アップルが“脱Lightning”をここまで引っ張った理由 iPhoneのUSB-Cは「MFi認証なし」に

アップルが“脱Lightning”をここまで引っ張った理由 iPhoneのUSB-Cは「MFi認証なし」に

 9月12日(現地時間)、米Appleは新製品発表イベントを開催、「iPhone 15」シリーズをはじめとした製品群を発表した。筆者は今年も米国のApple本社を訪れ、取材を続けている。

 特にiPhone 15シリーズについては、2012年以降採用し続けてきた「Lightning」インタフェースから「USB Type-C」(Apple表記ではUSB-C)への移行が行われたことが大きな話題となっている。

 10年以上にわたって使われてきたインタフェースの変化であるだけに、いろいろな意見が存在することだろう。

 AppleはなぜUSB-Cに移行することになったのか、そして、その影響はどうなるのか。米国で取材した情報も含め、考察してみたい。

そもそも、なぜLightningは生まれたのか

 まず少し、Lightningの歴史を振り返ってみたい。

 冒頭で述べたように、Lightningは2012年に登場した。当時はiPodがまだあり、「iPhone 5」が登場した頃。それまで使っていたのは横長の「30pin Dockコネクター」だったが、これは大きくて裏表もあり、拡張性や給電能力にも限界があった。

 そこで登場したのが「Lightning」だ。

 コンパクトなコネクターで裏表を気にすることなく差し込めて、混乱も少ない。ベースとなる規格はUSBだが、多くの人に「より使いやすいインタフェース」として登場した。

 Appleの独自規格であり、他社は当時、コンパクトなデジタル機器向けにはUSBの「ミニB」、もしくは「マイクロB」が使われていた。コネクターはコンパクトだが、裏表を含めた差し込みやすさの問題はあった。

「USB Type-Cコネクター」の規格が最終決定したのは2014年のことになる。ご存じのように、これも「コンパクトで裏表がなく、給電を含めた柔軟性が高い」という意味では、Lightningに近いところがある。

 Apple1社で提供するものではなく、多数のメーカーが関わるものなので足並みがそろうにはさらに数年がかかったが、いまやiPhone以外のスマートフォンは、ほぼ全てUSB Type-Cを採用するようになった。

 2021年9月、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は、スマホなどの小型デジタル機器で使う充電インタフェースとして、「USB Type-Cに限定する」ことを義務付ける法案を提出した。

 このルールは2024年秋までに施行されるため、Appleとしても「それまでにiPhoneのインタフェースを変更する」必然性に迫られており、その結果として、2023年発売のiPhone 15シリーズからUSB-Cを採用する……という流れに至った、ということになる。

アップルはなぜLightningに固執したのか

 LightningはUSB Type-Cに先んじて生まれた。その優位性もあって、アップルがすぐにUSB Type-Cへの移行をしなかったのは分かる。

 だが、Macは2015年発売の「MacBook」からUSB Type-Cを電源インタフェースとして採用、iPadも2018年発売の「iPad Pro(第3世代)」からUSB Type-Cを採用している。

 一方で、iPhoneはもちろん、AirPodsやMagic Mouseなどの周辺機器まで、Lightningを採用し続けてきた。ある部分不統一にも思えるし、筆者自身不満を感じることもあった。

 ではなぜアップルはLightningを採用し続けたのだろうか? 正確な理由をアップルは語っていないので、ここからは想像である。ただし、そこまで実情から乖離してはいないだろう。アップルがLightningを採用し続けた理由は3つあると考えられる。そのうち2つをまず説明したい。

 1つ目は、よく言われる「Made for iPhone(MFi)認証」ビジネスの絡みだ。

 そして2つ目は「USBの混乱」である。

 両者は表裏といっていいほど関連性が強い。LightningはAppleが開発した独自のインタフェースだ。Appleは「MFi認証プログラム」によって、規格を外れた製品が使われるのを防いでいる。

 MFiとはApple製品での周辺機器認証プログラムであり、iPhoneだけがターゲットというわけではない。しかしここで主に問題となるのは、Lightningを使ったケーブルの認証についてだ。

 ケーブルの場合にはMFi認証チップが入っていて、それがないと「認証されていない=素性が不確かなケーブル」だとして、OSアップグレード後などに使えなくなる可能性がある。

