「輸出台数は最盛期の7~8割減です…」 ロシアで人気の日本製中古車 輸出禁止が強化された影響は
2023年8月9日から新ルール施行
ロシアに向けた日本からの中古車輸出に厳しい制限が課せられて1か月半が経過した。
8月9日に日本政府が欧米の規制に追従する形で1.9L以上のガソリン車、すべてのハイブリッド車、EV車の輸出を禁じたのである。
今回の措置により輸出可能な車種が限定され8月の輸出台数(速報値)は7月に比べると約2万台の大幅減少となっている。
また10月19日に発表された財務省貿易統計(速報値)では、ついに1万台を切って9395台にまで減少してしまった。過去10年でもっとも多かった2023年7月の3割以下である。
■ロシア向け中古車輸出台数
2023年7月:3万2116台(前年同月比84.9%増)
2023年8月:1万2062台(前年同月比42.5%減)
2023年9月:9396台(前年同月比51.8%減) ※10月19日発表「財務省貿易統計速報値」より。
AUTOCAR JAPANでは昨年春以降、ロシア向け中古車輸出についての記事を公開してきた。
改めてこれまでの経緯と今回の大幅減少となった経緯についてお伝えしておきたい。
多大な影響を与え、与えられ
2022年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻によって、ロシアに対して西側諸国の多くが数々の経済制裁をおこなってきた。
自動車関連では2月終わりから3月上旬にかけトヨタ/日産/メルセデス・ベンツ/フォード/ダイムラーなど、日欧米の自動車メーカー各社が相次いでロシアにおける事業停止を発表。
ロシア国内工場での生産や販売を終了し、完成車(新車)や部品の輸出を禁じ、ロシア国内にある各社の新車ディーラーも閉鎖された。
ロシア周辺国でのワイヤーハーネスに代表される部品の生産も一時期は停止を余儀なくされた。日本メーカーの国内生産にまで納期の大幅遅れなど多大な影響を与えてきたことは記憶に新しいだろう。
日本や欧米の新車生産や輸入ができないのはもちろん、最新の電装部品も入手できない状態となった。
ロシア国内の自動車メーカーの中には経済制裁とは無縁の周辺国から入手できる部品を使用して「新車」の製造も試みた。
しかし、そのスペックは酷いもの。エアバッグやABSもない安全性の低い車両を再生産してきたわけだが、いくら何でもそんな旧車スペックの「新車」が人気となるはずもなかった。
ロシア 日本の中古車が大人気
日本からロシアへ輸出される中古車に関しては2022年3月中旬頃、一時期輸出停止となり、日本の港で船積みを待つ大量の中古車の姿がニュースでもたびたび報道された。
しかし、ロシアの人々にとってクルマは生活必需品であり、特に日本車は信頼性や優れた整備性の部分で非常に人気がある。
その後、輸出停止は短期間で終了し3月の終わり頃から贅沢品とみなされる600万円以上の高級車以外は輸出が再開された。
のちに普通トラックの輸出を禁止するなど規制は強化されたが、乗用車の方は月を追うごとに飛躍的に増えていった。
2022年10~11月は「部分動員令」を避けるべく、港湾労働者が国外脱出した影響で日本からの中古車がロシアの港で滞留する状況となった。
その時期は輸出台数の伸びが鈍化したものの、結局2022年全体では過去10年間で最高となる20万4672台が輸出されている。(20万台の中には輸出台数にカウントされない20万円以下の安価な車両は含まれていない。実際はもっと多くの日本車が入っていると考えられる)
台数が20万台超となったことも驚きだが、1台当たりの単価も2021年までは60万円台だったのに対し、2022年はなんと120万円へ187%増とほぼ2倍の価格に上がっている。
日本製の新車が入手できない分、高年式の中古車がロシアへ大量に持ち込まれたことの結果だと考えられる。
ところでなぜ、このタイミングで輸出中古車への制限が強化されたのだろうか。
冒頭でも述べたが8月9日施行の新ルールは今年7月に外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出貿易管理令の改正がおこなわれたことに関わっている。
欧米と足並みを揃える形で対ロシアへの輸出禁止措置を拡大。「鉄鋼」「輸送用の機械およびその部分品」など合わせて758品目が輸出禁止措置の対象品目として追加されたのである。
落札額 過去最高から15%下落
8月9日以降の規制強化では排気量1.9L以上のガソリン/ディーゼル車やすべてのハイブリッドやEVなどのエコカーも輸出禁止となった。
2022年に日本からロシアに輸出された約20万台の中古車は金額だと約2500億円。経産省の試算によると、このうち1500億円が輸出禁止の対象になるという。
すでにこの規制は日本の中古車市場全体にも大きな影響を与えている。ロシアへの輸出規制強化によって8月末には中古車の平均価格は1年前と比べると7%近く下落した。
業者オークション大手のユー・エス・エス(USS)が9月5日に発表したデータでは8月の平均落札価格は前年同月比6.9%安の103万8000円。
2か月連続で前年同月を下回っており、USSで過去最高を記録した2022年9月(122万1000円)に比べると15%もの下落となっている。
8月 どれくらいの影響か?
