キラキラネームじゃないのに難読ネーム「名前訂正人生」の心労とは

キラキラネームじゃないのに難読ネーム「名前訂正人生」の心労とは

人名に使える漢字は2999字、2136字が高卒レベル

「誰もが読める読み方ではありませんが、キラキラネームではありません」。緊急の帝王切開で予定より3か月早く生まれてきた愛娘に、夫婦2人で話し合ってつけた名前でした。なのに、義母に「読めない」と不満を言われ、義妹からは「学校や病院で読まれない名前だし苦労するのは子供だ!」と責められ、義弟にも「なんでその漢字にしたのか?」と追及されることに。義家族の思わぬ反応にショックを受けた女性は、読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にやるせない気持ちをぶつけました。

投稿した女性の「トピ主」さんは、字画や響きにも思いを巡らせ、生まれてくる子どもの名前を考えたといいます。姓名判断に詳しい実母の知り合いからお墨付きも得た名前だったにもかかわらず、義家族からは「親の教養がないなど、さんざんバカにされました」というトピ主さん。「漢字を英語読みした名前(いわゆるキラキラネーム)だったら言われてもしょうがないかな……と流せたかもしれませんが、ちゃんとした漢字で、日本語読みもできる名前だし、私たちが考えた我が子の名前になぜそこまで言われないといけないのか」と悔しさをにじませます。

法務省によると、名前に使うことができる漢字は2017年の改定で、常用漢字の2136字と人名用漢字の863字を合わせた2999字になりました。

常用漢字表は、学校教育における漢字の習得目標になっており、文化庁によると、2136字のうち、およそ半分の1026字を小学校で学びます。高校卒業までには、2136字全てを読むことができ、主な常用漢字も書くことができるようになる、としています。

一方、人名用漢字表は、子どもにつける名前の多様化にともない、使用したい漢字が使えないなどの不満を受けて数が増えていった経緯があります。1976年に追加された「沙」(現在は常用漢字)は歌手の南沙織の影響が大きかったとされています。

難読とされる名前は、〈1〉キラキラネーム〈2〉名前にだけに使われる読み方〈3〉習ったことのない難しい漢字――の三つが考えられます。

〈1〉の「キラキラネーム」は、キャラクターの名前や外国語に一般的な読み方とは異なる漢字を当てた名前。愛(らぶ)、海(まりん)、光宙(ぴかちゅう)、七音(どれみ)などがよく例に挙げられます。

〈2〉の「名前だけに使われる読み方」は、有名人で言えば、大森南朋(なお)、神尾楓珠(ふうじゅ)、眞栄田郷敦(ごうどん)、伊藤沙莉(さいり)、黒木華(はる)などの名前が当てはまります。

〈3〉の「難しい漢字」は、高校卒業程度とされる常用漢字ではなく、人名用漢字863字に含まれていると考えられます。この中には、「蓮」(れん)、「湊」(みなと)、「紬」(つむぎ)、「凪」(なぎ)、「凜」(りん)、「杏」(あん)など、最近の名前ランキングでおなじみの漢字もあります。ところが、「侃」「悉」「尤」のように読むのも難しければ、検索するにもやっかいな漢字も多く、名前を説明する場面ではちょっと苦労しそうです。

ちなみに、「侃」は四文字熟語の「侃々諤々(かんかんがくがく)」で使われ、人名では「あきら」「ただし」「すなお」と読むことができます。「悉」は「すべて」の意味で「ことごと(く)」「つぶさ(に)」と読まれ、「つぶさ」や「みな」という名前の読みになります。「尤」には、「非常にすぐれていること」という意味があり、名前では「尤輝(ゆうき)」や「尤朔(ゆうさく)」などと使われます。

