ホンダ・日産の経営統合が白紙に… 日産に急接近の台湾“鴻海”の狙いは「車のスマホ化」次世代のクルマをめぐり業界再編加速へ【news23】
「白紙」となったホンダと日産の経営統合。その「日産」に水面下で近づいているとされているのが、台湾の「鴻海精密工業」です。狙うのは“車のスマホ化”。スマホのような次世代の車のカタチとは?
■歩み寄る台湾の鴻海 “協業を提案”
ホンダと日産の経営統合が“破談”と報じられてから1週間。それぞれのトップが13日夕方、初めて言及しました。
ホンダ 三部敏宏 社長
「経営統合に関する協議・検討を終了することに両社で合意し、本日両社取締役会での決議をもって正式に決定した」
日産自動車 内田誠 社長
「(ホンダの)完全子会社となった場合、我々にとって自主性はどこまで守られるのか、日産が持つポテンシャルを最大限引き出すことができるのか、私たちは最後まで確信を持つに至らず、この提案を受け入れることができなかった」
意思決定など経営のスピードを優先するために統合協議を見送ったと説明した両社。また、日産の内田社長にはこんな質問が投げかけられました。
ーー鴻海が経営への参画を水面下で検討しているといった報道もあったが、今後の協業に向けての基本的な考え方は?
日産自動車 内田 社長
「鴻海社の我々に対するアプローチの件ですか、一部報道でいろいろ私も目にしているが、実際に当社のマネージメントレベルと話をしたというケースはない」
日産を買収するという観測も出ている台湾の大手電子機器メーカー「鴻海精密工業」。鴻海の幹部が1月、日本を訪れ、日産側と接触していたと台湾メディアが報じていました。
鴻海精密工業 劉揚偉 会長
「鴻海にとっては買収案でなく協業です」
鴻海の会長は12日、日産との協業を強調しました。
■“車のスマホ化” 業界再編が加速
いま、めまぐるしく変化している自動車業界。その要因のひとつが“クルマのスマホ化”です。
スマホのようにソフトウェアの更新やアプリのインストールで、自動運転など様々な機能を追加できるようになるという次世代のクルマ。中国の通信機器大手「ファーウェイ」やスマホメーカー「シャオミ」が相次いで自動車事業に参入しています。
また、こちらはリビングのような車内。鴻海が2016年に買収した電機メーカーの「シャープ」も、EV=電気自動車のコンセプトモデルを2024年9月に発表。鴻海は自動車事業への本格進出を狙っています。
このEV部門の責任者、実は日産を知り尽くした人物です。
鴻海精密工業 EV事業の最高戦略責任者 関潤氏
「今ご紹介いただきましたように、日産自動車に33年ほどおりまして」
かつて日産のナンバー3まで上り詰め、内田社長とトップの座を争った関氏。2024年9月にはこんな発言も…
鴻海精密工業 EV事業の最高戦略責任者 関氏
「全部自前でやろうと思っているわけではなく、必要であればM&Aをやっていく」
ホンダと日産の経営統合の協議は白紙となりましたが、EVやソフトウェア開発での協力は続けていく方針です。ただ、ホンダの幹部は…
ホンダ幹部
「仮に日産が鴻海と手を結んだら、技術流出などの観点から協業は難しい」
日産の経営は難しい舵取りを迫られています。
破談になったけれど……ホンダが欲しがる日産の技術 日産が欲しがるホンダの技術
ホンダと日産の経営統合に向けた検討は、残念ながら破談に終わった。当初は両社で共同の持株会社を設立して、ホンダと日産をその子会社にする案があったが、その後にホンダを親会社、日産を完全子会社にする案もホンダから示された。日産は対等な立場を求めたから、両社の思惑に隔たりが生じた。たらればだが、もし経営統合していればどうなったのだろうか?
