ハイブリッドが当面の“現実解”である理由 勝者はトヨタだけではない

ハイブリッドが当面の“現実解”である理由 勝者はトヨタだけではない

 欧州や米国でEVシフトに急ブレーキがかかっている。着実に販売台数は増えているが、とても2030年、35年に完全にEVだけにするのは無理であることに、行政も自動車メーカーも気付いたのだ。

 いや自動車メーカーはとっくに気付いていながら、ユーザーの購入意欲をあおるために利用していた節もある。環境への意識の高さをアピールする道具として利用していた欧州メーカーもありそうだ。

 実際、EVが環境にいいクルマであるという根拠は薄い。排ガスを出さないのは事実だが、CO2を出さないゼロエミッションだというのは走行中という限られた領域だけだ。再生可能エネルギーなら電力もCO2フリーだと言われるが、ソーラーパネルも風力発電も設置して発電するまでにCO2をたくさん出す。

 また充電を短時間に済ませられる急速充電は、バッテリーの劣化を招くだけでなく、電力も無駄にする。いくら電導率の高いケーブルを使っても、大電流を流せばケーブルは発熱し冷却する必要も出てくる。その熱エネルギーは電力が変化したものだから、それだけ電気が無駄に消費されていることにもなるのだ。

 ガソリンエンジン車であれば、急いで燃料を補充しようとしても、周囲に飛び散らせたりこぼしたりすることなどない。火災の危険もあるから当然だが、燃料自体を無駄にすることがほとんどないのだ。

 普通充電を利用しようにも、一晩で充電できる量は限られている。しかも大容量のバッテリーは日常では使いきれず、その日に使った分を普通充電で補うだけ。つまり無駄に大容量のバッテリーを運んでいることになる。

 そう考えると、少なくともバッテリーのエネルギー密度や生産とリサイクルの環境負荷が改善されるまでは、1台当たりのバッテリーは小さい方がいいのだ。したがって現時点では、エンジンで発電してモーター駆動で走行する方式のシリーズハイブリッドが最も現実的なのである。

日野は大型トラックにパラレルハイブリッド採用

 一方、エンジンをモーターがアシストする方式のパラレルハイブリッドでは、メインの駆動力はエンジンとなり、負荷の高い領域をモーターによって軽減する。しかしエンジンも、発進時や加速時には回転数を高め、出力を上げる必要がある。

 エンジンは一定回転で、モーターが加速時の負荷を全て受け持つ仕組みも不可能ではないが、それならエンジンは発電に専念して、モーターだけで走行した方が効率は高まる。問題は、これまで車格に応じて利用してきたエンジン資産という縛り、固定概念だろう。

 日野自動車は19年に大型トラックの「プロフィア」にハイブリッド車を設定した。これは既存のエンジンにモーターを追加することで、加速時にはモーターの駆動力でアシストし、減速時には回生ブレーキでバッテリーを充電して発進時や加速時に備える、パラレル方式のハイブリッドだ。

 高速の平坦路巡行時には効率のいいエンジンで走行するのだが、負荷が大きい時にはモーターを併用することでエンジンの負担を軽減して燃費を向上させる。

 しかしこれはトラックの進化においては過渡的な仕様と言える。エンジンは発電に専念すればここまで大きな排気量は必要ない。定速回転で運転、発電してモーターを駆動し、発進時や登坂時、加速時はバッテリーに蓄えた電力も利用してモーターに電力を送ればいいのだ。それなら発電能力は動力性能ほど必要ではないから、発電機もエンジンもずっと小型で済む。

 現時点では、プロフィア ハイブリッドは通常のエンジン車と同じエンジンを搭載し、モーターの出力は控えめとなっている。これは車両価格の上昇を抑え、燃費性能の高さで価格差を回収するための措置だろう。実燃費が1割向上すれば、長距離便で使用するなら数年で価格差は回収できる。

効率的なハイブリッドトラックにするために

 トヨタのTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)は、シリーズハイブリッドにもパラレルハイブリッドにもなる独自のストロングハイブリッドと呼ぶ機構だ。これを大型トラックにも導入することは不可能ではないが、エンジンの出力や発進時の駆動力に耐えるためには、THSの各部品の強度も確保しなければならず、さらにモーターも2基必要になる。

