「トランプ氏を標的に」発言は間違い バイデン氏
ドナルド・トランプ(Donald Trump)前米大統領の暗殺未遂事件を受け、ジョー・バイデン(Joe Biden)陣営は、当面はトランプ氏への攻撃の手を緩めざるを得ない状況にある。バイデン氏は15日、トランプ氏を「標的に」するべきだという表現を用いたのは間違いだったと認めた。
バイデン氏は米NBCテレビの番組に対し、先週、献金者との電話会談で「トランプ大統領を標的に据える(put Trump in the bullseye)時が来た」と発言したのは「間違いだった」と認め、民主党に対して討論会の不振を受けてバイデン氏に撤退を求めるよりも「トランプ氏の振る舞いに的を絞るべき」という意図だったと釈明した。
共和党は「標的」発言をやり玉に挙げて、バイデン氏こそがトランプ氏の暗殺未遂につながる政治的な状況を生み出したと非難している。ただし、過去にトランプ氏も連邦議会議事堂襲撃事件をあおったことには触れていない。
しかしバイデン氏はトランプ氏を民主主義に対する脅威だと評した自身の発言を大筋で正当化。事件直後は批判を弱めたが、いつまでも攻撃を控えるつもりはない考えを示唆した。
「民主主義に対する脅威についてはどう語ればいいのか。これ(民主主義に対する脅威)は実在する。大統領がそういう発言をしている時にはどうすればいいのか。誰かを扇動しかねないからといって、何も言わないでいいのか」と反論。
「私は、そのような表現は用いていない。だが今、私の対立候補はそういう言い回しをしている。自分が負ければ、血の海になるだろうと発言している」と主張した。
トランプ氏暗殺未遂、カメラマンはいかにしてその瞬間を捉えたのか
始まりは何の変哲もない選挙集会だった――。カメラマンのエバン・ブッチ氏がAP通信向けに幾度となく撮影してきた集会と同じだ。
トランプ前米大統領はペンシルベニア州バトラーの演台に上がって支持者にあいさつし、演説を始めた。
次の瞬間、あたりは大混乱に陥った。
ブッチ氏は13日の暗殺未遂について、「自分の左肩越しに破裂音が数発聞こえた。すぐに銃声だと分かった」と振り返る。「この時、私は演台にレンズを向けていた。大統領警護隊(シークレットサービス)が駆けつけて(トランプ氏に)覆いかぶさるのが見えた。そこから仕事モードになり、一心不乱に自分の仕事を始めた」
集会参加者の多くが避難する中、ブッチ氏ら写真ジャーナリストはとっさに行動に移った。
ブッチ氏はAP通信のワシントン支局チーフフォトグラファー。「あのときは本能だった」「『この写真を撮らないと』という考えしか頭に浮かばない。写真家の職業病だ。戻って再現することは不可能、今この瞬間に撮影しないと、という思いだった」
銃声が響いた時、ブッチ氏は演台の正面に設けられた緩衝エリアにいた。まず頭に浮かんだのは自身の身の安全ではなく、目の前の出来事を記録することだった。カメラのレンズ越しに歴史的瞬間を捉えるチャンスは二度とない。
「どの場所ならトランプ氏の姿を捉えられるか、ベストアングルを探した」とブッチ氏は振り返る。「そして心の中で『OK、トランプ氏はどうやってここから避難するのか。警護官は彼をどこに連れて行くのか。どのような対応を取るのか』と考え始めた。最終的にトランプ氏が立ち上がり、警護官に連れられて演台の裏側に行くことが分かったので、私も急いで裏側に向かった」
ブッチ氏が撮影したのは、シークレットサービスの要員らがトランプ氏を支えながら安全な場所に連れて行く様子だった。
「トランプ氏は立ち上がると、群衆の方を見て、拳を突き上げ始めた」「ビューファインダー越しに横顔の血が見えた。多くの人がシェアしているのはこの瞬間だと思う」(ブッチ氏)
ダグ・ミルズ氏は40年以上にわたり歴代大統領の報道に携わってきた経歴を持つ。だが、米紙ニューヨーク・タイムズのカメラマンを務めるミルズ氏でも、13日のような出来事は経験がなかった。
「あっという間の出来事で、混乱状態だった。とにかく怖かった」とミルズ氏は語る。
撮影前、ミルズ氏は演台の周囲を歩き回って様々なアングルからトランプ氏の姿を確認。そして演壇のすぐ下に陣取ると、上を見上げた。銃声が聞こえたのはその時だった。
ミルズ氏はこの場所から、今回の銃撃で特に有名になった写真の1枚を撮影した。
決定的な瞬間を捉えていたことに気付くのには時間がかかった。
トランプ氏が安全な場所に搬送されてからしばらく経った後、ミルズ氏は自分の撮った写真に目を通し、ニューヨーク・タイムズ紙の編集者の元に送り返した。