ホンダが欲しがる日産の技術やクルマ
ここで改めて、両社が互いに欲しい技術やクルマを、既に実用化されている内容から考えてみたい。
まずホンダが欲しがる日産の技術には何があるか。現在の日産のラインナップを見ると、ハイブリッドのe-POWERが主力になる。ただしホンダがe-POWERを欲しがることはないだろう。なぜならe-POWERは、ホンダのハイブリッド、e:HEVに比べて機能がシンプルになるからだ。
例えば直列3気筒1.2Lエンジンを使ったe-POWERは、フットブレーキとの協調回生制御を行っていない。従ってDレンジのノーマルモードで走行中、減速時にブレーキペダルを踏むと、ほぼそのままディスクブレーキやドラムブレーキが作動する。優れた燃費性能を得るには、アクセルペダルを戻すと同時に強い制動力が生じるエコモードやスポーツモードを選ばねばならない。
フットブレーキとの協調回生制御を行っているe-POWERは、セレナやエクストレイルなど、1.4L以上のエンジンを搭載する一部の車種に限られる。
その点でホンダのe:HEVでは、全車がフットブレーキとの協調回生制御を行う。Dレンジで走行中にブレーキペダルを踏んでも、状況によってはディスクブレーキが作動せず、回生を強めてe-POWERのエコ/スポーツモードと同じように優れた充電効率を得る仕組みだ。
そうなればアクセルペダルを戻すと同時に強い制動力が生じるエコ/スポーツモードが嫌いなユーザーも、優れた燃費性能を得られる。
さらにホンダのe:HEVでは、高速巡航時にはエンジンが直接駆動を行い、燃費効率を向上させる制御もある。日産のe-POWERにはこの制御もなく、高速巡航時の燃費性能が悪い。そのために北米にはe-POWERが基本的に投入されず、ノーマルエンジンのみになって販売不振を招き、日産の業績を悪化させる一因になった。
そもそもe-POWERは、急場しのぎの技術だった。日産では電気自動車の開発に力を入れ、ハイブリッドの品ぞろえが乏しかったが、日本国内ではラインナップが必要になった。そこで電気自動車のメカニズムを利用できるe-POWERを大急ぎで開発したら、予想以上の人気を得た。2018年には、先代ノートがe-POWERを設定したことで、小型/普通車の国内販売1位になっている。
この時に日産は、ハイブリッドの開発に一層の力を注ぐべきだったが、実際はe-POWERは目立った進化を遂げられなかった。ホンダの立場から現時点で実用化されている日産の技術を眺めると、特に注目すべき内容は見当たらないだろう。
しかし強いて挙げるとすれば、エクストレイルのe-POWERが搭載する圧縮比を変化させるエンジンがある。巡航時には圧縮比を高めて燃費効率を向上させ、動力性能を高めたい時は、圧縮比を下げてターボを積極的に作動させる。エクストレイルのe-POWERは、このエンジンを発電専用に使うが、海外では単体でも搭載されている。ハイブリッドと組み合わせることも可能だ。
また日産は、サクラ/リーフ/アリアと電気自動車を豊富に用意して、駆動用リチウムイオン電池の種類も多い。
今回、統合協議は終了するが、2024年8月に発表した次世代EVの開発に向けた提携は続けるという。注目はリチウムイオン電池と比べ2倍以上の高いエネルギー密度を持つ全固体電池だろう。日産は最もエネルギー密度の高い負極に金属リチウムイオン電池を使うことを明らかにし、2028年度の全固体電池の実用化を目指して2024年度にパイロット生産ラインを横浜工場内に建設中だ。
一方ホンダも全固体電池のパイロットラインを栃木県さくら市の本田技術研究所に建設し、2025年1月から稼働、2020年代後半の製造を目指している。ほぼ同時期に日産、ホンダが全固体電池の実用化を目指しているので、双方にとっても全固体電池の共同開発は相乗効果は高い。
今回の会見で2025年度には「新型リーフ」、マーチのEVと思われる「コンパクトEV」が発売されることが明らかになった。
ホンダは2030年までにグローバルで30機種のEVを投入予定だが、e:Nシリーズやゼロシリーズなど提携継続によって相互補完もできるはずだ。
そして今回、やっと2026年度に発売されることが明らかになった、大型ミニバンこそが新型エルグランドである。ホンダが日産を子会社化した暁には、電動化したエルグランドをバッジ違いでホンダでも売るという皮算用があったかもしれない……。
ちなみにベストカーWebの予想では、エルグランドはBEVではなく、e-POWERを搭載、エクストレイルに搭載されている可変圧縮の1.5L、直3VCターボ+モーターを、車重増に対応して発電用パワー/トルクアップなどを改良したもの(最高出力は150ps、最大トルクは25.5kgm、モーター最高出力はフロントが210ps、リアが140ps)。
