ヤバすぎる円安に「財務省の宇宙人」も手詰まりか…?「1ドル155円」突破でも日本が身動きとれない「4つの誤算」

ヤバすぎる円安に「財務省の宇宙人」も手詰まりか…?「1ドル155円」突破でも日本が身動きとれない「4つの誤算」

あの「ミスター円」もお手上げ

 外国為替市場で3月下旬以降、円売り圧力が一段と強まっている。今月24日には1ドル=155円台を付け、1990年6月以来、約34年ぶりの円安・ドル高水準を記録した。

 行き過ぎた円安はエネルギー・食料品などの輸入コスト高を助長し、家計や中小企業の心理を冷やして景気を失速させかねない。懸念を強めた政府与党内では、財務省による大規模な円買い・ドル売り介入を期待する声が高まるが、「市場での投機筋との攻防は戦争だ」と公言してはばからず「ミスター円」の異名を取る神田真人財務官(1987年旧大蔵省)も、今回ばかりは孤立無援の状態で、旗色が悪そうだ。

 神田氏が頼りにされるのは、2022年9~10月の円安進行局面で総額9兆円にも上る大規模な円買い・ドル売り介入を断行、一時的とはいえ為替相場を5~6円程度、円高方向に押し戻した実績があるからだ。当時は「(介入は)スタンバイ状態」とアピールしたり、「G20(20ヵ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議出席のため、米ワシントンに移動する飛行機の中からでも介入の決定は下せる」と嘯いたりと、投機筋の動きを厳しく牽制。そのハイテンションぶりもマスコミで話題となった。

 今回も「相場の行き過ぎた動きには、あらゆる手段を排除せず、適切な対応を取る」と繰り返しているものの、1ドル=150円を超す円安進行を何としても食い止めようとしていた2022年秋のような熱気は感じられない。実際、市場が当初「防衛ライン」と見ていた1ドル=152円を突破して円安が進んだ4月10日も介入に踏み切らなかった。歴代財務官OBからは「1ドル=160円に向けてさらに円安が進むようなら、介入せざるを得ない。何もやらなければ当局のクレディビリティ(信用)に関わる」との声も出ているが、介入の総元締めである神田氏はどう判断するか。

「マイナス金利終了」は期待外れに

 財務省中枢幹部は「神田財務官は、東大時代に少林寺拳法部に所属した武闘派で『国士』を自任するだけに、介入したくてうずうずする思いだろうが、今回は分が悪い」と指摘する。円安進行の歯止めになる見込んだイベントがことごとく期待外れに終わったからだ。

 一つは3月19日に日銀が決めたマイナス金利政策の解除だ。植田和男総裁は金融政策決定会合後の記者会見で「異次元緩和は役割を終えた。(今後は短期金利の操作を主な手段とする)世界の中央銀行がやっている普通の金融政策に戻る」と高らかに宣言。財務省もこれをきっかけに為替相場の潮目が反転すると期待していた。

 しかし、いくらマスコミが「17年ぶりの利上げ」と騒いでも、短期の政策金利の引き上げ幅はごくわずかで、2016年のマイナス金利政策導入前の0・0~0・1%の金利水準に戻ったに過ぎない。日銀はそう表現されることを嫌うが、実質的にはゼロ金利政策に他ならず、植田総裁らが喧伝する「金利のある世界」に復帰したわけではない。

 さらに長期金利を低く抑える長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)も撤廃したというものの、長期国債の買い入れ額はこれまでと同水準の月6兆円程度に維持。一定の利回りを指定して無制限に市場から国債を買い入れる「指し値オペ(公開市場操作)」などの金利抑圧手段も温存されたままでは、羊頭狗肉というしかない。百戦錬磨の投機筋はそれを見透かし、マイナス金利解除直後から大規模な円売りを仕掛けた。

