テスラ車など「中古EV」価格が大暴落、ガソリン車よりも「まったく売れない」納得理由

テスラ車など「中古EV」価格が大暴落、ガソリン車よりも「まったく売れない」納得理由

 1月と2月における米国でのEV新車販売台数が前年同月を下回った。まだ2カ月間ではあるものの、「成長の減速」から「マイナス成長」へと突入した可能性がある。こうした中、レンタル大手のハーツがレンタル用EVを売却して事業を縮小する代わりに、ガソリン車の購入を加速。テスラをはじめとした米中古EV価格も、ここ1、2年で急速に下落している。EVのような高額商品の普及には健全な中古市場の形成が欠かせないが、その市場で一体何が起きているのか。

「新車EVリースが3倍」の意味すること

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 米国におけるEV新車販売台数の前年割れが続いている。1月は7万9517台と前年同月の8万7708台を下回り、2月も8万1946台と前年同月のおよそ10万台から減少した。2023年後半から目立つようになった成長の減速がさらに進み、マイナス成長に陥った。購買層の中心が、経済性や実用性を重視する一般消費者に移ったことが大きな理由だ。

 その一方で、EV購入のパターンに興味深い変化が起こっている。ローンや現金による購入に代わって、新車EVをリースする人が増えているのだ。

 信用リスク分析・管理データ企業エクスペリアンがまとめた米新車EV市場のデータによると、2023年通年の販売でおよそ119万台のうち、リースの割合は30.7%の約35万台であった。前年の9.8%から3倍以上も増えている。

 これは、注目すべき現象である。なぜなら、通常のリース契約期間である3年を過ぎた2026年に、35万台規模という多くのリース車両が中古市場に出回ることを意味しているからだ。さらに、EV躍進の年であった2022年から2023年にかけてローンや現金で購入された新車EVの多くも、2026年頃から中古市場に出回り始めると考えられる。

 そうした背景もあり、EVバッテリー検査を手掛ける米リカレントは、米中古EVの市場規模が2023年の約40万台から2024年にはおよそ56万台に拡大すると見積もっており、その市場規模はさらに拡大していくと推測される。同社のスコット・ケースCEOは、「(新しいパワートレインのEVにとって)健全な中古市場の形成は、ある意味で新車市場よりも重要だ」と語る。

 米中古EV市場が質と量において、大きく変化することが予想されるのだ。詳しい分析はこの記事の後半で行うが、その前になぜ2023年にEVリースが急増したのか、簡単に理由を押さえておこう。

リース爆増を生んだ「3つの理由」

 まず、最大7,500ドル(約115万円)が支給される連邦政府EV新車購入補助金の対象モデルは2023年から北米産に限定され、外国製EVのほとんどが対象から外れた。だが、対象外の海外製であっても、リースであればリース業者に補助金が支払われる「抜け道」がある。これが大いに利用されているのだ。

 上記の通り、2023年10~12月期に米国で最も多くリースされたモデルはBMWのiXで、販売の91%がリースで占められた。これにBMWのi4(79%)、日産のアリア(78%)、ヒョンデのIoniq 6(64%)、起亜のEV6(57%)、そしてヒョンデのIoniq 5(49%)などが続く。米国における外国製EVの販売の多くが、リース需要に支えられていたことがわかる。

 さらに、高金利の環境下で、自動車ローンを組むよりもリースの方がお得と判断した消費者が多かったことも考えられる。

 そしてもう1つ考えらえる理由が、2023年後半に、中古EVのリセール価格の暴落が米メディアで大きく伝えられたことだ。

 そのため多くの消費者は、価値の急落リスクをリース業者にシフトして投資損を出さない道を選んだということだろう。事実、中古EVの価値はすでに下落が始まっているようだ。

1年で3割減、中古EV「価格下落」の謎

 オンライン中古車サイトの米iSeeCars.comの分析によると、中古エンジン車の価格下落率が2022年10月から2023年10月の間に5.1%にとどまったのに対し、同期間の中古EV価格下落率は33.7%と、価値下落が著しい。さらに、在庫日数も長期化して、ディーラーにとっての「リスク在庫」となっている。

