NHK紅白歌合戦「けん玉チャレンジ」で唯一“失敗”した男性が初告白 「楽屋で100人以上の前で土下座しました」

NHK紅白歌合戦「けん玉チャレンジ」で唯一“失敗”した男性が初告白 「楽屋で100人以上の前で土下座しました」

 昨年大みそかの「第74回NHK紅白歌合戦」で恒例の「けん玉チャレンジ」が行われた。「けん玉チャレンジ」は2017年からスタートし、20年からは3年連続で成功中だった。昨年も、いったんは128人全員が成功したかに見えたが、約50分後、NHKは番組内で「映像を確認したところ残念ながら失敗していました」と説明。世界ギネス記録も取り消しになった。失敗したのは「16番」だった男性。年が明けた今、彼は何を思うのか。AERA dot.の取材に初めて胸中を語った。

 都内の喫茶店に現れた「16番」は、ネクタイにスーツ姿のごく普通のサラリーマンだった。名前は「しゅんさん」。年齢は25歳だという。

 しゅんさんは紅白の「けん玉チャレンジ」に出場することになった経緯をこう話始めた。

「NHKからオファーがあったのは昨年12月に入ってからです。普段からけん玉を広げる活動に貢献している人を対象に、NHKが選んで声をかけていったようです」

 しゅんさんは同年代のDすけさんと一緒にYouTubeチャンネル「もしかめブラザーズ」を2022年10月に開設。けん玉の技を披露する動画などをアップしてきた。

「僕はもともと補欠要員で、誰か欠員が出たときに代わりに出場できるということでの参加でした」

 紅白前日の12月30日。リハーサル時に体調不良になった男性が出たことで、しゅんさんに声がかかった。

「30日夜のリハーサル終了後、運営の方から『代わりに参加してください』と言われました。それで、その男性がつける予定だった『16番』を僕が代わりに背負うことになったという経緯です」

■「なんか、ザワついているな」

 歴史にif(もしも)はないと言うが、予定通り、正式メンバーが出場していたら、しゅんさんの出番はなかった。人生、何が起こるかわからない。

 当日になって出場を告げられたしゅんさんは何を思ったのか。

「急に言われて、ドキッとはしたんですけど、僕はおととし出場していて、その時は成功したんですよ。だから、落とすかもしれないみたいな不安は全然なかったです。当然、成功するつもりでした」

 体調は万全。本番当日の練習にも参加して、あとは本番を待つのみだった。

「けん玉チャレンジ」が行われる三山ひろしの曲「どんこ坂~第7回けん玉世界記録への道~」が始まったのは午後10時過ぎ。「けん玉ヒーローズ」のメンバー128人がステージに上がっていく。10人目までなら1回だけなら失敗してもやり直しがきくというルールで、3番目の「パンサー」尾形貴弘が失敗。最初からやり直す場面があったが、尾形は2度目は成功させた。

 NHKホールの大観衆の前でけん玉が始まると、しゅんさんは徐々に緊張を感じるようになった。

「本番の時は、尾形さんが落とした場面は見られなくて、『あれっ、なんかザワついているな』と思っていたら、もう自分の番だみたいな感じで『あ、ヤバイ』と思いました」

 しゅんさんの位置は、平場ではなく、階段を数段上がった端っこ。けん玉がやりやすい場所には見えない。

「おととしも階段の位置で成功させた経験があるので、正直、自分の中では問題ありませんでした。運営の方も、事前に『もし不安要素があったら、やりやすい場所の番号と交換します』という対応をしてくれましたが、僕はそれは必要ないという認識でした」

■玉が左側にこぼれ落ちた

 けん玉は、階段をジグザグに昇りながら進んで行った。16番のしゅんさんの場所まで、玉がどんどん迫ってくる。

「階段の上ですから、前の方でけん玉をしている人は背中だけが見えて、けん玉をしているところは見えないんです。だから、体の動きから雰囲気で感じ取って、自分が動くという形でした。タイミングが取りづらいなとは感じました。照明もまぶしくて、音も大きくて、緊張で自分の心臓の鼓動が聞こえました。キメなきゃという一心でした」

 しかしチャレンジは失敗……その瞬間、玉は左側にこぼれ落ちている。

「会場の雰囲気にのまれて、平衡感覚を失ってしまい、やる前にふらついてしまっていました。玉を上げた時、自分としてはまっすぐのつもりだったんですけど、ちょっとズレていたんですよね。そのまま乗っけようとしたら、玉が皿のふちにカンと当たって、はじいてしまった。頭が真っ白になりました。ワーッどうしようと思ったけれど、こぼれた玉は手で皿に乗せて正面を向きました。それからは落とした実感がどんどん沸いてきて、手が震えてきました」

