首都を巨大地震が襲ったら…人が集中する市街地で「逃げ惑い」・悪条件が重なれば被害拡大
[巨大災害 現代のリスク]<1>
巨大災害の危機が迫る。首都直下や南海トラフ地震、激甚化する気象災害、火山噴火……。未曽有の被害をもたらした関東大震災から9月1日で100年。1世紀の間に、大都市に人や資産が過度に集中する一方、人口減が進む地方の防災力は細り、リスクは高まっている。現代の日本列島が抱える課題を検証する。
この100年間で、東京の人口は約400万人から1400万人に増えた。田園地帯は住宅地に姿を変え、1平方キロ・メートルに4000人以上が住む人口集中地区は10倍以上に拡大。国土の0・6%に全国の1割超の人がひしめく首都を巨大地震が襲った時、何が起きるのか。ある想定実験がある。
118万人が暮らす23区西部の住宅街。震度6強相当の揺れで逃げた先を炎や煙が塞ぐ。方向転換すると行き止まりで、逃げ場を失う――。東京大の加藤孝明教授(地域安全システム学)は、世田谷、杉並区界隈(かいわい)に広がる実際の住宅街を仮想現実(VR)化し、避難行動を予測した。
「逃げにくい市街地に人が多く集まると、リスクが高まる」。約3000回の実験では、この地域での火災の死者が数千人規模に上る場合もごくまれながら含まれた。下町のような木造住宅密集地域ではないエリアでも、逃げ惑いの危険性があることを示す。都が昨年5月に発表した首都直下地震の被害想定では死者数は300人超だった。
発生確率が30年以内に70%とされるマグニチュード7級の首都直下地震。耐震化や不燃化が進み、この10年間で都内の想定死者数は9641人から6148人に減った。火災による死者数も4割減の2482人とされ、実験でも想定に沿う結果が目立ったが、出火場所などで悪条件が重なると被害が5~10倍にもなりうる。加藤教授は「丁寧に想定外を潰していくことが安全を下支えする」と語る。
世界でも有数の巨大都市となった東京圏は、その発展と比例するように災害リスクを増大させてきた。
地震で大きな揺れに見舞われやすい埋め立て地や沿岸部にはタワーマンションが林立する。企業の東京一極集中も顕著だ。都内の企業数は約41万社で全国の11%に上り、特に資本金10億円以上の企業は、全国の約半数を占める。
2013年の政府の中央防災会議の首都直下地震の経済的被害の想定は、建物の焼失などの直接被害が47兆円、生産・サービス低下が48兆円の計95兆円。国家予算の8割超に匹敵する。
当時の国家予算の4倍近くにあたる約55億円の直接被害が出た関東大震災は、昭和初期の金融恐慌の引き金になった。しかし、現代のヒントとなる事例もある。
当時の主要産業だった紡績業。東洋紡績(現・東洋紡)は、現在の東京都北区にあった王子工場が全壊し、92人が犠牲になったが、4日後には大阪本店から救援隊が到着。首都圏のみを拠点とする企業には廃業するケースもある中、2年で震災前の規模に戻った。
アフラック生命保険(東京)は東日本大震災後の16年、システム開発部門を札幌に移転させた。会社の中枢機能のバックアップを担うため、約100人が日常業務の傍ら、24時間以内の復旧を目指して訓練する。
一方で、コロナ禍での人口流出は一過性にとどまり、東京23区は1年で転入超過に戻った。首都機能移転の議論も移転費用などがネックで下火になったままだ。
中央防災会議の被害想定の取りまとめにもあたった増田寛也・元総務相は「東京が再膨張している」と危機感を募らせる。「現在の東京一極集中は飽和状態で、人や企業を受け入れる地方の力の底上げが不可欠だ。一刻の猶予もない」
