顔を映さない上司、賃金未払い、連絡も途絶え「使い捨てにされた」 完全オンラインの仕事に落とし穴

顔を映さない上司、賃金未払い、連絡も途絶え「使い捨てにされた」 完全オンラインの仕事に落とし穴

 仕事を全てオンラインで行う会社の元社員が、賃金未払いなどの被害に遭う事態が起きた。退職後に給与を請求したが、会社側とやりとりしていた交流サイト(SNS)でも電話でも対応してもらえず、後に連絡が途絶えたという。オンライン業務が普及する中、労働組合関係者は「労働者の使い捨てが起きやすくなっている」と警戒する。(河野賢治)

 「雇用形態…正社員」「社会保険…雇用保険、健康保険、厚生年金」-。

 ある元社員は昨年、大手求人サイトで不動産関連のベンチャー企業の社員募集を見つけた。仕事は「完全在宅勤務」。会社のホームページをのぞくと、本社は東京都と書かれていた。

 「在宅勤務は何かと便利だ」。そう考え応募した。ビデオ会議システムで「社長」を名乗る男性と個人面接。男性は終始、自分の顔を映さなかった。その場で採用が内定した。

 仕事は賃貸物件を探す顧客を通信アプリで手伝う業務で、フルタイムでパソコンと向き合う。出社する必要は全くなく、会社側はSNSなどを通して勤務状況を管理する。

 入社後すぐに違和感を抱いた。企業は従業員を雇う際、賃金などを記した労働条件通知書を原則書面で交付する必要があるのに、出してくれない。健康保険証は入社1カ月が過ぎても届かず、厚生年金加入の手続きもされなかった。

 社長や上司数人がビデオ会議や通話機能で指示をしてくるが、誰もパソコン画面には顔を映さない。やがて「あなたを雇って赤字だ」などとなじられた。

 元社員は2カ月弱で退職した。給与は一度も振り込まれなかった。

 労働基準監督署に相談すると、調査してくれた。しばらくして結果を聞き、驚く。ホームページ掲載の本社ビルは登記簿の住所と同一だったが、既に解体されて存在しなかった。社長の住所とされる公営住宅も「人が住んでいる気配はない」。会社は労災保険に加入しておらず、自分以外にも複数の従業員が賃金未払いとなっていた。

 「許せない」-。会社側にSNSで給与を請求した。「確認して回答する」と返事があっただけ。複数ある社用の携帯電話番号もつながらず、連絡が取れなくなった。途方に暮れた。

 退職の数カ月後。労基署が社長の連絡先を突き止めて指導し、給与が支払われた。「入社して本当に後悔している。今ものうのうと事業を続けているのが信じられない」

 別の元社員は健康保険証をもらえず、2カ月弱働いて退職した。辞めた後、数カ月たっても賃金は支払われなかった。「使い捨てにされた感じ。罰を受けてほしいと思う」

 ある労働組合関係者は「完全オンラインの危険性があらわになった」とみる。経営者とやりとりする手段はSNSや携帯電話に限られ、「使用者は都合が悪くなると、いつでも従業員と連絡を絶つことができる形。働けるだけ働かせて義務を果たさない詐欺のようなものだ」と批判した。

 この会社にオンラインで取材を依頼した。社長という人物が画面に顔を出さずに応じた。給与の未払いがあったのは「昨年退職した5人」と説明、1人は夏ごろに辞め、「遅れて支給した」と主張した。

 残る4人は昨年後半に退職。このうち1人と直接雇用か業務委託契約かなどを巡ってトラブルになったため「1人との問題を解決した後で、残る3人に給与を払うつもりでいた」と釈明した。3人には既に振り込んだといい、トラブルになった1人にも支給する考えを示した。悪びれた様子はなく、元社員への謝罪の言葉もなかった。

 全国労働組合総連合(全労連)の伊藤圭一雇用・労働法制局長は「社長や上司が顔を見せないなど、何かあれば社員から逃げるつもりでいた意図を感じる」と話す。「雇用契約や賃金などの条件は、使用者の禁止事項を明確にし、罰則も強化すべきだ。今回は求人サイトを運営する職業紹介事業者が、事実と異なる求人情報を掲載したことになり、こうした事業者への指導も厳しくする必要がある」。言葉に力を込めた。

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