いじめ匿名通報アプリで、悩める子ども達の自殺を防ぐ。提供社に聞いた。

いじめ匿名通報アプリで、悩める子ども達の自殺を防ぐ。提供社に聞いた。

「見て見ぬ振り」をなくし、子どもを救う社会システムを作る

「苦しんでいる子どもが頑張らなくてもSOSを受け取れる仕組みを作りたい。また、周りで気づいた人に対しては、助けたいとか心配だという気持ちが届く場所があるということを伝えたいです」

学校のいじめや家庭問題で悩む子どもの自殺が後を絶たない中、スタンドバイ株式会社代表の谷山大三郎さんは、いじめをテーマにした特別授業の実施や、いじめの報告や悩み相談が匿名でできるアプリ「STANDBY」の普及に努めている。

明るくてお調子者の男子中学生が、SNSのクラスメイト専用チャットで「掃除はサボるし、いつも空気が読めない」と書き込まれた。それ以来、チャットでは毎日その中学生に対する悪口が書き込まれるようになり、次第に学校では陰で笑われ、上履きを隠されるなどのいじめが起こっていく。この状況の中、あなたがクラスメイトならどういう行動をとるか?

これは千葉県柏市立西原中学校のいじめをテーマにした特別授業で、谷山さんが一年生に見せたオリジナルドラマのストーリーだ。視聴後、生徒らに①悪口をやめるようSNSに書き込む②黙っておく、どちらの行動をとるか問いかけた。

生徒からは、「何も書き込まなかったら変わることはないし悪化するかもしれない」「いじめがエスカレートすると自殺まで追い込んでしまう」「その生徒がいじめられても自分にデメリットがないので、助ける意味がない」「書き込むと自分もいじめられてしまう」などの意見が出て、このクラスでは21人対15人で①を選択した生徒の方が多い結果となった。

いじめには加害者と被害者のほか、周りで囃し立てたり面白がったりする「観衆」と、見て見ぬ振りをする「傍観者」が存在する。谷山さんは、「クラスの雰囲気がいじめを止められるかどうかに影響する」と、傍観者の行動の必要性を訴えた。

「いじめに対して否定的に感じている人が多いクラスは、クラスの雰囲気が明るくなって、いじめを止める人が増えて、結果的にいじめが減っていきます。誰かを助ける時でも、自分が傷つかない方法はある。周りに声をかけるとか、誰かに相談するとか、いじめの止め方も学んでほしい」

谷山さんが、いじめ問題の解決を目指す活動をするきっかけになったのは、過去の自身の経験にある。

「SOSを出せない」ひとりで悩みを抱え続けた辛い日々

「両親に心配をかけたくないので言えないし、先生に言ったら大事になるんじゃないかと思い、黙ってようというのが私の結論でした。SOSが出せない辛さは今でも残っています」

谷山さんは、1982年、富山県滑川市で生まれた。地元の小学校に通っていたが、5年生の頃から、姿勢が悪いなど見た目でからわれるようになり、後ろから蹴られたりホウキで叩かれたりするなど肉体的ないじめを受けるようになった。

当時は、いじめっ子と同じ空間にいるということが一番の苦痛だったという。学校は全然楽しくなかったが、親に心配かけたくないので、学校を休むこともなく、家では普通に振る舞っていた。 友達もおらず家族にも相談できず、1人で苦痛に耐えていた谷山さんを助けてくれたのは、先生だった。

「いじめられっ子だった私を助けてくれたのは先生でした。誰かが思ってくれていたら、人って生きていこうと思うんだなっていう感覚を持てました」­­

先生はいじめに気づき、いじめている子に直接注意をしてくれた。それ以来、学校内でのいじめはなくなりストレスも減っていったが、学校の外でのいじめはなくならなかった。

地元中学校へ進学しても、同級生のメンバーはあまり変わないため、いじめは続いた。いじめの辛さから解放されるため、谷山さんは環境を変えようと、小中学校の同級生が少ない、自宅から遠い高校に進学した。この時も両親にはいじめを打ち明けることができず、「行きたい高校がある」と言って両親を説得した。

谷山さんは、「自分自身は環境を変えることができたから、精神的な苦痛から解放されることができたが、世の中には家庭の経済状況などが原因で環境を変えることができず、ずっと苦しんでいる人が多くいるのではないか」という社会の課題にも気づいたという。

「本人が悪いわけじゃない、環境がおかしい。また、それを見て見ぬ振りする状況がおかしい。学校自体を変えて、環境を良くしていかないといけない」

ネット上でのいじめ広がり いじめ認知件数と子どもの自殺件数が過去最多に

文部科学省が全国の小中高校などを対象に実施した調査によると、2021年度のいじめ認知件数は、61万5351件で過去最多となった。内訳は、小学校50万562件、中学校9万7937件、高校1万4157件、特別支援学校が2695件。SNSなどを使ったインターネットを使ったいじめは2万1900件で、こちらも過去最多で、いじめが原因の自殺や不登校などの「重大事態」は705件となった。また、小中高生の自殺者数は、近年増加傾向が続いており、2022年は過去最多の514人と深刻な状態にある。厚生労働省は、子どもの自殺が夏休みなどの長期休暇明け前後に増加する傾向を踏まえ、政府全体で子ども・若者の自殺防止に向けた取組みを強化し、相談窓口の周知、学校への働きかけなどを行っている。

