「体がふわっと浮く感じがした」50代ランナーがフルマラソンで心肺停止…生還できた奇跡

「体がふわっと浮く感じがした」50代ランナーがフルマラソンで心肺停止…生還できた奇跡

 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行し、各地でスポーツ大会が再開されるようになっています。そうした中、気をつけたいのが運動中の突然死です。いざという時に備えて、どのような対策が必要なのか考えます。

快調なペースだったが…

 2022年11月20日に開かれた神戸マラソン。兵庫県の男性(55)はマラソン歴が10年以上あり、今回がフルマラソンへの挑戦6回目。ジョギングを始めた頃は、1キロ走るのもしんどかったが、続けるうちに毎週末に6キロ程度走るのが日課になった。本番前には25キロを走り込む。今回は、大会前に18キロ程度しか走れなかったが、それでも「4時間以内にゴールテープを切る」という目標に向かい、この日は快調なペースで、前を走るランナーを次々と追い抜いていった。

 だが、本番前に走ったのと同じ距離の18キロ付近にさしかかると、体がきつく感じるようになった。「エネルギー切れかな?」。ポケットに入れていたチョコレートを食べたが、回復しない。気づけば、後続のランナーに抜かれるようになっていた。

 そして、ついに歩き出した。走っては歩き、また走っては歩き……。「しんどいから、また歩こう」。そう思った時、体がふわっと浮く感じがして、記憶が途絶えた。

白目をむいて意識なく

 参加者の中でも後方を走っていた清水宏紀さん(64)は、山登りが趣味だ。「走るのはあまり好きじゃないけど、山登りのトレーニングのために走っている」。神戸マラソンは応募してもなかなか当選しないというが、今回は「当たった」ので、記念に出ることにした。

 海岸沿いのコースを、ゆったりとしたペースで走っていた。反対側には、折り返し地点を回ったランナーたちが次々とやってくる。「だいぶ帰ってきよおなぁ」。そう思いながら走っていると、復路で、胸骨圧迫(心臓マッサージ)をしている様子が見えた。現場に到着すると、倒れている男性は白目をむいていて、意識がない。「これはまずい」

 そこには3人くらいの人が集まっていた。清水さんはとっさに「胸骨圧迫は継続してください。AED(自動体外式除細動器)が運ばれてくるまで交代でやりましょう。僕は循環器内科医です」と声をかけた。

 ほどなくしてAEDが到着。男性に装着して、電気ショックを1回、流した。すると、男性は目をぱちぱちさせた。清水さんが男性に名前を尋ねると、答えることができた。「持病は?」と尋ねると、「何もない」と返ってきた。まもなく救急車がやってきた。奇跡的に医師が居合わせたこともあり、救急隊が到着する前に蘇生することができた。

レース本番で気持ちが高ぶると…

 清水さんは、甲南医療センター(神戸市)に勤務し、心臓病の患者を診療している。「日頃、健康診断を受けていて、自覚症状もないという人でも、マラソン大会などに出場すると、心臓に異常をきたすことはあります」と説明する。神戸マラソンのような大きな大会では、ランナーたちは沿道からの声援を受けながら走る。おのずと気持ちは高ぶり、交感神経が活発になって血圧も上がり、心臓に負担がかかるという。

 清水さんは「コロナ禍の3年間、運動をあまりしていなかった人が急にマラソンなどを始めると、交感神経が急激に高まり、危険です」と指摘する。

 特に中高年男性の場合は、心臓の冠動脈などで動脈硬化が進んでいることが少なくない。交感神経の働きが強まると血管が収縮し、動脈硬化が起きている部分の血流が悪くなる。すると、狭心症や心筋梗塞(こうそく)を起こしやすくなる。

搬送先で検査を受けた結果

 神戸マラソンで倒れた男性は、搬送先の病院で検査を受けると、冠動脈に狭くなっている部分があり、狭心症と診断された。翌日、狭くなった部分にステント(金網状の筒)という医療器具を入れて広げる治療を受けた。

 男性は、「自覚症状はなく、心臓に異常があるとは思いませんでした。トレーニング中、誰もいないところで倒れていたらと思うとゾッとします」と振り返る。

 主治医からは「もう走っても大丈夫」と言われているが、その後は怖くて、走ることができなくなった。酒やたばこは控え、塩分の摂取は毎日6グラム未満を目指している。

事故を防ぐことは難しい

 スポーツ中に起こるこうした事故を未然に防ぐことはできないのか。清水さんは「マラソンなどをしている人は、健康診断や心電図検査を受けてほしい」と呼びかける。糖尿病や高血圧といった生活習慣病があるとリスクが高まるため、運動をする際は必ず主治医に相談することが大切だ。

 ただ、「健診などで異常を指摘されず、自覚症状もない」「日頃からトレーニングをしている」という人でも運動中に心肺停止になることはあり、事故を防ぐことは極めて難しい。清水さんは「スポーツ大会では、AEDを何台もそろえてメディカルスタッフを配置する。いざという時は、すぐに救急車を呼び、胸骨圧迫を始め、AEDを使用できる態勢を整えておくことが重要です」と話す。神戸マラソンでは、コースのどこで倒れても、2~3分以内にAEDが届けられるようになっていた。

 心停止を未然に防ぐことはなかなかできないが、運動は人目につきやすいところでしたり、複数の人と楽しむようにしたりすると、万が一の事態が起きた際、救命率の向上が期待できる。運動をする場所など、街中のどこにAEDがあるかを事前に確認しておくことも重要だ。

1分経過するごとに救命率は10%低下

 いざという時に、周囲の人たちはどのように対応したらよいのだろうか。清水さんは、(1)119番通報をして救急車を呼ぶ(2)胸骨圧迫をする(3)AEDを持ってきて使う――の3点をしなければ助かる可能性は著しく低くなると説明する。

 胸骨圧迫は、胸の真ん中辺りに両手を重ねて、胸が5センチ程度沈むまで押す。1分間に100~120回のペースで続ける。全身に血液を送り、脳などが酸素不足になるのを防ぐためだ。ただ、それだけでは酸素不足は解消されない。清水さんは「AEDがなければ救命率は下がる」と指摘する。

 実際に倒れている人を目の前にすると、AEDを使っていいものかどうか迷ってしまう。清水さんは「呼びかけてみて、反応がない場合はAEDを使ってほしい」と話す。周囲の安全を確認した上で、患者を寝かす。AEDの電源を入れたら、音声ガイダンスに従って操作する。

 患者が、ふだんとは異なる、あえぐような呼吸をしている場合もAEDを使う。「死戦期呼吸」と呼ばれる状態で、AEDで電気ショックを与える必要がある。

 清水さんは「心肺が停止してから1分ごとに救命率は約10%低下していき、10分たてば助かる確率は極めて低くなります。一刻も早く処置を開始することが重要です」と強調する。

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