千葉県の冨塚昌子教育長、任期2年残し年度末で異例の退任へ 教職員の不祥事後を絶たず
千葉県教育委員会の冨塚昌子教育長(63)が令和6年度末で退任する意向であることが分かった。任期を約2年残し、異例の退任となる。関係者によると、後任には杉野可愛(かあい)教育次長(47)が就く見込み。熊谷俊人知事は現在開会中の2月定例県議会最終日の2月25日に関連の人事議案を提出し、同意を求める。
冨塚氏は熊谷知事と同じ早稲田大出身。県の千葉の魅力担当部長や環境生活部長を務め、令和3年に女性で初めて県教育長(任期3年)に登用された後、再任された。本来は令和9年4月19日までの任期だった。
同5年1月、子供が3人以上いる世帯の学校給食費の無償化を始めた。その後の公立高校入試で98校に計933件の採点ミスが発覚し、改善策を策定した。
県の教育行政の現場では教職員の不祥事が後を絶たず、懲戒処分が相次いでいる。今月22日には県立高の女子生徒が教諭からの言動に悩み、何度もSOSを発しながらも学校側が全て見逃し、自殺した事案が明るみになり、冨塚氏が謝罪する事態も起きた。
後任になる予定の杉野氏は本県生まれ。一橋大卒。文部科学省に入省後、同5年4月に本県に出向し、現職。新教育長になれば、任期は冨塚氏が担う予定だった同9年4月19日までとなる。
千葉県立高生の自殺、届かなかったSOS 県教委の第三者調査委「度重なる無反応で疲弊」
千葉県教育委員会は22日、県立高校2年(当時)の女子生徒が令和5年10月に教諭との関係に悩んだ末に自殺した事案があり、有識者による第三者調査委員会の調査結果を公表した。自殺の背景について「生徒が何度も発信したSOSをすべて見逃し、度重なる無反応が生徒を精神的に疲弊させた」と断じ、学校側の対応を問題視。冨塚昌子教育長は記者会見で謝罪し、関係教諭らを減給処分とした。
作文に「おかしくなる」
生徒が自殺した事案はこれまで非公表だった。県教委は「遺族の思いを尊重して対応してきた。公表で学校や本人が特定されることを遺族は気にしており、遺族と対話続ける中で、このタイミングになった」と理由を説明した。
第三者調査委の調査結果などによると、生徒は自殺する5カ月前からSOSを発信していたが、すべて見逃されてしまった。
最初のSOSは5月のいじめアンケートだった。30代の英語教諭は、生徒を起立させて答えられるまで座らせないという授業スタイル。英語が苦手で起立したままの生徒は「みんなの前で恥ずかしい思いをするので英語の授業に出たくない」と記した。
7月の授業評価アンケートでは「生徒のことを侮辱するような発言が多数みられた。単語テストでは『こんなの覚えられないやつは中学生以下だ』といわれた」と訴えた。9月の作文には「英語の授業が原因で精神がおかしくなる。ガチで先生変えて欲しい」「本当に死ぬよ?」と、改善されない状況に強い不満をぶちまけていた。
追い詰められていたとみられる生徒は10月11日、英語の授業中にトイレにこもり、そのまま欠席した。それでも、20代の担任教諭は生徒に対し「今の状態なら俺は何もしてあげられない。自分で勝手にやってくれ。好きに進路を決めて好きに頑張ってくれ」と突き放すような指導をした。
「最後の砦(とりで)」ともいえる担任教諭からの叱責。生徒は翌12日、自宅を出たが、登校しなかった。そのまま帰宅せず、13日、自ら命を絶った。遺族や友人あてに遺書を残していたという。
担任、本人に聞き取りせず
生徒の一連の訴えに対し、学校側の対応は鈍く、調査結果は「いくつもの場面で不作為または不適切な指導に終始した」と断じている。
県教委児童生徒安全課の伊沢浩二課長が「適切に対応していれば、その後はいろいろな対応ができた。悔やみきれない」と話すのは、生徒が最初にSOSを発信したいじめアンケート。内容を確認した学年主任は「大丈夫なのか」と担任教諭にただした。ところが、担任教諭は生徒本人に聞き取りもせず「大丈夫です」と返答し、校長ら管理職にSOSは届かなかった。
