トヨタ・スープラ開発者に聞く、スープラ開発秘話、BMWはスポーツカー開発未体験だった

スープラ開発秘話、BMWはスポーツカー開発未体験だった

トヨタ・スープラ開発者に聞く2019

 5月17日、トヨタは国内で新型スープラを発売した。先代が2002年に生産終了して以来、17年ぶりの復活となる。

 新型スープラは、現在カンパニー制を敷くトヨタの「GAZOO Racing Company(GR)」が展開する初のグローバルモデルという位置づけになる。したがってカタログや車体には、“GR”のロゴが掲げられている。

 またこのスープラはBMWとの包括提携によって開発された初のクルマであり、BMW Z4との姉妹車になる。昨年、発表前の段階でスープラの開発責任者である多田哲哉氏にインタビューした際、開発に至るまでの経緯を聞いた(「トヨタ・スープラ復活。BMWとの協業の現場から」)(「『スポーツカーにMTって、まだ必要ですか?』」)が、晴れて発売されたこのタイミングでどのようなプロセスで開発が進められたのか、あらためて話を聞くことができた。

 ちなみにBMW Z4は、スープラに先駆けて今年3月25日に国内発表されている。プラットフォームやエンジン、トランスミッションは基本的に共用。大まかな違いを挙げれば内外装のデザインと、スープラが「クーペ」、Z4が「オープン」という棲み分けになる。

 通常、姉妹車と言えば、内外装のパーツも多くを共用するのが一般的だ。しかし、スープラ/Z4のエクステリアの共通点は、ミラーとドアノブくらいしかない。サイズが大きく、部品としては最もコストがかかると言われるドアなども大きく異なる形状を採用する。またインテリアデザインも、センタースクリーンやスイッチ類はBMWの旧世代のものを流用しているが、基本的なデザインはまったくの別物だ。

トヨタ スープラ

3リッター直6エンジンを搭載する最上位グレードのRZ。最高出力340PS、最大トルク500Nmを発揮する。ボディサイズは、全長4380mm、全幅1865mm、全高1290mm、ホイールベース2470mm。車両重量は1520kg。

BMW Z4

リッター直6エンジンを搭載する最上位グレードのM40i。最高出力340PS、最大トルク500Nmはスープラと同じ。ボディサイズは、全長4335mm、全幅1865mm、全高1305mm、ホイールベース2470mm。車両重量は1570kg。全幅とホイールべースはスープラと同寸。車両重量はオープンボディゆえか、50kg重くなっている。

多田さん、あらためて振り返っていただいてBMWとの協業で、一番苦労した点は何だったのでしょうか?

多田さん(以下敬称略): 以前のインタビューでお話したように2012年に初めてBMWへ行って交渉が始まったのですが、実はそこからが大変でした。技術的な問題や予算など、いつもどこかでつまずいてなかなか具体的な展開にならなかった。

多田さんはピュアスポーツカーを造りたいと、BMWに提案したとおっしゃってましたが。

多田:実はそのときに交渉していたBMWのトップである開発担当副社長がディースさん(ヘルベルト・ディース氏 現VWグループCEO)でした。BMWの二輪部門の業績をV字回復させて四輪部門にきて、例えば3シリーズをベースにクーペの4シリーズやSUVのX3などを造る、派生車戦略で収益体制を改善していた時期でした。

 ディースさんはとても論理的な方で、「あなたの言うパッションは分かる、しかしスポーツカーのビジネスはとても難しいのものだ。もっとよく考えないと、パッションだけで造ってもうまくいかない」と、極めて現実的なアドバイスをくれていました。

「i8の後継になるようなクルマならどうだ」

 そして、「もし『儲からなくてもいい』というのなら、次世代に対しての提案として、環境に配慮したハイテクスポーツカーにする選択肢もある。なぜこんな、オールドファッションなスポーツカーにこだわるんだ」って言われてました。