「ドル全面高」では多勢に無勢

 神田氏にとってもっと大きな誤算だったのは、米国の利下げ局面入りが遠のいたことだろう。

 3月の雇用統計や消費者物価統計で米経済の底堅さと、しつこいインフレ圧力が確認されたことで、米連邦準備理事会(FRB)による6月利下げ説は事実上消滅。当初は「年内3回」と予想されていた利下げ回数も1~2回にとどまるとの見方が大勢となっている。それどころか、市場関係者の間では「年内利下げゼロ」とか「インフレ動向次第で逆に追加利上げもあり得る」との観測も浮上しており、足元で23年ぶりの高水準にある米政策金利(5・25~5・50%)は容易に下がりそうにない。

 日米金利差が縮まらなければ、円売り圧力が収束しないのも当然だ。しかも、今回は高金利通貨であるドルが、円だけでなく、ユーロなど他の主要通貨に対しても強含む「ドル全面高」の様相を呈している。そんな中で日本が独り大規模な円買い介入に踏み切っても、多勢に無勢。「前回のように相場を有意に押し戻すことは困難」(米銀トレーダー)と見られている。

 しかも、日銀がお札をドンドン刷れば理論上は介入原資をいくらでも得られる円売り・ドル買いとは異なり、円買い・ドル売りの場合は「日本が持つ外貨準備の範囲内でしか行えない」(財務省国際局筋)という制約がある。

 日本の外貨準備(2024年3月末時点)は総額1兆2906億ドル(約198兆円)と潤沢とは言え、大半を米国債で保有しており、全額を介入につぎ込めるわけではない。国際金融マフィアの間の暗黙のルールでは、自国通貨を買い支えるために他国の通貨を売る場合、その国の長期金利に影響を及ぼさないようにするのがセオリーだからだ。

 これに則れば、米国債には安易に手を付けられず、円買い介入の原資はドル預金の1550億ドル(24兆円弱)に限られることになる。前回同様に9兆円規模の介入なら2回程度がせいぜい。「無駄打ちは許されない」(財務省筋)という厳しい状況だ。

 「前回の介入では米国債の一部も売却して円買い・ドル売りの原資に充てている」。神田財務官周辺筋からはこんな反論の声も漏れる。だが、今回は米国側が米国債売却をそうやすやすと容認するとは思えない。当時は2%の物価目標の達成がなお見通せないとして日銀が異次元緩和を継続し、日本が行き過ぎた円安に歯止めを掛ける手段は介入しかなかった。このため、イエレン米財務長官ら米当局側も神田氏の主張を受け入れた経緯がある。

日銀「追加利上げ」なら景気後退も

 しかし、曲がりなりにも日銀がマイナス金利政策を解除した今は、円安に歯止めをかけたければ、追加利上げという手段もある。介入に向けた米国側との協議では、日銀の金融政策のあり方も必ず論点となるはずだ。

 仮に「利上げとセットなら介入を認める」と米側から条件づけられた場合、財務省や日銀は苦慮するだろう。マイナス金利解除という象徴的な意味しか持たない政策変更とは異なり、追加利上げは短期プライムレートの上昇につながり、変動型住宅ローン金利を利用する家計の支出増や企業の借入コスト上昇に直結する。異次元緩和策が11年にも及び「金利のない世界」に浸ってきた家計や企業が急激な変化に耐えられるとは思えず、個人消費や設備投資を冷え込ませ、景気を腰折れさせかねない。

 植田日銀が円売りの材料にされることも覚悟で、追加利上げを急がない姿勢を盛んにアピールしているのは、「十分な助走期間」(日銀幹部)を確保しなければ本当の「金利のある世界」に移行できないと踏んでいるからだ。

 科学や文化、芸術への造詣も深く、その尋常ならざる博覧強記ぶりで部下から「宇宙人」とも綽名される名物官僚の神田氏も、今夏の人事で退官する予定。2年後には財務官先輩の浅川雅嗣氏(1981年旧大蔵省)の後を襲ってアジア開発銀行総裁に就任する見通しだ。

 財務官在任があと3ヵ月足らずとなる中、足元の厳しい円安進行局面を乗り切り、有終の美を飾れるか。「ミスター円」の真の力量が試されている。

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