100万tのコメ備蓄に500億円弱の国費負担、「もったいない」意見あるが…有事なら2か月もたず

100万tのコメ備蓄に500億円弱の国費負担、「もったいない」意見あるが…有事なら2か月もたず

 6月上旬、茨城県神栖市にある製粉大手「昭和産業」(東京)の鹿島工場には、高さ約40メートル、直径7・5メートルほどの巨大なサイロが立ち並んでいた。主に米国やカナダなどから小麦が輸入され、鹿島港の岸壁に設置した大型機械で吸い上げられサイロの中に運ばれていく。

「サイロは大小合わせて107基あり、最大で約8万2000トン保管できます。常に一定量の小麦を備蓄しています」。同工場生産課サイロユニットのユニットリーダー、大西真紀子さん(50)が説明した。

 政府は、凶作や災害、紛争などによる食料危機に備え、パンやパスタ、ラーメンなどの原料となる輸入小麦を約90万トン備蓄している。年間需要約560万トンの2割弱にあたる。コメが凶作となり、タイ米などを緊急輸入した1993年度の「平成の米騒動」などを契機に制定された食糧法に基づく備蓄だ。昭和産業の倉庫に保管されている備蓄小麦もその一部を担う。

 実際、同市では2011年の東日本大震災で震度6弱を観測。穀物を輸入する外国船が一時着岸できなくなったが、備蓄小麦で小麦粉を作り続けることができた。

 政府は、製粉会社などが需要量の2・3か月分を備蓄すれば、保管経費の一部を助成する。年間コストは約40億円。同社もグループ全体の年間需要量の2・3か月分を備蓄し、全国約40か所で保管している。

 「危機があった時に供給を絶やさないのは、食品メーカーとしての社会的使命です」。鹿島工場の坂本浩二次長(47)は強調した。

 5月に成立した改正食料・農業・農村基本法では、国民に対する食料の安定的な供給について、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと併せて安定的な輸入と備蓄の確保を図ることにより行われなければならない、と記した。

 日本は食料自給率が38%(カロリーベース、22年度)と先進国の中で極端に低く、輸入依存度が高い。このため、「台湾有事」などで輸入が大幅に減れば、スーパーやコンビニから食料が消える可能性があり、備蓄穀物は国民を救う食べ物となる。農林水産省食料安全保障室は「コメは約100万トン、トウモロコシなどの飼料穀物も約100万トン備蓄している」と説明する。

 国内のコメの最近の年間需要は約700万トン。政府は約100万トンを全国300か所余り(今年3月末時点)に分散して保管しており、5年程で飼料用米として売却するなどしている。

 農水省はコメの備蓄場所を公表していない。具体的な場所や企業名を明かさないことを条件に、九州地方の倉庫を取材すると、中はひんやりしていた。品質を保つために一定の温度で管理しているためだ。政府備蓄米は大型袋などに入れて高く積み上げられていた。

 備蓄は有事への即効性がある一方、保管のコストがかかることや、貯蔵場所の確保などで制約もある。

 コメ備蓄は年間500億円弱の国費負担が必要なため、量を減らすべきだとの声も一部にある。昨年の食料・農業・農村政策審議会の食糧部会では、委員から「良いものをためて5年放っておいて安く出すので、税金の使い方としてもったいない部分がある」などと懐疑的な意見が出された。

 一方、全国農業協同組合中央会(JA全中)の幹部は昨年、別の会議で備蓄水準の見直しについて、「コメは食料安保の中では要であるし、象徴的な存在であることから慎重に検討する必要がある」と主張した。

 農水省はこれまでのところコメ備蓄約100万トンを見直していない。こうした中、改正食料・農業・農村基本法の関連3法が6月に成立。このうち、食料危機を想定した「食料供給困難事態対策法」に関連し、政府は民間在庫を組み合わせた総合的な備蓄のあり方を含む基本方針の検討を進めており25年中に策定する意向だ。

 先進各国の食料自給率は高い。農水省によると、自給率(カロリーベース、20年)はカナダ221%、豪州173%、フランス117%などで、いざとなれば輸出を止めて国内に振り向けることができる。永世中立国のスイスは、4か月分の小麦、食用油などを官民が協力して備蓄している。

