NTT法廃止にKDDI・ソフトバンク・楽天が猛反発する理由、NTTに抱く3つの不信感
12月上旬、自民党の政務調査会がNTT法のあり方に関する提言を公表。その中で、2025年をめどにNTT法の「廃止」が提言されている。それを受けて、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、ケーブルテレビ事業者など181者は、NTT法の廃止に反対を表明している。NTT vs その他通信事業者で小競り合いを続けているように見えるかもしれないが、NTT法のあり方は私たちが利用するサービスに影響を及ぼすもの。再び携帯電話料金が上がったり、利用者が少なくコストに見合わない地域の通信サービスが停止されたりといったことも起こりうる。議論の行方はどうなるのか。
そもそもNTT法とは何か?
そもそもNTT法(日本電信電話株式会社法)とは、前身の電電公社が現在のNTTとして民営化され、日本電信電話公社法が廃止されるに伴って作られた法律だ。現時点でNTT法の規制対象となっているのはNTT(持株会社)とNTT東日本、NTT西日本の3社だ。
NTTとNTT東西は、電電公社が敷設・運用してきた電話回線網、局舎などの「特別な資産」を受け継ぐ事業者であるため、NTT法によって業務内容や経営に関して一定の制限や国による関与が規定されている。
最低限の通信・通話サービスを全国一律に提供する義務(ユニバーサルサービス義務)が課せられており、発行済み株式総数の3分の1以上を政府が保有する。また、外国人による株式取得の制限や外国人役員の禁止といった規制もある。
なぜNTT法「廃止」の議論が浮上?
今年夏ごろから政府内で、防衛予算の財源とするためにNTT株の売却案が浮上し、いつしかNTT法廃止の議論に発展していった。NTT法の改正または廃止なくしては、株式売却は実現しえないためだ。
12月5日には自民党の政務調査会が「日本電信電話株式会社等に関する法律のあり方に関するプロジェクトチーム(PT、座長・甘利 明衆院議員)」が取りまとめた提言を発表。その中で2025年をめどにNTT法の廃止が提言されている。
PTがNTTとKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル4社の社長にヒアリングを行い、各社社長はNTT法の見直しに対する考えを表明してきた。NTTの島田 明社長は「NTT法は時代遅れの法律、ほぼ役割を終えた」との認識で、「NTT法は結果として廃止になる」と発言。一方、ほかの3社は一貫してNTT法の「改正」には賛成、「廃止」には反対の立場を表明している。
NTTが求めている3つのこと
NTT側が求めていることは大きく3つ。まず、NTT法で定められている研究開発の推進・普及責務(研究成果の開示義務)の撤廃だ。光電融合技術をベースにNTTが中心となって推進している「IOWN(アイオン)」などの研究開発を展開していくうえで、経済安全保障や国際競争力強化の支障となることから、研究成果の開示義務は撤廃すべきと主張している。
2つ目はユニバーサルサービス義務について。NTTは、音声・データ通信を固定・無線・衛星などを用いて、各地域に最も適した方法で最も適した事業者が担うべきとしている。また、NTT法で定められている固定音声サービスを、電気通信事業法で定められているブロードバンドサービスのユニバーサルサービス義務に含め、海外の主要国と同様に電気通信事業法に統合すべきとも主張している。
3つ目は外資規制について。NTTは、外資規制をNTTだけに課すことは無意味だと主張している。たとえば、携帯電話事業者が保有する顧客情報の管理システムやコアネットワークも守らないと、モバイルユーザーに安定した通信サービスを提供できない。NTT法でNTTだけを守っても無意味であり、外為法などで主要通信事業者を対象とすることを検討すべきと主張している。
NTTの島田 明社長は、「NTT法の役割はおおむね完遂」されており、「結果的にNTT法は廃止される」と発言している。
なぜKDDIら181者は「廃止」に反対?3つの不信感
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、日本ケーブルテレビ連盟に加盟する事業者、自治体など181者はNTT法の見直しに関する意見を表明。NTT法の「廃止」に反対している。
たとえば、研究成果の開示義務や外国人役員の規制、社名の変更に許可が必要なことなどは時代に合わない古い規律として見直しに賛成している。一方で、国益・国民生活への影響があることから、次の3項目については慎重な議論が必要だとしている。
