またも政敵が獄中死…「やりたい放題」のプーチンに「泣き所」があった! ロシア大統領選を前にわかった「死角」

またも政敵が獄中死…「やりたい放題」のプーチンに「泣き所」があった! ロシア大統領選を前にわかった「死角」

「異例の5期目」に突入するのか

 再選を目指す選挙まで残り日数が1ヵ月を切る中で、ロシアのプーチン大統領がやりたい放題だ。

 まず、先週土曜日(2月17日)。ウクライナで続ける侵略戦争で、ウクライナ東部の要衝・アウディーイウカを完全掌握したと発表した。今週土曜日に迫った開戦3年目の節目に向けて、ロシア国民にアピールする大戦果を挙げた格好になっている。

 2番目は、その前日のロシアの刑務所当局の公表だ。プーチン大統領の政敵であるアレクセイ・ナワリヌイ氏が収監中の北極圏の刑務所で死亡したという。3月の大統領選に向けて、プーチン氏は、最大のライバルと目されていた人物の選挙戦への出馬の道をとっくに奪っていた。が、それに飽き足らず、獄死に至らせたというのである。

 3番目は、代表的な経済指標が追い風になっていることだ。実質GDP(国内総生産)の伸び率が、一昨年(2022年)のマイナス1.2%から一転してプラスに転換、去年(2023年)は3.6%と成長軌道に回帰した。「(ウクライナ侵略に伴う)西側諸国からの軍事・経済制裁を克服した」と、プーチン氏は胸を張っている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が弾薬不足などで辛酸を舐めているのとは対照的に、ロシアを取り巻く状況はプーチン氏にとって順風満帆に見える。プーチン氏は来月(3月)17日から3日間の日程で行われるロシアの大統領選挙で、80%以上の得票率を獲得して圧勝することを目指しているが、勝利そのものはすでに不動とみられている。

 今週は、異例の5期目の任期に突入する勢いのプーチン大統領に、全く死角がないのかを考えてみたい。

 アウディーイウカは、ウクライナ東部ドネツク州の要衝だ。ドネツク州南部はルガンスク州の一部地域と同様に、ロシアが開戦前から実効支配していた。昨年6月のウクライナの反転攻勢が不発に終わった後は、ロシアが同10月ごろから兵士の犠牲を厭わない攻勢に出て重点制圧目標としてきた。

 今年2月に入って、解任された前任のザルジニー将軍に代わって、ウクライナではシルスキー氏が軍総司令官に就任した。同総司令官はアウディーイウカ防衛は犠牲が大き過ぎると撤退方針を表明する一方で、ロシア軍から「いずれ奪還する」と強気のコメントをした。

ウクライナの苦境

 しかし、勇ましい言葉とは裏腹に、ウクライナは苦境にある。欧州連合(EU)によるウクライナへの資金支援(4年間で総額約8兆円)の決定がハンガリーの度重なる拒否権行使などが原因で2月1日までズレ込んだうえ、最大の支援国である米国の軍事・経済支援も米議会・共和党の反対で実現の目途がたたないからだ。こうしたことから、アウディーイウカの攻防を巡っては、ウクライナ軍の弾薬数がロシア軍の10分の1程度しかないとの報道もあった。

 一方、ロシアのナワリヌイ氏は若者中心に支持層を広げてきた人物だ。ネット上で、政権や国営企業の汚職、選挙での不正を告発してきたことから、プーチン政権から目の敵にされ、拘束を繰り返されたほか、罰金や実刑も科されてきた。

 2020年には、シベリアを旅客機で移動中に意識を失い、治療のため、ドイツに空輸された。ドイツ政府は、旧ソビエトで開発された神経剤で毒殺が図られた「明確な証拠がある」と発表。当時のドイツ首相・メルケル氏がプーチン政権に「説明」を迫ったものの、プーチン政権は応じなかった。

 暗殺されかけたにもかかわらず、ナワリヌイ氏は2021年1月に自らの判断で帰国。直後に過去の事件を理由に逮捕され、詐欺罪で禁錮9年の判決を受けた。

 ナワリヌイ氏は、受刑中の刑務所で、支援者に動画を撮影して貰い、これをSNSで流す形で、プーチン政権の批判やウクライナへの軍事侵攻に対する非難を繰り返してきた。今回のロシア大統領選挙については、自身の立候補に道が閉ざされる中で、プーチン氏以外の候補への投票を呼びかけてきた。

 国際社会はナワリヌイ氏の釈放を求めたが、実現せず、同氏はロシア北部、北極圏のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されていた。

