投稿の真偽検証を廃止した米メタ、トランプ氏への配慮か…偽情報の拡散につながる恐れ
米SNS大手メタ(旧フェイスブック)は7日、第三者機関を通じて投稿の真偽を検証する「ファクトチェック」を米国で廃止すると発表した。投稿への過度な検閲を批判するトランプ次期米大統領への配慮があるとみられ、偽情報の拡散につながる恐れがある。
マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は7日、「ファクトチェックは政治的に偏りすぎていた。原点に立ち返り、表現の自由の回復に注力する」との声明を出した。「悪質な投稿を発見する可能性は低下する」として、偽情報が増える可能性を認めた。
メタ傘下のフェイスブックやインスタグラム、スレッズを対象に、米国で数か月かけて段階的に廃止する。代わりに、誤解を招く投稿に対して別の利用者が情報を補う「コミュニティーノート」機能を導入する。日本など、米国以外でも同様の措置を取る可能性があるとしている。
メタは2016年にファクトチェックを導入。第三者機関に投稿の真偽の調査を委託し、虚偽内容が含まれていると判断された場合に投稿を削除するなどの対応を行っていた。日本では24年に導入された。
21年に発生した米連邦議会襲撃事件後、トランプ氏のフェイスブックのアカウントを凍結した。その後に凍結は解除されたが、トランプ氏はメタが保守的な内容の投稿を不当に制限しているとして、繰り返し不満を表明していた。トランプ氏に対し、大統領就任後にメタに対して厳しい立場を取らないよう働きかける思惑があるとみられる。
米国の大手SNSでは、投稿監視を緩和する動きが続いている。政治的な圧力に加え、コスト削減を図る狙いもありそうだ。
X(旧ツイッター)は22年10月のイーロン・マスク氏による買収後に問題のある投稿への監視や制限を緩和しており、偽情報が急増したと指摘されている。米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」も23年6月、20年の米大統領選で不正があったとする虚偽動画の削除を停止した。
メタが方針転換 「コミュニティノート」を導入する狙いとは?
1月7日(米国時間)、メタが第三者機関と連携したファクトチェックのプログラムを終了し、「コミュニティノート」を導入すると発表したことが話題になっています。
なぜメタは方針転換を図ったのか、またその狙いはどこにあるのか、発表内容を読み解いていきます。
Xのような「コミュニティノート」採用へ
メタが運営するFacebookやInstagramといったSNSは世界で約33億人が利用しており、社会を動かすインパクトがある一方で、偽情報やスパムも大量に投稿されているとみられます。
不適切な投稿の拡散を防ぐため、人力によるものやAIなどさまざまなモデレーションの仕組みが働いているようですが、その1つが第三者機関と連携したファクトチェックです。日本でも2024年9月に始まっています。
ファクトチェックとは、SNSなどで広まっている真偽不明の情報を検証し、発表することを指しています。国際的な定義があり、ファクトチェック専門の機関が実施する場合もあれば、メディアが実施する場合もあります。
メタが問題視したのは、ファクトチェックにおけるバイアスです。ファクトチェックの原則の1つには「非党派性と公正性」があるものの、専門家も人間である以上、完全にバイアスを排除することはできないといえます。
CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、「ファクトチェッカーが政治的に偏りすぎている」と指摘。メタのブログでは「何をどのようにファクトチェックすべきか」の選択にバイアスがかかったことで、正当な政治的議論までもが対象になり、「検閲のためのツール」になっていたといいます。
メタはザッカーバーグ氏による2019年の講演を引用し、「より多くの人々が声を上げるよりも、自分たちが必要と考える政治的成果を達成することの方が重要だと考える人がさまざまな分野で増えている。それは危険なことだ」としています。
こうしたファクトチェックのプログラムは、まずは米国から終了していくとのこと。これを受け、米国のPolitiFactやFactCheck.orgといったファクトチェック機関が声明を発表しています。
ファクトチェックの代わりに新たに導入するのが、Xのようなコミュニティノートの仕組みです。メタは公式ブログの中でXの名前を挙げ、「多様な視点を持つ人々が参加することで、バイアスがかかりにくい」とメリットを挙げています。
Xのコミュニティノートは、イーロン・マスク氏による買収以前にTwitter創業者のジャック・ドーシー氏が導入したものです。ノートは基本的に誰でも書けますが、多くの人の目に触れるには、異なる立場の人からの賛同を得るなど一定の条件を満たす必要があります。
投稿者の素性は分からないため社会的な影響力とは切り離されている一方、おかしな投稿者は排除されていきます。コミュニティノートも万能ではありませんが、数の力では動かしにくく、そうした試みをする動機付けを排除している点は注目に値すると筆者は考えています。
注意したいのは、メタとの提携プログラムが終わったとしても、ファクトチェックの重要性には変わりがないという点です。コミュニティノートを書く人にとっても、大手メディアやファクトチェック機関による発信は参考にできるものがあるからです。
また、ファクトチェックとは別に、メタが運用しているコンテンツポリシーに違反する投稿を削除するシステムも改善するようです。2024年12月には毎日数百万件の投稿を削除したとのことですが、削除した10件のうち1〜2件は間違いだった可能性があるとメタは認めています。
この点についてメタは、深刻なポリシー違反についての自動的なチェックは今後も続ける一方で、「移民、性自認、ジェンダーなど、政治的な言説や議論が頻繁に交わされるトピック」については制限を撤廃すると発表しています。
また、そのポリシーの策定やレビューをする部署をメタの本社があるカリフォルニアからテキサスなど米国内の他の拠点に移転するとのこと。その意味について、ザッカーバーグ氏は「バイアスに関する懸念がより少ない場所」と表現しています。
このことから、民主党支持者の多いカリフォルニアではなく、共和党支持者の多いテキサスに拠点を置くことで、メタが掲げる「表現の自由」に党派性のバイアスがかかっていないか、懸念を払拭したいという狙いが感じられます。
米国式「表現の自由」を欧州にもアピールか
今回の方針転換を受け、メタの売上の98%を占める広告の出稿者がどう受け止めるか懸念されます。Xでも話題になったように、多くの広告主は不適切な投稿と一緒に広告が表示されることを嫌うためです。
一方、トランプ政権との協調という点ではプラスに働きそうです。ザッカーバーグ氏は動画の中で、欧州や南米、中国における規制や検閲の状況に触れ、米国式の「表現の自由」を世界にアピールしていく狙いを語っています。
また、複雑なシステムは間違った判断を下すことも多く、ポリシーをシンプルにする必要があるとも強調しています。この点は、イーロン・マスク氏が掲げる「効率化」に通じるものを筆者は感じます。
背景として、以前にトランプ氏と対立していたメタは、急速に関係改善を図っています。トランプ氏の支持者で、大統領選で応援演説をしたこともある総合格闘技団体のCEOを取締役に迎え入れたことも話題になっています。
こうした動きからトランプ政権への「擦り寄り」を指摘する声もありますが、ザッカーバーグ氏が見据えているのはその一歩先でしょう。いうなれば、トランプ政権の誕生という「ピンチ」を「チャンス」に変えようとする思惑が感じられます。
もしトランプ氏を味方につけることができれば、他国に対して「文句があるなら関税をかける」といった取引に持ち込める可能性はあります。ただ、そういうやり方は反発を招くと予想されるだけに、大きな賭けに出ている印象も受けます。