1つ目はNTTグループとその他の事業者との「公正競争の確保」だ。NTT法が廃止された場合、完全民営化されたNTTが再び一体化を進める可能性がある。そうすると公正な競争環境が阻害され、利用料の高止まりやイノベーションの停滞など、国民の利益を損なう恐れがあると主張している。
たとえば、携帯電話というと無線通信部分ばかり注目されるが、携帯電話事業者は基地局から先はNTT東西が持つ光ファイバー網も使って自社のネットワークを構築している。仮にNTTが一体化されると、光ファイバーの利用料が高くなった場合、NTTグループ以外の事業者にとってはコスト増となるが、ドコモがNTT東西と一体化されていればグループとしてはプラスマイナスゼロになる。
ただ、NTTの島田社長は以前から「NTT東西とNTTドコモを統合する考えはない」と発言している。また、12月13日に開催された総務省の情報通信審議会にNTTが提出した資料には、「電気通信事業法でNTT東西の移動体通信事業・ISP事業への進出禁止やNTT東西とNTTドコモの統合禁止を規定していただいて構わない」との記載もある。
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、法律に書かれていないという理由で、深い議論のないままドコモがNTTの完全子会社化になったことに対して不信感を抱いている。NTTの資料は、ドコモと東西の統合をはっきり否定することで、3社の不信感を払拭(ふっしょく)する狙いもあるのだろう。
2つ目は「ユニバーサルサービスの維持」だ。「特別な資産」を所有するNTTは、電話や光サービスを全国にあまねく提供する義務があると各社は主張する。NTTは、ユニバーサルサービス義務については電気通信事業法に統合すべきとしているが、事業法においてNTT東西に課されている義務はなく、不採算のエリアでは撤退してしまう可能性があると181者は懸念する。
3つ目は「外資規制」。「特別な資産」とは、30年の年月、25兆円もの費用をかけて構築された局舎や通信回線敷設トンネル、通信回線パイプライン、電柱といった通信基盤のこと。これらは通信の黎明(れいめい)期から築き上げた国民の財産であり、ほかの事業者が構築し得ない規模になっている。
これらを保有するNTTを守るには、NTT法による外資規制が最も有効だというのが181者の考えだ。ソフトバンクの宮川 潤一社長は、NTT法を廃止し、NTTが特殊法人から普通の民間企業になることを望むなら、この特別な資産を国に返還し、国が監督責任を持つべきとの考えを示している。
NTTは「廃止」にこだわらないとの発言も
携帯電話事業者3社を中心とする181者は、NTT法の「廃止」に反対しているのであって、「改正」には賛成している。NTTが主張する研究成果の開示義務や外国人役員規制の緩和などは181者も賛成している。NTT側が望むことはNTT法の「改正」で済むと181者は考えており、なぜNTT側が「廃止」にこだわるのかを疑問に思っていた。
このNTT法の見直しについての議論が、基本的に自民党PTの中だけで行われ、廃止の方向に流れつつあることも181者は問題視していた。そんな中、12月13日の情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会で、NTTの島田社長は、「2025年までのNTT法廃止は求めていない」と発言。2025年までのNTT法廃止は、あくまで自民党の政務調査会の提言という認識を示した。
高橋氏は島田社長の発言に対し「じっくり議論していただけるんだという安心感を覚えた。(NTT法)廃止にこだわらないとおっしゃった言葉を聞いて本当に良かったと思っている」と語った。
実際に見直しの議論が始まった場合、研究成果の開示義務や会社名の変更、外国人役員の登用などについては、それほど時間をかけずに撤廃や緩和で落ち着きそうだが、仮にNTT法廃止となり、NTTが完全に民営化されるとなった場合は、ユニバーサルサービス義務や「特別な資産」の取り扱いに、かなりの議論や調整が必要になりそうだ。
181者は「国民のサービスに大きな影響を及ぼす重要課題であり、オープンかつ丁寧な議論」を要望している。現在の議論は通信事業者同士の小競り合いではなく、情報通信インフラの将来像、NTTのあり方、法制度のあり方を決める重要な議論であり、記者会見では「国民に関心を持ってもらいたい」と強調していた。
通信業界内では大注目のNTT法見直し議論だが、一般ユーザーからの注目度はそれほど高くないと感じる。NTT法の廃止によって、再び携帯電話料金が上がったり、利用者が少なくコストに見合わない地域の通信サービスが停止されたりといったことも起こりうる。今後の議論の行方にぜひ注目していただきたい。