霊芝にヤマブシタケ…人気のキノコサプリは健康に良いのか、2030年には世界で9兆円規模に

霊芝にヤマブシタケ…人気のキノコサプリは健康に良いのか、2030年には世界で9兆円規模に

米国など世界各地で「キノコブーム」、専門家はどう見ている?

キノコは何千年もの間、世界中で食され、伝統医学に用いられてきた。メキシコの調査が一例だ。しかし、ここ数年、キノコ製品を世界のあちこちで見かけるようになった。瓶に入ったチンキ剤からチョコレートバー、粉末状のコーヒー代替品まで、頭脳明晰やアンチエイジング、免疫サポート、腫瘍の抑制など、さまざまな効果を掲げる製品だ。

 実際、業界分析では、これからの数年、キノコの医薬品への応用は市場で最も急成長する分野になると予測されている。この分析レポートによれば、食品と飲料、栄養補助食品、医薬品を含む世界の機能性キノコ製品市場は、2023年にはおよそ317億ドル(4兆6000億円)の規模だったが、2030年までに658億ドル(9兆6000億円)規模に達する見通しだ。

「この数年は、これまで見たことがないような状況になっています。菌類への関心は前例のないレベルに達しています」と菌類の進化生物学を専門とする米クラーク大学の生物学教授であるデイビッド・ヒベット氏は話す。

 まさに「キノコブーム」だが、このいわゆるスーパーフードの健康効果については疑問が残されている。薬草医をはじめとする一部の治療家はさまざまなキノコの治癒力を宣伝しているが、このような主張に懐疑的で、懸念さえ抱いている菌類学者もいる。

健康効果を示唆する有望な研究もある……

『Medicinal Mushrooms: The Essential Guide(薬用キノコの基本)』の著書がある薬草医兼菌類学者のクリストファー・ホブス氏は、近年の爆発的な関心について、キノコの治癒力に関する科学文献が「指数関数的」に増えているためだと考えている。

 霊芝(れいし、マンネンタケ)は「不老不死のキノコ」と呼ばれ、アジアでは2000年以上も前から健康と長寿を促進する薬として用いられてきたという調査もある。最近では、グミや栄養補助食品のような市販品に霊芝が使われるようになり、「安眠」から「総合的な健康と活力」まで、あらゆる効果をうたっている。

 近年、霊芝由来のβ-グルカンという水溶性食物繊維に焦点を当てた研究が行われている。マウスの研究では、霊芝由来のβ-グルカンが免疫反応を促進し、腫瘍の増殖を抑制することが示されている。2023年の研究では、霊芝由来のβ-グルカンを無作為に投与した被験者126人の免疫細胞が有意に増え、免疫力が改善した。

 シイタケにもレンチナンというβ-グルカンが含まれており、人の抗糖尿病の研究や免疫治療の研究で可能性が一部では期待されている。すでにマウスの研究で1型糖尿病を抑制することが示され、化学療法を受けている肺がん患者の免疫反応が改善するという研究もある。

 チャーガ(カバノアナタケ)も機能性キノコ市場の主役であり、薬用の歴史は調査によると12世紀のヨーロッパまでさかのぼる。消化器疾患や炎症、さらには、がんの治療薬として長年にわたって処方されてきたという調査もある。そして最近では、チャーガから抽出したカバノアナタケ多糖類(IOP)がマウスの研究では血糖値を下げ、試験管内での研究では人のがん細胞の増殖を抑制することが示されている。

……しかし、既存の研究は全容を語っていない

 一部の専門家は、既存の研究は健康効果について十分な証拠を提示しておらず、もっと長期にわたる臨床試験が必要だという研究を踏まえて警告している。

 米ネブラスカ大学リンカーン校の助教として食品科学技術の研究を行うヘザー・ハレン=アダムス氏によれば、人の臨床試験に比べて、実験室での研究は高度に管理されており、研究成果が必ずしも実用化につながるとは限らない。

 また、シイタケやカワラタケなどのキノコに含まれる物質の抗がん作用を示す研究は増えているが、「シャーレに入れたがん細胞や近親交配を繰り返したげっ歯類を使った研究にほぼ限られている」とハレン・アダムス氏は指摘する。さまざまながんや複雑な遺伝的背景を持つ人の結果は大きく異なる可能性が高く、現時点では「事例」の域を出ていない。

