小林製薬「紅麹問題」 広がるサプリ控えで中小企業が苦境に

小林製薬「紅麹問題」 広がるサプリ控えで中小企業が苦境に

 小林製薬の「紅麹(こうじ)」原料を含む機能性表示食品の問題が食品業界に影を落としている。消費者が紅麹以外の健康食品も避け始め、各社で販売が苦戦。新商品開発をストップする企業も現れた。比較的安価に機能性をアピールできる制度だっただけに、中小企業への影響は大きい。

 「半年近く一緒に頑張って商品を企画してきたが、土壇場で成約を断られてしまった」。大阪のある中堅食品メーカーで働く営業担当者は、顧客からの突然の発注取り下げに肩を落とす。

 同社は健康食品などのODM(相手先ブランドによる設計・製造)を手掛け、近年は機能性表示食品の企画支援にも力を入れていた。小売事業者のプライベートブランド(PB)を手掛けるなど取引先は幅広い。

 ところが小林製薬の紅麹問題以降、風向きが変わりつつある。健康食品の安全性への懸念が指摘され「消費者が紅麹以外の機能性食品も避け始めた」(同社営業担当者)。

 実際、SNSなどでは「飲んでいるサプリメントをいったん全てやめた」といった書き込みが散見される。こうした動きを受け、販売苦戦を見越した企業の間では新商品の開発をストップする動きが出始めているという。

 食品業界ではサプリメントなどの製造を中小企業が引き受けることが一般的だ。大手が製造能力のバッファー(調整弁)として一部商品の生産を委託したり、異業種が企画した商品の製造を請け負ったりする。それだけに今回の問題は中小企業へのしわ寄せが強く出る可能性がある。

 営業担当者が語った冒頭のケースでは、紅麹とは関係ない機能性表示食品の開発を進めていた。顧客企業とともに消費者ターゲットの絞り込みやサンプル品の少数生産なども進めていたが、あくまで契約前のためメーカー側に売り上げは立っていない。営業担当者が肩を落としたのは、それまでの時間と費用が無駄になったからだ。

●届け出件数の7割が中小

 機能性表示食品制度は2015年に始まった。健康効果を裏付ける論文を消費者庁に提出すると、その効果を商品パッケージに表示できるようになる。

 消費者庁の統計によると、15年に申請された172件のうち7割強をキリンビバレッジやアサヒビール、キユーピーといった大手メーカーが占めた。この比率が23年には3割程度まで下がり、中小企業が盛んに利用する制度になっている。

 1990年代に始まった特定保健用食品(トクホ)よりも開発コストを大幅に下げられることから、資金力の乏しい中小企業に一気に広がった。

 どちらも食品の健康効果を表示できる制度だが、トクホは製品ごとに有効性や安全性について審査を受けて消費者庁の許可を得る必要がある。最低でも1億~2億円の費用がかかり、許可が下りるまで2~3年かかることもざらだ。

 トクホの表示許可を審査する会議が3カ月に1回程度しか開かれないことに加え、消費者庁や厚生労働省など複数の省庁が関わるため確認に時間がかかる。「消費者ニーズの変化が速い食品業界では使い勝手が悪い」(大手食品メーカー関係者)と評されてきた。

 よりスピーディーに商品を開発できるようにと導入されたのが機能性表示食品制度だった。数十万円の費用があれば届け出可能で、早ければ半年~1年程度で受理される。

 ポイントはトクホのように「製品ごと」に審査するのではなく「成分ごと」に評価するようにした点だ。例えば「難消化性デキストリン(食物繊維)」はおなかの調子を整える作用などが過去の論文で明らかにされている。同成分を用いた食品はトクホにも機能性表示食品にもある。

 トクホであれば申請した製品自体におなかの調子を整える機能があることを調査で証明しなければならないが、機能性表示食品であれば過去の論文を根拠として使える。既に健康効果が多数報告されているような一般的な成分であれば、開発のハードルは大きく下がる。

 消費者庁への申請手順を教える講座を提供する一般社団法人、機能性表示食品検定協会(東京・渋谷)の持田騎一郎会長は「機能性表示食品だからトクホよりも安全性が低いというわけではない」と説明する。

●小林製薬は早期の原因究明を

 中小企業でも使いやすい制度になったことで、経営危機を脱した会社もある。1949年創業の医薬品や健康食品の原料メーカーの常磐植物化学研究所(千葉県佐倉市)だ。

 植物成分の健康効果を自社で数十年にわたって研究してきたが、マーケティングに活用する方法がなく大きな売り上げにはつながっていなかった。2000年代には海外の安価な競合製品の台頭により販売が落ち込み、債務超過目前まで迫っていたという。

 15年に機能性表示食品制度が始まったことで過去の研究成果を生かす道が開かれた。同社の論文を使えば素早く商品開発できることから、花王やファンケルといった大手企業とも契約を結ぶことができた。立﨑仁社長は「当社が経営再建できたのは機能性表示食品制度のおかげ」と振り返る。足元で批判を浴びる同制度だが、中小企業に活躍の場を与え、市場を広げてきたことは確かだ。

 なぜ小林製薬の紅麹サプリメントで健康被害が生じたのかは、4月15日時点で完全には明らかになっていない。異物混入などの可能性が指摘されるものの、詳細は調査報告を待つ必要がある。

 制度のあり方を巡っては専門家による検討会が立ち上がる見通しだ。原因究明に時間がかかれば、それだけ消費者の不安は長引き、業界への逆風は強まる。小林製薬には早期に原因を究明する責任がある。

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