文春砲がトヨタに炸裂も、豊田章男は「凡人の戦略」を貫く天才だ

文春砲がトヨタに炸裂も、豊田章男は「凡人の戦略」を貫く天才だ

 週刊文春電子版は「【巨弾レポート】元コンパニオンの重用、日経新聞を拒絶…豊田章男・トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか《グループ3社で連続発覚》」特集で、トヨタに厳しい姿勢を見せている。最新の国内外のトヨタ報道を読み解く。(イトモス研究所所長 小倉健一)

● 北朝鮮でトヨタ車が 愛用される理由

 北朝鮮が「トヨタ」を愛していることはあまり知られていない。昨年の北朝鮮の金正恩委員長とロシアのプーチン大統領が首脳会談を行った後で、「特別な個人的関係」の証しとして、プーチン大統領も専用リムジンとして使うロシア車の「アウルス・セナート」を贈呈している。

 これまで、金委員長は、メルセデス・マイバッハのS650セダンをイタリアの企業が装甲を施したものに乗車していた。そして面白いことに、金委員長の随行員たちは皆、「トヨタ」に乗っていることが確認されている。

<国連の制裁は、贈り物であっても北朝鮮への車の供給を禁止していますが、金正恩はこれらを回避して外国製車のコレクションを維持するのに何の問題もありませんでした。金正恩のお気に入りの車はメルセデス・マイバッハS650セダンだ。金正恩はマイバッハに乗り、レクサスやトヨタのスポーツユーティリティビークルの車列と一緒に行列を組んでいます

(英タイムズ紙『ウラジーミル・プーチンから金正恩への最新の贈り物』2月20日)>

 車列を組むクルマといえば、実用性を重視しているということが推測されるわけで、トヨタ車へのアツい信頼が北朝鮮からも寄せられていることが明らかになった。

 今回は、トヨタについて述べたい。

● トランプ氏勝利で 電気自動車の普及が止まる可能性

 今、世界では、電気自動車が、果たして本当にエンジン車に取って代わることができる存在なのかが、激しく議論されている。少し前までは、いずれガソリン車がなくなると言われていたが、電気自動車がこれ以上普及発展するためには、多くの問題を抱えていることがわかっており、それが技術的に解決できるのかどうかということだ。世界は、混沌としている。

<トランプが大統領選挙に勝利すれば、アメリカの電気自動車ブームは終わりを迎える。トランプの選挙勝利により、アメリカにおける電気自動車に対する風向きはおそらく大きく変わるだろう。2023年秋にミシガン州の自動車産業のストライキ中の労働者たちの前で、トランプは電気自動車に警鐘を鳴らし、ジョー・バイデンによるその支援を軽蔑する発言をした。

 トランプは、ストライキを行っている労働者たちに対し、大手自動車会社との交渉で良い結果を得たとしても、電気自動車が彼らを無用の長物にするだろうから、それがどうでも良いと述べた。トランプは労働者たちに向かって、「お前たちが何を手に入れようと、2年後には全員がクビだ」と叫んだ

(独経済メディアDeutsche Wirtschaftsnachrichten「電気自動車は内燃機関よりも故障しやすい」2月19日)>

 米大統領選挙は、今日投票が行われれば、トランプ氏はバイデン大統領に勝利するような情勢であり、電気自動車の普及は止まることになるかもしれない。しかし、EU(欧州連合)では真逆の情勢だ。

● 電気自動車にかじを切ったドイツ 失敗すれば「自らの足を撃つことに」

<ドイツやヨーロッパが「電気自動車」に全てを懸けており、2035年からはEU内での新車のガソリン車販売が不可能になる見込みである。中国は電気自動車とガソリン車の両方を追求している。つまり、電気自動車とガソリン車の二兎を追うのである。中国はガソリン車の禁止を排除している。ドイツおよびヨーロッパの自動車メーカーの電気自動車戦略が成功するか、そして米国、インド、ロシア、南米、アフリカ、東南アジアのような大国でガソリン車の禁止が実際に行われるかは疑問である。もしそうならなければ、ドイツの政策と自動車メーカーは自らの足を撃つことになる。その結果、ドイツの鍵産業と経済拠点としてのドイツにとって壊滅的な影響を与えるだろう

(同独メディア)>

 これには少し説明が必要かもしれないが、EUでは、2035年以降、環境にやさしい合成燃料(実用化・商用化は40年頃とされている)を使うエンジン車だけは例外として、エンジン車の新車販売を禁止する方針を取っているのだ。フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツがあるドイツでは、頭の痛い問題となってくるであろう。

