殺さずにクマ対策 日本でも活躍する対策犬「ベア・ドッグ」とは【夏の危険生物】
「ロケットを打ち上げたように」クマは去ってゆく、クマに出合ってしまったときの対処法も
最近、北海道や東北地方などの人が住む地域でクマの出没が相次いでいる。なかには、クマに襲われ亡くなったりケガをしたりする被害も出ている。人的被害や生活に影響が出ている一方で、見方を変えれば、人との遭遇はクマにとっても災難だ。最悪の場合は殺されてしまうこともあり、できれば人とクマが出合わないようにするのがお互いのためになる。
その方法のひとつとして、米国では“イヌ”が野生生物当局の関心を集めている。「クマの仲間は本能的にイヌ科の動物を恐れています」と、クマに詳しい生物学者のキャリー・ハント氏は言う。「なぜかと言えば、コヨーテの群れなどに子グマを奪われることがあるからです」
ハント氏は、1996年にモンタナ州フローレンスに「ウインド・リバー・ベア・インスティテュート(WRBI)」を設立し、クマ対策犬の繁殖、訓練、販売のほか、野生動物管理プログラムを請け負ったりもしている。日本でも、人とクマの距離が比較的近い軽井沢でクマとの共存をめざすNPO「ピッキオ」が、2004年にWRBIからクマ対策犬を日本で初めて導入した。そのおかげもあり、クマ対策犬を導入して以降、軽井沢町の別荘地など人が暮らすエリアでは人の被害は激減した。環境省の「クマ類出没対応マニュアル」にもこの取り組みは取り上げられている。
「イヌに追われた場所に戻らない確率は非常に高い」
クマ対策犬がとりわけ役立つのは、クマがごみ捨て場など特定の場所に来るのが習慣化してしまったときだ。野生生物の担当者はその場でクマを捕獲し、イヌを連れてくる。
「イヌたちはクマに向かってほえ、怖がらせます。ここは来てよい場所ではなく、二度と来てはならないと分からせるのです」と、ワシントン州魚類野生生物局のアラン・マイヤーズ氏は言う。イヌをしばらくほえさせた後、担当者がクマのケージを開けると、「クマは慌てて去っていきます。まるでロケットを打ち上げたように」
「イヌたちは外へ出てクマを見つけたがります」と話すのは、WRBIのニルス・ピーダーソン氏だ。イヌはクマの痕跡を追い、ほえ、すぐそばまで追い詰め、トレーナーが呼び戻すまでやめない。そこまですれば、ここにはもう来たくないとクマは学習してしまう。
「クマのいいところは、賢いので学習が早い点です。イヌに追われた場所に戻らない確率は非常に高いことが研究で分かっています」とマイヤーズ氏。
イヌに危険はないのだろうか? ワシントン州野生生物局で20年以上クマ対策犬と仕事をしてきた野生生物学者、リッチ・ボーソレイユ氏は、任務が理由でけがをしたイヌは見たことがないと言う。ハント氏もまた、イヌにクマを追わせる際の安全が大きな関心事だと強調しつつ、現場でイヌが負傷した例はないと話した。
クマとの遭遇を避けるために私たちにできること
クマ対策犬として最も一般的な犬種が、フィンランドからロシア北西端のカレリア地方で古くからヒグマ猟に使われてきた白黒模様のカレリアン・ベア・ドッグだ。彼らは大型で吠える声も大きく、クマを安全に追い払う本能をもっている。ただし、訓練には多大な労力がかかり、誰でもこなせるわけではない。また、交通の激しい道路や人が集まるショッピングセンターがあるような人口密集地域には不向きだ。
それゆえ、クマ対策犬を導入するのは、野生生物の管理にあたる当局がほとんどだ。一方で、人とクマが出合わないようにするために、私たちにもできることはあるのだろうか。また、もし山道などでクマに出合ってしまったらどうしたらいいのか。米グレイシャー国立公園の野生生物学者であるジョン・ウォーラー氏と、米国立自然史博物館の客員研究員で、肉食動物を専門とする生態学者であるレイ・ウィン・グラント氏に聞いた。
食べものや生ごみはクマ対策容器に入れる:ウォーラー氏によれば、クーラーボックスではクマに開けられてしまう。ときには、車でさえ不十分だという。イエローストーンでは、車の中にある食料をあさるため、クマがドアを壊すこともあったという。クマは匂いにも敏感なため、頑丈でフタをしっかりロックできるなど、クマ対策が施された(ベアプルーフな)専用の容器が米国ではよく使われている。
音を出す:ほとんどの事件は、驚いたクマが自己防衛のために反応した結果として起こっている。クマが生息する場所では、歌う、声を出す、手をたたくなどして繰り返し自分の存在をアピールし、クマが近寄らないようにしよう。
また日本の環境省は、市街地や集落などの周辺でクマを引き寄せるものとして、カキ、クリ、クワなどの果樹、スダジイ、アベマキなどのクマが好む実をつける樹木、ハチの巣などを挙げ、これらをなるべく除去するようにすすめている。
もしもクマに出合ってしまったら?
自分の姿を大きく見せて声を出し、後ずさりする:上着を着ていれば、それを頭の上で広げて自分を大きく見せる。そして低く響かせるように声を出し、ゆっくりと後ずさりする。走ったり、目を合わせたりしてはいけない。こうした行動を取ると、クマは獲物と連想してしまうからだ。
クマよけスプレーを使う:ウォーラー氏もウィン・グラント氏も、クマの犠牲者を減らす重要なポイントとして、トウガラシの辛み成分を使ったクマよけスプレーをあげている。クマが攻撃的になったら、火を消すときのようにしっかりと全体に吹きかける。クマよけスプレーはクロクマ(ツキノワグマ)用とヒグマ用のほか、噴射距離や噴射時間、辛み成分の種類などが異なるさまざまな製品があり、アウトドアショップや通販などで購入できる。
戦うべきか戦わざるべきか:ウィン・グラント氏は、クロクマに襲われたら、敏感で体毛に覆われていない急所である鼻に一撃を加えることを狙って攻撃するといいと言う。しかし、相手がヒグマなら手出しをしてはいけない。体をボールのように丸めて首を守り、死んだふりをすることだ。
九州を除く日本の本州にはツキノワグマが、北海道にはヒグマが生息している。この夏に登山などでクマの生息地の周辺に足を運ぶ機会がある人は、クマ対策を忘れずに準備しておこう。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。