誰か一人でも深刻に受け止めていれば救えた命かもしれない。「生徒に寄り添った指導を各学校に繰り返し伝えてきた。忸怩(じくじ)たる思い」。会見で謝罪した冨塚教育長は生徒指導のあり方について触れたが、現実はほど遠い。
理不尽なクレームに疲弊する教育現場 保護者対応専門部署の設置で教員離れに歯止め
教育現場で保護者対応に悩む教職員は少なくない。保護者から寄せられる相談や要望はまっとうなものも多いが、時には理不尽な要求で業務に支障を来したり、教職員が休職や退職に追い込まれたりするケースもある。奈良県天理市はこうした状況を改善しようと、4月から全国的にも珍しい保護者対応専門の部署を設置する。「教職員に心のゆとりを持って子供たちに向き合ってほしい」としている。
約8割が「負担に感じる」
《こちらに非がないことに対して謝罪を要求され、人権を無視した罵詈(ばり)雑言が浴びせられた》《いつまでも覚えているとしんどくなるので、記憶も薄れています。書きたくありません》
天理市が昨秋教職員や保育士ら約380人(回答265人)に行った保護者対応に関するアンケートには、切実な思いがつづられていた。
アンケートは、5項目の設問と自由記述で構成。「保護者対応で授業に支障が出たことがあるか」との設問には63・3%が「ある」、「日常業務で保護者対応を負担に感じているか」との設問には77・5%が「感じている」と回答した。
自由記述では、教職員らがこれまでにあったトラブルを列挙。「学校行事に関わる子供の病院代を保護者が払わず、立て替えを要求された」「子供が家で壁を蹴って穴をあけたことが学校によるストレスであると家に呼び出された」など、あくまで教職員側の言い分であることを念頭に置いても、理不尽なものが散見された。
深夜に及ぶ話し合い
なぜ、業務に支障が出るほどのトラブルに発展してしまうのか。
天理市立小学校で校長を務める男性は、「教職員は最初に問題が生じると小さくまとめてしまおうと思うところが大きく、後に問題がこじれ、話し合いに時間を割く原因にもなっている」と打ち明ける。
話し合いは、児童が下校した夕方から始まり深夜にまで及ぶことが多く、解決まで数週間かかることもある。保護者が感情的になるあまり、「前の担任はこうだったから同じように対応しろ」「教師をやめろ」など理不尽な言い方をすることもあり、「精神面でも傷つくことが多い」という。
奈良県教委が令和2年にインターネット上で行った「奈良県の先生の働き方調査」(3845人が回答)によると、教職員が学校に滞在する1日当たりの平均時間は11時間22分に上る。教職員らが減らしたい業務には、「事務・報告書の作成」「会議・打ち合わせ」に次いで、「保護者対応」が挙がった。
天理市によると、保護者対応が直接・間接的な原因で休職・退職した公立小中学校教職員は、昨年4~12月だけで14人いたという。
課題解決への一石に
天理市はこうした状況を踏まえ、今年4月に保護者対応専門部署「子育て応援・相談センター~ほっとステーション~」を設置。臨床心理士のほか、学校現場に詳しい元校長経験者5人を含む十数人が所属し、電話や窓口などで対応に当たる。子供同士のトラブルや意見などは、学校へフィードバックして問題解決の糸口を探るほか、保護者自身のケアが必要な場合は行政の支援にもつなげる。
別の天理市立小学校長はこうした市の取り組みについて、「保護者と学校のきずなが弱まってしまうのではないか。教師自身が(対応することで)成長する機会を逃すかもしれない」と懸念しつつも、「第三者を交えることで保護者が冷静になることもある。事態の深刻化を防げるのでは」とおおむね好意的だ。
並河健市長は「教職員は子供を育てるプロではあるが、保護者対応のプロではない。教職員の働き方改革は全国的な問題となっており、解決に向けた一石としたい」と話している。