ジュエリーブランドで知られる「俄」(にわか)、故事に由来する宝物の「鼎」(かなえ)、模様などが美しい様子を示す「斐」(あや)などの漢字も人名用漢字に含まれています。意味や響きを知れば、こうした漢字を名付けたいと思う人もいるかもしれませんが、正しく読まれるかどうかは微妙なところです。

正しく読んでもらえる名前はそれだけで価値がある

さて、発言小町に「子供の名前で悔しい思いした人」というトピを立てた「トピ主」さんは、娘につけた名前を「キラキラネームではない」と強調しつつ、「誰もが読める読み方ではありませんが……」とも断っているので、〈2〉か〈3〉の可能性が考えられます。

このトピには約120件のコメントが寄せられました。「読みづらい名前はオレオレ詐欺に遭いにくい」と難読ネームのメリットを指摘する声もあれば、「義家族の反応は、世間からありうる反応だと考えておいたほうがいい」といった冷静な見方もありました。子どもに難読ネームをつけた親や難読ネーム当事者からの体験談も多く集まりました。

自分の子どもに名前をつけた経緯を書き込んだ「大学生の母」さんは、読み方を妻、漢字を夫が担当したといいます。その名前は、読みにくく、説明もしにくい漢字だそうです。例として「さくら」という読みに、漢字を「桜羅」としたイメージと説明します。現在、大学生になった子ども本人は、他の人と名前がかぶらず、その名前を気に入っている様子。ただ、画数が多い漢字のためか、「書道で字がつぶれるのが嫌だったかなあ」と振り返ることがあるようです。

学校の先生も読めなかった難読ネームという「まりか」さんも、自身の経験を語ります。漢字検定準2級レベルの漢字のため、小学校で名前を漢字で書くようになると苦労したと振り返ります。ただ、美しい字体の漢字で、自分の名前を気に入っているとも。そして、トピ主さんに「お子様も苦労するとは思いますが、主様がちゃんとフォローしてくださるのなら、大丈夫だと思いますよ」とエールを送りました。

「ななみ」さんも、自分の子どもの名付けで苦い思い出があります。「普通に読める漢字ですが、やや珍しい名前なので、実の親が苦笑いしていました。あからさまで、傷つきましたね」と振り返りました。それでも、「何より、名前にメッセージがあるので、それが子供に込めた思い」と揺るぎない気持ちをつづり、「ちゃんと子供を思ってつけたなら、それで良いんですよ」とトピ主さんを勇気づけます。

多少読みづらくても構わないとする意見がある一方で、難読ネームのために、名前の読み方をいちいち訂正したり、漢字の書き方を説明したりすることに苦痛やストレスを抱えている人もいます。

子どもの名前をトピ主さん同様、夫婦で相談して決めたという「匿名」さん。名付けで最も重視したのは「読み間違えない」ことだったそうです。というのも、夫婦は2人とも読みづらい名前のために、小さなストレスを抱え続けてきたと明かします。「名前訂正人生を送ってきた身としては、正しく読んでもらえる名前というのはそれだけで価値がある」と力をこめます。

「私の名前は読めない名前です」と打ち明けたのは別の「匿名」さん。この漢字にこの読み方というのがつながらず、読み間違えられることばかりなのだとか。「ごめんなさい。失礼しました」「いえいえ、読めない名前の方が悪いのですから、お気になさらないでください」というやり取りを何度繰り返したことか――。相手を恐縮させてしまって心苦しいといい、もし、トピ主さんが2人目のお子さんを望むなら、「読めること」「よそ様や我が子に負担をかけないこと」を念頭に名前を考えてほしいと願っています。

育児情報誌や生命保険会社が発表する名前のランキングを見ると、「陽翔」「陽葵」「咲茉」など、人気上位にも難読ネームは見受けられます。でも、漢字から受けるイメージは明るく伸びやかで、しかも、格好いい。ちょっとうらやましい気もします。名前は親から一方的に与えられるものとはいえ、読み方や漢字に込められた願いをいつか自分のものとしてかなえていけるといいですね。

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