「FCNT経営破綻」の衝撃 arrows/らくスマ販売好調でも苦戦、穴を埋めるメーカーは現れるのか

「FCNT経営破綻」の衝撃 arrows/らくスマ販売好調でも苦戦、穴を埋めるメーカーは現れるのか

 arrowsシリーズやらくらくスマートフォンを手掛けるFCNTが、5月30日に民事再生法の適用を申請したことを発表した。同社の親会社にあたるREINOWAホールディングスや、FCNTなどの端末を製造するREINOWA傘下のジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)も、経営が破綻。FCNTはSNSなどのサービスを、JEMSはFCNTの端末を除くスマートフォンなどの製造をスポンサー企業の支援を受け、継続する予定だ。一方で、FCNTの端末開発や保守などは、支援先が見つかっておらず、同日付けで事業を停止している。

 FCNTは富士通から切り離され、設立された企業。当初は富士通コネクテッドテクノロジーズという社名だったが、2018年に投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループが株式の70%を取得した。2021年には富士通が残る30%の株式を手放し、資本関係を完全に解消。これに伴い、略称だったFCNTを正式な社名にしていた。arrowsシリーズやらくらくスマートフォンなど、富士通時代からの代表的なブランドは継続しており、現在も販売が続けられている。

 2月には、環境に配慮し、再生素材をふんだんに使った「arrows N」をドコモから発売するなど、経営破綻のそぶりが見えなかっただけに、突然の発表には大きな衝撃が走った。同社の端末を販売するキャリアも、販売やサポートの継続を模索するなど、対応に追われた。同じ5月には、京セラもコンシューマー事業からの撤退を表明しており、日本のスマートフォン市場が大きく動く可能性も表面化している。ここでは、その影響や今後の行方を占っていきたい。

販売は好調だったFCNT、エントリーモデルへの偏りが遠因か

 メーカーの経営破綻というと、販売がふるわなかったようにも見えるが、実態は少々異なる。FCNTの場合、端末の売れ行きはよかったからだ。MM総研が5月に発表した22年度(22年4月から23年3月)通期の「国内携帯電話端末の出荷台数調査」によると、FCNTは携帯電話全体でシェア9.9%の3位、スマートフォンに絞ってもシェア8.0%で5位につけている。Androidスマートフォンを販売するメーカーに限れば、それぞれシェア2位、シェア4位になる。

 特に、同社の端末で人気があったのは、2021年末に投入した「arrows We」だ。同モデルは、2万円台前半のエントリーモデルで、プロセッサにはSnapdragon 480を採用。IPX5やIPX8/IP6Xの防水・防塵(じん)に対応しており、おサイフケータイなどの日本仕様も満たしていた。ソフトバンク版はeSIMに対応するなど、エントリーモデルとしてはスペックが充実していた端末だ。もともと、arrowsシリーズはドコモでの取り扱いが多かったが、3キャリアに販路を広げ、みんな(We)が売るarrowsになったことも販売好調の要因といえる。

 実際、arrows Weの出荷台数は100万台を超え、2月に開催されたarrows Nの発表会では、目標を150万台に据えていることも明かされていた。同様に、らくらくスマートフォンも累計販売台数は770万台を超え、らくらくホンと合わせた「らくらくシリーズ」は3700万台を突破している。Appleやシャープには及んでいなかったものの、スマホに限れば、ソニーやサムスン電子の背中も見えていただけに、突然の経営破綻に衝撃が走った格好だ。

 一方で、FCNTは、民事再生法の適用申請に至った理由として、売り上げが伸び悩みや、急激な円安の進行、世界的な物価高を挙げている。売り上げが低迷する中、コストだけが急騰した結果として、資金繰りが悪化してしまったというわけだ。確かに、arrows Weは販売こそ好調だったが、上記のように、1台あたりの販売価格は2万円強。キャリアへの納入価格は、それを下回る。出荷台数が100万台を超えたといっても、ミドルレンジモデルの50万台より売り上げは少なくなってしまう。

 エントリーモデルは、製造にかけられるコストにも限りがある。このような中、想定以上に円安や物価高が進めば、収益性が悪化してしまうことは避けられない。また、こうした端末は規模の経済がものをいう世界だ。グローバルで大量の端末を販売すれば、それだけ部材のコストは下がり、利益率を上げやすくなる。サムスン電子やXiaomi、OPPOといった海外メーカーが安価な端末を開発できるのも、そのためだ。同じ国内メーカーでも、シャープは親会社である鴻海(ホンハイ)グループの調達力を生かすことが可能。AQUOS senseシリーズやAQUOS wishシリーズに注力できている背景には、こうした事情もある。

 翻ってFCNTの場合、端末を出荷しているのは日本市場のみ。シャープのように、親会社の調達力を生かす戦術も取れない。とはいえ、ミドルレンジモデルやハイエンドモデルを投入するのも容易ではない。フラグシップモデルの開発には、差別化が図れるメーカーの独自技術が必要な上に、培ってきたブランド力にもその成否が左右される。2020年にドコモから発売された「arrows 5G」以降、FCNTのフラグシップ後継機は途絶えていた。