「見て見ぬ振りも加害者だ」いじめ撲滅の鍵は周囲の人

いじめ問題に詳しい佛教大学の原清治教授は、コロナ禍におけるネットコミュニケーションがいじめを増加させている要因の一つだと話す。

「ネット上の関係は、周りの人も巻き込むので人間関係の崩れも早い。孤立するのも一気に孤立するので、そこでいじめられた感は一気に増えてきます」

リアルでもネット上でもコミュニティができているため見解が複雑になり、また、いじめが顕在化しにくいのが現状だ。その状況の中、教育現場では「見て見ぬ振りをする傍観者も加害者だ」ということがいじめ対策の主流になっているという。顕在化しにくいいじめや、個人の心や態度の変化を、当事者の周りの人の行動によって顕在化させ、対策を講じていく。

「当事者も囃し立てる人も当然だめだけど、見て見ぬ振りをするのもいじめに加担しているんだと指導をしています。匿名性を担保できれば、自分の身の回りに起こっている問題を通報しようと思う味方は必ず出てきます」

一方で、原教授は通報を受け取る側である学校などの対応も重要だと指摘する。

「いじめられている生徒が望むのは、いじめっ子からの謝罪ではなく、関わりを持たないことです。もし先生の耳に届いたらクラスをわけてくれるかもしれないという期待感が出てきます。しかし、いくら通報しても何もしてくれないと無力感に繋がってしまう。そうなると、匿名通報のシステムは機能しなくなります」

全国1286校に導入 「匿名通報アプリ」の活用広がる

「いじめを受けた経験があると、大人になっても自殺傾向があったりうつ病や依存症に苦しんだりする人がいます。今解決しないと将来にも影響してしまうのが深刻な問題です。また、日々いじめで子どもが自殺するのは悲しいことで、子どもの命を守らないといけないという思いがあります」

谷山さんは、千葉大学教育学部に進学し、「自分を助けてくれた先生のようになりたい」と思い、4年生の時に教員採用試験を受けたが不合格だった。教師の夢は叶わず、大学院卒業後はリクルートに就職。しかし、やはり自分と同じような思いをする子どもを助けたいと思い、2015年、リクルートを退社し、千葉大学のNPO法人での活動を経て、スタンドバイ株式会社(旧ストップイットジャパン株式会社)を立ち上げた。友達や自分を助けたいと思った時、環境を変えたいと思った時に信頼できる人にいつでも報告・相談ができる匿名通報アプリ「STANDBY」の普及に取り組んでいる。

「STANDBY」は、自分がいじめを受けている、もしくは友達がいじめられているのを目撃した場合、匿名で教育委員会などの相談員にスマートフォンやパソコン等で報告、相談ができる。画像や動画も送付することができ、SNS上の会話のキャプチャー画面を共有することで、ネット上などのいじめなどにも対応している。標準料金は、利用する子ども1人あたり年額300円(税別)で、自治体や学校が支払っている。

2015年にサービスを始めた時は、「学校の問題は学校内で解決する」という風潮があり、1年ほど売上がない状態が続いた。自治体にも導入を持ちかけたが、新しいアプリの利用のハードルは高く、また、サービスを導入することで認知件数が増えてしまうことを気にする自治体もあったという。しかし、2016年に大阪の学校法人羽衣学園中学校が導入した時には話題となり、公立高校では千葉県柏市が初めて導入を決めた。子どもの自殺が増えている状況で、とにかく子どもの命を守ることが最優先という風潮にかわり、さらに、国の「GIGAスクール構想」で生徒にタブレットが配布されたことも後押しして、サービスは広がり、現在は32の自治体が導入し、私学などあわせて全国で1286校が利用している。「STANDBY」アプリをスマホやパソコンにインストールしている子どもは40万人を超えた。

「子どもの命を救えた」悩みを抱える子どもの自殺防止に貢献

「とにかく子どもは我慢せずに相談してほしいです。また、周りの人もいじめを止められなかったと後悔してほしくない。子どもが悩みを抱え込まないということを当たり前にするために、助けたいとか心配だという気持ちが届く場所があるということを伝えたいです。」

「スタンドバイ」には、いじめや友人関係(友達を作るのが難しい、関係がうまくいっていない)、家庭問題(居場所がない、虐待を受けている)、性の悩みなど、日々生徒から様々な報告が上がってきている。谷山さんが印象に残っているのが、教育委員会から「子どもの命を救えた」と言われたことだという。「クスリをやめられない」という相談を寄せた生徒に対して、スクールカウンセラーとつなげ、支援を行った。

また、夏休み明け前にクラスメイトが自身のLINEのプロフィール欄に「終活はじめます」と書き込んでいるのを見て、怖くなって通報したケースもある。このような傍観者からの報告がスタンドバイに寄せられる相談の50%ほどを占めるという。谷山さんが目指す「助けたい人を助けられる社会」の実現に、着実に近づいている。