トランプ氏に銃弾が命中した瞬間を撮影したことは分かっていた。一連の写真を見れば、トランプ氏が顔をゆがめて右耳に手を当てていることは容易に分かる。
しかし編集者のジェニファー・モスブラッカー氏から、何か別のものも写っていることを知らされた。
「ジェニファーから5分後に電話がかかってきて、『信じられないだろうけど』と告げられた」とミルズ氏は振り返る。「しくじったかと思った。それが最初に思いついたことだった。すると彼女から『頭の後ろの銃弾を捉えた写真がある』と言われた。『何だって』と聞き返すと、彼女は『シャッタースピードが高速だったので、銃弾が写っている』と続けた」
ジェニファー氏によると、連邦捜査局(FBI)の弾道学の専門家はこの写真を見て「100万回に1回」の写真と形容したという。
ブッチ、ミルズ両氏と一緒にいたゲッティイメージズの写真家、アンナ・マニーメーカー氏は最初、銃声を聞いて花火だと思った。
「だが群衆が悲鳴を上げ、騒いでいる人の一部からショックと困惑の表情で伏せるように言われた。現実とは思えなかった」
マニーメーカー氏の息づかいは荒くなり、頭も混乱し始めていたが、それでもシャッターを押し続け、この日の忘れがたい1枚となった写真を撮影した。
「演台の右手側に移動すると、警護官が全員(トランプ氏に)覆いかぶさっているのが見えた。警護官の脚の間からトランプ氏の顔が見えた」「どれだけ深刻な被弾なのか分からなかったので、容体を確認するために写真を撮った。彼の顔を血が伝うのが見えた」(マニーメーカー氏)
ミルズ氏とマニーメーカー氏、ブッチ氏は全員、混乱の中で自分たちの仕事に集中することがいかに重要だったかに言及した。
ブッチ氏は駆け出しの頃にイラクやアフガニスタン情勢を取材した経験があり、戦闘状態の中に身を置いたこともある。経験があったおかげで混乱の中でも落ち着いていられたと話す。ブッチ氏は同僚たちと同じく、基本に集中した。
「ビューファインダーをのぞきながら「『OK、光源は? 構図はどうなっているのか?』と考えた。『ゆっくり、ゆっくり。フレーミングと構図だ』と自分に言い聞かせた。どれも写真家なら自分に言い聞かせることだ」(ブッチ氏)
トランプ氏が撃たれたとき、マニーメーカー氏は息を切らしながら「オーマイゴッド」と連呼した。それでも動きを止めることはなかった。
「とにかく歴史を記録して、写真を撮りたかった」「少し神経質になっていた。自分にどんな成果が出せるのかと。だからシャッターを押し続けた。ののしり言葉を叫びながら『写真を取り続けるんだ』とつぶやいた」(マニーメーカー氏)
ミルズ氏はAP通信で同僚だったロン・エドモンズ氏から学んだことを思い出そうとしていた。エドモンズ氏は1981年、レーガン大統領の暗殺未遂事件を撮影した人物だ。
「レーガン氏が撃たれた写真を撮影した時の状況について、私はいつも彼に聞いていた。ひるまず、目をそらさず、ただ目の前のことに集中する、という答えだった」(ミルズ氏)
翌日わずか2~3時間の睡眠で稼働しながら、ミルズ氏は一呼吸置いてバトラーで体験したことを振り返った。
「怖かった。後から振り返っても恐ろしい。たぶん、自分の身の安全のために最も賢明な選択肢ではなかっただろう。それでも、私は自分の仕事をこなした」
仲間のカメラマンも同じ思いだった。
「すべてに焦点が合っていたこと、自分のすべき仕事をやり遂げたことに満足している」(ブッチ氏)
右耳には白いガーゼが…トランプ前大統領が暗殺未遂事件後初の公の場に登場 共和党大会聴衆に手を振る
アメリカの大統領選挙に向けた共和党大会が15日開幕し、党の大統領候補に正式に指名されたトランプ前大統領が、暗殺未遂事件以降初めて公の場に姿を見せた。銃撃された右耳には白いガーゼがつけられ、会場に現れると何度も右腕を掲げて聴衆の拍手に応えた。
共和党大会は4日間の日程で始まり、各州などの代議員の投票で、トランプ氏が正式に共和党の大統領候補に指名された。
また、副大統領候補には上院議員のJ・D・バンス氏が指名された。
バンス氏はオハイオ州出身の39歳で、ベストセラー作家としても知られ、「アメリカ第一主義」を掲げ、トランプ氏に強い忠誠心を示している。
こうした中、トランプ氏が創設したSNSの運営企業の株価が15日急騰し、トランプ氏が大統領に返り咲くとの見方が強まったことが影響した可能性がある。
一方、暗殺未遂事件のトーマス・クルックス容疑者をめぐり、アメリカのCNNは、捜査当局が携帯電話の解析からおよそ100件の事情聴取を行ったと報じている。
