より厳しい基準でテストをした……よりも「虚偽記載」が問題! 国が定めた認証試験は「安全なクルマを大量にユーザーに届ける」ために生まれた制度だとの再認識が必要
国の基準がこれまで軽視されてきたことが一番の問題
自動車メーカー各社による、認証不正が大きな社会問題となっている。法を守らないことに対して、自動車ユーザーや自動車販売店が自動車メーカーに対する不信感を抱いている。また、新車の出荷停止処分を受けた車種については納期が遅れ、ユーザーに直接的な影響も出ている。
ここでいう認証不正とは、型式指定の申請に対するもの。本来、国が定める保安基準などについて生産したクルマごとに検査を受ける必要があるが、型式指定の申請における認証を行えばクルマごとの検査の必要はなくなり大量生産がスムースに行える。
見方を変えれば、それだけ認証には法的な重みがあるということだ。
こうした認証については、これまで各種の不正行為が発覚している。たとえば、2016年には三菱やスズキが燃費に関する不正、また近年では日野が排ガスに関して長期間かつ各種モデルで多様な不正、そしてダイハツも多種モデルで多様な不正を行っていたことが明らかになった。
ダイハツの不正を受けて、国は自動車メーカー各社に緊急の社内調査を行うよう要請し、その結果としてトヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機で不正が見つかった。
トヨタ、ホンダ、マツダはそれぞれ6月3日に記者会見を開いて事情を説明したのだが、ユーザーが気になったのは「法令遵守はできていなかったが、基準より厳しい内容の社内試験の結果では安全性に問題はない」という3社共通の表現だ。
ダイハツの不正でも同様の説明があったが、これは、自動車メーカーが認証に対してずさんな管理をしてきたことを示すものだといえよう。社内基準と認証の基準が異なっていることを認識していない、または認識していても自社の都合のいい解釈をしていた、ということにほかならないからだ。
技術論ではなく、ガバナンスにおける大きな欠陥だ。
こうした点についてつい先日、認証に対する国の窓口である、国土交通省 物流・自動車局の幹部3人と都内で意見交換をした。その際、同局の次長は、一連の問題は「虚偽記載」と言い切った。
その上で、新車の出荷停止処分が道路運送車両法において「極めて重い処分」という認識をもつよう、自動車メーカーに改めて求めた。
改善策については、同省で認証不正に関連する有識者会議を実施中で、夏の終わりから秋口を目処に、報告書を公表するという。
また、認証プロセスについても、不正がしづらい、または不正の抑止に繋がるようなDX(デジタルトランスフォーメーション)についても今年度中を目処に一定の方向性を示すとした。ただし、認証プロセスをDXしても、故意で行う「虚偽記載」は防ぎ切れず、そうした点をしっかりと分けた上で議論を進め、認証に対する総括的な改善策を練っていくことになるとのことだ。
豊田章男会長「今の日本は頑張ろうという気になれない」の本当の宛先は…メディアだった
トヨタ自動車豊田章男会長の「今の日本は頑張ろうという気になれない」という発言が話題になっている。メディアの囲み取材で語った発言が切り取られ、拡散したことで、SNSや一部メディアで議論が広がった。そのうちいくつかで「国交省批判、日本批判ではないか」という論調にまで発展しているが、しかし、豊田会長の発言とその文脈を読むと、「メディア」へ向けた言葉であることが分かる(そのメディアが曲解して拡散の一部を担っているのだから目も当てられない…)。トヨタを中心とした自動車産業が日本経済の大黒柱であることは大前提として、この発言はどういう文脈で出てきたものか、真意はどんなところにあるのか、以下、状況の整理と、自動車情報専門メディアとしての見解を記します。
■「強いもの」を叩くよりも、「その力をどう使うか」を考えてほしい
まず簡単に、今回の発言の状況を整理する。
今回話題となっているトヨタ自動車豊田章男会長の「今の日本は頑張ろうという気になれない」という発言があったのは、2024年7月18日に長野県茅野市にある蓼科山聖光寺で実施された、交通事故死者の慰霊や負傷者の快復を祈願する「夏季大祭」での、メディア向け囲み取材でのことだった。
「聖光寺」は1970年にトヨタグループの発案で交通事故死者の慰霊と安全祈願のために建立されたお寺で、毎年トヨタグループの代表者が夏季大祭に参加している。
