Google Pixelが国内でシェア急増も「Pixel 8/8 Pro」は大幅値上げ 競合からは“包囲網”も

Pixelが国内でシェア急増も「8/8 Pro」は大幅値上げ 競合からは“包囲網”も

 Googleは、Pixelシリーズの最新モデル「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」を10月12日に発売する。Pixelは、プラットフォームとしてAndroidを展開するGoogle自身が手掛けたスマートフォン。ハードウェア、ソフトウェアはもちろん、スマホの頭脳ともいえるプロセッサやその上で動くAIまで自ら開発しているのが特徴だ。Pixel 8/8 Proは、プロセッサに「Tensor G3」を搭載。そのインパクトでPixelの知名度を押し上げた「消しゴムマジック」を進化させた、複数のAI編集機能を採用している。

 日本市場参入当初はパイが小さかったPixelだが、廉価モデルのaシリーズを含めたコストパフォーマンスの高さや、Tensor採用以降のAI関連機能が評価された結果、シェアを急速に高めている。2023年の「Pixel 7a」でドコモの取り扱いが“復活”したことも、その勢いに拍車を掛けた格好だ。ただ、いくら消しゴムマジックが高性能でも、円安までは消せなかった。2機種とも、2022年との比較で大幅に価格が上がっている。競合メーカーも、Pixel対抗に本腰を入れ始めており、競争は激化しそうだ。

ハード、ソフト、AIに磨きをかけたPixel 8シリーズ

 Pixel 8/8 Proは、Pixelシリーズのフラグシップモデルとして、ハード、ソフト、AIの全てに磨きをかけてきた。Pixel 8はディスプレイサイズを0.1型小さくしており、縦横の寸法もコンパクトに仕上げた。スタンダードモデルとProのサイズ差が小さかった前モデルと比べ、機種ごとの違いを明確にした格好だ。横幅は70.8mmで、「Pixel 7」の73.2mmから2.4mmも細くなっている。これに対し、Pixel 8 Proは大画面を好むユーザー向けに、サイズはほぼそのまま。代わりに、ディスプレイをフラット化している。

 GoogleでPixelシリーズの開発を担当する製品管理担当 シニアディレクターのピーター・プルナスキー氏は、新モデルのサイズを決定するにあたり、「さまざまなマーケットリサーチを行った」と語る。中でも、「日本は本当に厳しい市場で、とても要求が高い。そういったところからフィードバックをいただいた」(同)といい、日本でのユーザーの声を重視したことを示唆する。「デザインの効率を上げ、フォームファクターがよりコンパクトになった」(同)一方で、バッテリー容量はPixel 7より上がっている。

【訂正:2023年10月8日10時10分 初出時、「バッテリー容量はPixel 8より上がっている」としていましたが、正しくは「バッテリー容量はPixel 7より上がっている」です。おわびして訂正いたします。】

 Googleは、2023年7月にフォルダブルスマホの「Pixel Fold」も投入しており、その中でバランスを取ってPixel 8をより小型化したと見ることもできる。これに対し、Proがつく上位モデルを購入するユーザーは、「バッテリーも含めてより大きなサイズを好む」(同)傾向がある。フラットディスプレイを採用しつつも、サイズを維持したのはそのためだ。背面のカメラバーなど、特徴的な部分は受け継ぎつつ、よりハードウェアとしての完成度を高めたといえる。

 2機種共通で、プロセッサに自社開発のTensor G3を採用。CPU、GPU、ISP(Image Signal Processor)などを刷新した他、AIの処理に特化したTPU(Tensor Processing Unit)の性能を大きく向上させている。Googleによると、同じ時間内に処理できる機械学習モデルは、初代Tensor G1を搭載したPixel 6シリーズの2倍に達しているという。こうした性能の高さを生かし、Pixel 8シリーズでは、得意のAI機能に磨きをかけた。中でも注目したいのが、写真や動画の「編集」だ。

 1つ目が、集合写真で撮った人物の顔を入れ替えてしまう「ベストテイク」。複数枚撮った中から、文字通りのベストテイクを個別に選ぶことができ、それを端末側で瞬時に合成する機能だ。人物の検出や画像処理などにAIが使われている。2つ目が、「音声消しゴムマジック」。こちらは、消しゴムマジックの名が使われていることからも分かるように、音声を消し去る機能。動画に入ってしまった風や水の音、雑踏のガヤガヤとしたノイズを簡単な操作で低減できる。

 3つ目が「編集マジック」で、これは文字通り、写真の編集を魔法のように簡単に行う機能。消しゴムマジックを拡張したような形で、集合写真の中の特定の人を移動させ、その背景を生成AIで書き足したり、空の色を変えたりと、加工にも近い編集を簡単にこなせる。いずれもTensor G3の処理能力を生かしており、Pixel 8/8 Proが対応する。最適化をすれば、他のTensorを搭載したPixelでも利用可能になりそうだが、処理速度やアップデートを待たずに使える対応の早さはPixel 8シリーズの売りといえる。

シェアを急速に伸ばすPixel、ただし8/8 Proは大幅値上げに

 先のプルナスキー氏が日本市場からのフィードバックを挙げたいたように、年々、Pixelの販売は勢いを増している。MM総研が5月に発表した2022年度(22年4月から23年3月)のスマホ出荷台数調査では、Googleが初めて十把ひとからげの「その他」から抜け、シェア6位に躍り出た。調査期間は2023年3月までのため、KDDIとソフトバンク、Google自身での販売だけでシェア争いをするトップメーカーの一角に食い込んだ格好だ。