 ロシア国内では、ナワリヌイ氏の獄死を悼んで、モスクワなどで旧ソ連時代の政治弾圧犠牲者の記念碑に献花する人の姿が絶えないという。

 ナワリヌイ氏の死因については、独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の元編集長で、2021年にノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラトフ氏が収監時の寒さや低カロリーの食事を死因として、プーチン政権の「殺人」だと指摘した。プーチン氏は、大統領選挙で80%を超す得票率の獲得を目指しており、ナワリヌイ氏の政権批判が殺害の動機になったとの見方も多い。

 大統領選の大勢に影響するとはみられていないが、プーチン政権は追悼の動きに神経を尖らせ始めている。独立系人権団体「OVDインフォ」によると、政権はナワリヌイ氏の死後2日の間に、モスクワやサンクトペテルブルクなど36都市の400人以上を拘束したとしている。

 ちなみに、ロシアでは、プーチン政権と敵対した人物の不審死は珍しくない。中でも記憶に新しいのは、昨年6月に、ウクライナ侵攻を巡る武器の供給不足などを不満として、指揮下の部隊を率いて反乱を企てた民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏のケースだ。

 事件の2カ月後、搭乗していたサンクトペテルブルク行きの小型機がミサイル攻撃を受けて墜落、死亡した。この件では、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、プーチン大統領の側近のパトルシェフ安全保障会議書記が暗殺計画に関与したと報じている。

 このほか、連邦保安局(FSB)の元職員リトビネンコ氏や、元第1副首相のネムツォフ氏の暗殺事件は有名だ。

 大統領選へ向けたプーチン氏の追い風には、経済がマイナス成長から成長軌道に回帰したことも挙げられる。プーチン大統領は、昨年12月に続いて2月2日の演説でも、満面に笑みを浮かべて、ロシア経済がウクライナ侵攻に対する「西側の軍事・経済制裁を打ち破った」と自画自賛した。

 その後2月7日には、ロシア連邦統計局が、ロシアの去年(2023年)の国内総生産(GDP、速報値)が、一昨年(2022年、マイナス1.2%)に比べて3.6%増加となったと発表した。ロシア経済にとって、プラス成長は2年ぶりだ。

典型的な「戦時経済」

 また、国際通貨基金(IMF)は今年1月、恒例の世界経済見通しを公表。この中で、今年(2024年)のロシアのGDPの見通しを、それまでの1.1%増から2.6%増に上方修正した。この2.6%増という伸び率は、米国の2.1%増、ユーロ圏と日本の0.9%増、イギリスの0.6%増などをいずれも上回る水準だ。

 縷々述べたように、プーチン政権は、侵略戦争でウクライナの反攻を抑えて新たな要衝を制圧したほか、大統領選では政敵を出馬させないどころか獄死に至らせた。日本を含む西側諸国の厳しい軍事・経済制裁もしのいでいる。

 こうした状況では、来月に迫った大統領選挙で、プーチン氏の通算5選を阻むものはないだろう。5選を果たせば、ウクライナ戦争はさらに長期化し、ウクライナが一段と窮地に陥るシナリオが現実味を帯びて来る。

 果たして、プーチン氏に待ったをかける要因は存在しないのだろうか。

 実は、経済は、典型的な「戦時経済」になっており、プーチン氏が誇示したGDP統計が示すほど万全とは言えない。

 というのは、巨額の政府支出がGDPの回復・拡大の原動力になっているからだ。その巨額の政府支出というのは、ウクライナ戦争の戦費なのである。

 この戦費については、ロシアのシルアノフ財務相は昨年暮れの記者会見で興味深い発言をした。「財務省は軍の主要任務に必要なすべての資金を提供した」と述べ、ロシアが防衛費を2023年の6.4兆ルーブルから2024年に10.8兆ルーブル(1120億ドル)に積み増すことを明らかにしたのだ。この防衛費は社会保障費を上回る規模だという。

 この防衛予算の積み増しの結果、ロシアの政府支出は総額で32.2兆ルーブルに膨らむ。つまり、GDPを構成する4要素(政府支出、個人消費、民間投資、純輸出)のうち、戦費が急増して政府支出が膨らんだことがGDPの回復・拡大に寄与したことをシルアノフ財務相は認めているのだ。

 つまり、ロシアはGDPの3分の1を超す部分が戦費で賄われている「戦時経済」で、むしろ消費は減っており、決して1億4500万のロシア国民が豊かと感じることができない状態になっていることを示している。