プラットフォームはエルグランドのために新設されることがないが、エクストレイルのCMF-C/Dプラットフォームをストレッチして使用すると思われる。ボディサイズは全長5000×全幅1880×全高1930mm、ホイールベースは3000mmと予想。駆動方式はFFのほか、日産の電動4WD、e-4ORCEをラインナップする。
日産が欲しいホンダの技術、クルマ
一方、日産の視点に立つと、ホンダには優れた技術が多い。先に述べたハイブリッドについては、ホンダのe:HEVであれば、全車にフットブレーキとの協調回生制御や高速巡航時に直接駆動する制御が備わる。
日産はEVラインアップを急ぐあまり、ハイブリッドのラインナップがほとんどないことが北米市場での販売不振につながっていることもあり、日産はホンダのe:HEVをすぐにでも欲しいに違いない。
ホンダは1.5L 、2L直噴アトキンソンサイクルエンジン、フロントドライブユニットおよび統合冷却システムをそれぞれ新規開発し、10%以上の燃費向上した次世代の小型車、中型車用のe:HEVユニットを2024年12月に発表した。ホンダはハイブリッド車を2030年までに年間130万台生産するとしている。
燃料電池車も用意され、CR-Vにe:FCEVを設定している。e:FCEVは画期的で、充電機能と駆動用電池も併用することで、エンジンは搭載しないがプラグインハイブリッドのような使い方が可能だ。
燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を発生させるが、水素を充填する水素ステーションは、全国に約170か所しかない。給油所(ガソリンスタンド)の約2万7000か所を大幅に下まわる。
この状況を踏まえると、自宅などでの充電により、充填の面倒な水素を温存できる効果は大きい。万一、水素を使い果たしても、充電を繰り返しながら水素ステーションまで辿りつくこともできる。インフラの整っていない燃料電池車にとって、充電機能との組み合わせはメリットが大きい。日産としても充電可能な燃料電池車のe:FCEVは欲しいだろう。
なおCR-Vのe:FCEVは、CR-Vにプラグインハイブリッドがあったから開発できた。この柔軟なホンダの発想力も、日産から見ると魅力だと思う。もともとホンダは発想力に富んだメーカーで、それは日産に限らず、ほかのメーカーも手に入れたいのではないか。
ホンダの発想力が生み出した内容として、センタータンクレイアウトも挙げられる。軽自動車のNシリーズ、コンパクトカーのフィット、コンパクトSUVのヴェゼルに使われている技術で、燃料タンクを前席の下に搭載することにより、車内後部のスペースを広げている。
コンパクトミニバンのフリードは、車内で移動しやすい真っ平らな床面にこだわったからセンタータンクレイアウトではないが、ミニバンに使うと3列目の床と座面の間隔を2列目と同じように十分に確保できる。かつてのホンダモビリオはセンタータンクレイアウトで、全長が短いから3列目は狭かったが、床と座面の間隔は十分に確保されて意外に快適だった。
トヨタでは、センタータンクレイアウトと同様の効果を得るために、薄型燃料タンクを開発して初代シエンタに採用した。この技術は今でも現行シエンタで活用されている。
以上のように、ホンダの欲しがる日産の技術よりも、日産が欲しがるホンダの技術のほうが多そうだ。そしてホンダが日産に差を付けた理由は、技術力よりも、判断する時の速度のように思える。
そのためにホンダは、日産を完全子会社にして、意思決定も早めようとしたのではないか。逆にいえば、日産の社内的な風通しを改善して意思決定の速度を早めれば、今後も十分に戦えるように思える。
そしてホンダと日産の戦略的パートナーシップは今後も継続される。ホンダと日産の間で、優れた相乗効果が生まれる可能性は十分にある。それは技術や生産だけでなく、販売におよぶかもしれない。トヨタの国内店舗数は約4400か所、ホンダは約2100か所で日産は約2000か所だ。ホンダと日産を合計すれば、トヨタと同等の販売網になる。
例えば地域のニーズに応じて、ホンダと日産の軽自動車専門拠点を作るとか、カーシェアリングやレンタカーの共同ステーションを設けるなど、さまざまな展開を図れる。経営統合が破談したからといって、両社の関係が終わるわけではない。クルマ好きにとっては、これから面白いことが始まるのだ。
「私なら門前払い」 ホンダと日産の経営統合破断会見を見て、国沢光宏氏(モータージャーナリスト)は何を思ったか
両社が経営統合に向けた協議の中止を発表
本田技研工業(ホンダ)と日産自動車(日産)の経営統合に向けた協議の破談が両車から正式に発表された2024年2月13日、ホンダはそのことだけを伝えるために会見を開き、また日産は2024年度第3四半期決算発表のなかで事実と経緯を伝えた。その会見を見たモータージャーナリストの国沢光宏さんはどのように感じ、何を思ったのか? 早速リポートしてもらおう。
経営統合破談確定で日産はどうなる? 国沢光宏が予測する「3つのストーリー」とは
◆どっちもこりゃダメだ!
