デジタル化にも“注意点”思い出の映像が見られなくなる?VHSテープ『2025年問題』

デジタル化にも“注意点”思い出の映像が見られなくなる?VHSテープ『2025年問題』

VHSなどに記録された“思い出の映像”が見られなくなるかもしれない『磁気テープの2025年問題』とは、一体どのようなものなのでしょうか。

■ダビング依頼殺到「思い出の映像を…」

ダビングサービスを手掛ける会社を訪ねると、問題の大きさは一目瞭然でした。山積みになった段ボールとVHSテープは全て依頼品だといいます。

ダビングコピー革命 丸山裕二店長

「もうほとんどホームビデオ。いわゆる思い出の映像。2025年の話は広まっているので、それを知ってだいぶ増えた」

依頼の多くは家族旅行や子どもの入学式などを記録したもの。件数は去年の同じ月の2倍になっているといいます。

日本では昭和51年(1976年)に誕生したVHSテープとビデオデッキ。劇場でしか見ることができなかった映画を家庭で楽しめたり、手軽に録画と再生を繰り返すことができたりすることから広く普及し、映像を日常生活に身近な存在にしました。

なかにはこんなものも。

「チラシ代わりに配られているんです。チラシがビデオになったというわけで、名付けて『チラビデオ』」

■ユネスコ「磁気テープが見られなくなる」

しかし平成以降、記録メディアがDVDやデータに取って代わられるようになり、デッキの生産は次々と終了。令和に入り、ユネスコなどがこう警鐘を鳴らしました。

ユネスコ『マグネティック・テープ・アラート』(2019)

「過去60年間、人類の多様な文化遺産は磁気テープに記録されてきた。それらの映像と音声を後世に伝える唯一の方法はデジタル化だ」

背景にあるのは、再生機の製造終了などにより再生自体が困難になることや技術者の減少、長くて50年とも言われるVHSテープそのものの劣化などです。そして、消失の期限が2025年、今年とされています。

■歴史や文化を後世につなぐため

失われてしまうかもしれない家族の思い出や大切な記録の数々。それを懸命に守ろうとする人がいます。

三重県四日市市にある博物館。ここでもデジタル化の取り組みが行われています。

四日市市立博物館学芸員 森拓也さん

「6年ぐらい前から取り組み始めている。一気にできるものではないから、博物館としては地道にやっていかないと」

ここには1993年の開館以降に集めた、ビデオテープやカセットテープなどの磁気テープが大量に保存されています。その内容は、戦前のお祭りの映像や伊勢湾台風で被害を受けた市内の記録。昭和30年代に撮影された車窓からの風景など貴重な映像ばかりです。

四日市市立博物館学芸員 森拓也さん

「当時の山車がどういう動きをしていたか、どれくらいの大きさだったのかが分かるのは大変貴重」

デジタル化できる期間を少しでも伸ばすためには、使える再生機を廃棄したりすることなく、現存する全ての再生機を大事に有効活用していく意識が必要です。

この博物館では森さんの私物のほか、市民から寄贈された機器など8台の再生機器を使用しています。故障した場合は森さん自ら修理しているといいます。

四日市市立博物館学芸員 森拓也さん

「博物館の使命として、稼働状態にある機械を1台でも残しておかないといけない」

(Q.DVDも見られなくなるが)

「記録で一番良いのは和紙に墨。源氏物語だって枕草子だって、みんな和紙に墨で書いているから1000年も残ってる。また20年後か30年後かに僕みたいなのが出てきて、このDVDを古い機械使ってこうするんですよなんていう時代が来ると思いますよ」

■大切な映像記録を残すには

一般家庭や個人がVHSや8ミリなどの磁気テープに保存した大切な記録を残すにはどうしたら良いのでしょうか。映画の保存・復元・公開などを手掛ける、国立映画アーカイブの冨田美香主任研究員に聞きました。

国立映画アーカイブ 冨田美香主任研究員

「まずは『デジタルファイル化』することが大事。ご家庭で楽しむホームムービーなら、例えばMPEG-4などのファイル形式で同じものを複数作って保存する。その複数のデジタルファイルを、保存メディアが使えなくなる場合に備え、ハードディスクやDVDなど違うメディアにそれぞれ保存する必要がある」

映像を簡単に見られる方法は、例えば『DVD保存』です。多くの家電量販店や専門業者で、VHSや8ミリなどの磁気テープからDVDに移すサービスを行っています。

例えば、VHSテープ1本(60分)からDVDに移す場合、料金は1000円~3000円前後。期間は約1~2カ月かかるということです。また、別料金で二次元コードを使ってスマホで映像を再生するサービスもあるということです。