 約14億人の人口を抱える中国では今年6月、穀物を中心とした食糧の安全保障向上のため「食糧安全保障法」を施行。穀物の基本的な自給や耕地保護、備蓄の強化などが示された。

 鈴木宣弘・東京大特任教授(農業経済学)は「国際紛争など有事が起き食料が入ってこなくなると、100万トンのコメ備蓄では2か月ももたずになくなる。少なくとも日本で一番生産が可能なコメは1年間分700万トンを備蓄すべきだ」と主張。その上で「保管費が高くても国民の命を守るのが国の役割だ。超党派で大局的な観点から議論し、国民の理解を得る必要がある」と指摘している。

日本の食料自給率は先進国で極端に低い水準…台湾有事で「日本人半数以上が餓死」分析も

 日本の食料自給率は、先進国では極端に低い水準だ。米国、カナダ、フランスなどは100%を超えている。日本が自給率を下げる一方、欧米では自給率を高めてきた国が多い。近い将来の発生が懸念される「台湾有事」などで日本は食料危機に陥る恐れがあり、自給率の向上は待ったなしだ。

 農林水産省によると、2019年の食料自給率はカナダ233%、豪州169%、フランス131%、米国121%で、ドイツも84%、英国70%だ。全ての国が以前から高かったわけではなく、1965年のドイツは66%、英国は45%と日本(73%)よりも低かった。

 さらに日本は、野菜などを育てる化学肥料や種の多くを海外に依存しており、一部の専門家からは「日本の真の食料自給率は10%程度しかない」との指摘も出ている。

 欧米では農業保護が手厚い。例えば、農業大国のフランスでは生産者保護のため、生産コストに基づき農産物の適正な価格形成を促す「エガリム法」を2018年に公布。生産者と最初の購入者である加工業者との間で、燃料や飼料などの生産資材の価格が高騰した場合、売値に転嫁し、原価を割らないようにしている。

 日本の食料危機は、紛争や食料輸出国の厳格な輸出規制、新たな感染症に伴う物流の大混乱などで起きる可能性があると指摘されている。中でも専門家が懸念するのは「台湾有事」だ。米中が戦争に突入した場合、日本のシーレーン(海上交通路)が破壊され、食料輸入が途絶しかねないというシナリオが想定されている。

 農水省出身でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「台湾有事で海外から食料が全く入ってこなくなった場合、単純計算で日本人(約1億2500万人)の半数以上が餓死しかねない」と分析する。

 山下氏によると、コメで今の日本国民を養うのには年間1600万トンが必要だが、22年産の主食用米の生産は半分以下の670万トンしかないためだ。山下氏は「コメは生産抑制するのではなく、おおいに作り余りは輸出するべきだ。有事の際には輸出を止めて国内で食べる。これは保管費がいらない『無償の備蓄』だ」と主張する。

 食料安保を巡っては、国産の飼料、肥料の増産や新規就農者への支援、最新技術を使って省人化を図る「スマート農業」、「稼げる農業」の実現など農業現場の課題のほか、漁業の振興、地産地消の推進、フードロスの削減なども重要な論点になる。

コメ在庫、過去最低156万トン 昨年の猛暑や訪日客需要で 農水省

 農林水産省は30日、6月末時点のコメの民間在庫量(速報値)が156万トンだったと公表した。

 前年同時期と比べ41万トン少なく、比較可能な1999年以降、過去最低の水準。猛暑による2023年産米の生産不振に加え、インバウンド(訪日客)需要の急増や、パン・麺類に比べ値上がりが緩やかだったため消費が伸びたのが要因だ。

 同日開いた食料・農業・農村政策審議会(農林水産相の諮問機関)食糧部会で示した。今年3月に示した見通しでは177万トンとしていたが、21万トン下がった。

 23年産は1等米の比率が61.8%と前年より約18ポイント低かった。この結果、玄米を精米した後の歩留まりも下がり、新たに市場に出回る量が少なくなったという。

 一方、23年7月から24年6月までの需要量は702万トンで、前年比11万トン増と10年ぶりに増加に転じた。この期間の訪日外国人の数は前年の約2.3倍に急増。農水省はインバウンドによるコメの需要について、1日2食コメを食べると仮定して5.1万トンと、前年の約2.7倍に増えたと試算した。輸入食材を中心に食料全体の価格が大きく上がる中、コメの価格上昇が緩やかだったことも需要を押し上げた。

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