オールドファッション(笑)。すべてのクルマにハイブリッド宣言をしたトヨタなのに、単なる直6エンジンのFR、2シーターって、たしかにそうかもしれません。

多田:実際にディースさんはいくつか具体的な提案もくれました。ちょうどその頃、BMWはi8の開発を進めていて、そのプロトタイプに乗せてくれて、「トヨタといえば環境技術に優れているメーカーなのだから、もっと高いレベルで環境性能とパフォーマンスを両立した、例えばi8の後継になるようなクルマならどうだ」と。「ブランドイメージに寄与するものであれば、利益にならないとしても、BMWもやってもいい」とまで言ってくれてました。

i8の後継、それ、グッドアイデアですよね。それでも多田さんはアナログなものにこだわったと。

多田:そう。「そんなこと言ったって、造りたいのは直6のスポーツカーなんだ」と。「電動化を見越してバッテリーを積むスペースをとればその分重くてダルなパッケージになる」なんてぐだぐだ言ってた。その頃は、先方にしたらもう、トヨタが……というか、私がわがままを言っているように見えていたかもしれません(笑)。

よくそれで、BMWも納得してくれましたね。

多田:ハッと気づけば交渉が始まってから1年以上が経っていて、さすがにまずいなと。実はそうこうしているあいだに、ディースさんがVWに移られたんです。

「実は俺たちはスポーツカーを造った経験がない」

多田:その後任がフローリッヒさん(クラウス・フローリッヒ氏 現BMW AG 開発担当副社長)で、彼はすごく感覚派の人で、トヨタがそこまで言うならスポーツカーの企画でいこうと流れが一気に変わった。向こうではトップが変わるとチームが全部変わる。私のカウンターパートにいたZ4のチーフエンジニアも交代しました。だから話は振り出しにもどりました。

当時、「BMWはZ4の後継を造らない」という噂がありました。メルセデスもSLCをやめるようですし、アウディもTTの後継はない、と発表したようです。

多田:たしかにディースさんはそう考えていたようです。もうZ4のマーケットはないと。でも、我々がクーペを造るなら、BMWはオープンに、と棲み分けすることは決まっていたので、ならばZ4の後継にということになったのだと思います。

そこからはスムーズに、多田さんの考えるピュアスポーツでいこうとなるわけですか。

多田:いやいや、新しい開発チームと話していると、「実は俺たちはスポーツカーを造った経験がない」って言うんです。

あんなにたくさんM(BMW M社による高性能モデル)があるのに?

多田:あれはあくまでベースの乗用車があって、それに高性能なエンジンを載せたり、ボディや足回りをモディファイしたりしたクルマであって、一から設計したクルマではないと。BMWが造った本物のスポーツカーは、遠い昔のM1しかないと。で、M1を造った経験者はもう社内には残っていない、と言うわけです。

BMW M1

なるほど。たしかにそういう意味では、AMGにはGTなどがありますけど、Mって専用開発モデルをもっていないですね

多田:そう。だから久しぶりにスポーツカーを造ってみようかと。ここでようやく具体的に話が進み始めたんです。そうしたときに「さて何を目指すんだ」と。

多田さんは常々ポルシェのようなスポーツカーが造りたい、とおっしゃってきた

多田:そうです。プラットフォームをシェアしていて、世界が認めるオープンとクーペってなんだといえば、それはポルシェだろうと。

ボクスターとケイマンですね

ミッドシップも検討したが、トップは「時期尚早」

多田:まさに。いいお手本があると。

でも、ポルシェはミッドシップですよね。一方でトヨタとBMWが選択したのはFR(フロントの車軸上にエンジンがある、後輪駆動のクルマ)になった。たしか多田さん、開発初期の段階ではこのクルマはスープラになるとは決定していなかったと言っておられた。当時「ミッドシップにする」という選択肢はなかったのですか?

多田:それはもちろんありました。

えっ、ミッドシップの可能性もあったと?

多田:パワートレインの組み合わせも含めて、かなりのパターンを検討しました。内山田さん(竹志氏、現会長)と豊田(章男)社長にも相談に行った。でも、「それはまだちょっと早い」と言われましたね。

早い? トヨタにはかつてMR2やMR-Sといったミッドシップスポーツカーがありましたが。

多田:86を造ってようやくスポーツカーファンがトヨタを振り向いてくれるようになった。スポーツカーの楽しみ方が浸透し始めた。次にいきなりミッドシップにいくとついていけなくなる人たちがいる。もう1ステップいると、そう言われたんです。それにあの時代には、いろんな選択肢があった。セリカもあったし、それこそスープラもあった。

たしかに。競合も含めてスポーツカーの選択肢がたくさんありましたね。それが平成12年(2000年)の排ガス規制で一気に生産終了になりました。

多田:豊田社長によく言われたのが、「クルマ離れとか、スポーツカーは売れないというが、ファンは確実に存在する。我々が造らないからこういうことになっているんだ。順番が逆なんだ」と。86を造って、それを実感しました。