ハードディスクに保存などのサービスを行っているところもありますが、業者に依頼する際、映画やテレビ番組は著作権が生じる場合もあるので注意が必要です。

より長く見られるために必要なことは何なのでしょうか。

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ソニーもBD生産終了、近づく“テレビ保存文化”の終焉 「残し続けたい」を阻む大きな壁とは

2024年11月ぐらいから話題になった「VHS2025年問題」。25年にはVHSの保守部品が手に入らなくなり、再生機の修理が困難になることから、もう見られなくなるのではないかとの懸念が出てきた。VHSからのダビングを請け負う事業者の元へは、いまだに依頼者の列が続いているという。

 この時筆者は、VHS映像をDVDやBlu-rayに残すのは危険だと警告した。ディスクメディアも長期間保存できる確証はなく、さらに言えばVHSと同じように再生機が消滅する可能性があるからだ。

 そして25年2月にはソニーがBlu-ray Discの生産を終了した。国内シェア第2位、およそ3割を占めるソニーの撤退で、ディスクの供給はほぼ台湾メーカー頼みとなった。そういう台湾も、地元の需要があるわけではない。テレビを録画して保存するという文化が存在するのは、ほぼ日本だけだからだ。

なぜテレビを録画するのか

 テレビを録画するという習慣が生まれたのは、β(ベータ)・VHS戦争の時代までさかのぼるが、それはテレビ番組というものが一期一会であり、再放送・再送信がほとんどなかったからだ。それに加え、テレビ番組の価値も高かった。映画館が衰退し、ビデオレンタル店が登場するまでの間、お笑いもニュースもスポーツも映画も、何もかもをテレビが直接家庭内にもたらしてきた。

 テレビ録画が多様化したのは、CDーRやDVDーRなどのディスク型記録メディアが登場してからデジタル放送が主力となるまで、96年頃から10年ほどの間だ。PCにチューナーカードを入れて録画したものを編集し、自分でディスクに焼くという方法論が爆発的な広がりを見せ、多くの人はここでビットレートとは何かを学んだ。今の若い人は、映像制作の現場にいてもビットレートが分からないかもしれない。

 デジタル放送が始まった00年代以降は、デッキ型レコーダーが全盛期を迎えた。いったんはHDDに録画するものの、ディスクメディアにコピーする際に再エンコードが発生しないよう、事前にビットレートの計算までしてくれたり、複数枚のメディアに分割してコピーしてくれるようになった。

 保存の内容は多岐にわたる。映画はもっともよく保存されたコンテンツだろう。レンタル店にはない映画を保存し、ライブラリ化するという喜びもあった。録画は、いわゆるコレクター癖との関係性が強い。

 間に挿入されるテレビCMをカットして1本にまとめるという行為は、ある種オリジナルの復元でもある。しかし古いテレビCMが再放送される可能性はないので、今となっては昔のCMが残っているほうが希少価値が出てきている。

 アニメもよく保存されたコンテンツだ。いつしか深夜枠がアニメの主戦場になると、リアルタイム視聴よりは録画しての時間差視聴がスタンダードになっていった。

 OVAのビジネスが安定期に入ると、テレビで放映権を獲得できないアニメ作品が大量にOVA市場に出現したが、逆にメジャー作品は放送が先である。一早く最新作が見たいという濃いファン層、OVAを買うほどではない薄いファン層の両方から、レコーダーが支持された。

 「推し活」という視点も、重要だ。テレビタレントやアイドル推しの場合、番組表から特定のタレントが網羅的に検索・録画できることで、いわゆる「はかどる」という使い方が定着した。

 こうして録画されたコンテンツは、1つの収集結果としてディスクメディアにコピーされ、ライブラリ化される。ディスクメディアはテープよりも場所を取らず、ライブラリの収蔵率の上昇とともに、その網羅性をも押し上げる結果となった。

終わりが近づくBlu-rayレコーダー

 VHSデッキの終焉(しゅうえん)が懸念されたのと同様、Blu-rayレコーダーの終焉も近づいている。ディスクメディア製造撤退だけでなく、いわゆる黒物家電メーカーとしても、もはやレコーダーは主力商品ではなくなっている。

 JEITA(電子情報技術産業協会)が公開している国内出荷統計を見ると、BDレコーダーとプレーヤーの個別集計が始まった09年から11年までにレコーダーは急速な勢いで普及したことが分かる。当時は3Dブームが爆発したこともあるので、11年の突出した数値は特殊なものと考えるべきだ。