 失敗した時の手順は、事前に運営側から決められていたという。

「あくまで、三山さんのバックダンサーという演出なので、特に成功、失敗で表情を変えてはいけない。もし、失敗してしまったら、手で玉を乗せて、真顔で正面を向いているという演出でした。チーム全体をきれいに見せるための演出なので、僕が失敗しても、その後も続くのは間違いではありませんでした」

■相方も一緒に土下座してくれた

 最後に、三山が大皿に玉を乗せると、ギネス審判員からいったんは「世界ギネス記録」に認定されたが、審判員がモニターで確認したところ、しゅんさんの失敗が判明。約50分後には番組内で記録が取り消された。

 SNS上では「紅白けん玉失敗したよね? 16番の人」などと投稿され、ギネス取り消し後には「けん玉失敗した16番の人、責める人もいるけど何も言えなくなった」「16番の人がいたたまれない」などの投稿などが一斉に上がり、Xでは「けん玉失敗」がトレンド入りした。

 終了後、けん玉ヒーローズがガッツポーズをした時にしゅんさんも一緒にガッツポーズをしていた映像が残っている。そのため、「16番は失敗を自覚してるはずなのに、なぜガッツポーズしているのか」という投稿もあった。

「僕はみんなより1秒くらい遅れてガッツポーズをしているんです。あれは成功した時のシチュエーションが決まっていたからです。三山さんが勝どきを上げるので、みんなでエイエイオーと言うことになっていました。その場合は『喜んでください』という指示がありました。失敗した時にはリアクションなしと決まっていたんですが、みなさんはほぼ誰も僕の失敗を気づいていなかったようで、本気で喜んでいました。僕としては、何が何だかわからない状態でした」

 会場を引き上げた後、運営側から「モニターでの確認が入るので楽屋の外でこのままお待ちください」と言われ、しゅんさんと相方のDすけさん、それにもう1人の仲間のプレーヤー3人で、楽屋の外で待っていた。すると、失敗のアナウンスがあり、チャレンジ失敗が判明した。

「僕が楽屋に戻ると、100人以上のメンバーが全員座って待っていました。みなさんに謝りたいという気持ちが真っ先に出て、『すいませんでした』とその場でいきなり土下座しました。相方のDすけは自分は成功したのに一緒に土下座してくれた。みんな誰一人、僕を責める人はいなくて、逆に拍手してくれました。『落ち込まないで』『今後も辞めないで続けてほしい』と励まされました。DJ KOOさんはハグをしてくださり、『落ち込まないで次も挑戦してほしい』と言ってお菓子をくれました。本当にみんな温かくて、それで救われたところがありました」

■次の紅白でもチャレンジしたい

 とはいえ、しゅんさんは年始はかなり落ち込んでいたという。

「1月3日くらいまで、ずっと部屋にいて、布団の中で引きこもっていました。でも『このままではいけない』と思って、家族やいろんな人と話すうちに、気が楽になった。現在は普通に仕事をしています」

 周囲からは「謝らなくていい」とさんざん言われた。

「でも、僕は謝らなくてはいけないと思っていて、チーム全員で挑戦しているからこそ、謝罪も必要な工程です。かといって、ずっと暗くしていてはみなさんに悪い印象を与えてしまうし、これからけん玉を始めようとする人がどんどん離れていってしまう。なので、きちんと謝る姿勢は示したうえで、活動を楽しく続けていくのが僕の使命だと思うようになりました」

 しゅんさんは「もしかめブラザーズ」を通じて、けん玉を広める活動をしている。東京・足立区の商店街で通行人に声をかけて一緒にけん玉をしたり、やったことがない人にけん玉の魅力を伝えたりしている。

「私はけん玉を始めてからまだ2年ですが、けん玉というツールがあることで、知らない人とでもどんどん仲良くなれるし、日々、新たな発見があります。けん玉は自分一人で完結することもできますが、誰かと一緒に練習することもできます。気軽に始められるし、いろんな人と出会えて、自分の居場所を持てるのはすごくいいところだと思います」

 そして、最後にこう締めくくった。

「紅白で落としたという事実とはこの1年間ずっと向き合っていくことになると思います。だからこそ、成功するまでは絶対に辞められない。次に挑戦するまでは、絶対にこの気持ちは変わりません。次の紅白で『けん玉チャレンジ』があるかはわかりませんが、あったらぜひ挑戦したいですね。成功したら気持ちが晴れるだろうし、もしまた失敗しても、僕が前向きにけん玉を楽しんでいる姿をみなさんに見ていただきたいです」

 次の紅白では、失敗から這い上がったしゅんさんのガッツポーズを見てみたい。

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