匿名通報アプリが学校へ広がりを見せる中、課題は、自治体によって相談員の体制や質の差が出てくる点だという。今後は、知見を溜めてマニュアル化し、スタンドバイが自前で相談窓口を作り、学校に提供することも目指す。

「子どもが悩みを抱え込まないことを当たり前にするために、助けたいとか心配だという気持ちが届く場所があると伝えたいです」

ハフポスト日本版を運営するバズフィードジャパンと朝日放送グループは資本関係にあり、この記事は共同企画です。

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「あなたは大切な存在」 自ら命たった子どもの親たちが伝えたいこと

 自ら命を絶った子供の親たちが、在りし日の写真や手紙を各地で展示し、命の大切さを伝える活動を続けている。小中高生の自殺が過去最多を記録しており、夏休み明けの前後は特に増える傾向にある。展示に協力する母親の願いとは。

 <お母さんへ。いつもありがとう。私を生んでくれてありがとう。育ててきてくれてありがとう>

 青森県立高校2年の大森七海さん(当時17歳)は2014年7月4日、昼休み中に学校から姿を消し、同県八戸市の沖合で4日後に見つかった。前年の母の日に書いた手紙は、多摩平の森ふれあい館(東京都日野市)で8日まで開かれるパネル展で紹介されている。

 展示は、いじめ自殺などで子供を亡くした親たちでつくるNPO「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)が協力。学校でのいじめや生徒指導をきっかけに自殺したり、犯罪で命を奪われたりした13人のスナップ写真、生前の手記などが並んでいる。このNPOは00年以降、「命が失われたことの重みを知り、一人一人ができることを考えてほしい」との願いから、遺族の理解を得て、同様の展示を各地で開いてきた。

 七海さんの自殺について青森県が15年に公表した調査報告書は学校で無視されたり、LINEに悪口を書かれたりしたいじめがあり「自殺との一定の因果関係があった」と結論づけた。

 母の冬実さん(59)によると、高校1年の夏ごろ「入学して最初に仲良くなった子たちとうまくいっていないんだ」と打ち明けられた。「食欲ないから」。好き嫌いはないはずだったのに次第に食が細り、痩せていった。生理も止まった。冬休み前には、逆に過食で嘔吐(おうと)を繰り返すようになる。体重が増え、摂食障害も悪化した。

 娘が無視されるなど同級生からのいじめに悩み、摂食障害であることも1年の時から学校には伝えていた。でも「人間関係のトラブル」と受け止められ、十分な対処はなかったという。

 小学5年から憧れていた進学校だった。電車を乗り継いで通学に1時間半以上かかるため、母親としては心配だった。でも、空や海の青い色が好きだった七海さんは、青い制服がとても気に入って入学を決めた。

 高校2年になってもいじめは続いた。「お母さん、私のどこが変なんだろう」「隣で寝ていい?」と漏らすようになり、2人で手を握って寝ることもあった。

 枕元では、管理栄養士を目指し、青森か山形の大学に進む夢も語っていた。「お母さん、私がもし山形に行ったら絶対さみしいでしょ」。大学に進んだら、母親思いの娘に、穏やかな日常が戻ると期待していた。

 だが、七海さんは亡くなった。学習机を開けてみると<愛情をそそがれて、行きたい学校に行って着たい制服を着て、それなのになんでこうしてるんだろう>と書かれた紙を見つけた。

 「大丈夫だよ」と気丈に話す娘に、なぜ「学校に行かなくていいよ」と言えなかったのか――。冬実さんは自分を責め続けている。9年たっても、心の整理はついていないが、子供がそばに居る人に伝えたい。「頑張って学校に行っていたからこそ、深刻さに周囲が気づかなかったのかもしれません。娘のSOSに対して、私も周りの大人たちも危機感がなかったのです」

 国の統計では22年に自殺した小中高校生は過去最多の514人で、6月(62人)、9月(57人)、3月(48人)の順に多かった。自殺の理由が不明とされるケースも多く、国や学校も十分な対策が打てていないのが現状だ。今年は7月までに232人(前年同期291人)が亡くなっている。

 「『子供の異変に気づきましょう』と呼びかけるのは簡単ですが、実際は『分からなかった』と振り返る遺族が多いのです」。ジェントルハートプロジェクト理事で、25年前に15歳の一人娘が自ら命を絶った小森美登里さん(66)は語る。

 自身や交流を重ねてきた遺族の経験を踏まえ、「おなかが痛い」などと体調の異変を訴える▽急に携帯電話を離さなくなる▽トイレに入った時に中から鍵をかける▽言葉づかいが荒くなる――など言動の変化を感じたら大人たちは「反抗期」とは捉えず、「注意深く様子を見守ることが大切です」とアドバイスする。

 また、悩みを打ち明けられた時は、内容を否定せずに「『よく言ってくれたね』と気持ちを受け入れ、耳を傾けてください。『強く生きよう』『夢中になるものを見つけて』と期待の言葉をかけても、心がボロボロになっている子には響きません」と呼びかける。

 何より重要なのは、孤独や絶望から守るために「あなたは大切な存在なんだよ」と伝えることだという。

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