“ボロボロ”の国内スマホメーカー ここまで弱体化してしまった「4つの理由」とは

“ボロボロ”の国内スマホメーカー ここまで弱体化してしまった「4つの理由」とは

 2023年5月、バルミューダと京セラが相次いで個人向けスマートフォン事業からの撤退を発表し、FCNTが民事再生法を申請するなど、国内スマートフォンメーカーの撤退・破綻が相次いだ。一連の出来事に大きく影響しているのは国内スマートフォン市場を取り巻く“四重苦”というべき現状であり、今後も国内外問わず、スマートフォンメーカーの撤退・縮小が続く可能性がある。

バルミューダと京セラは撤退、FCNTは経営破綻

 夏商戦を控え、メーカー各社からスマートフォン新機種が相次いで発表されている2023年5月。だがその一方で、スマートフォン市場に激震をもたらす出来事も相次いでいる。

 口火を切ったのは家電メーカーのバルミューダだ。同社は2021年に「BALMUDA Phone」でスマートフォン市場へ参入、バルミューダらしい強いこだわりを盛り込んだことで注目された一方、それゆえにコストがかさみ性能と価格のバランスを大きく欠いたことで多くの批判にさらされることにもなった。

 それだけに同社も新モデルの開発には意欲的に取り組んでいたようだが、2023年5月12日に突如スマートフォン事業からの撤退を表明。参入からわずか2年足らずでの撤退とあって驚きをもたらした一方、参入から日が浅く、傷が浅いうちの撤退として妥当との見方も少なからずなされていた。

 だがバルミューダの撤退は、国内メーカー撤退・破綻ドミノの序章に過ぎなかった。その4日後となる2023年5月16日には、高耐久スマートフォン「TORQUE」シリーズで知られる老舗のスマートフォンメーカーの京セラが、コンシューマー向けスマートフォン事業の終息を表明。高耐久端末やIoT向けなどの法人向け端末事業は継続するというが、同社の通信事業はスマートフォンなどの端末事業から、企業向けのソリューションやインフラ事業へと主軸を移すことが明らかにされている。

 そしてより一層、大きな驚きをもたらしたのが2023年5月30日。やはり国内メーカー大手の一角を占めるFCNTが民事再生手続きの申し立てをすると発表し、事実上経営破綻したことが明らかになったのである。各種調査会社の情報によると、民事再生法の申請をしたFCNTら3社の負債総額は1431億600万円とされており、規模の大きさにも驚かされるのだが、同社の生い立ちを考えると携帯電話業界に与えた衝撃は一層大きなものだったといえる。

 なぜならFCNTの前身は富士通の携帯電話事業だからだ。2016年に富士通から分離して設立された後、ファンドに株式が譲渡され現在は独立系のメーカーとなっているが、富士通時代から考えれば30年近く携帯電話やスマートフォンを開発してきた老舗中の老舗なのである。

 しかも同社は「らくらくホン」「らくらくスマートフォン」などシニア向け端末の定番というべき商品も持っており、長年安定した端末開発を続けてきたことでも知られていた。それだけに、同社の経営破綻が非常に大きな驚きを与えたことは間違いない。

日本メーカーに襲いかかる“四重苦”とは

 わずか1カ月のうちに国内メーカー3社が撤退・破綻するというのはかなりの異常事態といえるが、なぜ各社がそのような状況に追い込まれたのだろうか。

そもそも日本のスマートフォン市場は、スマートフォン普及期に携帯大手3社によるiPhoneの値引き合戦が激化して一時はiPhoneが最も安く買えるスマートフォンとなったこと、それを機としてiOSのエコシステムに多くの人が取り込まれ継続的にiPhoneに買い替えるようになったことで、アップルが圧倒的なシェアを獲得。それ以外のメーカーには非常に厳しい環境となっていた。

 だがそれでも従来は、アップル以外のメーカー同士で残りのシェアを分け合い、事業を継続することができていた。それがなぜできなくなったのかといえば、2023年、さらにいえば2022年半ばごろから、国内のスマートフォン市場が“四重苦”というべき状況に陥っていることが見えてくる。

 順を追って説明すると、1つ目はスマートフォンの進化停滞と市場の飽和である。2008年に日本でアップルの「iPhone 3G」が販売されてからすでに15年近い年月が経っており、スマートフォン自体の進化も停滞傾向にある。それゆえ最新機種に買い替えても大きな進化が見られないことから買い替えサイクルも長期化しており、スマートフォンの販売が伸び悩んでいるのだ。

 そして市場の飽和は日本などの先進国だけでなく、これまで市場の伸びを支えてきた中国などでも急速に広がっている。それゆえ中国市場を基盤として低価格モデルを主体に急成長を遂げたOPPOやXiaomiなどの中国新興メーカーも、最近では販売が伸び悩み苦戦を強いられているのだ。

 2つ目は国内特有の事情である。具体的には政府によるスマートフォンの値引き規制だ。2014年ごろまで非常に過熱していた携帯各社のスマートフォンの大幅値引き販売合戦に業を煮やした総務省が、通信サービスの契約とセットで端末を大幅値引きする従来の販売手法を問題視。結果として2019年の電気通信事業法の改正により、通信契約と端末の販売を明確に分離することが義務付けられるに至った。