 2023年5月には、コストパフォーマンスの高い廉価モデルのPixel 7aを発売しており、「Pixel 4」「Pixel 4 XL」以来5年ぶりとなるドコモでの販売も再開している。ドコモの井伊基之社長は、発表直後に開催されたNTTの決算説明会で「お客さまから要望があった」と、同モデルの人気が採用を後押ししたことを明かしている。5Gの4.5GHz帯(n79)に対応してもらうため、Googleと「コミットメント(一定量を買い取る約束)した」(同)うえでラインアップに加えた。

 人気が急上昇していたPixelを、最大手キャリアのドコモが取り扱うことで、Pixelシリーズの販売はさらに拡大。直近では、IDC Japanが8月に発表した第2四半期(23年4月から6月)のメーカー別シェアで、2位を獲得した。サムスン電子やソニー、シャープ、FCNTといった日韓のメーカーをごぼう抜きした形で、Androidスマホの中ではトップ。ドコモの取り扱いが再開したという特殊事情はあるものの、各社が軒並み出荷台数を減少させる中、唯一大幅にシェアを伸ばしている。

 Pixel Foldに続き、Pixel 8/8 Proもドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が取り扱いを表明しており、日本市場での“定番”になりつつある。一方で、Pixel 8/8 Proは、その価格が販売に与える影響が不透明だ。Google直販価格は、Pixel 8が11万2900円(税込み、以下同)、Pixel 8 Proが15万9900円。Pixel 7シリーズの発売時は、Pixel 7が8万2500円、「Pixel 7 Pro」が11万3000円だった。スタンダードモデルは3万400円、Proモデルに至っては4万6900円もの大幅な値上げになっている。機能に対して安価でコストパフォーマンスが高かったPixelだが、Pixel 8/8 Proの価格は他社のフラグシップモデルに迫りつつあるといえる。

 背景には、Pixel自体の値上げと円安がある。Googleのプルナスキー氏は、価格決定の要因を「素材や部品のコスト、為替もあり、市場によりけり」と語っている。実際、Pixel 8/8 ProはGoogleのお膝元である米国でもそれぞれ100ドル(約1万4908円)ずつ値上げされている。これは、部材費などが原因といえる。もう1つの為替だが、Pixel 7シリーズの発売時から、さらに円安が進行している。Pixel 8/8 Proとも、1ドルあたり約146円前後のレートで価格がつけられた。

 さらに、Pixel 7/7 Proは、当時の為替レートと比べてもかなり円高気味に価格が設定されていた。5月に発売したPixel 7aも6万2700円で、為替レートは1ドルあたり約114円に設定されている。この戦略的な“Googleレート”がなくなり、為替市場の実レートに近い価格設定に切り替わったことで、Pixel 8/8 Proの価格がさらに高く見えてしまった。円高レートで販売を続けるのは、Googleの身銭を切る行為。日本市場で普及の道筋が見えた中、ディスカウントをやめ、実力勝負に打って出たと捉えることもできる。

Pixelの影響を受けるAndroidの競合、対抗モデルで包囲網を引く

 急速にシェアを伸ばすPixelだが、この市場の変化は、他のメーカーのモノ作りにも影響を与えている。AQOUSシリーズを開発するシャープも例外ではない。同社の通信事業本部で本部長を務める小林繁氏は、「プラットフォーマー自身が提供する商品(Pixel)が出てきて、Android(の市場に)地殻変動が起きてきた。否応なくその影響を受けるので、商品の作り方や考え方を多少シフトしなければならない」と語る。

 シャープのAQUOS senseは、ほどよい価格とスペックのバランスが受け、累計1000万台以上を日本で販売してきたが、価格帯がPixelのaシリーズと近く、影響を受けていることが伺える。小林氏も「最初の商品を作ったときはフラグシップから機能を移植し、コストを合わせていくモノ作りだったが、昨今はそこがまったく変わって激戦区になっている」と話す。

 10月3日に発表した「AQUOS sense8」にも、対Pixelを意識した跡が見え隠れする。同モデルの市場想定価格は5万円台後半で、Pixel 7aより若干安いだけなく、5000mAhの大容量バッテリーを搭載。カメラのセンサーも1/1.55型と、ミッドレンジモデルの中では大型だ。さらに、RAW合成によるHDRや、被写体を分析してパーツごとにかるノイズリダクションなど、画像処理の性能が向上。6.1型のディスプレイは1Hzから90Hzの間でリフレッシュレートが可変するなど、Pixel 7aにない機能までふんだんに盛り込まれている。

 ソニーも、Xperia 5シリーズのコンセプトを大きく変え、若年層への訴求を強化している。10月に発売する「Xperia 5 V」は、「Xperia 1 V」で好評だった2層トランジスタ画素積層型CMOSセンサーの「Exmor T for mobile」を受け継いだ一方で、従来搭載していた望遠カメラの採用を見送った。素材を選んでいくだけで簡単に動画のクリップが作れる「Video Creator」アプリを内蔵するなど、これまでのXperiaよりターゲット層を広げているのもこのモデルの特徴だ。

 価格は、ソニー直販のSIMフリーモデル(オープンマーケット版)が13万9700円。Xperia 5 Vのコンセプト変更はiPhone対抗の色合いも濃いが、価格帯が近いことに加え、手になじむサイズ感や、処理能力の高さなど、Pixel 8と競合する点も少なくない。シャープも、2023年にAQUOS Rシリーズを2つに分け、スタンダードモデルに位置付け直した「AQUOS R8」は価格を13万円台に抑えた。ハイエンドモデルが機能をふんだんに盛り込み、20万円前後に高騰する中、各社とも、より手ごろなモデルを増やしている。ミッドレンジとハイエンドの双方でPixel包囲網が徐々に広がりつつあるといえそうだ。

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