市場環境の変化でハイエンドモデルが縮小、規制に合わせたエントリーモデルが躍進

 その間、市場環境は大きく変わった。特にインパクトが大きかったのは、2019年10月に改正された電気通信事業法による、端末購入補助の制限だ。この改正事業法によって、通信契約にひも付いた割引は2万2000円までとなり、ハイエンドモデルの販売に急ブレーキがかかった。FCNTの端末を最も多く採用しているドコモでもその傾向が顕著で、2019年には4割近くを占めていたハイエンドモデルが、2021年には2割弱まで比率が低下している。フラグシップモデルが定番化していることもあり、FCNTが端末を投入する余地が小さくなっていた。

 2万円前半のarrows Weを投入した背景にも、この端末購入補助がある。もとの価格が2万円台の端末であれば、割引を最大までつけることで一括0円に近い価格で販売できる。キャリアにとっては、MNPを促す武器にしやすい。生き残りを懸けたスマートフォンメーカー各社が2万円台のエントリーモデルが続々と販売しているのは、そのためだ。こうした格安のスマートフォンが、端末はとにかく安い方がいいというユーザーの受け皿になっていたといえる。

 ただ、先に述べたように、国内市場に販路が限定されている。レンジの異なる商品をミックスすることでリスクヘッジがしづらいFCNTのビジネスモデルは、とりわけエントリーモデルとの相性がよくない。同じ国内メーカーでも、ソニーやシャープは幅広い事業も手掛けているが、FCNTはスマートフォン専業。2025年にコンシューマー向けスマートフォンからの撤退を表明していた京セラのように、自ら退く道も残されていなかった。

 「歴史にifはない」というが、仮に端末購入補助に制限がかかっていなかったり、制限がより緩やかだったりしたなら、FCNTの経営状況はここまで悪化していなかったかもしれない。総務省は現在、端末購入補助の規制を2万2000円から4万4000円に上げるのと同時に、端末そのものを大幅に値引く「白ロム割引」もこの内数に含めようとしているが、改正が遅きに失した感は否めない。

 端末購入補助の上限を決める際に、ドコモはARPUと営業利益率に端末の平均利用期間をかけた数値として3万円3000円までの規制を主張していた。4万4000円に上限を上げる際にも、この算定式が援用されている。一方で、2019年の有識者会議では、特に強い根拠がなくこの金額が2万2000円に減額された経緯もある。こうした割引規制の是非やその結果がもたらした出来事は、改めて検証する必要がありそうだ。

FCNT不在の端末市場はどうなる? メーカーの入れ替わりはあるか

 FCNTは現在、民事再生法に基づき、経営を支援するスポンサーを募っている。もし引き受け先が見つかれば、arrowsやらくらくスマートフォンなどの開発は継続できる可能性がある。逆に、このままスマートフォン市場から姿を消してしまう恐れも残されている。気になるのは、今後、arrowsやらくらくスマートフォンに変わる端末が登場するのかということだ。

 エントリーモデルやミッドレンジのarrowsが抜けた穴は、複数のメーカーで補うことができるだろう。特にエントリーモデルは、フラグシップモデルほどの機能差がないからだ。一方のらくらくスマートフォンやらくらくホンは、簡単には代替が効かないモデルといえる。ブランド自体はドコモが所有しているが、FCNTのノウハウが詰まっているからだ。こうしたシニア向け端末のユーザーに向けたサポート体制も、FCNTが構築していた。

 例えば、らくらくスマートフォンには、使い方を学べるアプリだけでなく、ガイド本も付属している。有償にはなるが、ユーザーの自宅を訪問し、使い方をレクチャーする「らくらくコンシェルジュ」もFCNTのサービスとして展開されている。端末を見ても、物理キーのようにカチッと押し込める「らくらくタッチ」や、撮影した花の名前が分かる機能など、シニアユーザーの必要とする機能が多数搭載されていた。次に同シリーズを手掛けるメーカーによっては、このようなノウハウを承継できない可能性がある。

 シニア世代の多様化を受け、ドコモはよりアクティブな層に向けた「あんしんスマホ」も2022年に投入している。このモデルは、FCNTではなく京セラが製造を担当している。そのノウハウで、らくらくスマートフォンの製造先を切り替えられそうだが、当の京セラも、2025年までにコンシューマー向けのスマートフォンから撤退する意向を表明済み。ドコモは、シニア向け端末のメーカーを一挙に失ってしまった形になる。ドコモにはシニア世代が多く、先に挙げた端末別の内訳を見ても、その割合はハイエンドモデルより大きいだけに、対応を急ぐ必要がある。

 キャリアの要望をくみ取ったカスタムモデルを作れるメーカーは、意外と少ない。特に昨今の地政学的な事情から、キャリアはこうした端末を日本のメーカーに発注する傾向が強まっている。残る日本メーカーはシャープとソニーの2社。ただ、Xperiaでハイエンドモデルに注力するソニーが、らくらくスマートフォンを手掛けるとは考えづらい。こうした状況を踏まえると、シャープに発注が集中する可能性もある。

 また、6月1日には、米国に拠点を構えるOrbic(オルビック)が日本市場への参入を表明した。上陸第1弾となる「Fun+ 4G」はオープンマーケットモデルだが、同社もまた、キャリアから発注を受けた端末を黒子として開発している。米国では、最大手キャリアのVerizonと協業。「通信事業者と一緒にやっていくことの経験は、かなり積んでいる」(Orbic Japan ダニー・アダモポウロス社長)と、対応への自信をのぞかせた。日本メーカーの選択肢が減る中、キャリア側も端末戦略の見直しを迫られそうだ。

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