 例えば、ヤマブシタケは研究によると、神経細胞の成長に影響を与えると思われるいくつかの生物活性物質を生成する。また、初期の研究では、認知機能に良い影響を与える可能性も示唆されている。「しかし、そのような観察結果があるからといって、ヤマブシタケを食べればアルツハイマー病を予防できるわけではありません」と米オハイオ州にあるマイアミ大学の生物学教授を務める菌類学者のニコラス・マネー氏は話す。

 キノコを通じた地球環境の改善を掲げるキャッツキル・ファンギの創業者で菌類学者のジョン・ミケロッティ氏によれば、カワラタケはおそらく最も広く研究されている薬用キノコで、がんの治療に長く用いられてきたという点でも大きな関心を集めているという。日本の研究チームは1994年に医学誌「THE LANCET」に発表された画期的な論文で、標準的な化学療法に加えて、カワラタケの活性物質であるポリサッカライドKを投与すれば、「化学療法のみで治療した場合と比べて、胃がんの治癒切除を行った患者の生存期間を有意に延ばすことができる」と発表した。

 ゲイリー・デン氏は米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの統合医療ディレクターとして、キノコやハーブ、はり治療など、伝統医学の自然療法を補助的に用いることが多い。カワラタケから抽出した多糖類エキスを一部の患者にサプリメントとして勧めることもある。しかし、医師の許可なく自己処方するのはやめるように注意を促している。

「臨床的状況は人それぞれです」とデン氏は話す。

 既存の研究は説得力があるかもしれないが、いくつかの明らかな限界がある。「ほとんどの研究は、被験薬と対照薬(偽薬)をグループごとに投与して結果を調べるプラセボ対照二重盲検比較試験ではありません」とヒベット氏は指摘する。「既存の研究が主張していることは本当に危険です……人を対象にした臨床試験でなければ、製品に健康効果があるとは言えません」

 また、人に良い影響を与えると示唆する研究も多いが、「結果がまちまち、あるいは、良い影響が全くなかった研究もある」とヒベット氏は言い添えている。

 日本や中国では、レンチナンやポリサッカライドKといったキノコ由来の物質をがん患者の化学療法と併用することが認められている。しかし、米国の製薬業界に参入できる状況にはない。現在、いくつかの臨床試験が進行しているものの、米食品医薬品局(FDA)に承認されたキノコ抽出物はまだない。

キノコサプリメントの「西部開拓時代」

 キノコの薬効を巡る議論は終わっていないが、業界が停滞する気配はない。食用キノコはサプリメント売り場の定番になっており、粉末状のキノコミックスや濃縮チンキ剤などがさまざまな健康効果を打ち出している。

 菌類学者のポール・スタメッツ氏は自身の会社となるファンギ・パーフェクティを通じて、記憶力や神経、免疫をサポートするというキノコのサプリメントカプセルを米国で販売している。チャーガッチーノ(自称「アダプトゲンキノコミックス」)やMUD\WTR(マサラチャイやカカオ、キノコをブレンドした粉末)のような製品もあり、ストレス緩和やアンチエイジング、認知機能向上などの効果があるコーヒー代替品として宣伝している。

 しかし、菌類を含むサプリメントの流通はほとんど規制されておらず、一部の専門家は不安を抱いている。FDAが認可した医薬品は製造や用量、効果について厳しく規制されているが、サプリメントにそのような規制はない(編注:日本では「サプリメント」の法律上の定義は存在せず、食品として扱われ、食品表示法および薬機法により健康への機能や医薬品のような効果を与える表示が規制されている)。また、特定の製品に含まれているとされるキノコが表示通りに含まれていなかったり、まったく含まれていなかったりすることが調査や研究で明らかになっている。

「西部開拓時代のような状況です」とヒベット氏は話す。「エビデンスはまだ非常に限られており、私の考えでは、これらの製品を栄養補助食品として売り込む正当な理由にはなりません」

 キノコのサプリメントはたとえ効果がなくても無害に見えるという説もあるが、自己免疫の過剰反応や毒性の可能性を示唆する研究もある。しかし、消費者が実績ある治療の代わりとして使用しない限り、ほとんどの専門家は心配していない。そして説得力、つまり、プラセボの力を無視するのは難しい。

「人々はキノコサプリメントの力を信じています。だからこそ治療効果を実感するのです」とホブス氏は話す。「どこに問題があるのでしょう?」

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