 結果としてLightningケーブルは、MFi認証がある製品であればトラブルの多くを防げる。

 一方でUSBの場合、規格自体が複雑であること、メーカーの体制や質もバラバラであることから、「質が悪く不適切なケーブル」にぶつかるとトラブルを起こしやすい。

 だからLightningは安心……とアップルは主張してきた。そこには一定の理があるのも間違いない。USBに比べ混乱ははるかに少ない。

 だが、幅広いメーカーが作っており、経済合理性が高くなったUSB Type-Cに対し、Lightningは価格面で不利になる。また、そもそもUSB Type-CとLightningのケーブルを両方使うのはめんどくさい、というのは多くの人が感じた本音だろう。

USB-Cでは「MFi認証がなくなる」

 そこでアップルがLightningを使い続けた理由は、「MFi認証から得られるライセンス料のため」といわれることが多い。ケーブル1つにつき数ドルになるから、まあ確かに小さな額ではない。

 今回アップルは、USB Type-Cへの移行に伴い、「ケーブルにはMFi認証に類する技術を使わない」という決定を下した。だからどんなUSB Type-Cケーブルでも使える。

 実のところ、世の中にあるLightningケーブルは全てがMFi認証を通っているわけではない。「MFiというものがある」ことを知らない人の方が多いかもしれないくらいだ。また、全員が安心のために高いケーブルを買うわけでもない。

 一方逆に、「安心して使うには、信頼できて用途にあったUSB Type-Cケーブルを選ぶべき」という話も広がってきている。

 どちらがどうこうという話ではないが、時代は変わり、MFi認証からの収入と規格のメンテナンスコストなどのバランスを考えると割に合わない時期にも来たのだろう。

 EUの動きは分かっていたし、現状、全部をワイヤレスにするのも「まだ」ナンセンスではある。やっぱり緊急時に電力はケーブルから供給できた方がいいし、効率的だ。

 一方で、iPhoneのMagSafeは国際標準規格である「Qi2」に取り込まれ、スタンダードになろうとしている。そちらを日常的に使う人も増えるだろう。

 だとするなら……ということで、アップルはこのタイミングでUSB Type-Cへの移行を決めたのだと考えられる。他の周辺機器も、リニューアルなどのタイミングをみて随時USB Type-Cに切り替わっていくことになるのだろう。

 結果として、Lightningのエコシステムは小さくなっていき、巨大なUSBのエコシステムに飲み込まれてく。周辺機器メーカーも当然こうしたことは折り込み済みであり、軸足はUSBやQi2に移し始めていただろうから、さほど混乱もなさそうだ。

10Gbps伝送が「iPhone 15 Pro」だけな理由

 もう1つ、アップルがこのタイミングで決断した理由として「A17 Proの登場」がある、と考えられる。

 A17 ProはTSMCの3nmプロセスで作られた初のスマホ向けSoCで、GPUの完全リニューアルを軸とした高性能化が主軸ではあるが、同時に重要な点として、SoCの中に「USB 3」のコントローラーが組み込まれた、ということがある。

 iPhone 15に組み込まれた「A16 Bionic」を含め、過去のiPhone向けSoCでは「USB 2」ベースの技術が組み込まれ、Lightningでも活用されてきた。

 そのため、データ転送レートは最大480Mbpsまで、という制限も存在する。だから基本的にLightningの転送レートは「最大480Mbpsまで」だったし、iPhone 15も同じく「最大480Mbps」だった。

 旧型のiPad ProはLightningながらUSB 3(USB-IFの現在の表記では「USB 5Gbps」。旧表記はUSB 3.2 Gen1、USB 3.1 Gen1、USB 3.0など)対応だったことがあるし、現行のMacやiPad Proも高速な転送に対応する。

 ただこれらの場合には、SoCの他にUSB 3やThunderboltのコントローラーが搭載されていた。

 しかしA17 ProはUSB 3のコントローラーIPをSoCに内蔵することになり、iPhone 15「Pro」では最大10Gbpsでの転送が可能になった……ということのようだ。すなわち、これまでiPhoneでUSB Type-Cを採用しなかったのは、転送レートの速い規格に対応する準備が整っていなかったため、という見方もできる。

 なお、iPhone 15とiPhone 15 Proでは、同じ「USB-C」ケーブルが付属する。規格的には「USB 2.0」、すなわち最大480Mbpsまでのものだ。iPhone 15 Proで高速転送を必要とする場合、別途USB 3(USB 10Gbps)対応のケーブルを用意する必要がある。

 ある意味で「USBの混沌の中に入っていく」のだが、今は業界全体で「用途に合ったケーブル」を選べるよう試行錯誤している時期でもある。分かりやすさや品質を明確にしたメーカーが先にユーザーの支持を得ることにもなる。「ようやく」行われたアップルの決断は、周辺機器メーカーにとっても大きなチャンスとなる。

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