 どうせ2つモーターを使うのであれば、シリーズハイブリッドとしてエンジンを中型トラック用などにした方が安価で効率の高いシステムにできる。さらに駆動用モーターに2、3段の変速機を組み合わせれば、高速道路から市街地、急坂の登坂まで対応できるシリーズハイブリッドトラックができあがるのではないだろうか。

 行き先が決まっている定期便であれば、燃料電池を利用する手もある。しかし、それもモーターだけで走行するのであり、現在の水素の製造や電気への変換効率を考えれば、シリーズハイブリッドと比べてそれほどメリットがあるとは言えない。

乗用車もシリーズハイブリッドが最有力

 トラックだけでなく乗用車にしても状況は変わらない。

 弱点は高速走行時には効率が落ちることで、そのためホンダや三菱のシリーズハイブリッドは高速巡行時にはエンジンの駆動力で走行するためのクラッチを備えている。ホンダの2モーターハイブリッドは、最新型ではさらにエンジン側に2段変速機構を備えて、エンジン回転を抑える工夫がされている。

 欧州では高速性能を重視する傾向が根強く、移動時間短縮のために高速性能に優れたクルマを購入する向きも多い。しかし高速性能が高い、ということはそれだけ燃費は低下するので、今後の環境規制を考えると速度規制が厳しくなっていく可能性もある。

 燃料価格が上昇している今、日本の高速道路では平均速度が下がっており、制限速度が時速110キロ、120キロの区間でも制限速度までスピードを上げないドライバーが多い。いずれ欧州もこうなってくるだろう。

 コロナ禍以降、移動をなるべく避けてきたことを経験して、今や効率のいい移動、無駄の少ない移動をするのが常識となりつつある。バイオ燃料は航空業界も取り入れ、今や奪い合いの状況だ。

シリーズハイブリッドの今後の課題

 前述のようにホンダのe:HEVや三菱のPHEVのほか、日産のe-POWER、マツダのロータリーEVと、シリーズハイブリッドはトヨタ以外のメーカーで続々と登場している。ではなぜ、車種が限定されて普及がなかなか進まないのか。一つはコストという問題がある。

 さらに燃費についてもまだまだ期待されているレベルには達していない。今以上に効率を高めるには、回生ブレーキをさらに有効活用するのが効果的ではないだろうか。

 問題は回生ブレーキの回収率が低いことだろう。回生ブレーキは駆動用のモーターを発電機として利用することで、バッテリーに運動エネルギーを電力として蓄えることができるが、実際には発電した電力のうち、蓄えられるのは一部に過ぎない。

 これはバッテリーを利用している以上、避けられない課題だ。バッテリーは受け入れた電力を電極から電解液を通じて負極の電極にイオンとしてため込むが、急速充電以上に充電スピードが求められる回生ブレーキは、それほどエネルギーとして回収できない。

 それを解決する手段は、キャパシタ(蓄電器)にある。電子をそのまま蓄えるキャパシタは、素早く充放電できるだけでなく、ロスも少ないため回生エネルギーを無駄なく利用できる。バッテリーとキャパシタ、それに発電機であるエンジンとモーターを組み合わせることで発電と蓄電、回生をより有効に利用できるはずだ。

 EVはバッテリーの容量が大きいため回生ブレーキにそれほど頼らなくてもいいが、ハイブリッド車は回生ブレーキの回収率を高めれば、まだまだ燃費は伸びる。そう考えれば、シリーズハイブリッドがクルマの主役になっていく道筋が自然と見えてくるのだ。

 今後は欧米のメーカーも本格的にシリーズハイブリッドを開発することになると思う。トヨタのTHSは特許が公開されているが、その制御は複雑であり、しかも欧州メーカーのプライドからトヨタが開発したハイブリッドをまねることはできないと考えられるからだ。

 トヨタはTHSを幅広い車種で展開し、開発コストを吸収した。他のメーカーが今から一気に同じことをするのは難しい。よってシリーズハイブリッドが現実解となるのである。

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