なぜこうした背景が重要かというと、(取材に参加したメディア関係者は全員わかっていて、あえて一部しか報じていないが)今回の豊田会長の発言は「交通安全をさらに進めるためには何が必要か」という文脈の延長で出た話である、という点があるから。
そもそも認証不正問題とは関係がない。
豊田会長は、「交通事故防止のためには、自動車会社だけ、クルマ側だけでは、出来ることには限界がある。交通安全を推し進め、事故死者ゼロを本気で進めるのであれば、道路インフラ側や歩行者側、自転車や(電動キックボードなどの)新モビリティ側など、社会全体が一体になって進める必要がある」と語った。
「こうした話は、なかなか自動車会社からは言えない。言っても広がらない。我々もがんばりますが、そこは(メディアの)皆さんのお力を借りたい」と、豊田会長は続ける。
より具体的に言えば、今後50年先を見据えて、本気で自動車事故を減らすために(自動車会社だけでなく)行政や道路整備、自転車、歩行者といった社会全体で手を取り合って「安全」や「モビリティを含む社会のありかた」を考えましょうよと語り、その「社会全体」へ訴える手段のひとつとして、メディア関係者に語ったわけだ。
そのうえで、この日、豊田会長は当該発言について、実際には以下のように語っている。
「日本のサイレントマジョリティは、日本という国にとって、いま、日本の自動車産業が世界に対して互角以上に戦っていることについて、ものすごく感謝してくれていると思います。
ところがそれが、日本という国ではすごく伝わりづらいんですね。当たり前になっちゃっているのかもしれない。
もし日本に自動車産業がなかったら、いまの日本は違ったかたちになってしまうでしょう。それに対して感謝してほしいと言っているわけではありません。ただもうちょっと正しい事実を見て、評価してほしい。
(自動車関連会社が)間違ったことをしていたら怒ればいいと思います。そのうえで、応援していただけるのであれば、応援しているということが、自動車業界の中の人たちにまで届いてくれると、本当にありがたい。
そうしないと本当に、本当に、みんなこの国を捨てて出て行ってしまいます。出て行ったらこの国は本当に大変ですよ。
ただ、いまの日本は、ここで踏みとどまって、頑張ろうという気になれないんですよ。
(居並ぶメディア関係者に一瞬目線を送って)
強いものを叩くことが使命だと思ってらっしゃるかもしれませんが、強いものがいなければ、国というものは成り立ちません。強いものの力をどう使うかということを、しっかり皆さんで考えて、厳しい目で見ていただきたい。強いからズルいことをしているだろう、叩くんだ、というのは、これはちょっとね……、でもそこは自動車業界の声として、ぜひお考えいただきたいと思います。」
上記の発言をよく読めばわかるとおり、豊田会長は第一にメディアに向けて語っているということがわかる。この点、ベストカーも含む自動車情報専門メディアにも大いに責任があり、耳が痛い。すみませんでした。
■モビリティの進化に合わせて「基準」や「社会」も進化させられるのか
前段までの反省を踏まえて、今回の一連の発言と「メディアやSNSでの語られ方」について自動車情報専門メディアとしての見解を述べておきたい。
今回、朝日新聞が7月18日付けで豊田会長の上記「今の日本は頑張ろうという気になれない」という発言を報じたことで、SNSと一部メディアで大きな話題を呼んだ。
「(2024年6月に発表された)認証不正問題で国交省から処分を受けてトヨタは呆れている」、「そんなに日本が嫌ならとっとと出て行けばいい」、「いや本当にトヨタが日本から出て行ったら日本経済と雇用は大変なことになる」といった議論に発展。
前段で紹介したとおり、豊田会長自身は、今回の一連の話に「国交省」とは関連させていないし、そもそも認証不正問題についても、発覚当初から「責任は自分にある」と語っている。当然のように厳粛に立入検査と処分を受け入れ、「根絶させるのは無理」と言いながらもグループ全体での情報共有と再発防止に粛々と取り組んでいる。国の認証制度を充分に尊重しているし、「不正は許されない」と何度も何度も語っている。
ここからは認証不正問題の取材を続けている本企画担当者の所感だが、豊田会長もトヨタ関係者も、「(トヨタは国の認証制度に)呆れている」だとか「怒っている」というような報じられかたを決して望んでいないように感じる(むしろ騒ぎ立てることについて、やや迷惑に感じているフシがある)。
