橋が倒壊、地面から水…100年前もあった「液状化」 東日本大震災でインフラに大打撃 現代が直面する新たな脅威
大地震のたびに発生し、道路や橋、上下水道などのインフラを破壊する液状化。関東大震災でも起きていたことはあまり知られていない。この100年間で都市化に伴う土地の造成が進み、液状化のリスクはますます高まっている。どう備えればいいのだろうか。
二つの橋が倒壊
潮が引くと、2本の鉄道橋の間の川面から、円形の土台がうっすらと現れた。
神奈川県平塚市の相模川にかかる「旧馬入川橋梁(ばにゅうがわきょうりょう)」の橋脚の跡だ。
100年前、ここに架かっていた鉄道と道路の二つの橋は、いずれも関東大震災で倒壊した。首都圏への交通や住民の生活に欠かせないものだったが、応急復旧に1~2カ月かかり、その間は渡し船で川を渡っていたと、平塚市博物館の記録にある。
「何かの跡だとは思っていたけれど、100年前のものとは思わなかった」。川沿いの遊歩道を散歩していた地元の70代男性に尋ねると、驚いた様子だった。
「水がジャブジャブ」
橋の倒壊は、必ずしも地震の強い揺れだけが原因ではない。いったい何があったのか。
地元の複数の文書に、水や砂が地面から噴出したという証言が、いくつも残っていた。
「余震の度に庭に地下水がしみ出た。メスの豚が行ったり来たり走ったが、その足跡にすぐ水がたまった」(市博物館の報告書)、「(土地が)2メートルぐらい下がって、水がジャブジャブ上がってきた」(西さがみ庶民史録5号)――。
いずれも、液状化が起きたことを示すものだ。
平塚市を含む一帯の平野部は、川で運ばれてきた細かい泥などが厚く堆積(たいせき)した地盤があちこちにある。水分を多く含み軟弱なため、液状化を引き起こしたのだ。
新潟地震で着目
液状化が注目されたのは、鉄筋コンクリート製のアパートが横倒しになったり、石油タンクが沈下して火災を起こしたりした1964年の新潟地震(マグニチュード(M)7.5)だとされる。関東大震災当時は液状化という言葉すらなく、地震や火災などに比べ、被害があまり着目されてこなかった。
しかしその後の調査で、被害は関東平野や甲府盆地(山梨県)の6都県で、計800カ所以上あることがわかった。
それから100年。現代社会は、液状化の新たな脅威に直面している。
上下水道が使えず
「家の扉が自動ドアになった」。千葉県浦安市の新浦安駅近くに住む辻純一郎さん(80)はこう話す。
2011年の東日本大震災。液状化で自宅全体が傾き、室内のドアが勝手に開いてしまうようになった。
当時、辻さんは玄関前にいた。ちょうど両足の間のアスファルトが割れ、近くの家の庭から、緑色のような水が吹き出していた。
町内会長だった辻さんは、被害状況を確認するため、すぐに自転車で地域の見回りに出かけた。しかし吹き出した泥で道路が埋まり、自転車では進めなくなった。ズボンはいつの間にか泥だらけになった。
「これが液状化か」。初めてそう実感したという。
重い自己負担
浦安市の液状化は、市内の4分の3を占める埋め立て地のほぼ全域で起きた。辻さんの自宅も埋め立て地で、1980年代に分譲された。都心に近いなどの利便性を考え、「液状化で死ぬことはないだろう」と抵抗感なく購入したという。
自宅の建物自体は比較的被害が小さかったが、最も困ったのが、地域全体で上下水道が止まり、水道も風呂もトイレも使えなかったことだ。市全域で復旧したのは約1カ月後だった。
「ひとたび液状化が起きると、辺り一帯のインフラが使えなくなると実感した」。辻さんはそう振り返る。
被災後、浦安市は最新の工法を使った液状化対策に乗り出した。工事にはその地区の全住民の合意が必要だが、1戸あたり100万~200万円に上る自己負担が生じた。
これに難色を示す住民も多く、計画は難航。合意が得られたのはごく一部の地域にとどまり、着工は震災から6年後にずれこんだ。
浦安市内では今も、多くの地域で液状化のリスクは残ったままだ。市の担当者は「民間の保険加入など、まずは自助努力を考えてほしい」と話す。
自治体も気づかないリスク
東日本大震災の液状化による宅地被害は約2万7000件に上った。必ずしも臨海部の埋め立て地だけではなく、内陸部の住宅地でも起きた。
背景には、戦後の核家族化や人口増加がある。
臨海部では、住宅地や工業用地のために埋め立てが進み、内陸部では田んぼなど地盤の緩い土地に盛り土して宅地が次々と整備された。
茨城県神栖市、鹿嶋市では、かつての沼地や田んぼなどを埋め立てた比較的地盤の緩い地域の住宅地で被害が多かった。千葉県船橋市では、当時のハザードマップで液状化の危険性が指摘されていなかった場所も被害に遭った。
液状化しやすい砂利採掘跡
東京電機大の安田進名誉教授(地盤工学)は「首都圏の発展のために行われた土地改変により、あちこちに液状化しやすい土地が作られた。特に、ハザードマップで考慮されていない人工的に造成した地盤で液状化が目に付いた」と語る。
安田さんが注目するのは、砂利を採掘した跡地だ。
安田さんや国交省の資料によると、大規模な開発や造成の建設資材として砂利を採掘すると、採掘後の残砂(ざんさ)を使って埋め戻す。この際、締め固めが不十分な場合が多く、液状化しやすい地盤になる。
開発は数年~数十年間に及ぶものもあるが、あくまで一時的なため、埋め戻すと周囲と見分けがつきにくく、地図上にも記録が残らないケースが多い。自治体が気づかず「液状化の危険性が少ない」と判断し、ハザードマップに反映されなくなる。神栖市や鹿嶋市の液状化地域にも、砂利採掘跡が含まれていた。
安田さんは「関東大震災や太平洋戦争の後の復興で、各地で砂利が採掘された。目に見えないリスクのある土地が、各地に点在しているとみられる」と警鐘を鳴らす。
強まるインフラへの依存
関東大震災からの100年間で、建物自体の耐震・耐火性能は高まったものの、インフラへの依存もはるかに強まっている。
次の首都直下地震では、地震の揺れと液状化が重なって多くのインフラが使えなくなり、首都機能や生活基盤に甚大な影響をもたらすことが想定される。
国の中央防災会議が2013年にまとめた想定によると、道路、空港、港湾などの交通インフラや、電気やガス、水道といったライフラインなど、被害は多岐にわたる。
断水は約5割の利用者、下水道は約1割の施設で被害が発生。復旧には1カ月以上かかることも見込まれる。道路が寸断されると、火災の消火や救命救助活動に時間がかかったり、救援物資の輸送が滞ったりする。
予測できない災害
臨海部に集中するコンビナートは石油や危険物を備蓄しているため、被災すると火災や流出、拡散など、新たな災害を招く可能性もある。
関東学院大工学総合研究所の若松加寿江研究員(地盤工学)は、液状化被害を「青天の霹靂(へきれき)の災害」と表現する。土砂崩れや河川の氾濫などとは違い、災害をもたらす原因が、日常の風景からは予測できないからだ。
若松さんは「自分の住んでいる場所のリスクを知ることがまず大事。交通アクセスや日常生活の便利さだけでなく、その土地の特性にも関心をもってもらいたい」と強調する。