 問題は、この防衛費の財源だ。ロシアは、石油やガスといった化石エネルギーの輸出収入に依存している。

 こうしたロシア産の石油やガスの輸出は、西側が厳しい経済制裁の対象にしている。西側諸国は自らロシア産原油などの購入を手控えたうえ、船舶輸送代金や貿易保険を使ってロシア産原油の輸出価格を1バレル=60米ドル以下に抑え込む措置を採り、ロシアの糧道を断とうとしているのだ。この結果、ロシアの2023年の関連品目の輸出収入は、比率で見れば、前年比23.9%減と大きく落ち込んだ。制裁はそれなりの効果を上げているのだ。

 ただ、抜け道もあり、まだ十分な成果をあげたとも言い難い。輸出金額でみると依然として8兆8200億ルーブルとかなりの高水準を維持している。この高水準の化石燃料の輸出収入があり、ロシアが巨額の戦費を積み増しても、ロシアのGDP比の財政赤字は1.9%と当初予想(2.0%)からわずかながら改善し、ロシア財政はまだ“常態”をほとんど逸脱していない。

西側諸国の軍事・経済支援の再拡大が必要

 ロシアの原油・ガス輸出収入の落ち込みを防いでいるのは、西側諸国に代わって、中国やインドがロシア産原油の輸出の受け皿になっている点が大きい。ロシアのノバク副首相は昨年暮れ(12月27日)の国営テレビのインタビューで、ロシアの2023年の原油・石油製品輸出全体の45~50%を中国向けが、インド向けが約40%を占めたと明かしている。このうちインド向け輸出は、2021年にはほぼ実績がなかったという。

 ちなみに、対ロ制裁の結果、EU諸国向けは以前の40~45%から4~5%に激減した。ただ、EU諸国は2023年に入って、インド産の石油製品の輸入を急増させており、この大半がロシア産原油を原料としているとみられ、結果として、制裁の大きな抜け道になっている。

 このため、この抜け穴だけでなく、制裁の眼を盗んで高値でロシア産原油を輸送している第3国などの船舶の取り締まりなどを強化し、早期に徹底して抜け穴を埋めれば、ロシア産の化石燃料の禁輸という制裁は真綿を占めるように効果を増していくはずなのだ。

 そのほか、ロシア軍は、ウクライナ戦争で兵士の消耗を厭わない攻勢をかけているため、その人的な被害は甚大だ。米国防総省はこのほど、ロシア軍の死傷者が31万5000人に上っているとの試算を公表している。

 また、ウクライナへの侵攻から1年半弱の間に、徴兵などを嫌ってロシアから国外に移住したロシア国民は100万人を大きく上回ったとされている。加えて、軍需産業を中心とした労働需要の拡大で、昨年のロシアの失業率は3.2%に低下しており、労働力は間違いなくひっ迫の傾向にある。

 ルーブル安も泣き所だ。侵攻当初の1ドル=140ルーブル代を下回るほどのルーブル安は峠を越えたものの、依然として1ドル=90米ドル前後とルーブル安は続いており、先安観は根強い。このため、輸入物価を押し上げており、2023年12月のインフレ率は7.4%とロシア中央銀行のターゲットの上限に張り付いている。

 結果として、同中銀は、2023年12月15日に開いた金融政策決定会合で、5会合連続の利上げを決め、政策金利を1%引き上げて年16%に引き上げざるを得なかった。

 欧米の制裁によって輸入品がロシア市場から消えたところに、金利高・高インフレが加わり、鶏卵など生活に身近な食品などの価格上昇にも見舞われている。繰り返すが、GDPで見ても、消費は減っており、庶民生活は窮乏の色を深めている。

 ロシア優位の戦況を打開するには、何よりも優先して、細りがちの西側諸国の軍事・経済支援の再拡大が必要だ。

 加えて、前述の制裁の抜け穴を塞ぐ措置も、制裁の実効性を上げるための急務となっている。実効性を上げれば、年単位の時間はかかるが、ロシア経済は着実に耐えられない状況に陥っていくはずだ。

振り返れば、長引いた原油安が、かつてのソビエト連邦を崩壊に追い込んだ先例もある。 ロシア経済には家計という泣き所があるとはいえ、こうした対策を急がないと、より窮地にあるウクライナは、国土の4分の1前後に相当するとされた占領された領土の奪還を断念して、ロシアに有利な停戦に応じざるを得ない事態に追い込まれかねない。

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