断られた→返信しない「メール1往復主義」の若手が増加中!タイパ重視の本末転倒

断られた→返信しない「メール1往復主義」の若手が増加中!タイパ重視の本末転倒

● 依頼をして断られたら、それには返信をしない

 近年、知らない間に、ビジネスマナーは急激な変化を遂げているようだ。

 例えば、この連載記事を読んだ、マスコミや関係する会社などから、記事に関連する追加コメントや別の記事の依頼などが、筆者の元へそれなりに来る。せっかくの申し出なので、基本的には受けることにしているが、スケジュールの都合や自分が適役ではない場合、丁寧に理由を述べてお断りすることにしている。

 その際、驚くことに、私が断りの連絡をすると、その後のやりとりがパタッと途絶えることが多い。

 以前ならば、「承知しました。次回、また何かあればよろしくお願いします」という短い返事が先方から送られてきて、そこで終了という流れになるのが普通であった。しかし、最近はそのような返信がない。“一往復半”のやりとりで終わるのではなく、“一往復”で終わるのが、現在のビジネスパーソンにとっての常識となっているようなのだ(もちろん、全員ではないが)。

 不思議に思って、周囲に聞いてみたら、同様の経験を持つ人は多く、皆それなりに違和感を持っていた。そこでさらに探ってみると、どうも最後の返事をしない人が問題なのではなく、すでに、若手社員の間では、一往復で済ませることが常識化しているようなのである。

 どのようなことが背景にあるのだろうか。

● デジタルコミュニケーションの変化

 かつてはメールでのやりとりが主流で、ビジネスメールでは、フォーマルなあいさつや締めくくりが慣習とされていた。しかし、今日ではチャットや短いメールなどが広まり、簡潔で直接的なコミュニケーションが一般的になっている。この変化により、従来のメールで期待されていた礼儀正しい言葉遣いや、礼儀正しいやりとりが大幅に省略されているのだ。

 <リモートワークの影響>

 まず、リモートワークの普及で、オフィスでの面と向かってのコミュニケーションが減少した。これに伴い、非公式なコミュニケーションスタイルが増え、ビジネスマナーに対する意識が薄れてきている。

 例えば、ビデオ会議での服装や背景の選択など、従来のオフィス環境では考慮されなかった要素が新たなマナーとして求められているが、一般的に、簡略化、省略化の方向が強くなっている。

 <時短かつ効率化したビジネス遂行>

 労働時間管理が厳しく言われるようになり、できるだけ効率的に業務をこなすことが求められるようになった。短く効率的に仕事を進めることが最優先なので、余計な作業はできるだけなくそうとする。それは相手にとっても同じなので、相手に不要な時間を使わせないような配慮が必要であるというわけだ。

 このようなことから、最後の返信を省くことは、現代のビジネス環境においては、不適切ではなく、タイムパフォーマンスから見ても正当化でき、相手にとっても余計な時間を費やさせない正しい行動である、と若手社員は考えているようなのである。

 ビジネス環境や時代が変われば、正しい行動も変わる。マナーの変化も歴史的にも珍しいことではない。

 例えば、会社の上司や先輩とタクシーに乗る際の席次などは、昭和・平成世代が新人の際に習った席順と現在正しいと見なされる席順は異なっている(右図参照:現在は1が上座で、末席が4となっているが、昭和末期に仕事を始めた筆者は末席が現在の3の位置だと教わった。クルマの進化によって、後ろの席の中央の席もラクに座れるようになったからではないか、といわれている)。

 またオンライン会議には、5分前ではなく、開始時間に入るというのも、会社によっては普通になっている。

 ただ、世代や会社によって、正しい振る舞いは大きく異なるから、過去の慣習を軽視することは、相手との長期的な関係構築において、不利益をもたらす可能性があることは認識しておかなくてはならない。

 最後の返信を返さないことについても、それが会社にとって得であるか、または本当にコストパフォーマンスの良い行動かどうかを再考したほうが良いと考えられる(もちろん、さらに時代が流れ、今の中高年が完全に引退する頃には、旧来の丁寧なビジネスメールのやりとりのようなコミュニケーションは、「不謹慎」「時代遅れ」「非常識」と糾弾されるようにさえなるかもしれない)。

● 「一往復半」で、長期的にはビジネスが効率化

 名著『影響力の武器』(2023年新版刊行、初版は1991年刊、誠信書房)では、人間の基本的な原理に基づく「拒否したら譲歩」というテクニックが紹介されている。これは心理学者、ロバート・チャルディーニによって記された説得の手法であり、別名「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」とも呼ばれている。何かというと、「相手に対して最初に大きな要求を行い、拒否された後により小さな要求に移ると相手の同意を引き出しやすくなる」という技術である。

 このテクニックは、相手に対して初めの大きな要求が拒否された後に示される小さな要求が、譲歩として捉えられることに基づいている。人は一般的に、他人が自分に対して譲歩すると、何らかの形で恩返しをしたいと感じる傾向がある(相互性の原則)。したがって、最初の大きな要求が拒否された後に出されたより小さな要求は、「譲歩された」と感じられるため、相対的に受け入れやすく感じ、応じてしまいがちなのである。

 例えば、ある非営利団体がボランティアの協力を求めている場合、最初に2週間のフルタイムボランティアを要求しても、ほとんどの人に拒否される。その後、1日だけのボランティア参加を提案すると、最初の要求と比較してはるかに受け入れやすくなり、より多くの人が協力を申し出る可能性が高まるのである。

 最初の依頼を断ったことに対して、人は心理的な負い目を感じる。次回何らかの依頼(最初の依頼よりもハードルが低く譲歩した感じがあるもの)があった際には、受け入れる可能性が大きく高まる。

 したがって、「承知しました。次回、また何かあればよろしくお願いします」というメールを送付する30秒程度の時間投資は、将来の期待値を考えれば十分に元が取れるのである(お前になんか二度と話を聞くことはないから期待値は下がらない、ということかもしれないが)。

 「一往復」で終わるコミュニケーションスタイルではなく、「一往復半」のスタイルを取り戻すことは、個人にとっても会社にとっても大きなメリットがある。これは、それなりにビジネス経験を積んだ人にとっては、十分に理解されることだと思う。ただ、若い人がお客様とどんなメールのやりとりをしているかは見えないから、30秒を惜しむことで発生している期待値低下の実態を、管理職もよく知らないのであろう。

 しかし、何より、「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視のはずが、長期的な「タイパ」の悪さを自ら招いているというのは、若い人自身にとっても、もったいない話ではないか。

 このように考えると、今回取り上げた「一往復」のやりとりだけでなく、“いま”、“ここ”だけの近視眼的なコストパフォーマンスを重視した行動様式が、会社や個人の期待値を低下させる多くの失敗につながっている可能性は高い。会社は、長期的に見て期待値を下げる行動を現場の社員がしていないか、しっかりと点検し直すべきであろう。これは単なるビジネスマナーの問題ではなく、ビジネス上の成果に直結する重要な改善につながるのである。

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