民受け入れを」と発言をしたとして炎上した。さらに、同社の米菓製品の一部が「中国産」ということも燃料となって、目も当てられない大炎上になってしまった件だ。

 その被害は凄まじく、インタビュー翌日、亀田製菓の株価は大きく下落し、ネットやSNSでは「亀田製菓不買」を呼びかけている人もいる。

「日本のソウルフードである米菓の大手メーカーが外国人経営者になっていたことも驚きだが、平然と日本社会を破壊するようなことを主張しているのが本当に恐ろしい。移民を受け入れた国が悲惨なことになっている世界の常識を知らないのか!」

 そんな調子でハッピーターンやソフトサラダのボイコットをされている方たちには大変申し上げづらいのだが、筆者が背筋の冷たくなっているポイントはそこではない。

 純粋で心優しい日本人たちがこんな「雑な情報操作」にいとも簡単に操られ、激しい敵意をムキ出しにしているという事実が恐ろしいのだ。

 このスキームが悪用されれば、特定の国や民族、主義主張の人たちへの憎悪を煽って「排斥運動」を仕掛けることや、最悪の場合、過激化した人を実際に「テロ行為」に走らせることも可能となってしまうからだ。

「はいはい、そうやってオールドメディアの連中はすぐにヘイトだ差別だと理屈をつけて、ネットやSNSが暴いた真実をデマとか陰謀論とかで片付けるんだよね」と冷笑する方も多いだろう。しかし、今回のケースは、そんなみなさんが毛嫌いしているオールドメディアの典型な「スピンコントロール」にまんまと乗せられた形だ。

 愛国心溢れるみなさんの怒りに火をつけたのは12月16日に配信された『インド出身の亀田製菓会長「日本はさらなる移民受け入れを」』(AFP通信)という記事だ。しかし、この中でも、記事と同時に配信されたインタビュー動画の中でも、ラジュ会長CEOは「日本はさらなる移民受け入れを」なんてことは一言も言っていない。動画内の発言を引用しよう。

「亀田製菓、ざまあ」まだ不買運動を続けている人が“日本の敵”になってしまうワケ

CEOが大炎上した亀田製菓

ネット民を怒らせた“新たな火種”

 昨年からネットやSNSで続く亀田製菓の不買運動が、ここにきて再び盛り上がりをみせている。

 そもそものきっかけは、24年12月16日に配信された『インド出身の亀田製菓会長「日本はさらなる移民受け入れを」』(AFP通信)という記事だ。

 これに愛国心溢れる人々がカチンときたところへ、亀田製菓の「梅の香巻」に中国産のもち米が使われているという情報も拡散された。ネットやSNSでは「汚染チャイナ米を撒き散らす売国企業」などとボロカスに叩かれ、「不買」が呼びかけられたという流れだ。

 ただ、本連載の《「日本に移民を」亀田製菓CEOの発言が炎上して株価は下落…不買運動に加担する“ピュアな人”に背筋が凍るワケ》で詳しく解説したように、このバッシングは話がかなり盛られている。

 まず、ジュネジャ・レカ・ラジュ会長CEOは記事タイトルのような発言をしていない。外国人材を活用していくべきという発言をしただけだ。日本人の感覚ではこれは「移民」と異なる意味だが、移民問題に関心が高い欧州を拠点とするAFP通信からすれば同じことなので、「意訳」をしてしまったのである。

 また、中国産原料を用いているのは「梅の香巻」だけで、「柿の種」や「ハッピーターン」などそれ以外は他メーカーと同じく国産や米国産の原料が用いられている。亀田製菓は世界で日本の米菓を売る「グローバル企業」で2003年からは中国にも拠点がある。現地の原料を用いて現地で製造する菓子がひとつくらい日本に入ってきてもおかしくはないのだ。

 このような冷静な指摘をする人たちも徐々にあらわれたことで、「移民推進CEOは引責辞任せよ!」「日本人を敵にすると怖いことを思いしれ!」などというヒステリックな声もおさまりつつあった……はずなのだが、なんとも間が悪いことに、ここにきて再び亀田製菓が炎上をしてしまう。