 米国の消費者保護団体「コンシューマー・レポート」の会員を対象に毎年実施している、自動車の信頼性に関する調査によれば、電気自動車は従来のエンジン車よりも80%近く問題が多く、一般的に信頼性が低いことがわかっている。エンジン車であれば5分もすれば満杯になるガソリンの供給も、電気自動車ではだいぶ時間がかかる。寒冷地では航続距離が極端に短くなることも負担となる。

● 「エンジンやるぞ!」 豊田章男の檄

 こんな先行きが不透明な状況で、トヨタは何を考えているのか。その手がかりは、トヨタ自動車会長の豊田章男氏の発言にある。

<今、オートサロンの途中ですが、昨日もその会場で「エンジン(編集部注:おそらくエンジン車のこと)やるぞ!」とぶち上げました。いくらBEV(バッテリー電気自動車)が進んだとしても、市場のシェアの3割だと思います。そうすると、あとの7割はHEV(ハイブリッドカー)なり、FCEV(水素を使った燃料電池車)なり、水素エンジンなり。そして、エンジン車は必ず残ると思います。

 それは規制値、政治の力ではなく、お客様や市場が決めることだと思います。

 だから、全世界で勝負をしているトヨタ自動車は、フルラインナップで、マルチパスウェイをやらせていただいております

(第40回NPS研究会の総会・「トヨタイムズ」1月23日)>

 マルチパスウェイは、手段よりも目標到達を大事にする考え方だ。トヨタの例でいえば、電気自動車を普及することにこだわらず、エンジン性能の向上、燃料電池車、ハイブリッドカーなど、さまざまな手段でカーボンニュートラルを達成していこうということだ。エンジン部品を製造する工場・会社に、銀行がお金を貸さないという事態が発生していて、トヨタとしても強い危機感を持って、「全方位外交」を続けていくということになる。

● 「凡人中の凡人戦略」を貫く豊田氏は 称賛されてしかるべき

 全方位外交、悪く言えば、八方美人であり、全てが中途半端になってしまう懸念が起きるのだが、豊田氏はそんなことは臆せずやっている。トヨタ自動車内のフルラインナップ戦略をはじめとして、マツダ、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、いすゞ自動車に巨額の出資をし、通信業界のNTT、KDDIに出資、ソフトバンクとは「モネ・テクノロジーズ」を立ち上げている。

 豊田氏は「町工場から世界規模の自動車メーカーに成長しても、それを忘れてはならない。自分たちはクルマ屋だ。もっといいクルマをつくって、お客様に喜んでもらおう」と言っている。この言葉の意味を、全方位外交を貫いた経営スタイルと重ねて解釈をすれば、こうではないだろうか。

 「将来のことは予測不可能で、EVの時代が来るかもしれないし、来ないかもしれない。フルラインナップで何が起きても大丈夫な構えをしておこう」。何か一つの分野に懸けることは一切やろうともしてこなかった、自分たちができる当たり前のことを繰り返すという「凡人中の凡人戦略」を貫いたのは、やはりこの時代に合っているし、称賛されてしかるべきではないだろうか。

● 元コンパニオンを秘書にしたって 別にいいではないか

 週刊文春電子版(2月21日)の「【巨弾レポート】元コンパニオンの重用、日経新聞を拒絶…豊田章男・トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか《グループ3社で連続発覚》」特集で、トヨタについて力の入った取材をしている。その中でも、経産省の元事務次官で、18年から社外取締役を務めている菅原郁郎(いくろう)氏のコメントは、トヨタに相当厳しいものがあった。

<昔は一家言持っている人たちが周りにいた。でも20年頃からかな、副社長を次々放逐したり、3人置くと言ったり。それで置いた人もまたいなくなって。章男さんに引き上げられた人ばかりで、率直に物を言う人がいなくなりました>

 トヨタは、2024年3月期の連結業績予想で、純利益は前年比83.6%増となり、過去最高の4兆5000億円となる見通しだ。これほどの過去最高益を上げてもガバナンスが悪いかのように批判を受けるのは、さすがにかわいそうに感じる。元コンパニオンを秘書にしたって別にいいではないか。赤字だった企業を利益4兆円にしたのだから、稀代の名経営者だ。誰も言ってあげないが、数字だけ見れば、豊田氏は天才ではないのか。

 EVやカーボンニュートラルを巡って政治的なリスクを消すには、トヨタのように全てに手を出していくのが一番と思われる。そしてこんなことができるのも日本ではトヨタだけだ。EVをつぶすというトランプリスク、EVだけしかダメというEUリスクに直面したとき、どう転んでも勝てるトヨタの一人勝ちの時代がやってくるだろう。腐敗しきったダイハツのトヨタによる再建が楽しみでならない。

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