 それに加えて、通信契約にひも付く端末の値引きも税別で2万円に制限され、スマートフォンの値引きは現状非常に困難な状況にある。最近になって誰でもスマートフォンを安く買えるよう大幅値引きすることで、「一括1円」などの価格を実現する手法が編み出されたが、これに関しても現在総務省で議論が進められ、2023年中にも規制されるものと見られている。

 この値引き規制が直撃したのが値段の高いハイエンドモデルで、一連の法規制以降、10万円を超えるモデルの販売が急減。ハイエンドモデルはメーカーにとっても利益が大きいだけに、その販売が落ち込み利益が少ないミドル・ローエンドモデルの販売が増えていることは、各社の業績を落ち込ませる大きな要因となっている。

さらに追い打ちをかけた2つの“苦”とは

 これら2つの“苦”によって、日本市場は以前から国内メーカーにとって厳しい環境となっていたのだが、そこに突如2つの“苦”が加わったことが、3社を撤退・破綻に追い込んでいる。その1つが半導体の高騰だ。

 コロナ禍に入って以降、複数の要因から深刻な半導体不足が起き、価格が高騰するなどしてその影響がIT製品だけでなく給湯器など身近な機器にまで及んだことは覚えている人も多いだろう。その後半導体不足は解消されてきている一方、価格高騰はまだ収まっていない。それゆえ国内メーカーのように、市場シェアが小さく半導体の調達力が弱い、ボリュームディスカウントが働きにくいメーカーほど、価格高騰の影響を強く受け苦戦している状況にある。

 そしてもう1つは、ロシアによるウクライナ侵攻や、米国でのインフレなどによって2022年の半ば頃から急速に進んだ円安だ。半導体などの調達にはドルを使うことが多いことから、円安が日本メーカーに不利に働きやすいのに加え、スマートフォンは海外で製造して国内に輸入して販売することが多いので、円安によりスマートフォン自体の価格が高騰、販売を一層落ち込ませる要因となっているのだ。

 実際2022年には、円安の影響からアップルがiPhoneを突如値上げしたことが多くの人を落胆させたが、2023年に入ると各社が投入するハイエンドモデルが軒並み20万円、あるいはそれを超える価格を記録するなど、もはや一般消費者が購入するのが困難なレベルにまで高騰してしまっている。

 そしてバルミューダやFCNTの発表内容を見ると、撤退・破綻に至った直接的な理由としていずれも半導体の高騰と円安を挙げている。市場成熟と端末値引き規制で市場が冷え込んでいた所に、突如半導体高騰と円安が直撃したことで、規模が小さい国内メーカー3社がギブアップしたというのが正直な所であろう。

海外メーカーが日本市場から撤退する日も……?

 ただこれらの“四重苦”は3社に限ったものではなく、国内メーカーだけでなく海外メーカーも苦しめている。そのことを象徴しているのがXiaomiの動向だ。

 日本市場で後発のXiaomiは市場での存在感を高めるべく、2019年の参入以降コストパフォーマンスの高いスマートフォンを積極投入。2022年の前半にはソフトバンクからも販売された「Redmi Note 10T」や、日本初の「POCO」ブランドの端末「POCO F4 GT」などスマートフォンを相次いで投入したのに加え、後半にもソフトバンクから「神ジューデン」をうたう「Xiaomi 12T」が販売されるなどして注目を集めていた。

 だが2023年に入るとその状況が一転、執筆時点(5月31日)までに同社が日本で投入したのはローエンドの「Redmi 12C」のみで、価格は安いがパフォーマンスには疑問の声が挙がっていた。端末値引き規制を機として日本市場に参入したXiaomiだが、その値引き規制にハイエンドモデルの販売が阻まれているのに加え、円安で強みとしていたコストパフォーマンスも発揮できなくなるなど、苦しい状況にあると見て取れる。

残る2社はソニーとシャープ

 しかも先に挙げた4つの問題は、いずれも容易に解決できないので影響が長く続く可能性が高く、日本のスマートフォン市場の冷え込みは長く続くと考えられる。そこで多くの人が気になるのは、他の国内メーカーは大丈夫なのか? ということだろう。

 シャープはすでに台湾の鴻海精密工業の傘下にあり、部材調達や製造など多くの面で同社の支援を得ることができていることから、他の国内メーカーと比べれば規模の面で強みがある。また以前からスマートフォンだけでなく、フィーチャーフォンやWi-Fiルーターも手掛けるなど端末開発の柔軟性も高いことから、京セラやFCNTの撤退でシニア・子供向けなどニッチ市場向け端末の受注が増え、“漁夫の利”を得やすいことも予想される。

 またソニーは2014年にモバイル事業の赤字で経営を揺るがす事態となり、現在のソニーグループ代表取締役社長である十時裕樹氏が徹底したコストカットで事業規模を大幅縮小した経験を持つ。それゆえ現在はカメラを軸としたハイエンドモデルに集中、確実な利益を出すことに重点を置いてあまり無理をしない体制を取り、生き残りを図っている。

 とはいえ両社とも、現在以上に環境が悪化すれば先行きは分からないし、それは他の多くの海外メーカーも同様だ。現在の日本市場で生き残ることが確約できるのはアップルくらいなもので、今後国内メーカーだけでなく海外メーカーからも、成長が見込めない日本市場に見切りをつけて撤退する所が出てきてもおかしくないと筆者は見ている。

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