ロシアへは日本で冠水車となった車両も多数渡っており、冠水車専門の修理業者がきれいに直して一般販売されている。
それは問題ないことだが、軍事転用を目的とした部品取り用であれば冠水車からそのまま部品を外して使うこともたやすいだろう。
このような経緯から、禁止対象の中古車がイッキに増え、中古車全体の平均価格が下落していることはわかった。
実際、ロシア向けの中古車輸出にはどれくらいの影響が出ているのか。
日本中古車輸出業協同組合佐藤博理事長いわく、「8月9日以降、ロシア向けの中古車は7~8割減といったところ」とのこと。影響はかなり大きい。
また、ジェトロ(JETRO=日本貿易振興機構)欧州課に8月9日以降の日本からロシアへの中古車輸出状況を聞いたところ、以下のコメントを頂いた。
「直近7月までの対ロシア中古乗用車輸出は好調でした。3万2116台で前年同月比84.9%増でした」
「一方、今回の措置により輸出可能な車種が限られたことで、8月輸出台数(速報値)は1万2062台。前年同月比42.5%減です」
「今回の輸出禁止措置により中古車全体の6~7割が対象になるのではないかという話もあります」
「一方で、第3国を経由してロシアに輸出するという動きはあるようです」
「第3国経由での輸出についてですが、輸出台数第2位のUAE経由で入る可能性は考えられます。主な流通場所はロシア極東のため数量は限定的になるかもしれません」
「モンゴル経由は、輸送コストが高くなると思われます」
日欧米が去り、中国車が大きく台頭
■2023年7月中古車輸出台数
1位 ロシア 3万3145台(前年同月比184.1%)
2位 UAE 1万7907台(同172.0%)
3位 ニュージーランド 1万336台(同168.6%)
4位 モンゴル 6998台(同190.8%)
5位 チリ 6470台(同110.5%)
1.9L以上のガソリン車、すべてのハイブリッド車とEV車のロシア向け輸出が禁止になる直前の7月はこのような状態だった。
ロシアが単月で3万台を超えたのはかなり稀な状況である。
UAEやモンゴルの前年同月比もすさまじい増え方だ。日本からの中古車がUAEやモンゴルを経由してロシアに流れている可能性も大いにありそうではある。
ではロシア自動車市場はいま、どのような状況になっているのだろうか?
日欧米メーカーの新車が販売されていないのはもちろん、中古車も厳しい規制を受けているロシア。
自動車市場の情勢についてもジェトロ欧州課より回答があった。
「ロシアの特に極東地域では日本車は一定の人気がありましたが、今後は中国車やロシア国産車が増えていく可能性はあります」
「ロシアの自動車市場調査会社アフトスタトの調査によると、2022年の乗用車(こちらは新車ですが)の販売台数は前年比60.5%減で、特に西側企業の販売台数の減少が目立ちました」
「いっぽう中国メーカーの中には前年比で販売台数を伸ばしているメーカーもあり勢いがあります。日本車が入らない分、中国車やロシア国産車などのシェアが伸びる可能性はあるのではないかと思います」
「また現地専門家のコメントとして、輸出が禁止される日本車に関しては15~30%価格が高騰すると報道しているメディアもあります」
「日本車の修理に必要な部品の調達も困難になってきているようですので、ロシア人にとって日本車は手が届きにくくなるかもしれません」
なるほど。日欧米メーカーが去ったあと、いまは中国車が大きく台頭している状況のようだ。
ロシアブランドの新車として人気があるモスクヴィッチも中身はほとんど江淮汽車(JAC)製とされる。
モスクヴィッチは今年9月上旬に旧ルノーモスクワ工場を買い取って初のCセグメントセダン「モスクヴィッチ6」の生産を開始したことを発表している。同車は3グレードの設定でこの10月には発売予定だ。
高級車ブランドとして知られる第一汽車「紅旗」もロシアでの販売に本腰を入れ始めている。
近年、中国車の性能、信頼性は飛躍的に上がっており安定してロシアで新車が販売されるなら、中国車という選択もありなのでは? と考えるロシア国民もこれからは増えそうである。
とにもかくにも、ロシアでの戦争が無事集結しウクライナの間に平和が戻って各国からの経済制裁もなくなり、かつての正常な自動車市場が戻ってくることを祈るばかりである。