 ベビーせんべい「ハイハイン」から重金属「カドミウム」が検出されたという情報がかけ巡ったからだ。

 1月14日、台湾の衛生福利部食品薬物管理署(FDA)が、亀田製菓が製造し台湾に輸出された「ハイハイン」から、基準値を超えるカドミウムが検出されたと発表した。

 ご存じの方も多いだろうが、カドミウムは高度経済成長期の公害病「イタイイタイ病」の原因となった有害物質で、中国の水質汚染でもたびたびその名が取り上げられている。

 ちょっと前に「中国産」で叩かれた亀田製菓の乳幼児向けの米菓から、中国の汚染を象徴するカドミウムが検出された――。そう聞いて「ネット民」の皆さんが黙っているわけがない。ネット掲示板には《亀田製菓、中国で製造したベビーせんべい「ハイハイン」からカドミウム検出www》というスレッドが立ち、鬼の首をとったかのように、こんな声で溢れている。

「見ろ、やっぱり中国産は危ないって事が証明されたぞ」

「チャイナの汚染米使ってるような企業だから当然だ」

「恐ろしい、何も知らずにハイハインを子どもにあげていました。台湾が亀田製菓の闇を暴いてくれて助かった」

亀田製菓批判は

バイアスだらけ

 ただ、そんな風に盛り上がっているところに水を差すようで大変恐縮なのだが、この問題も亀田製菓だからということで、かなり大袈裟に話が盛られている。

 まず、大前提として「ハイハイン」の原料は国産米100%で、新潟県の工場でつくられている。これが「汚染菓子」だというのなら、日本の米が汚染されていることになってしまう。

 次にハイハインが「危ない」というのもミスリードだ。日本国内でこの菓子を乳幼児に与えて健康被害が起きたという話も聞かなければ、イタイイタイ病などの公害病が起きていないことからもわかるように、ハイハインのカドミウムは大騒ぎするような値ではない。

 では、なぜそれが今回引っかかったのかというと、台湾のカドミウムの基準が厳しいからだ。世界中から輸入される食品が引っかかっていて、日本の水産物も例外ではない。

 日本から輸入の冷凍キビナゴ、水際検査で不合格 基準値超えるカドミウム検出/台湾(フォーカス台湾 中央社 日本語版 24年9月4日)

 魚から検出されていることからもわかるように、カドミウムはもともと鉱物中や土壌中にあるもので、自然界に広く存在しているものなのだ。

 こんな調子で規制の厳しい台湾の中でも特にハードルが高いのが乳幼児向けの食品で、「0.040ppm以下」が基準となっている。しかし、「ハイハイン」の場合、「0.046ppm」とあと少し届かなかった。

 そう言うと、「リスクを矮小化するな! わずか0.006ppmとはいえ危ないものは危ないだろ!そういうところに手を抜くからダメなんだ!」と怒りでどうにかなってしまう人もいるだろう。ごもっともではあるが、そこまでリスク、リスクと騒ぐ人は、米を食べるのをやめた方がいい。

 厚生労働省の「米中に含まれるカドミウム」に関する情報ページにはこのようにある。

「お米などの作物に含まれるカドミウムは、作物を栽培している間に、水田などの土壌に含まれているカドミウムが吸収され蓄積されたものです」

 では、そのように当たり前のようにカドミウムが蓄積する米の安全基準はどうなっているのかというと、「0.4 ppm(mg/kg)以下」。ハイハインの10倍弱である。ハイハインのカドミウムに目くじらを立てるのなら、こんなユルユルの安全基準の米も問題視しなければ辻褄が合わない。

 このように現在行われている亀田製菓への批判はかなり強いバイアスがかかっている。他の企業ならば「ふーん」で済まされるようなミスでも、亀田製菓というだけで「大罪」に格上げされてしまうのだ。

 なぜそんな目の敵にされているかというと、「中国産を使っていた」という動かし難い事実があるからだ。さらに言えば、同社は過去に「辛ラーメン」で知られる韓国の食品メーカー「農心」と業務提携をして炎上をしたこともある。

 つまり、愛国心溢れる方たちからかねてより「反日企業」としてマークされていたのだ。

「じゃあ、しょうがないか」と思う人もいるだろうが、このように「愛国心」がつき動かすバッシングは危険な面もある。ナショナリズムにとらわれた人は、他国への憎悪が強すぎるあまり、「過去の問題」まで蒸し返してしまうので、冷静かつ客観的な現状分析ができなくなるのだ。