 スポーツカーの楽しみ方って、改造したり、サーキットに行ったりすることもそうですが、それだけじゃなくて、面白いなと思ったのが、86を洗車するというファンクラブがあるんです。背が低くて天井に手が届くし、洗っていること自体が楽しいと。また、ある女性オーナーは86のカタチが好きで、一緒にコーデして、写真を撮って配信するとか、これまでのスポーツカーとは違う楽しみ方が広がってきている。

たしかにドレスアップって言葉、最近自分ではやらないので忘れてましたけど、SNSを使えばいろんな人に見てもらえるし、仲間もできますしね。

多田:だから、もしミッドシップにするなら、アナログなスポーツカーではなく、まさにハイテクなスポーツカーにしようと思ってました。センタートンネルをバッテリーの搭載位置に使える。重量バランスもいい、重心も下がって、慣性モーメントも小さい。EVや、電動化したときにも欠点が減る。だからハイテクにいくならミッドしかない。

なるほど。しかし、FRとミッドシップではどうしても運動性能に差が出ますよね(重いエンジンを車体の中央に置くミッドシップと、車両の前方に置くFRでは、前者の方が重量配分的に優れたレイアウトとされる)。

多田:はい、既存のトヨタの(FR用)プラットフォームやBMWのプラットフォームを使って改造するだけでは(ミッドシップレイアウトの)レベルには到達しないわけです。それで最後にたどりついたのが、あのホイールベース/トレッド比(※)です。

 世界中の道を無理なく走ることが可能なできるだけワイドなトレッド幅を先に決めて、そこからの比率でホイールベースを決めた。結果、86よりも短いホイールベースで、86よりも重心位置が下げられそうなメドがたち、シミュレーションを何度もやって、サスペンションのアライメントなども決まったのが、2014年くらいでした。

(※ ホイールベースは前輪車軸と後輪車軸の、トレッドは左右タイヤの中心間の距離。スープラのホイールベース/トレッド比は1.55。この数値は小さくなればなるほど回頭性がよくなる一方、直進安定性は悪くなるとされる。ちなみに86は1.68、ポルシェ・ケイマンが1.62、新型ポルシェ911=タイプ992が1.54と、ほぼ近い数値になっている)

しかし、86より100mmもホイールベースが短いって、直進安定性の面で不安が残りませんか?

多田:BMWはシミュレーションの精度が高いこともあってデータを信頼していて何度か(シミュレーションを)まわした結果、「社内的にはゴーだ、このまま量産開発に移行しよう」という話になった。

「そんな短いホイールベースで大丈夫か?」

多田:ただトヨタのやり方とはずいぶん違っていて、日本サイドからは、そんなに短いホイールベースでまともに走るのかと心配する声が上がってました。それで先々行検討車といったりしますが、実験車を造ることにしたんです。BMWの2シリーズをベースに、かなり手間をかけて、必要な部品は型まで起こして造りました。

で、乗り味はどうだったんですか?

多田:良かったですねえ、これならいけるという感触も得られた。この車両を日本まで送って豊田社長、そして役員にも乗ってもらって、それで初めて開発にゴーが出たんです。

 ディメンジョンやサスペンション、使うエンジンやトランスミッションを決めたあとは、チームZ4とチームスープラに開発部隊は完全に分かれました。デザインチームも別のところに居を構えて、スープラの味付けをするマスタードライバーは成瀬さん(豊田章男社長の運転の師匠としても知られるトヨタのマスターテストドライバー成瀬弘氏・故人)の弟子であるエルヒー・ダーネスに担当してもらいました。足回りやエンジン、トランスミッションのチューニング、ボディの剛性配分もすべてダーネスが決められるという契約書を作って、それにサインしてようやく開発がスタートしました。

 交渉開始からおよそ3年がかりでようやく開発の始まったスープラ。実はこの時点でも車名をスープラとすることは正式にアサインされていなかったという。後編では、オーストリアにある生産拠点のこと、またZ4との乗り味の違いや価格設定などについても話を聞いていく。

トヨタ⾃動⾞株式会社 GAZOO Racing Company GR統括部 主査。1987年トヨタ⾃動⾞⼊社。⼊社後、ABSの電気評価やスポーツABSなどの新システム開発を担当し、1993年にはドイツでWRCラリー⽤のシャシー制御システム開発などに従事。2007年、スバルと共同開発した86の開発責任者を担当したのちにスープラと、トヨタのスポーツカーを2台続けて世に送り出す重責を担う。 

