ANAが「カスハラ」マニュアル、社員の裁量から統一ルールで対応…機内セクハラにも対応策
航空大手のANAホールディングス(HD)が、利用者から理不尽な要求や嫌がらせを受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対応マニュアルを作成したことがわかった。これまでは対応する社員の裁量に委ねられていたが、統一ルールを作成することで従業員を守る。空港では複数の航空会社がサービスを提供しており、対応が異ならないように同業他社との連携も図る考えだ。
カスハラには違法行為かどうかが明確でないことも多く、企業が対応に苦慮している。ANAHDは明確な線引きを定め、カスハラを繰り返す利用者には対応しないなど毅然(きぜん)とした対応を促す。
ANAHDによると、2023年度は社内で報告されただけでも288件のカスハラがあった。電話では暴言、空港では暴行、機内ではセクハラなどが多く、それぞれに対応策をまとめた。カスハラには複数人で対応するとともに、違法行為に発展した場合に備え、相手の承諾を得た上で録音・録画などの記録を残すことを基本とする。宮下佳子CS推進部長は「カスハラは他の乗客も嫌な気分にさせる。対応力に磨きをかけて防止に取り組む」と話す。
カスハラの被害は年々、深刻化している。連合が約1000人の会社員らを対象に22年に実施した調査では、直近5年間でカスハラが「増加した」との回答が36・9%を占めた。被害を受けた人の38・2%が「出勤が憂鬱(ゆううつ)になった」と回答している。
厚生労働省は22年にカスハラ対策の企業マニュアルを公表しており、企業の対応が徐々に進んでいる。東京メトロは今年3月、カスハラに該当すると判断した場合、原則としてその後の対応を断るなどとした指針を策定した。JR東日本も4月、同様の方針を公表している。東京都も防止条例の制定を目指している。
客室乗務員の盗撮・無断撮影、7割が被害訴え…「逆上されたら」と注意できず
「撮影罪」創設で抑止期待
航空機の客室乗務員を盗撮したり、無断撮影したりする行為が後を絶たない。航空各社は無断撮影を控えるよう周知しているが、客室乗務員の7割が被害を訴え、スカートの中を盗撮されるケースもある。政府は今国会での成立を目指す「撮影罪」を盛り込んだ新法案で性的撮影などへの処罰の強化を図るが、対象となるのは一部の行為だ。歯止めはかかるのか――。(加藤哲大)
覚えのない写真
「気付かないうちに撮られていると思うと怖い」
そう打ち明ける大手航空会社の客室乗務員の女性(40)は、過去に空港や機内で無断撮影された経験が何度もある。覚えのない自身の写真が突然、手紙を添えて会社に届いたこともあるという。
航空各社の労働組合などで作る「航空連合」が3月に公表した客室乗務員へのアンケート(回答1573人)では、38%が乗務した便で盗撮・無断撮影が「ある」と回答。「あると思う」を含めると71%に上り、うち1割弱はスカートの中を盗撮される被害だった。
航空各社は、盗撮が確認できた場合、客室乗務員が撮影の中止や画像の削除を求めたり、警察官に引き渡したりするなどと対応を定めている。
しかし、アンケートで被害が「ある」と回答した人のうち、画像の削除を依頼したのは22%、口頭で注意したのは18%。57%は「対処できなかった」と答え、この客室乗務員の女性は「撮られていると思っても、『逆上されたら』『勘違いだったら』と考え、簡単には言い出せない」と明かす。
こうした中、航空業界では「撮影罪」を盛り込んだ新法案への期待が高い。
これまで盗撮行為を直接取り締まる法律はなく、各都道府県が定める迷惑防止条例などが適用されてきた。しかし、条例は行為が行われた自治体を特定する必要があり、高速で移動する乗り物内での適用が難しかった。
2012年には、高松発羽田行きの機内で客室乗務員のスカートの中を撮影したとして、乗客の男性が兵庫県迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で逮捕されたが、不起訴になっている。盗撮場所が兵庫県上空かを特定出来なかったためとみられるが、法が整備されれば、こうしたケースも処罰可能になる。
厳罰化も図られる。条例の罰則上限は、地方自治法の規定で「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」だが、撮影罪の罰則は、これを上回る「3年以下の拘禁刑(懲役)または300万円以下の罰金」となる見通しだ。
拘禁刑は、懲役と禁錮の両刑を一元化した刑事罰で、25年までに運用が始まる。
網羅はできず
ただし、撮影罪にも限界がある。処罰対象は、尻や胸などの性的部位や着用している下着などの盗撮のみで、制服などを着た状態で撮影したケースは罪に問われない。
女性アスリートらを性的な目的で盗撮する行為などを含め、広く処罰できる法を望む声もあったが、法制審議会(法相の諮問機関)などで「(ユニホーム姿など)視認できる部分の撮影について違法と適法を切り分けるのは難しい」との意見が根強かったためだ。
性犯罪被害に詳しい上谷さくら弁護士は「新法案は、盗撮を全国一律に規制し、罰則も厳しくなる点で評価できる。ただ、新法案で網羅できないケースでも女性の不安は大きい。ひそかにカメラを向ける行為そのものが、許されないという社会認識を広げる必要がある」と強調する。
新法案、提供も処罰対象
「撮影罪」の創設を盛り込んだ新法案では、盗撮画像の提供や保管も、それぞれ「提供罪」「保管罪」として処罰対象になる。
中でも、盗撮画像をインターネットにアップするなど不特定多数が閲覧できるようにする「公然陳列罪」は、5年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金と罰則が重く、拘禁刑(懲役)と罰金の両方が科されることもある。
新法案には、検察が撮影罪やリベンジポルノ被害防止法違反の捜査で押収した性的画像を、不起訴などでも廃棄・消去できる仕組みの導入も盛り込まれた。
現行法では、有罪とされた犯罪事実に関する画像以外は、容疑者側が要請すれば返却せざるを得ず、改善を望む声が上がっていた。
