日鉄のUSスチール買収、バイデン米大統領が「阻止」へ 米報道
米ブルームバーグ通信は10日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を、バイデン大統領が阻止する方針だと報じた。米政府内の手続きを経て、今月末にも正式に決定するという。同通信は、買収が認められない場合、日鉄とUSスチールは、手続きに問題があるとして訴訟を提起する構えだとも報じた。
報道を受け、日鉄は声明を発表し、「米国の正義と公正さ、及び法制度を信じており、公正な結論を得るために、今後、USスチールとも協働し、あらゆる手段を検討し、講じていく」などと述べた。米ホワイトハウスのジャンピエール報道官は報道陣に、「新しい情報はない」と述べるにとどめた。
トランプ氏「大統領として阻止」 日鉄の買収、バイデン政権の判断は
トランプ次期米大統領は2日(日本時間3日)、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収について「断固反対する」とSNSへ投稿した。大統領選前から買収に反対してきたが、当選後でも改めて買収阻止を明言した。米製造業の保護を掲げる次期政権が来年1月に発足するのを控え、買収は不透明感が増している。
トランプ氏は自身が営むSNSに「かつて偉大で力強かったUSスチールが、外国企業に買収されることに断固として反対する」と投稿。「一連の税制優遇と関税を通じ、USスチールを再び強く偉大にする」と政策面からUSスチールを守る姿勢を示した。「大統領として、私はこの取引を阻止する」とも明言した。
トランプ氏の投稿を受けて日鉄は日本時間3日、「雇用を守ることを約束している」「USスチールの拠点に27億ドル以上を投資する予定」との声明を発表。「買収はUSスチールを成長させ、米国内のサプライチェーン(供給網)強靱(きょうじん)化や国家安全保障を強化するもの」と訴え、あくまで買収成立を目指す構えだ。
USスチールという名前でなければ…合理性よりプライド、買収阻む壁
うち捨てられた建物が時折目につく通りの先に、米鉄鋼大手USスチールのエドガー・トムソン製鉄所が見えてきた。
米東部ペンシルベニア州第2の都市、ピッツバーグから車で約30分ほどの田舎町。建屋には、操業が始まったとされる「1875年」の文字も刻まれていた。現役では米国最古の一つとされる貴重な工場だが、老朽化が進んだまま使われていないようにみえる建屋もあった。
米国の粗鋼生産量は1970年代の1.3億トンをピークに、近年はその6割ほどの水準が続く。USスチールも70~80年代に州内外で40工場を閉じた。
苦境が続く米鉄鋼業の「復興」を8年前に同州で公約したのが、初の大統領選に挑んでいた共和党のトランプだった。大統領就任後の18年3月8日、輸入鉄鋼に25%の関税を課す命令に署名し、こう言った。
「鉄がなければ、国家もない」
安い中国製鉄鋼が世界に出回り、苦しんでいた米鉄鋼業界はこの産業保護策に沸き立った。USスチールは、休止していた国内高炉の一部を再び稼働させ、レイオフ(一時解雇)していた500人の労働者を呼び戻すと発表したほどだった。
州内の鉄鋼会社で23年働いたジョン・ミコビッツ(75)は、外国製鉄鋼の流入で製鉄所が閉鎖され、関連企業がつぶれていくのをみてきた。
「トランプ関税のおかげで、米国の鉄鋼労働者にとってより公平な競争環境になったんだ」
トランプの後を継いだ民主党のバイデンは、トランプの「米国第一主義」を散々批判しつつも、その象徴であるこの関税を今も維持する。
バイデン政権は全米のインフラ整備や気候変動対策のための法整備を進め、米国製鉄鋼の使用義務づけや奨励策も法律に盛り込んだ。
先進国最大の鉄鋼市場を高関税で守りつつ、自国産の鉄鋼を優先的に消費する――。お互いを「史上最悪の大統領」とののしり合ってきたトランプとバイデンによる「連係プレー」は、米国を特殊で閉じた市場に変えた。海外から参入するには輸出ではなく、買収などの直接投資しか残されていなかった。
日本製鉄が昨年12月、自力再建を諦めたUSスチールを買収すると発表したのは、そうした文脈の中での動きだった。買収額の141億ドル(約2兆円)は、日鉄と買収を競った別の米鉄鋼大手が示した額の約2倍。関税の「壁」を越えて市場に入れる価値を見込んでのことだ。いったん中に入り込めれば、自らも「保護」してもらえるはずだった。
「世界中探しても、これほど魅力的なマーケットはない」。日鉄副社長の森高弘は買収発表会見でそう訴えた。
だが、壁は関税だけではなかった。
日鉄「買収がUSスチールの工場閉鎖防ぐ」米政府審査の期限前に強調
日本製鉄は9日、米USスチールの工場閉鎖を防ぐ唯一の方法は日鉄による買収だ、と主張する手紙を同社の従業員向けに公開した。買収をめぐる米政府の審査期限が今月下旬に迫るなか、買収は工場の閉鎖につながりかねないとする全米鉄鋼労働組合(USW)に対して改めて反論した。