スープラはフランスにあるテストコースを拠点に、その8割以上は一般道を走り込んで開発が進められてきたと聞いています。もちろん、米国や日本でもテストが行われてきたでしょう。実装を重ねる段階で、BMWサイドから「あそこはこうしてほしい」とか、そういう要望はなかったのでしょうか。

多田氏(以下敬称略):実は量産にいくまでほとんど何も注文はありませんでした。すべてのセッティングは思い通りにできましたし、制約や干渉もなくて、それは本当にありがたかったですね。

では逆に、多田さんがZ4を見たのはいつの段階なのですか?

多田:発売直前の、最終のプロトタイプになった時点で、初めて試乗させてもらって。

ファーストインプレッションは?

多田:「あ、すげーじゃん」って、正直思った。

多田さんは以前から、「トレッドとホイールベース(※)の寸法が決まれば、クルマの素性はおのずと決まる」とおっしゃってました。プラットフォームは共用でホイールベース/トレッド比1.55という数値は同じなわけですから、スープラとZ4の乗り味は似ているわけですよね?

(※トレッド、ホイールベースとその比率については前回参照)

多田:基本的なところは当然似ています。ただオープンカーとクーペではボディの剛性が大きく違う。重量も違うし、さらにはチューニングが違う、だから味わいは違います。いずれにせよオープンカーとしてはとてつもなくいい出来だと思いましたね。

ポルシェにも勝る?

多田:いいか悪いかは個人の趣味もあるのでわかりませんし、ミッドシップとFRの違いは歴然としてあります。けど、ドライビングファンという観点でも近づくことができたし、少なくとも同じ土俵に上がれるくらいまでにはきたなと。よく「Z4とスープラはどっちがいいんだ」って質問されるんですけど、それはナンセンスです。どっちもいいに決まっている(笑)。あとはオープンかクーペで選べばいい。

比べるなら(ポルシェの)ボクスター/ケイマンだろ? と。

多田:(スープラはFR、ケイマンはミッドシップと)駆動方式が異なるのでいろんな特性は違うんですけど、数値性能としては、0~100km/hの加速と、スラロームの通過スピード、これらを代表特性において、いつもポルシェケイマンSと比べてました。で、なかなか彼らを上回ることができなかったんだけど、最終のプロトタイプができる前の段階くらいで、どちらも上回ることができたんです。

おぉ~。ところでこのスープラは日本ではなく、マグナ・シュタイヤー(※)で造られるそうですが、それはやはりBMWとの関係性からですか?

(※ マグナ・シュタイヤー:オーストリア・グラーツにある自動車製造工場。メルセデス・ベンツGクラスの開発製造拠点としても有名。1998年にシュタイヤー・ダイムラー・プフがカナダに本社を構える世界有数のメガサプライヤー、マグナ・インターナショナルの傘下となったことで、2001年に社名が現在のマグナ・シュタイヤーになった。少量生産モデルの製造にたけており、現在もメルセデス・ベンツGクラスをはじめ、ジャガーE-PACEに電気自動車のI-PACE、BMW 5シリーズを手がけている。今回、さらにBMW Z4、そしてトヨタ スープラの生産を担当することになる)

多田:もちろんそれもあります。マグナ・シュタイヤーって少量生産車を造るのが得意なんです。数年前までは凝った造形のプジョーRCZ(スープラと同様、凹型のパゴダルーフが特徴)の生産も手がけていましたし、実はわれわれも関係性があって、86のオープンカーをモーターショーなどにコンセプトカーとして出しましたが、あれも市販を前提にマグナ・シュタイヤーで一緒に開発していました。残念ながらいろんな条件が整わなくて市販化はできませんでしたけど、そのときからの付き合いがあります。これ以外にもヨーロッパには、いろんなノウハウを持ったメーカーがたくさんあって、そういうところとうまく連携をして生産しています。

ということは、スープラとZ4は混流生産されている?

多田:スープラとZ4、そして5シリーズが一緒に流れています

それぜひ見てみたいです。

多田:マグナ・シュタイヤーっていろんなメーカーの製造を請け負っているだけにセキュリティーはめちゃくちゃ厳しいからねえ……。

ところで、スープラの世界初公開は今年1月のデトロイトショーでした。やはりスープラにとってメインマーケットである米国市場の反応が気になるところだと思いますが、いかがですか?