 リカレントによれば、現時点で中古EVの平均価格は2万7,000ドル(約405万円)であるという。この価格下落をけん引するのが、米EV市場において圧倒的なシェアを持つテスラだ。

 Model YとModel 3を例にとると、その下落の度合いが一目瞭然で、中古価格は2022年半ばから急落している。テスラは、激化する競争に生き残るために、相次いで新車価格の値下げを断行しており、それが波及して中古価格を押し下げているのだ。

 そして、そのテスラ車の中古市場価格をさらに不安定化させる出来事が1月に起こった。米レンタカー大手ハーツが、保有するEVの3分の1以上に相当する約2万台を売却し、その売上でガソリン車の購入を増やす方針が伝えられたのだ。ハーツが運用するEV5万台のうち8割(およそ4万台)をテスラ車が占めるが、中古のModel 3についてはおよそ2万ドル(約300万円)という割安な再販価格で売りに出している。

 ハーツが多くのEVを手放すのは、EVの修理費と減価償却費がガソリン車の約2倍高いのが理由だという。また、ハーツの幹部によればテスラには交換部品や熟練の修理工でも他のメーカーほどの数がそろっておらず、修理に時間がかかる。

 この理由が広く報道されているため、消費者の中古EV購入をさらにためらわせる要因となることが予想される。米中古EV市場の「ハーツショック」だ。これに加えて、配車プラットフォームのウーバーで使用されていた大量の中古EVが2025年以降、市場に出回ると予想されており、価格はさらに下がりそうだ。

ガソリン車ほど需要がない…中古EVは「時限爆弾」か?

 このように、中古EVを取り巻く環境は厳しい。欧州トヨタ自動車のマット・ハリソンCOOは、「中古EVに対する需要はない。所有コストが割に合わないからだ」と切り捨てる。iSeeCars.comのアナリスト、カール・ブラウアー氏も、「EVが5分から10分の充電で満タンのガソリン車くらいの距離を走れなければ、ガソリン車と同じレベルの需要はない」と手厳しい。

 こうした低評価の中、中古EV市場をどのように安定させるかは、EVメーカーのみならず、ディーラーや、4,000ドル(約60万円)の中古EV補助金でEV市場全体の拡大を後押しする連邦政府などにとり、急を要する課題である。

 テスラのModel 3を例にとると、走行距離10万マイル(16万934キロメートル)のバッテリー保証の上限に近い8万8000マイル(14万1622キロメートル)を走った中古車両に関して、多くの消費者はためらいを感じるかも知れない。

 なぜなら、バッテリー修理に2万ドル(約300万円)かかるケースが報じられており、リスクが大きいからだ。なおテスラは、多くの場合にバッテリーが保証距離の2倍である20万マイルの走行に十分耐えると主張している。

 そのため、中古EVの評価基準の確立が急務である。だが、走行距離が一定の目安となり、寿命を予測することが比較的容易であるガソリン車やハイブリッド車と比較して、EVはバッテリー劣化で課題を抱えるなど、経年劣化は未知数なところが多い。残存バッテリー寿命がわかりにくい中古EVをどのように値付けするかがカギとなるだろう。

 元テスラ取締役で、中古EV卸のマーケットプレイスPlugの創業者であるジミー・ダグラス氏は、「中古ガソリン車と比較して、中古EVはまったく違う種類の資産だ。(消費者が知りたい)残存バッテリー寿命のデータの評価方法を標準化し、透明性を高めることが重要だ。そのため、EVメーカーも積極的にデータを開示すべきだ」と指摘する。

 また、米国のEVシフトにおいて、低所得層にも普及させるカギは中古EVとする声がある。だが、これまでに見てきたとおり、中古EV保有には残存バッテリー寿命や修理代などライフタイムの保有コストが考慮される必要がある。このリスクが軽減されない限り、低所得層に中古EVを推奨することは、寿命に不安のある「時限爆弾」を押し付けることになりかねない。

 一般消費者が安心して中古EVを保有できるようになるまでには、評価方法において試行錯誤が繰り返されるだろう。そのため、EVについては利用形態がさらに「所有」から「リース」へとシフトするのではないだろうか。

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