ホンダと日産の取締役会があった2月13日の夕方に、三部さんと内田さんは記者会見を行った。両方見た印象を書くと「どっちもこりゃダメだ!」。ただ日産はホンダの50倍くらいの酷さである。ホンダから三行半を突きつけたのも無理ない。今の日産が抱えるリスクを全く無視して、バラ色のような再建計画を出してきた。日産のリスクは4つある。順に説明していきましょう。
◆その1:売れるクルマを作れるか
内田さんの再建計画を聞くと、新型車を出せば業績は回復すると主張している。単に「出します」だと信用してもらえないと思ったのだろう。今後数年で出す新型車を具体的に紹介した。「新型車を出せば売れる」のなら、今までなんで出さなかったのだろう? 理由は簡単。出しても売れるかどうか自信なかったからだ。けれどこれから出すクルマは全部成功するらしい。
記者さん達は話を鵜呑みに聞いているらしく「売れる確証は?」とか「今までなぜ出さなかったのか」的な質問出ず。出すクルマ全てがヒットすれば確かに大幅利益をもたらす。特に高額車であり、販売奨励金も不要であれば儲かる。そんなクルマを作ってこなかったら苦境に陥ったのだ。内田さんの話を聞くと「出せば売れる!」。どこから超楽観論が出てくるのか不思議でならない。
◆その2:中国リスク
日産の重荷になっているのは中国市場である。日産も認識しているらしく、再建計画で発表した今後の予想販売台数は、全部「中国を除く」と説明された。つまり中国市場の赤字はリスクと考えていないということ。これ、どう考えても甘い! 日産は東風汽車と折半で中国に投資してきた。東風日産が赤字になれば、日産も負担しなければならない。
例えば工場稼働率。資本主義国は工場稼働率が落ちたらワーカーをリストラすればいい。されど共産主義国じゃそんなことできない(建前ですが)。おそらく日産に負担させることになるだろう。赤字になる可能性大。日産は「中国で生産したクルマを輸出する」と主張しているが具体的な輸出国も出てこない。というか、中国製のクルマを受け入れてくれる国は限られる。
◆その3:関税リスク
トランプ大統領はメキシコ工場製のクルマに対し関税を掛けると言っている。ホンダの場合、関税によって7000億円くらいのマイナス影響を受けると試算してる。なのに内田さんの再建計画に関税リスクの”か”の字もなし。再建計画が全て成功して何とか黒字というのに、かなりの確率で起きるだろう関税による4桁億円のマイナスを勘案しておらず。
◆その4:為替リスク
トランプ大統領はアメリカからの輸出を増やそうと考えている。当然ながらドル安方向にしたくなるだろう。今の日産の状況は円安によって何とかトントンに持ち込んでいる。140円を超える円高にでもなろうものなら、それだけ巨額の収益減要因。これまた再建計画で触れず、メディアの皆さんからも質問なかった。財政基盤がしっかりしているホンダからすれば穴だらけかと。
◆結論
結論から書くと「少し考えれば誰にでも解る大穴だらけの再建計画をよく取締役で承認したな」と感心しきり。皆さんシロウトじゃないでしょうに。自分でビジネスをやったことのある人なら、出資してもらうのがどれだけ大変か解ると思う。私なら4つのリスクを説明していない時点で門前払いです。しかも4つのリスクは高い高い確率だ。内田さん「成功するまで辞めない」だって。