多田:発表後に出た記事などを見ていると、私の個人的な印象ですが7割がネガティブなもので……(苦笑)。

「たった340馬力?」最初の反応は7割がネガティブ

それはなぜ?

多田:映画の「ワイルド・スピード」の影響もあってか、GT-Rと並ぶような性能を期待されていたみたいで。チューナーの人たちをはじめオピニオンリーダーが、「340馬力なんて、真面目に造っているのか」といった記事がたくさん出た。

ああ、500馬力オーバーみたいな、そういう系を期待されていたと。たしかにスープラってGTのイメージがありますしね。

多田:ところが価格が約5万ドルから、ということが浸透してくるとだいぶ風向きが変わってきた。「なんだ、10万ドルクラスのスポーツカーだと思っていた」と。米国のプレス向けの試乗会では、有名なチューナーにも参加してもらって、だんだん評価が上がってきています。アメリカでの発売は7月なので蓋を開けてみるまではわかりませんが、SEMAショー(11月にラスベガスで開催される世界最大級のカスタム&チューニングカーショー)に出したいから、ホワイトボディでいいから早く納車してくれなんて要望もいただいてます。

ちなみに仕様って、ステアリング位置以外に、アメリカと日本と欧州で違うところってあるのでしょうか?

多田:例えばマフラーは全然違います。それはなぜかというと、騒音の規制が、国によって異なるからです。アメリカが一番規制がゆるくて、日本、欧州の順番に厳しくなる。アメリカは規制値の限界まで音が出るようにしてあるので、比べると相当に違う。特にヨーロッパのお客さんがアメリカ仕様の音を聞いたら、まったくの別物で驚くと思います。

さっきスープラの6気筒モデルを試乗させていただきましたけど、音は意外におとなしくて、もう少し迫力があってもいいのかなと思いましたね。

多田:苦労したのがエンジンの音をいかにうまく聞かせるか。これでもわざと車内に音を取り込むように後部の遮音材の量を調整して、標準の半分くらいしか入れていない。だからロードノイズなども当然入ってきています。

 騒音規制は来年さらに厳しくなり、再来年になるともう何をどうやってもだめなくらい制限されるといわれています。1つだけ手があって、アフターパーツでお客様自身が交換すれば、規制値が少し緩和されるんです。アクラポヴィッチ(※)ってご存じですか? 若いスタッフが多くて情熱的なマフラーメーカーで、1年前くらいからディーラーオプション用に共同開発してます。それはそれは、めちゃくちゃいい音がします。だから日本と欧州のお客様にはこれをおすすめしますね。86のオーナーもみなさん規制値が違うことをご承知で、7割くらいはマフラーを交換されています。

(※アクラポヴィッチ:スロベニアのマフラーメーカー。二輪の世界ではつとに有名で、MotoGPやスーパーバイクのワークスチームがこぞって採用しており、現在、BMWの市販二輪車の多くのモデルが純正採用する。また四輪でもF1やポルシェ911GT2などで純正採用された実績もあり、近年その名声が高まっている)

それから新型スープラでは、3リッター直列6気筒エンジンの「RZ」をはじめ、2リッター直列4気筒の「SZ-R」と「SZ」という3つのモデルが用意されています。乗り比べるとそれぞれが想像以上に違っていて驚きました。

多田:まずスープラといえば直6ですから、ヘリテイジを大事にする人はRZをお選びいただくとして。

実際、国内では発表から2日で、RZの初年度分の予約台数が埋まったとリリースが出てましたね。

多田:いまは生産調整をしてまた受注を再開してますが、国内では6気筒の比率が約7割になってます。

7割ですか、やはり6気筒が期待されていると。でも個人的には4気筒も軽快だし、パワーも十分だし、悪くないなって。

多田:そうなんです。スープラは6気筒だ、なんてずっと言ってきたのであれなんですけど、4気筒も悪くない(笑)。実際プロドライバーに比較テストしてもらうと、RZと同じシャシーで2リッターエンジンのSZ-Rを選ぶパターンが多いですね。マスタードライバーのダーネスも自分で選ぶならSZ-Rだと言ってました。例えば86のパワーアップ版がほしい、ターボ版がほしいなんていうお客様にはドンピシャだと思います。