 12年から17年までは、多少の上下はあるもの需要は安定していた。16年から2年間の盛り上がりは、4Kが記録できるUltra HD Blu-ray規格対応モデルが登場したからだろう。だがこれは、テレビ放送側がBS・CS放送しかないことから、それほど起爆しなかった。そもそもBlu-rayディスクに4Kが録画できることをご存じない方も多いだろう。

 それ以降は前年割れを続けており、24年はついに大台とも言える100万台を下回った。

 一方プレーヤーは、レコーダーに比べれば破格に数が少なく変動もあまりないが、これも16年以降は下降線をたどり、24年はついに30万台を切ることとなった。

 Blu-rayにはリージョンコードが設定されており、日本は南北アメリカや韓国、台湾と同じAグループだが、中国はCグループである。プレーヤーなんか中国から並行輸入でいくらでも買えるだろというものでもなく、日本向けに作られてものでなければ再生できない。

 ここまでBlu-rayが下火になったのは、多くのコンテンツがネット経由で配信されるようになり、テレビ一強時代が終わったからである。しかしテレビでしか見られないコンテンツ、例えばテレビタレントやドラマ俳優の推し活などは、テレビ頼みであることに変わりはない。

 仮に今使っているレコーダーから新機種に買い換えたいと思うなら、HDDに録画したデータを何らかの形で取り出す必要がある。その一番簡単な方法が、Blu-rayディスクに焼くことであり、この機能なしに長期間の保存は不可能だ。

 だがそうして救出したコンテンツも、長くは持たない。再生機がなくなるのが早いか、ディスクがダメになるのが早いか、VHS2025年問題と同じことが起こる。さらにVHSよりも悪いのは、これらのディスクにはDRM(CPRM)がかかっており、ダビングしたりリッピングしてデータを取り出したりすることができないことである。

 技術的にDRMを回避することが可能であっても、保護技術を回避した時点で著作権法違反となる。あなたの大事なライブラリは、そのディスクが最後であり、それ以上残す手段はない。

推し活を守るために、何が起こるべきか

 そんなおり、長い間もめていたBlu-rayに対する補償金が、この4月から徴収されることとなった。1台あたり税込200円、消費者が負担することになる。ディスクは定価の1%で計算する。

 200円ぐらいいいよと思うのか、この終わりそうな文化に対して今頃何言ってんだと思うのか、反応はさまざまだろう。だがこの補償金は、消費者には何の利便性ももたらさない。

 筆者は15年から19年まで、文化庁文化審議会著作権分科会の「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」(録録小委)で専門委員を務めていた。このBlu-rayに対する補償金をどうするのか、検討する委員会である。

 このとき主張したのが、「DVD・Blu-rayの著作権保護技術であるCPRMは、今後必ず大きな問題となる。ゆえにDVD・Blu-rayメディアから再ダビングを許容できるようにするならば、新しい対価還元はあり得るのではないか」というものだった。つまりディスクメディアからコンテンツを取り出して保存を続けることが許されるのであれば、お金を払うこともやぶさかではない、という話である。

 だが結果的にこの主張は受け入れられず、話は平行線のまま録録小委は解散となり、それ以降は非公開の省庁間協議となった。そして消費者に何のメリットもない補償金だけが追加され、これからディスクのCPRMが問題になっていく。19年時点で筆者が予測していた最悪のシナリオは、思ったよりも早く現実のものになろうとしている。

 もう録録小委のような委員会が設置される見込みはないが、ディスクメディアが読めなくなる前に中身を取り出させろという消費者の強い意見は出てくるだろうか。あるいはもうネットが肩代わりするからいいか、ということになるのだろうか。

 現在TikTokなどでタレント名を検索すると、テレビ番組からの切り取りと思われるコンテンツが大量に見つかる。画質が良くないのでどうやって切り取ったのか判断できないが、DRMを回避したのなら 著作権違反だし、そもそも無許可でネットに掲載するのも著作権違反だ。これがほぼ放置状態にある。

 こうした違法コンテンツがあるからもう自分で録画したものはいらないよね、という流れになるならば、それは社会的に不健全であり、不安定だ。それならば、私的複製に限定したDRMの回避を合法化するほうがよほど健全である。

 日本のコンテンツをそのままの形で世界に通用させたのは、オタク文化の功績である。その推し活を支えるディスクメディアの消滅によって、世界に通用する日本のコンテンツの大事な柱を失うことになりかねない。

 これは著作権者にとっても、小さくない話のはずだ。

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