望んでいるのは対決ではなく協調だ。
一部では「トヨタは国の基準より厳しい条件で試験していたのに、不正だと騒がれて怒っている」と報じられているが、自動車の衝突安全試験についていえば、大前提の話として「より厳しい条件の試験」をクリアしたからといって「より安全」とは言えない。
たとえば今回の認証不正問題で取りざたされた「後面衝突試験で、衝突させる台車の重量規定1100kgのところ、1800kgの台車をぶつけていた」という件について。
1800kgの衝突試験のほうが、1100kgの試験よりも安全かといえば、そんなことはない。自動車の衝突事故には「相手」がいる。1800kgの衝突に耐えるボディ設計は1100kgの衝突に耐えるボディ設計よりも「相手のクルマへの加害性」が大きくなる。衝突安全試験は「自車の安全性」だけを計っているわけではない。
1800kgの衝突試験と1100kgの衝突試験は、(優劣関係にあるのではなく)それぞれ別の安全基準適合性しか計れない。
こういった、自車と他車、双方の安全性を高める思想を「コンパティビリティ(衝突相手との共存性能)」という。これは1990年代頃に欧州で提案された概念で、もちろん日本メーカーもその重要性は理解している。トヨタだって当然知っている。
だからこそ豊田会長もトヨタ関係者も、「いまの国(国交省)の基準は厳しすぎる」などとは言っていないし、思ってもいない。
では何を考えており、どういう理路で今回のような発言になったか。
国の基準は当然守るべきだし、認証不正は許されない。それは大前提としたうえで、「どういう認証制度や基準値がいいか、国だけでなく社会全体で、自動車メーカーとともに、継続的に考えてほしい」ということ、つまり「自動車メーカーだけでなく、社会全体でモビリティ産業をどういう方向へ進ませるべきか考えてほしい」と言いたいのではないか。
「不正があったか、なかったか」、「基準に適合しているか、していないか」というゼロイチの判断だけでなく、「どういう基準がよいか」を考える機会にすべきなのは明らかだし、そのための仕組みを考える必要がある、という話。
現在、世界の自動車産業は「百年に一度の変革期」を迎えている。
認証不正問題については、(どちらかといえば自動車メーカー側の事情や状況をよく知り、並走してくれている)国交省所管の分野でこれだけの大騒ぎになってしまった。
認証検査については今後各社が丁寧に対応するとして、これがこの先、自動運転や新モビリティとの協調、新エネルギーユニットの普及と(たとえばバッテリーの)リサイクルの問題などを考えると、自動車メーカーは新たに経産省、環境省、総務省、警察庁などとそれぞれ話し合い、擦り合わせをして、協調し、新たな制度や基準を作っていく必要がある。
このような状況で、ひとつひとつ進められるのか。
たとえば他の先進諸国は、すでに国ぐるみ、官民一体で、モビリティをめぐるルールと環境づくりを推進している。そういう国際環境のなかで、日本政府や日本社会はどこまで「モビリティ社会」をバックアップできるのか。
こういった話は、豊田会長に付いて取材に回っていると何度も耳にする。特に海外のイベントに参加して現地で熱烈な声援を受け、自動車関連産業への応援の強さに感動するたびに、振り返って「日本政府や日本社会の、日本自動車メーカーへの対応」について懸念が増すという。
豊田会長が「今の日本は頑張ろうという気になれない」と語った真意は、こうした先々を見据えた議論への期待であり、マスコミ各社や社会全体が「モビリティ社会をどうしたいか」を一緒に考えてほしい、という提案なのだと思う。
トヨタ・ホンダ・マツダ・スズキ・ヤマハで認証不正が発覚! クルマの安全性には問題ないもの多数だが問題は「メーカーへの信頼」
自動車メーカー各社で不正が相次いで発覚
日本においてクルマを量産、販売するために必須といえるのが「型式指定」を受けること。昨年来、ダイハツ工業や豊田自動織機などが「型式指定」の申請に不可欠な認証業務においてさまざまな不正(以下:認証不正と記す)を行っていた報道もあって、型式指定の重要性は多くの自動車ユーザーが知ることになっているだろう。
当然、これらは型式指定に関する監督官庁である国土交通省も問題視している。そこで2024年1月26日に、すべての自動車メーカーに対して“過去10年間における認証不正”についての調査を指示していた。その結果(経過)が6月3日に各自動車メーカーより発表された。