SZは電子制御ダンパーなどもついていない素のモデルですが、RZに比べて車重が110kgも軽くて、それはそれでいいなと。

多田:SZはカスタマイズしたい人へのベースモデルという位置づけです。エンジンルームにもスペースがある。このコンパクトなボディに6気筒エンジンを押し込むのは相当大変で、例えばラジエーターも4気筒なら1つですむものを、6気筒では3分割して載せています。だからエンジンルームもぎちぎちで。ただ直6ってやはり何物にも代えられない、独特の魅力があります。

あとこれはZ4を試乗したときにも感じたのですが、ボディ剛性がとても高い。スープラのホワイトボディを見せてもらいましたが、あのサイドメンバーの太さはすごいですね。しかし、女性には乗り降りするたびパンツが汚れるから不評でしょうけど(笑)。

多田:あれ、ひと悶着ありました。

「何があっても文句言いません」と誓約書を書いた

多田:トヨタの設計ルールでいうとまったくアウトです。話にならない。

それはやはりパンツが汚れるから?

多田:そうです。乗降性について問題ありということになる。それって実は、乗用車においてものすごく大事な要件なんです。雨の日は百発百中でズボンが濡れるなんて、そんなことありえない。本来の基準でいえば半分くらいの太さです。BMWでも設計ルールより太いらしく、「トヨタはあとで後悔して、やっぱりやめたと言うに決まっている」と言われて。「何があっても文句を言いません」と、誓約書にサインしたくらいです(笑)。

まあZ4はオープンカーですから女性ユーザーの割合も高いでしょうし、BMWサイドもいやだったかもしれませんね。しかしトヨタサイドをどうやって説得したんですか?

多田:実は何も説明していない(笑)。正確にいうと、無論、勝手にいうことを聞かずに造ったというわけではありません。というのは、「なんでも合意の上で造る」という従来のやり方が、86のころからずいぶんと変わってきたんです。

全員合意が望ましいものと、そうでないものがある

多田:(関係者全員が)合意したほうがいい商品ももちろんあります。カローラやカムリであれば、たくさんの人の意見をあつめたほうが絶対にいい。でも、スポーツカーのようなものはそうじゃない。そういった多様性が認められるようになったのは、豊田(章男氏)が社長になったおかげだと思います。そこはちょっと自慢していいところかなと。社内の設計ルールは商品のど真ん中を支えるものですが、そうじゃない製品をつくるときには、そのお客様の像にあったかたちにモディファイできるフレキシブルさを持つ。これは極めて真っ当なことだと思いますね。

そういえば、前回のインタビューで「MTって必要か」という話題がありましたが、結局設定されなかったんですね。それはどういう判断だったのでしょうか?

多田:全車8速のATです。このスポーツオートマチックの出来がいい。DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に比べて変速が遅いということもない。そして何よりのアドバンテージは、実は「軽い」ということなんです。

スープラとZ4のインテリア。スープラのほうはモニターやスイッチ類などはBMWの旧世代のものを活用。BMWでは新型3シリーズなどと同じく最新世代となっており、両車のデザインはまったくの別物。ステアリングもZ4は極太で、スープラは細い。

ATで軽さがアドバンテージ、それは驚きです。

多田:DCTよりも軽くて、マニュアルにも匹敵しそうなくらいのものです。だから性能面でいえば、マニュアルは必要がない。

でも米国市場では、ほしいという人が多いのでは?

多田:要望はめちゃめちゃ多いです(笑)。いまインターネットにスープラにマニュアルを復活させる声を集めたサイトができていて、投票結果が毎週私のところに送られてくる。もう圧倒的にマニュアルは必要だ、ってことになってる。

Z4は2リッターモデルにマニュアルモデルを追加すると、本国ではニュースが出たようですが。

多田:マニュアルモデルを造らないと言ってるわけではなくて、まずはあのATを試してみてくださいということです。それでもどうしてもマニュアルがいるという声が続くようなら、どこかのタイミングでマニュアルを用意すればいいでしょうと。

 スポーツカーだから毎年アップデートするのは当たり前のことなので、それは問題ありません。ただずっとテストで延々と乗ってきましたけど、86とはスピードのレンジが全然違うので、マニュアル操作で楽しむには相当な運転スキルが必要になります。マニュアルで乗りたい人のために86があるわけで、もし86がなければ、スープラでマニュアルも造ったし、リアシートだってつけたかもしれない。86はタイヤもプリウスと同じもので、それほど高くないグリップ限界の範囲でスライドコントロールを覚える練習機みたいなもの。一方でスープラは市販タイヤとしてもっともグリップ力の高いミシュランパイロットスーパースポーツを履いた、いわばジェット戦闘機みたいなものなんです。とにかくマニュアル派の方もぜひ一度試乗してもらいたいですね。

で、お値段はどうやって決まるのでしょう

それで実は気になったのが、スープラとZ4の価格です。パワートレインを共用し、同じ工場で生産されるわけですから、価格ってどうやって決めるのか?