 その非常にわかりやすいケースをつい最近、我々は目の当たりにしている。USスチール買収をめぐって日本製鉄と対立をしているクリーブランド・クリフス社 ゴンサルベスCEOが記者会見にあらわにした「日本への憎悪」である。

「日本は邪悪です。日本は中国に、鉄鋼関連も含めて多くのことを教えた。われわれはアメリカ合衆国だ!日本は注意しろ!日本は己を分かっていない。1945年以来、何も学んでいない!アメリカがどれほど善良で、慈悲深いか学んでいない」

 これは何もこの人が特別という話ではない。1980年代のジャパンバッシングでは今、我々が中国産に向けているのと同じような憎悪が「日本産」に向けられ、日本人自体もかなり差別を受けた。愛国心が刺激されて頭に血が上ると、「事実」よりも「憎悪」が勝ってしまうのが、人間なのだ。

 ただ、このまま日本製鉄のUSスチール買収が失敗すると、アメリカにとっても不利益になるように、愛国心による他国へのバッシングというのは「自滅」につながることが多い。

 こんなことを言うと気を悪くする人もいらっしゃるだろうが、今回の亀田製菓の不買運動もそのパターンだと思っている。もしこの勢いで経営が悪化すれば愛国心溢れる方たちが望むように、インド出身のCEOが辞任して、「梅の香巻」が国産原料に切り替わるかもしれない。不買運動を頑張っている人たちの「大勝利」だ。

 しかし、一方でここまで亀田製菓を痛めつければ、米菓事業全体に大きなダメージが及ぶわけだから当然、米菓の生産量も減少する。それは国内の米農家にも大きなダメージを及ぼすだろう。

 先ほども申し上げたように中国産は「梅の香巻」だけで、それ以外の商品はすべて国産原料を使っているからだ。

 その中でも特に深刻な被害を受けるのは、新潟の米農家だ。実は亀田製菓グループは「地域農業との連携」を中長期的な経営課題に掲げている。この施策として食事事業本部長を担当者として、新潟県産米を使用した米粉100%のパンブランド「タイナイ おこめ丸パン」の拡販に力を入れている。

 2023年度実績では新潟県産米使用量は223トンだが、これを2026年度には800トン、2030年度には1200トンにまで引き上げていく目標だ(亀田製菓グループ 統合報告書2024)。

 しかし、不買運動で本業が傾けば、「地域農業との連携」という中長期的な課題に取り組む余裕などない。新潟県産米使用拡大の目標は当然先送りにされる。最悪この米粉パン事業自体の存続も危ぶまれる。これで最も苦しむのは、原料を供給する新潟の米農家であることは言うまでもない。

 これが「愛国心」がつき動かすナショナリズムの恐ろしいところでもある。

「国産米を守れ!」と亀田製菓の不買運動を展開している人たちは100%の善意でやっている。それは素晴らしいことなのだが、そこには消費者視点しかないので、自分たちの行動が、取引先や原料を供給する生産者、そして社会全体にどんな悪影響を及ぼすかまで想像できない。

 厳しい言い方をしてしまうと、「ナショナリズムによって視野が狭くなっている」のだ。だから、日本のために良かれと思ってやった企業攻撃が、まわり回って日本の不利益になってしまう、という皮肉な結末を招くのである。

 ……といろいろ言ってみたものの、再び盛り上がった亀田製菓の不買運動はそう簡単に鎮まることはないだろう。

 ネットやSNSを見ていると、低迷する株価チャートや、売り場に積み上がった柿の種の写真をアップして「ざまあwww」「日本人をナメるな」「効いてる、効いてる、インド出身CEOが辞任するまであと少し」などと「正義の世直し運動」に参加している満足感に包まれている方がかなりいらっしゃる。

 よく言われることだが、特定の国や民族を攻撃するプロパガンダというのは「楽しさ」がなくてはいけない。戦時中も愛国の映画や歌謡曲がたくさんつくられた。「日本の敵を楽しく叩きのめす」というコンテンツに、日本人は今も昔も目がないのだ。

 不買運動は楽しいし、中国を叩きのめしているようで溜飲も下がるだろう。これが「生きがい」という方もいると思うので、そこまで無理には止めはしない。

 しかし、ちょっと冷静になって「これって本当に日本のためになっている?」「単に憂さ晴らししてない?」と胸に手を当てて考えてみてはどうだろうか。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