高血圧、禁煙、不眠症… 医師が「アプリ」を処方、保険適用もある「治療用アプリ」の現在地
医師が「薬」ではなく「アプリ」を処方して治療する。そんな新たな治療法が、高血圧や禁煙の治療で始まっています。年内には不眠症を対象としたアプリも登場する見込みです。「ヘルスケアアプリとは違うのか?」「どうやって治療するのか?」治療の新たな選択肢に迫ります。
■高血圧の治療用アプリは幅広い世代で効果 特に65歳以上で顕著
高血圧のこれまでの治療法は、薬の服用や食事療法・運動療法など生活習慣の改善が一般的でしたが、医療系スタートアップの「キュア・アップ」は新たな選択肢として、「治療用アプリ」を去年9月から提供しています。
「キュア・アップ」は、去年9月から今年4月までに治療用アプリを利用した22歳~87歳の患者554人のデータを公開。アプリの利用を開始してから12週後の血圧について、全ての年代で低下が見られたと発表しました。特に65歳以上の患者では、起床時で11.8、就寝前で10.1下がり、顕著な効果が確認できたとしています。
内服薬による治療には副作用の可能性もありますが、治療用アプリで生活習慣などを改善することで、内服薬に頼ることなく症状を改善したり、内服薬の処方を徐々に減らすことも期待されています。
■「治療用アプリ」は薬と同じように医師による処方が必要
健康に関わるアプリとしては、歩いた距離や体重などが記録できる「ヘルスケアアプリ」がすでに身近になっています。「ヘルスケアアプリ」は自分で健康を管理するためのものですが、「治療用アプリ」は、医薬品や医療機器と同じように厚生労働省の薬事承認を取得していて、医師の診断のもとで処方されます。医師の指導と合わせて使用し、日常生活に取り込み生活習慣などの行動を変えることで、治療を補助するものです。
国内では、2020年8月に初めて「ニコチン依存症」治療用アプリが薬事承認されて以降、これまでに3件が承認されています。すでに「ニコチン依存症」「高血圧」を対象とした治療用アプリについては保険適用が始まっています。
■治療用アプリが患者ごとに行動を提示「ラーメンの汁は飲まない」
高血圧治療アプリはどのように使うのでしょうか。まず患者は医療機関で医師の診察を受け、治療用アプリを”処方”してもらうと、”処方コード”が発行されます。患者は、自身のスマートフォンを使ってアプリストアから治療用アプリをダウンロードし、指定の”処方コード”を入力することで使い始めることができます。
アプリでは(1)知識の習得(自分の生活を知る)(2)行動の実践(3)行動の習慣化という3つのステップが提供され、ステップを1つずつ踏みながら、生活習慣を定着させていきます。
例えば「ラーメンをよく食べる人」の場合、3つのステップは、
(1)高血圧の人が1日に取る塩分は6グラムに抑えることが望ましいと知る
(2)「ラーメンの汁を飲まない」ことで約3グラムの減塩を行う
(3)大好きなラーメンの汁を飲まないようになる
というような流れです。
普段の食生活や運動の状況などの質問に答えることで、患者ごとに「ラーメンの汁は飲まない」「6時間以上睡眠をとる」といった適切な行動を提示してくれます。それを実践できたかどうかを日々記録していきます。
また、アプリでは日々の血圧を記録し、結果をグラフなどで確認することができます。患者は血圧が下がったのかどうか日々確認しながら生活することで、行動を習慣化することができます。
自身も医師であるキュア・アップの佐竹晃太代表は、「薬が薬効によって治すのに対し、この治療アプリは患者が自分の行動を変えることによって病気を治すというところが大きな違い」と話します。
アプリの利用と合わせて、およそ1か月ごとの通院で医師による指導を受けながら、6か月間かけて生活に定着させていくということです。保険適用されているため、利用料は3割負担の人で月額2500円程度です。
■「ヘルスケアアプリ」との違いは「医師の寄り添い」
自分でデータを記録する「ヘルスケアアプリ」は、あくまで自己管理するためのものであり、治療効果については確認されていません。一方、「治療アプリ」は有効性や安全性を確かめる”治験”を経て薬事承認を受けているので、”薬と同じように有効性が証明されている”という点で違いがあります。
治療用アプリを医師として患者に処方している「野村医院」の野村和至院長は、これらのアプリの違いについて「サプリメント(=ヘルスケアアプリ)と医薬品(=治療用アプリ)の関係性」に例えて表現しました。
また、データの管理を主に医療機関が行うという点にも違いがあります。患者が入力する治療用アプリのほかに、医師側には医師向けのアプリが提供され、患者が日々入力する血圧のデータや行動の記録をいつでも確認できるようになっていて、次回の診療時により良い指導が行えるということです。
野村院長は、従来の治療について「外来の人は2~3か月に1回のペースで来院する人が多いので、継続して支援していくのは難しい」としていて、治療用アプリでは「通院時以外の空白期間にも患者をサポートできる」と効果を感じてます。
■様々な疾患の治療用アプリが開発中 年内には「不眠症」改善も
国内では、「キュア・アップ」1社のみが治療用アプリの保険適用を受け、実用化に漕ぎ着けていますが、他の企業でも「治療用アプリ」の開発が進められており、今後多くの治療用アプリが登場するとみられています。
医療系スタートアップの「サスメド」は不眠症を改善する治療用アプリを開発しています。すでに厚生労働省の薬事承認は取得しており、担当者によると保険適用に向け手続き中で「年内にも処方を開始したい」としています。
「サスメド」では、不眠症以外にも乳がんや腎臓病など11の疾患で治療用・診断用のアプリの開発に着手しており、「今後もニーズのある疾患で開発を目指す」としています。
日本では、2014年に医薬品医療機器等法(薬機法)が改正され、アプリが医療機器として認められるようになりましたが、これまでに薬事承認されたのは3件のみです。厚生労働省は「治療用アプリは海外に比べて遅れをとっている」としていて、審査の簡略化を検討するなど、国内で普及を後押ししていく方針です。