事件をめぐっては警備の不備を指摘する声も挙がっていますが、国土安全保障省のマヨルカス長官は15日、トランプ氏の警護を強化したと明らかにしている。
射撃練習に銃弾とはしごの購入、トランプ氏銃撃前の容疑者の行動が明らかに
トランプ前米大統領の暗殺未遂事件で、トーマス・クルックス容疑者は事件の前日から地元ペンシルベニア州ピッツバーグ近郊で準備を進めていたことが、捜査関係者の話で明らかになった。
捜査関係者がCNNに語ったところによると、クルックス容疑者は12日、自分が会員になっている射撃場を訪れて射撃の練習をしていた。翌日にはホームセンターではしごを買い、銃器店で弾丸50発を購入した。
その後自分の車を運転して1時間ほどかけ、トランプ氏の集会が開かれていた同州バトラーへ向かい、会場前に車を止めた。車のトランクには手製爆弾を隠し、爆弾に接続した発信機は自分で携帯。はしごを使って近くの建物に上り、前大統領を狙って発砲した。
捜査当局は動機の解明に全力を挙げ、事件前のクルックス容疑者の行動を徹底捜査しているが、事件から2日たった今も手掛かりはつかめていない。
容疑者の携帯電話は解析に成功し、使っていたコンピューターや寝室の捜索も実施。家族や友人からの事情聴取も進めているが、銃撃につながるような政治的動機や思想は見つかっていない。これまでの証拠から浮かび上がったのは、コンピューターのプログラミングやゲームに関心があるごく普通の若者だった。
クルックス容疑者は爆弾を遠隔操作で爆発させる起爆装置を身に着けており、車のトランクに隠した爆弾はこの装置と接続されていた。
捜査当局は、容疑者が銃撃の最中に気をそらす狙いで爆弾を爆発させることを計画していた可能性もあるとみて調べている。
車から見つかった爆弾をクルックス容疑者がどうやって組み立てたのかも分かっていない。ネット検索履歴を調べても、手製爆弾の作り方を検索した形跡は見つからなかった。
銃撃に使ったAR式ライフルは、クルックス容疑者の父親が合法的に購入したものだった。ペンシルベニア州警察の記録によると、父親は20丁あまりの銃を登録し、自宅で保管していた。銃は全て合法的に購入されていた。
容疑者と父親は自宅から車で25分の場所にある射撃場の会員で、一緒に射撃を楽しんでいたという。
CNNの衛星画像分析によると、同射撃場の射程は約200ヤード(約180メートル)。集会場のトランプ氏と、近くの建物の屋上にいたクルックス容疑者との距離の方が短かった。
クルックス容疑者は銃撃の当日、自宅のあるベセルパークの銃器店で弾丸50発を購入していた。
容疑者の父親は13日夕、一体何が起きているのか理解しようとしているとCNNに語り、息子について語るのは「捜査当局と話をするまで待つ」とコメントした。CNNは14日と15日にも父親にコメントを求めたが、返答はなかった。
捜査関係者によると、容疑者の両親は捜査に協力的で、事情聴取に対し、クルックス容疑者に友人はいなかった様子で、政治的傾倒もなかったようだと話しているという。ただ、息子の最近の生活についてはあまりよく知らなかったらしいと捜査関係者は話している。
資産運用大手ブラックロックCMにトランプ氏暗殺未遂の容疑者
米国のトランプ前大統領の暗殺未遂事件に関連して、資産運用世界最大手ブラックロックの過去のCMにトーマス・クルックス容疑者(20)が映っていたことが分かり、同社が問題のCMを撤回している。
13日にペンシルベニア州で発生した事件ではトランプ氏が負傷し、観客1人が死亡。クルックス容疑者はその場で射殺された。
ブラックロックの14日の説明によると、同社は2022年、同州ベセルパーク高校の教員が登場するCMを流したことがあり、背景に短時間映った数人の生徒の中に、クルックス容疑者がいた。「ビデオ映像は全てしかるべき当局に提出する。犠牲者への配慮から、問題の動画は出回らないようにした」と同社広報は説明している。
このCMはX(旧ツイッター)などのSNSで14日に拡散していた。
ブラックロックは「政治的暴力はどんなものであれ強く非難する。我々は礼節とこの国の団結を促進する役割を果たす」と強調している。
ブラックロックは銃器メーカーのスターム・ルガーや、スミス&ウェッソンの親会社アメリカン・アウトドア・ブランズの大株主でもある。
15日に発表した四半期決算では、運用資産総額が過去最高の10兆6000億ドル(約1680兆円)に膨れ上がった。
BlackRock Ad w/ Shooter Thomas Crooks (Full)