スープラ

RZ:690万円

SZ-R:590万円

SZ:490万円

BMW Z4

M40i:835万円

sDrive20i M Sport :665万円

sDrive20i Sport Line :615万円

sDrive20i:566万円

多田:クルマって一般的に製造原価があって、それに何割のせてみたいな話もありますけど、特にスポーツカーはそんなことでは決められません。ブランドバリューとしてトヨタブランドの上限、レクサスブランドの上限みたいなものがあって、中身がどんなに良くてもそれを超える価格はつけられない。そういう意味では価格はマーケットが決める、といえます。だからどこのメーカーも宣伝をやってマーケティングの施策をやって、一生懸命ブランド価値を高めようとしている。ランクル(ランドクルーザー)のような特殊なモデルは別にして、スープラはいまのトヨタブランドのほぼ上限なわけです。マーケットごとの販売台数や景気や為替の変動、収益性などを鑑みて、いろんな条件を総合的に判断して、最後は販売担当の役員が決済する、という流れになります。

たしかにランクルの上位グレードが約685万円ですから近いですね。まあランクルとスープラを比較する人はいないと思いますけど。ところでZ4の6気筒モデルと比較すれば、スープラのほうが100万円以上安いということになります。もちろん装備差もあるでしょうし、一般的にオープンカーにすれば50万円くらいは余分にコストがかかるといわれますし、国によっても違うと思います。で、値付けって、BMWと相談したりするものなのですか?

多田:それをやると逮捕されます。競争法というものがあって、談合になる。

独禁法か。クルマもそうなんですね、知りませんでした。

多田:それはものすごく厳格に決められています。日本はもちろんドイツでもより厳しく運用されていて、もしやれば「マーケットをコントロールしようとした」として厳しく処罰されます。

ということは、BMWの価格は発表されて初めて知ると。

多田:もちろんそうです。ふーん、そうなんだという感じです。Z4は先代モデルがありますからそれとのバランスもあるでしょうし、日本はトヨタにとってマザーカントリーなわけですから、そういう配慮だってある。

たしかに。先日Z4にも乗りましたけど、先代とは全然違うクルマになってました。まさにスポーツカーになった。そして今回スープラを試乗して、スープラはいい意味で、トヨタっぽくないクルマだと感じました。これが今後もっと煮詰まっていけば、すごいスポーツカーになるポテンシャルを感じました。

多田:うれしいですね。BMWの開発陣ともよく話したんです。せっかく一緒にやるのだから、これまでのBMWのテイストの範疇にあったり、トヨタの範疇にあるようなクルマじゃつまんないよね。そもそもオープンとクーペでボディを造り分けて、チューニングも違えばおのずと味わいは違ってくる。BMWとトヨタの両方のお客様から、こんなにいいクルマができたんだ、といわれるようにしたいねと。

ありがとうございました。

 スポーツカー造りは大変な商売だ。いま日本のメーカーで途絶えることなくモデルチェンジを重ねられているのは、30年続くマツダ・ロードスターだけだ。これもフィアットとの協業によってビジネスを成立させている。日産GT-Rは2007年から、フェアレディZは2008年から、トヨタ86/スバルBRZも2012年の発売以来、フルモデルチェンジすることなく年次改良を加えるなどして生産が続けられている。

 最後に多田さんは、スポーツカーを造り続けることについてこんな話をしてくれた。

 「景気の変動があって、そのときに真っ先にしわ寄せがくるのがこういったスポーツカーです。台数も少ないし、やめても影響が少ない。でも、結果的に一番ファンを裏切ることになる。造ったりやめたりすることくらい、ファンをがっかりさせることはない。それはもうだめだよね。だからたとえモデルチェンジのサイクルを長くしても、造り続けなきゃいけないと思うんです。そして何よりトヨタがGRという別のカンパニーを造ったことが、これからもスポーツカーを造り続けるということの、意思表示なのです」

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