結論からまとめれば、6月3日段階で認証不正があったことを確認したと発表したのはトヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社。スズキとヤマハ発動機はそれぞれ1車種のみで台数規模も小さめだったが、そのほかの自動車メーカーでいえば、認証不正対象が全325万台となっているホンダをはじめ大きな規模となっている。
●各社認証不正 車種数
ホンダ 22車種 (フィット、NSXなど)
トヨタ 7車種(ヤリスクロス、レクサスRXなど)
マツダ 5車種(アテンザ、アクセラなど)
スズキ 1車種(アルトバン)
ヤマハ発動機 1車種(YZF-R1)
ただし、認証不正が確認された車種はすべて現行モデルというわけではない。現行モデルは、トヨタの3車種(カローラフィールダー/カローラアクシオ/ヤリスクロス)、マツダの2車種(ロードスターRF/MAZDA2※)、ヤマハ発動機の1車種(YZF-R1)という3社6車種に限られる。
※1.5リッターガソリンエンジン2021年6月以降販売モデル
つまり認証不正により出荷停止となるのは、上記6車種になる。ヤマハ発動機のスポーツフラッグシップであるYZF-R1やマツダの2シーターモデルであるロードスターRFを除くと、いわゆる大衆車と呼ばれるモデルが並んでいる。生産再開までのスケジュールも読めず、非常に影響は大きいといえるだろう。とくにヤリスクロスは、「ヤリス」ファミリーの販売を支える人気モデルであり、国内での販売ランキングにおける影響も大きそうだ。
なお、ホンダとスズキについては認証不正が認められたモデルが、すべて販売終了となっているため生産・販売における問題はないといえる。
オーバースペックが正義とは限らない
各社の認証不正はけっして同じものではないが、多くに共通しているのは『オーバースペックで試験をしておけばいいだろう』としたもの。たとえば、トヨタでは歩行者保護性能の試験をするのに規定値より急角度でダミーをぶつけていたり、ホンダが騒音試験において規定範囲を超えた車両重量で実施していたりするのは、そうした例になる。厳しい条件で試験することで車両の性能は確保しているといえるが、認証申請というのは規定値で試験すべきものである。オーバースペックでの試験はコンプライアンス的にはアウトであることは間違いない。
不正のなかで残念に感じるのはマツダ・ロードスターRFが出力試験において、量産とは異なる制御プログラムで行ったという事例だ。その背景は、エンジンベンチ試験室の温度が上がってしまい走行中のエンジンルームとは異なる環境になってしまったためということだが、スポーツカーであればこそ、しっかりと対策をして正々堂々と試験をしてほしかった。同様に、レクサスRX(旧型)においてもエンジン出力試験での不正が認められたという。
ダイハツの認証不正では、衝突試験におけるエアバッグのタイマー着火(本来の仕組みではなくエアバッグを展開させること)が問題視されたが、同様の不正はトヨタ・クラウン、マツダ・アテンザといったフラッグシップモデルにて確認されたというのは闇深い。
マツダについてはマイナーチェンジ時にインパネ形状を変えた影響を精緻に確認したくてタイマー着火をしてしまったというが、それは実験段階までにとどめておくべきであって、その数値を型式指定の申請に使ってしまったのは、遵法精神に則る仕組みづくりができていなかったとのは残念といえる。
ちなみに、スズキ・アルトバンにおける不正内容はABSなしモデルにおけるフェード試験の結果をごまかしたというもので、停止距離を実際より短く記載して申請していたというもの。止まる性能をごまかすというのは悪質だが、同じ試験をやり直した結果は問題なかったというから、継続して使用しても大丈夫ということだ。
他メーカーにおいても記者会見を見る限り、世に出まわっているモデルについてリコールになるような問題は起きていないようだ。出荷停止となった6車種についても、ダイハツの各車種がそうだったように国土交通省などにより安全が確認されれば生産は再開することだろう。
しかしながら、根本的な問題は再び販売できるということではない。自動車メーカーへの信頼が失われたこと、そしてブランド価値が毀損されたことが問題だ。個社での対応にとどまらず、自動車業界として信頼回復へ向けての具体的な動きを期待したい。