iOS 17の新機能「心の健康状態」の科学的裏づけ、心理学者が解説

iOS 17の新機能「心の健康状態」の科学的裏づけ、心理学者が解説

iPhoneの新OS「iOS 17」でアプリ「ヘルスケア」に加わった新機能「心の健康状態」は、単なる技術的なアップデートではない。これは、私たちが自分の感情を理解するサポートをしようという、アップルの新たな分野への進出だ。Apple Watchを使って身体活動をトラッキングするだけでなく、アップルはユーザーの気分も捉えようとしている。これを、新しい日記アプリ「ジャーナル」から得られる知見と組み合わせることによって、身体と心の両面における私たちの日々の体験の全体像を提供しようとしている(編集部注:ジャーナルは年内登場予定)。

本機能が実生活でどう使われるか、アップルのの構想は次のようなものだ。

あなたは見知らぬ都市で休暇を過ごしている。1日の始まりに、ヘルスケアアプリが、あなたの気分を記録するよう促す。あなたは「非常に快適」と答え、現在、休暇中であることをアプリに伝える。次に、さらに掘り下げた心の状態をパレットから選ぶ。おそらく「感謝」「穏やか」「愉快」などと感じているだろう。GPSに従って街の中をさまよい、気になる瞬間を写真に残していくと、ジャーナルアプリがあなたの1日の物語を綴ってくれる。

あわただしい観光スポットに遭遇すると、あなたの不安が心拍数を徐々に高めていく。その変化を検知したヘルスケアアプリは、もう一度あなたの気分を登録するよう促す。こうしたやりとりが続き、あなたの休暇の感情に彩られたタペストリーが作られていく。そして、家に帰って友人(あるいは心理学者)から旅行はどうだったかと聞かれたとき、「すばらしかった」というだけでなく、中身の濃い「感情のキャンバス」を見せることができる。

これに加えて、ヘルスケアアプリのユーザーは、PHQ-9スクリーニングツール(うつ病リスクに関する質問票)とGAD-7スクリーニングツール(不安障害リスクに関する質問票)を24時間利用できるようになった。テクノロジーとメンタルヘルスをこのように絡み合わせることで、アップルは他の巨大テック企業が追随するような前例を作り、デバイスの有用性に変革の波を起こそうとしているのかもしれない。

今後、最も期待できる2つの恩恵について、現在のメンタルヘルスの環境に基づいて説明する。

■1. メンタルヘルスの早期介入と継続的監視に役立つ

メンタルヘルスは、社会に浸透する極めて重要な問題だ。National Alliance on Mental Illness(米国精神障害者家族連合会)による2021年の報告書によると、米国成人の5人に1人が、毎年心の病にかかっており、最も多く見られるのが不安と抑うつだ。アップルの「心の健康状態」機能などによるメンタルヘルスの民主化は、ゲームチェンジャーになる可能性がある。

PHQ-9やGAD-7のような業界標準のスクリーニングツールを誰でも利用できるようにし、結果を容易に解釈できるかたちで提供することによって、ユーザーはメンタルヘルスの専門家を訪れ、自らの心配に関する個人に合わせた指導を受けるきっかけを得ることができる。

自己認識と個人的成長を高めるのに役立つ

自分の感情を意識することで、人生の困難な局面によりよく対応できるようになる。2021年にJournal of Depression and Anxietyに掲載された研究によると、よい体験に感謝の気持を感じることは、抑うつ症状の強い抑止力になるという。日々の出来事を自動的に記録するジャーナルは、美しい思い出を保存する手助けをしてくれる。そして「心の健康状態」などの機能は、それらの体験についてあなたがどうを感じたかを思い出すのにひと役買う。つまり、一連の機能は、実質的にあなたの「自動感情日誌」になる。日誌をつけることは、不安と抑うつ症状に向き合う方法としてしばしば推奨されていることから、これは正しい方向への一歩だと思われる。

ただし忘れてならないのは、このツールは役に立つがメンタルヘルスの専門家を置き換えるものではないということだ。一連の結果を自分で解釈する場合には注意が必要であり、いかなる心配事も資格のある医療従事者と相談しなくてはならない。

■2. 自己認識と個人的成長を高めるのに役立つ

自分の心の状態と関連するきっかけを定期的に記録することで、ユーザーは自らの感情のパターンと反応についての理解を深める。繰り返されるストレス要因や喜びの瞬間を認識することで、ユーザーは自分の幸福にマイナスの影響を与える状況を回避したり、プラス要因をもたらす体験に立ち向かうことができる。

さらに、この高められた自己認識が、個人的成長の促進剤の役目を果たすこともある。自分の感情に直面し、感情を理解することで、ユーザーは精神的な回復力を高め、感情的知性や全体的な幸福感を得るために実行すべきステップを踏み出すことができる。自己認識を育むツールを使うことは、グロースマインドセット(自分の成長は経験や努力によって向上できるという考え方)を後押しし、個人が積極的に物事に取り組み、心の健康を進化させ、ストレスに対応できるようにすると2022年にFrontiers in Psychology誌に掲載された研究結果は示している。

■結論

テクノロジーがいっそう深く私たちの生活に絡み合うようになる中、アップルの新たなメンタルヘルスへの取り組みは、人とテクノロジーのインタラクションの新しい時代の先駆けと言えるだろう。

ただし、一部の人たちにとっては、メンタルヘルス記録に関する通知が押しつけがましく感じるかもしれない。この未踏領域に対する世間の反応はまだわからない。それでも、生活におけるテクノロジーの存在を否定しようもない今、こうしたイノベーションが、より調和のとれた人と機械の関係への道を開くのかもしれない。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