医師90人がグーグルを集団提訴へ クチコミ放置で「被害受けた」 治療費の踏み倒し狙うケースも

医師90人がグーグルを集団提訴へ クチコミ放置で「被害受けた」 治療費の踏み倒し狙うケースも

 飲食店や病院などを選ぶ際に、参考になる「クチコミ」。しかし、実名を挙げての罵詈雑言や暴力的な書き込みが削除されずに放置されているとして、国内で最も多く利用されているグーグルマップを運営するグーグルに対して、医師や歯科医師ら90人が今春、損害賠償を求めて東京地裁に集団提訴する。否定的なクチコミに対し、病院側から「反論」「説明」するのは難しく、グーグルもなかなか削除に応じないため、低評価を恐れる病院側を患者が脅迫したり、弱みに付け込む「削除ビジネス」が横行したりしているという。

 グーグルマップでは、飲食店やホテル、病院、観光地などの位置だけでなく、星のマークを並べた5段階での「評価」やクチコミを書き込むことができる。

 しかし、1年前に「Googleクチコミ被害者の会」(2月28日現在の署名数473人)を立ち上げ、今回の集団訴訟でも原告となる予定の40代の医師は言う。

「本当に見るに耐えない、あり得ないようなクチコミが、いっぱいある」

 実際にグーグルマップには、医師などの実名を挙げたうえで、真偽不明の内容の書き込みが数多く見られる。

<腫瘍内科A医師の(意図的な)見過ごしでめちゃくちゃにされました>

<Bに実験台にされました。切らなくてよいところまで切られて、試験的な縫合をされました>

<理学療法士のCはD病院で汚職をしていた。EはD病院で毎日患者を殴っていた>

<ここの医療事務はいかれポンチばかりです。IQ70以下ばかりで、腹が立つよりあきれるばかりです。頭があまりよくないメス豚どもとまともに話をしてはいけません>

<F病院は、行かないで! 馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎!>

 サイトを運営するグーグルは、同意なく氏名や個人が特定できるクチコミの投稿を禁止しており、ハラスメントや冒とく的な表現も許可していない。グーグルはサイト上で、このように記載している。

<クチコミが投稿されると、それがグーグルのポリシーに違反していないことを確認するために、直ちに管理システムに送られ、不適切なコンテンツが投稿されるのを防いでいます>

 さらに、チェックをすり抜けた有害な投稿があれば、ユーザーが申告できるとしている。

<グーグルのオペレーターチームは、24時間体制で申告があったコンテンツを確認しています。ポリシーに違反するクチコミが見つかった場合は削除します>

 しかし、前述の医師は、

「明らかに人権侵害といえるような投稿が放置されている」

 と指摘。グーグルにはポリシーに沿った対応を求めているが、削除を求めてもなかなか対応してくれないのが実情だという。

 医師は、クチコミにおける「表現の自由」を否定しているわけではまったくない。

「でも、人権侵害にあたるような、相手をぐさりと刺すような書き込みは許されないでしょう」

■病院側からの「反論」難しく

 グーグルが不適切なクチコミを削除してくれないのであれば、病院側から何かしらのコメントを返したいところだ。グーグルマップのクチコミには、返信を書き込む機能もある。しかし、話はそう簡単ではないという。

 不満の声に対し、「ご指摘ありがとうございました」と返信する程度であれば問題ないが、病院側が具体的な内容を書き込み、来院を促す「広告」とみなされた場合、病院の広告行為を規制する「医療広告ガイドライン」や医療法に抵触する恐れが出てくるのだという。

 また、医療機関には守秘義務があり、個別な患者の情報をグーグルマップという誰でも見られる場で書いて「説明」したり、「反論」したりすることは難しい。

 所管する厚生労働省の担当者も、

「個々の患者の状態は人それぞれであり、それをクチコミで書くことは誤った認識を読んだ人に与える恐れがあるため、医療広告の禁止事項に当てはまります」

 と釘を刺す。

 グーグルのポリシーがほとんど守られていないうえ、医療機関側から反論できないことに付け込んで、医者を脅す患者もいるという。

「俺のほしい薬を処方しないと悪口を書くぞ、と言う人もいます。医療費の支払いを踏み倒そうとした患者が、断れば低評価をつけるぞ、と医療機関を脅したケースもあります」

 低評価のクチコミを書き込んだ後、クチコミ削除と引き換えに高額な金を支払わせようとしたケースや、高額な金銭を要求し、施設が断ると多数の悪いクチコミを書き込んだ事例もある。

 そもそもグーグルマップに表示される情報は、病院とは関係のない人でも登録できる仕組みになっている。「嫌がらせ」のために「閉業」と書き込まれた病院もあったという。

■クチコミ削除に高額要求

 被害者の会には、悪いクチコミや低評価を恐れる医療機関に「悪いクチコミを消します」と持ちかける「削除ビジネス」の事例も寄せられているという。

 この医師も先月、被害に遭いそうになった。

<あなたの病院のグーグルレビューを確認しましたが、結構、悪口が書かれていますね。それ、消しますよ>

 そのような文面とともに、手の込んだ作りのパンフレットと名刺が郵送されてきた。

「もう『消しますよ』と書かれている時点で詐欺ですから。クチコミを削除できるのはグーグルか、それを書いた人しかいません。つまり、グーグル以外の人間がクチコミを消せると言うのは、100%できもしないことを言っているか、その人がクチコミを書き込んだ本人だということです。そのような脅迫みたいなことはちらほらあります」

■改善しないプラットホームを国も問題視

 訴訟代理人の中澤佑一弁護士によると、訴訟における法律的なハードルは高く、厳しい戦いが予想されるという。

「違法な書き込みによって誰かの何らかの権利が侵害されたとしても、運営サイトについては一応免責が法律で認められていますから」

 グーグルが提供するマップやレビューは社会インフラともなっているが、そこに多数の誹謗中傷が書き込まれていることは政府も把握している。

 総務省が2018年に立ち上げた有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」の調査によると、グーグルは日本国内に投稿の削除要請に対応する部署や責任者を置いていない。

 これまで政府は誹謗中傷への対応を事業者に任せてきたが、1月31日に公表された「第三次とりまとめ(案)」では、改善が一部にとどまっている状況をふまえて法規制の必要性を求める内容になっている。

 原告の医師は言う。

「医療機関だけでなく、多くの事業者が登録されているグーグルマップやレビューだからこそ、この状況を少しでも改善してほしい。そのための裁判です」

 原告側が指摘する不適切なクチコミへの対応の遅れなどについて、編集部はグーグルに質問をしたが、期日までにグーグルからの返答はなかった。

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